よう相棒。まだ走れるか?   作:藤沢計路

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Report「ある女記者の記録」

  "サイレンススズカ 破竹の二連勝!"

  "快勝快調超快走! スズカ重賞連覇"

 

 東京都内。とある編集部のオフィスで、彼女は自分の書いた記事の前で頭を捻っていた。この数ヶ月間、トゥインクル・シリーズは大波乱の連続だった。年明け早々、トレセン学園一の最強チームが内部分裂。チームを脱退したウマ娘たちが新たなチームを結成し、連戦連勝を重ねる。特に成績不振が続いていたサイレンススズカの活躍ぶりは目覚ましく、不調が嘘だったかのような素晴らしいレースを見せている。バレンタインSに続き、中山記念でもレコードタイムを更新してみせた。

 差しから逃げに転向したからか? チームが変わったからか? 勝負服を一新したからか? あの勝負服は強烈に印象に残っていた。昨年有馬を制したナリタブライアンと同じデザイン、右肩の赤いマントが風を切ってたなびき、掴もうとしてもすり抜けるように走り去っていく。先日トレセン学園の理事長を取材した時、彼女はスズカのことを片羽、と称した。すぐ慌てたように口をつぐんだが、なるほど確かにそう見えなくもない。

 だが、どれもサイレンススズカの覚醒を説明できる根拠には欠けているような気がした。改めてスズカが現在所属するチームのことを振り返ってみる。所属しているのはナリタブライアン、ヒシアマゾン、サイレンススズカの三名。チーム名はガルム。地獄の番犬を意味している。一見どこにでもありふれた、強いウマ娘が所属しているだけのチームのように思える。たったひとり、スズカたちを率いる人物の存在を除いて。

 

 このトレーナーには謎が多い。最近になってやっと一部の情報が解禁された。彼女はすぐにその資料を入手し、それでは足らず、出所不明の裏情報にまで手を出した。そこまで掻き立てられたのには理由がある。

 資料に添付されていたプロフィールには、特段気になるような経歴は記載されていなかった。数年前にトレセン学園に就任し、スズカたちが元居たチームのサブトレーナーとして配属され、今年に入ってスズカたちに追従する形で独立した。だが彼女の記者としての勘が、それだけではないことを告げていた。ただのサブトレーナーが、何故最強クラスのウマ娘を率いる立場になれたのか? 強く正当なチームに属する栄誉を手放してまで独立したのか?

 その答えを求めて更に過去の資料を読み漁るうち、奇妙な類似点を見つけた。ところどころに残された『鬼』という暗号。何を示したものかは分からない。情報としては不十分だった。だが彼女はそこに惹かれた。かつて聞いたことがある。あのチームには鬼がいると。もしその鬼が彼だったとしたら? チームを最強の座に押し上げたのが彼の功績だとしたら?

 彼女はこのトレーナーを通して、チームガルムとトゥインクル・シリーズを追いかけることにした。その先に何かがある。隠された真実か、ただのおとぎ話か? まだ本人と直接会ったことはない。かなりマスコミ対策に気を使っているようで、アポが取れないどころか、飛び込みで取材を申し込んでも躱されるらしい。学園就任以前の過去が資料以外で確認できないのも気にかかる。存在自体があやふやで実像が掴めない。

 ただ、彼と深い関わりのあった人物数人を突き止めることは出来た。そこから足跡をたどっていけば、『鬼』の正体に迫ることができるかもしれない。

 

 これから訪れるであろう素晴らしい日々に胸をときめかせ、乙名史悦子は手帳とショルダーバッグを手に立ち上がった。

 

 




いつも読んでくださる方々、誠にありがとうございます。また、競馬場という記述に関してご指摘くださった方に改めて御礼申し上げます。

ストーリー第4章をようやく見ましたが、ブライアンが新たな決意、勝負服を纏って駆け出すシーンが印象的で感動しました。あの勝負服を手に入れられる日が来るまで、お財布握りしめて待ってます。
もしデレステのように勝負服の色が変えられる機能が実装されたら、色々とエモいことになるかもしれない。

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