夢見鳥の憂鬱   作:キョクアジサシ

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結論ありきで話されても

「樋口ー、こっち」

 

 雛菜と別れてから少し時間が過ぎた後。

 案外、透から早くメッセージの返信が来たので、今どこへいるのかを聞き、とある駅の改札口近くで私は彼女と合流していた。

 透は制服姿のまま、駅構内の大きな石柱に背を預け、ブルーマウンテンの缶コーヒー片手に私を待っていた。

 

「……ごめん、待たせた」

 

 小走りで駆け寄った私に、透は、「んー、別に待ってないよ」といつもの口調で答える。

 特に変わりのない様子だったので、私は少し安堵を覚えながら、周りを見渡す。

 今いるのは、都内の環状線の中でも、たくさんの路線が交差する大きな駅だ。

 六時近いため、目が回るほどに多くのサラリーマンや学生達でごった返し、私はそれだけで軽い疲労を覚えてしまう。

 透はそんな私を見て、悪戯っぽく笑った。

 

「ふふっ、樋口、もうバテてんじゃん」

「……疲れない方が、どうかしてる」

「あー、それは、そうだね。日本の、よくないところ」

 

 透はどこまで本心なのか分からない曖昧な相槌をする。

 私は彼女の隣に並んで立って、石柱へ背を預ける。

 

「で、何? 用事って」

 

 メッセージで要件を伝えていなかったため、透はなぜ私が会いに来たのかを知らない。

 雛菜とのやり取りなどを含め、一から説明しても脱線だらけになるのは間違いないので、私は端的に聞いた。

 

「小糸から何か、相談されてるって聞いたから」

「あー……。されてるね。うーん……」

「?」

 

 透は私から視線を逸らし、珍しく歯切れの悪い口調になる。

 ぼんやり話すことはあっても、言葉を濁すことはあまりないので、私にとっても目新しい反応だ。

 やがて、透は一度、コーヒーを口元へ運んでから話し出した。

 

「でも、私と雛菜も相談したよ。これ、どうしようって」

「相談? 誰に?」

「えっと、霧子ちゃんと咲耶さんと、千雪さんの三人に」

「……は?」

 

 想像していなかった組み合わせだったので、私の声に動揺が滲む。

 透が誰かに相談するということ自体が珍しい上に、選んだ三人に共通点が見えないのだ。

 

「なんで、その三人に?」

「え、別に、適任だったから。……実際、あの三人じゃなかったら解決策は出せなかったと思う」

「……?」

 

 何をもって適任としたのか? はもちろん気になる。

 だが、それ以上に、もう解決策が出てしまっているという事実に私は、内心で驚いてしまった。

 雛菜もそんな感じのことを言ってはいたが、こうも明確に結末を口にされるとは思っていなかったのだ。

 

「……解決策って?」

 

 私のちょっと焦りを滲ませた問いに、透は、「ふふっ」と小さく笑ってから答える。

 

「さすがにそれは。……個人情報」

「まあ、それは、そうだけど……」

 

 小糸は私に相談せず、透と雛菜は別の三人に意見を求め、既に解決法は提示されている。

 その現状に、さすがの私も疎外感を覚えてしまう。

 なんでも話してもらえるなんて考えていないが、やはり相手の一人にくらい入りたかったというのも本心だ。

 困った時、相談する相手へ求めるものには、一定の条件がある。

 耳を傾けてくれる優しさを持っていること、そして理解し共感してくれるという信頼があることだ。

 自転車で言うところの、その両輪が揃って初めて、「どうすればいいのか?」という問いと共に、一歩を踏み出せる。

 だからこそ、選んだ相手の中に私がいないというのは、堪えるのだ。

 

「樋口ー、そんな顔しない。……これでも飲んで落ち着きなさい」

 

 透は苦笑して、ぬるい缶コーヒーの底を私の頬へ押し付けて来る。

 抵抗する力も出なかった私は、それを受け取って、一口すする。

 そんなに冴えない顔をしていたのだろうか、と思いながら、私は考えた。

 解決策があるということは、小糸の悩みがあるていど明確なものであったということ。

 だからこそ、一見、性格も個性も違う三人が集められた。

 その三人に問題を解決させる能力があると判断したから、透と雛菜は相談の場を持ったのだ。

 

「……内容は、分からないけど」

 

 思わず口からこぼれ落ちた言葉を透の耳がめざとく拾い、私の横腹を肘でつついてくる。

 

「ふふっ、樋口がめんどくさい女みたいになってる。珍しい」

「……うるさい」

「たまにはいいと思うよ? 時々見せてよ、そういうの」

 

 私は透のローファーの先を踏み付ける。

 

「痛い。なにするの」

「余計なこと、言うから」

「ごめんって。……じゃあ、私もヒントを出そうかな」

「……?」

 

 意味ありげな言葉に、不審げに眉を寄せてしまったが、透は涼しい表情で言った。

 

「まだ、解決策があるだけで、解決済みではないよ? ……今からでも、気付く事はできるかな」

「……何言ってるの?」

「ふふっ、さあね。じゃあ、私は用事があるから」

 

 透はそう言って、石柱から背を離す。

 

「大事なのが。……店が閉まる前に、行かないと」

「店? 何か買うの?」

「そ。……さすが千雪さん、いい店知ってる」

「……全然分からないんだけど」

「霧子ちゃんが花好きで助かった」

「いや、だから……」

 

 噛み合わない会話に、私は全然ついて行けない。

 事情を知る透としては裏付けのある発言なのだろうが、生憎、私は蚊帳の外だった人間だ。

 清々しいほどに、会話の意図が掴めない。

 

「じゃ、そういうことで」

 

 透はそう言って背を向け、一度手を振った後、あっさりと去って行く。

 取り残された私は、もはや唖然とする他なく、賑わう構内の喧騒を、どこか遠い世界のもののように聞く事しかできなかった。

 まさに、今回の出来事の縮図のようだと思った私の口元に、皮肉気な笑みが浮かんだ。

 

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