夢見鳥の憂鬱   作:キョクアジサシ

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福丸小糸の隠し事

 小糸が何か隠し事をしているらしい。

 私こと、樋口円香は以前、別の現場で耳に挟んだ噂を思い出し、眉根を寄せた。

 事務所のパソコンデスクで資料作りをしていたプロデューサーへ、軽く視線を向けて問う。

 やはり心当たりはないようで、不思議そうに首を傾げるだけだ。

 

「小糸が隠し事かあ……。まあ、親御さんの許可なしでアイドル活動してたし、なくはない話だけど……」

「……私もその話は聞きました。でも、同じ間違いを犯す子じゃないでしょう」

 

 季節は一月。

 冬型の気圧配置が強まっているものの、雪が降っているのは日本海側だけらしく、首都圏の空は青く、高い。

 他のアイドル達は、それぞれの現場へ出ており、事務所にいるのは私とプロデューサーだけだ。

 プロデューサーは苦笑して頷く。

 

「そうだな。仮に隠し事をしていても、理由があってのことだと思う。……円香に何か心当たりはないのか?」

「特に何も。……ただ、その隠し事は」

「?」

 

 言い淀んだ私に、プロデューサーはもう一度首を傾げる。

 私は意を決して答えた。

 

「私に関することだそうです」

「円香に? ……ますます分からないな。後ろめたいこともないだろうに」

「だからお手上げなんです。重ねてですが、何か心当たりはありませんか? ミスター・八方美人」

「なんか、引っ掛かる言い方だが……。うーん、何かのサプライズとか?」

「私の誕生日は、十月でしょ」

「だよなあ。……思い当たるとしたら、ソロデビューしたとかもあるけど?」

「確かに、しましたが曲をもらったのは、真乃やあさひ達も一緒でしょう。……事務所のみんなでお祝いしたじゃないですか」

 

 私の返答にプロデューサーは、やや苦悶を滲ませる笑みを浮かべた。

 その気持ちは私も分かるので、何とも答えようがない。

 あのパーティーは端的に言えば、無茶苦茶だった。

 この事務所も狭くはないが、アイドル全員と社長、はづきさん、そしてプロデューサーが、CDの発売日に集まったのだ。

 滅多にない機会だったし、寒空の日々の中、スケジュールを合わせたのだから、大騒ぎにならないはずがない。

 

「よかったじゃないか。果穂なんか、ずっと円香にべったりだったし」

 

 そう言われて、その日の事を思い出す。

 私のソロ曲、「夢見鳥」を聞いた果穂は終始、

 

「やっぱり、円香さんはお姉さんのにおいがします!」

 

 と言って、私に抱き付いていた。

 邪険にすることもできず、私はされるがまま、時々頭を撫でていただけだった。

 それでも強く印象に残っているのは、真っすぐに私を見上げて輝く、果穂の瞳だ。

 

「……あの子、体温高い」

 

 という、私のぼやきにプロデューサーは、ちょっと笑う。

 また、同時にソロデビューした恋鐘さんや、智代子、甘奈からも、

 

「ねえ、初めてデモを聞いた時、どう思った!? 歌詞は!?」

 

 と、ずっと質問攻めにあった。

 私は私で、彼女達の曲も聞いており、気になったことは質問していた。

 だが、基本的に発声や譜面のさらい方などの技術的な面が多く、甘奈に、「いや、そういうことじゃないんだけどね?」と苦笑されたのを覚えている。

 そんなにつまらないことを聞いたつもりもなかったのだが、ちょっと温度差を感じもした。

 プロデューサーが目を伏せ、コーヒーを飲みながら、問いを投げて来る。

 

「……退屈だったか?」

 

 私は視線を逸らし、右手で左腕の肘を撫でた。

 

「……まあ、悪くはありませんでしたけど」

 

 私の答えにプロデューサーは安心した様子で、「そっか」とだけ頷く。

 私は何となく身体がむずがゆくなり、道路に面した窓際へ移動して、忙しく歩く人影を見ながら考える。

 しかし、となると本当に心当たりがない。

 祝われる覚えも、恨まれる覚えもないとなると、どうすればいいのだろう。

 そんな風にフラットでいられればいいとは思うが、隠し事をされているとなると、どうにも居心地が悪い。

 軽い憂鬱を覚えた私が重いため息を吐くと、ふと、プロデューサーが言った。

 

「そう言えば、透と雛菜が小糸から何か相談を受けたって言ってたな。……その件かも知れない」

「……内容は?」

 

 プロデューサーは肩をすくめる。

 

「さすがにそこまでは知らない。気になるなら、どっちかに聞いてみればいいんじゃないか? どの道、ここにいても手詰まりだ」

「……そうですね。ええ、まったく意味がない。最近、いろいろな所で時間を無駄にしてますし」

「ええと、俺を見ながら言うのは止めてくれないか? 結構、刺さる……」

 

 そう言って、肩を落とすプロデューサーへ私は皮肉気な笑みを見せて、背を向けた。

 事務所のドアを開け、玄関のローファーを履きながら、考える。

 どっちか、か。

 透と雛菜。

 さて、どちらに聞くのが正解だろう……?

 




こんにちは、キョクアジサシです。
「夢見鳥の憂鬱」をお読みいただき、ありがとうございます。

pixivでも同時掲載しており、そちらでのユーザー名は、「サイド」ですが、ハーメルン様ではその名前は既に使われているため、「キョクアジサシ」名で投稿させていただいています。
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