鬼才を誇る劣等生――イレギュラーは舞台を返す―― 作:silika
第一話 入学式
#0
魔法、というものがおとぎ話、もしくは裏世界の存在から、表に出てきたのが何時であるか、私は知らない。それでも、当初、異能、超能力とされ、先天的な才能のみに寄ると思われていたのと裏腹に、体系化が進み、いまやある程度の才能--それが天才と呼ばれる必要があるものである必要は無い--さえあれば、誰でも使える領域に降りて来ていることは知っている。
その力は、本来の世界のパワーバランスを崩壊させるのは、想像に容易い。だからこそ、他の国に遅れを取らないために、どこの国もこぞって魔法人材の開発育成発掘に勤しんでいる。それは、日本とて変わらない。そして、その判定基準は、残酷なまでの実力主義。その教育にさえ、機会均等などの建前的平等すら適用されない。
魔法科に進学する、できる、ということ自体が、その均等ではない、教育の機会を得たエリートであることを示すが、それですら完璧ではない。その学校の中ですら、区別が存在している。個別に魔法の指導が成される一科と、その権利の無い二科に。
……その二者における、測り易い魔法力ではなく、戦闘力においてどれだけの逆転があろうとも。それは、覆らない。
#1
「早く着きすぎた」
現在、入学式開会二時間前。式の準備をする先輩方や、同期になるはずの一年生の姿も、視界の奥に居る一組以外は存在していない。我ながら、ちょっと早過ぎたとは思わないでもない。だがまあ、面白い物が見れたからよしとする。
一組の一年生らしき男女は何かを言い争っていた。女の方は見覚えがある。名前は知らないが、入試の実技テストが同じ組だった。その会場の中で一番一般的な意味での魔法力が高そうに見えた少女だろう。その奥の人物の方は私は見覚えもないが、ブレザーにエンブレムが引っ付いてないあたりから、恐らく二科生。少女の方は、あの魔法力で二科ってことも、学力が余っ程じゃなきゃ無いだろうし。漏れ聞こえてくる音から、関係性は推察できる。
恐らくは兄妹、兄の方が若干保護者、妹の方はブラコン。その辺から考えると、一般的な評価軸において優等生な妹と劣等生な兄。ただし兄の方は、別の評価軸においては同等以上の優等生、かな。兄が評価されない事にキレる優等生な妹、ってネタで一波乱起きる気がする。おもしろくなってくれると嬉しい。
とはいえ、ずっと観察しているとバレそうではあるし、視線は外しておく。妹の方は微妙だが、兄の方は武道……よりも諜報員や忍者の類の訓練を受けていそうな立ち振舞いだから、警戒されても良い事は無い。
……訂正。関係は兄妹より恋人の方が正しそう。まあ、実質だけど。妹の方がかなりのチョロインに見えるかな、頭撫でられてあっさり機嫌を直しているようだし。
「随分と、面白そう。普通かどうかは分からないけどね!」
#2
そのあと、兄の方が妹を送り出したのを見届けて、私は地図を見ながら腰掛けられるところを探して歩き、やっとの思いで見つけると、件の兄上が座っていた。再会が早い気はするが、おたがい面識は無い(ことになっている)し、ちょっとお邪魔をしよう。
「隣、座らせてもらっても?」
「ええ。構いません」
そんな会話で、3人掛けベンチのあっち端とこっち端に腰掛ける。その兄上は、その一連の会話を終わらせると、さくっと携帯端末に戻っていた。
私は、懐に忍ばせておいた本を取り出し読み耽る。いまのご時世、紙の本を持っている人なんて数える程しかないが、私の師匠はわりと好んでおり、その所為で、なんか私も紙の本を良く持っている。とくに、神話伝説民話の類ほどその傾向が強い。
式の準備に狩り出されている、8枚花弁のエンブレムを着けた上級生から無邪気な悪意が溢れてくる。
--あの子、ウィードじゃない
--補欠なのに……張り切っちゃってまあ
--所詮はスペアなのに
別に聞きたくもない、阿呆な言葉が溢れ落ちてくる。一科生の胸元には8枚花弁の校章が着いており、二科生の胸元にはそれがない。その状況を雑草と花の着く植物に例えて、ブルームとウィードと言うらしいが、どうでも良い。差別は、差別されている人に一番強くあるのも、またある事だし。そうではない事の方が多いが。態々スペアであると言わなくとも、かなりの二科生はそれを自覚しているだろうし。
◇
そろそろ時間じゃないかと、私の意識が反応する。腕時計を確認すると、式まであと30分。本を仕舞って立ち上がろうとした時、上から声が降ってきた。
「新入生ですね、開場の時間ですよ」
胸元には八枚花弁、左腕にはブレスレット型の最新モデルのCAD、校則に照らし合わせるなら生徒会か風紀委員。
「どうも、ありがとうございます」
「すぐに行きます」
隣の、件の兄上もおそらくそれに気付いている。やっぱりコイツは面白そうだ。
私の左胸には、8枚花弁は無い。隣のにも。正直どうでも良いが、目の前の暫定生徒会役員なこいつが差別者である可能性は否定できず、そうであるなら面倒くさい。
「感心ですね。スクリーン型端末に紙の書籍ですか」
その人物は、私達の方に身を乗り出してくる。既に胸元は見えているだろうし、意識的には差別的言動をしないようにできる人物に格上げしとこう。あとなんかあざとい。
この学校で仮想端末が禁止なのは知ってたけど……。そもそも私、仮想型は持ってない。
「仮想型は読書に不向きですので」
「私の場合はまあ、環境遺伝。身の回りに仮想型使う人居なかったんですよ」
「動画ではなく、読書ですか。いよいよもって珍しいですね。私も映像資料より書籍資料の方が好きだから、何だか嬉しいわね」
段々と砕けてくる。おそらく、そういう性分なんだろう、人懐っこく、ちっとばかしあざといのが。
それに、読書を好む人はそーゆう言い方をする程珍しいものでも無い気がするし。仮想型は使わせて貰ったことがあるけど、なにより現実と少々切り離されている感覚が合わなかった。なんか怖いし。
「あ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いてさえぐさ、と読みます。よろしくね」
やっぱりあざとい。私の頭を高級娼婦という言葉が過ったけど、言ったらぶん殴られそうだからやめておく。というか、あの"十師族"の一員にそんな喧嘩を売るのは得策ではない。妙なプライドもなさそうだし。
「お二人は知り合いかしら?」
「いいえ。私は箭泉玲です、今年一年どうぞよろしくお願いします」
「いまたまたま相席していただけです。自分は、司波達也です」
名前を聞くと、目を七草は見ひらいた。
「箭泉玲さんに司波達也君……あなたたちが……」
なんか妙な噂が立っているらしい。まあ、最低レベルの実技だったろうしその辺か?にしては表情や纏った雰囲気はそんな否定的なかんじではない。
「入学試験、7教科全て満点の箭泉さんに、100点満点中96点の司波君。特に圧巻だったのは、魔法理論と魔法工学。合格者の平均が70点に満たないのに、二人とも小論含めて文句無しの満点、前代未聞の高得点だって」
……へえ。よくやった、GJ私。これで、一科生が煽り易いったらありゃしない。普通、魔法理論と魔法の実技の結果は比例する。だけど私はテスト的には実技はかなりの下位、自信を持っていえる。だからこそ、気位の高い阿呆を煽るのに使える。
「ペーパーテストの話です。情報システムの中だけですよ」
件の兄上はその賞賛を素直に受けとることができないらしい。なんというか、怖がっているようにも見える、何にかは知らないけど。
そのまま、七草とは別れて、司波と二人で入学式場に入る。生徒会長と少々話し込んでいたせいで、席は半分程埋まっている。
はっきし言って、どこに座ろうが構わないハズにも関わらず、前側は一科、後側は二科とはっきり分かれていた。この学校のクラス発表は学生証の配布、すなわちIDの交付と共に行われるから、クラス毎ってわけでもなく、よーするに差別の当事者達が双方それを認めている訳である。とはいえ、今はそれに乗った方がちょろい。司波にくっついて席を確保する。
さあ本を出そうかと思った所で、司波に声が掛かったようで、顔を上げてみると、女子4人、なんか面白そうなので本はポケットへ再収納。
さくっと座った4人、その一番司波寄りな席に座っている眼鏡を掛けたのが司波に声を掛ける。
「あの……私、柴田美月って言います。よろしくお願いします」
「司波達也です。こちらこそよろしく」
ついでに乗っかろう、面白そうだから。
「私は箭泉玲、よろしくね?」
「あたしは千葉エリカ。司波君、箭泉君……さん? よろしくね」
「あー、やっぱしどっちか分かんない? 一応制服で判別して欲しいかな」
私の見た目は中性的だから、意識的に声を下げて話すと、ほんとにどっちだか分からなくなるとは言われる。まあ、それは嫌いじゃないけど。
奥二人の自己紹介もすんだころ、司波が動いた。
「四人は、同じ中学?」
違うらしい。っていうか、端末を忘れるとか、仮想型禁止を忘れるとか、柴田以外の3人、抜けてるわ……。
「そっちは? 妙に似てるし、噛み合ってるけど。恋人?」
「こっちも初対面なんだな、これが。御互い早く来すぎてね……、同じベンチで本読みながら時間を潰した仲さ。恋人だったらそれはそれで面白かったけどねー、それはありえないかな、絶対に」
「そういうわけだ」
なお、主人公はこの時点で彼女が居る模様