鬼才を誇る劣等生――イレギュラーは舞台を返す――   作:silika

10 / 13
投稿するのを忘れていました、ごめんなさい。
それから、今更ながらに祝10000UA! ハーメルンって人口多いですね……


第十話 ブランシェ

#20

生徒会室の様子は、2週間前とはかなり変わっている。何が一番変わったと言って、みんな弁当持参であることである。あとは、あずさ先輩がほぼ連日駆り出されていた。曰く、1年と3年だけじゃなんか変、らしい。

意味が分からないけど、気にしてもしょうがない、だって会長の言う事だもの。

「達也くん」

「何でしょうか、委員長?」

 

野次馬根性丸出しのマリ先輩。あの噂話かな。

「昨日、2年の壬生を言葉責めにした、というのは本当かい?」

下世話な言い方をチョイスするマリ先輩。聞いた話の中では下世話な方に思う。

「……先輩も淑女なんですから、『言葉責め』などという、はしたない言葉は使わない方が良いとおもいますが」

「ハハハ、ありがとう。あたしを淑女扱いするのは達也くんくらいのものだよ」

……まあ、しないかな。私の場合は、『淑女』、という言葉が好きじゃないし。態々言う時は、『都合の良い』『人形みたいな』『言い成りの』あたりの言い換えとしてだけ。

 

「そうなんですか? 自分の恋人をレディとして扱わないなんて、先輩の彼氏はあまり紳士的な方ではない様ですね」

紳士は……明確に嫌いかな。英国紳士は第一級の警戒対象。自分ルールを世界のルールと勘違いするから……。gentlemanを名乗る奴は大体碌でなし。

「そんなことはない! シュウは……」

それはともかく、達也に掛けられたカマにあっさり引っ掛かる先輩。そんなので良いのだろうか、うん。失言に気付き、愕然としながらあたりを見回すマリ先輩。彼女の視線は、笑いを堪える会長さんに止まる。まあ、仕方の無い事である、アレじゃあ。

 

「それで、剣道部の壬生を言葉責めした、というのは本当かい?」

「ですから、言葉責め、という表現は止めた方がよろしいかと……深雪の教育にも良くありませんし……」

「じゃあ、相手が不慣れとしていることが分かっている表現を用いて相手の羞恥心を煽り精神的に追い詰める変態的行動、って言えば良い?」

「……悪化してないか?」

「してるな」

「そりゃまあ、悪化させた訳だし?」

なんか言葉責め、という語にたいして妙な談義が始まりそうだったから、適当に茶化して終わらせる。

 

「そんな事実はありませんよ」

「そう? その……壬生先輩だったかが、顔を真っ赤にして恥じらっているトコ、目撃されてるけど」

私が達也から情報を引っこ抜くべく噂をさらに投下した瞬間、私の横の席から冷気が飛んでくる。

「お兄様? 一体何を為されていらっしゃったのかしら?」

あー、なるほど。これ超能力と現代魔法の境に位置する現象か。深雪の干渉力の強さは本当に規格外だわ。無意識レベルの発露でさえ、凍傷になりかねない。

 

「落ち付け、深雪。ちゃんと説明するから」

「申し分けありません」

深雪が深呼吸をして落ち付くと、気温の低下も収まる。突発的な感情の変化に釣られたのかな。というか、この物理的な冷却は本質からズレてる気がする、勘だけど。

「夏は冷房要らずね」

「真夏に霜焼けも間抜けな話ですが」

 

それはともかく、達也が、回想するように、一部始終を再現してくれた。

ただ、正直壬生先輩の方に理があるとは思えない。まあ、支配者はいつも、抵抗運動反対運動にそう言うんだけどさ。

「まあ、学内において高い権力を持っているのは事実ね。特に今の体制に不満を持っている人からすれば、治安維持の実働部隊である風紀委員は、権力を笠に着た走狗に見られることもあるの。正確には、そういう風に印象を操作している何者かが居るんだけどね」

嫌な言い方。無秩序でも倫理に反している訳でも無い反対勢力のバックに陰謀を見るのは悪い考え方だと思う。だって、そんなこと出来る人別に多くないし。

 

「そんな陰謀論的な考え方をするのはどうなんでしょう? 無い煙を起こすのはかなりの手間ですよ」

「あ……いや。いや、うん」

「で、デマを流す末端を操る、黒幕の正体なんですが」

だからさぁ……。確かに破滅的テロ行動を行っている組織の参加者は居たけどさぁ……そこで分かり易い黒幕なんて案外いないんだってば。

「例えばブランシュのような組織ですか?」

少々動揺していた3年二人組が、達也による具体名の提出によって、明確な驚愕に変化した。

 

「何故、その名前を……」

「別に、極秘というわけでも無いでしょう。噂を防ぐのは至難の業ですから」

まあ、そう。ブランシュは……何よりも手段が間違っている。指摘自体は、あながち間違いでもない--表層的な部分、分かり易くやっていたり、根本的な自分達のエリート性に気付いてない所為でかなり間違えている--けど、それを暴力中心にやっているのが何よりもやばい。

フランス革命の昔から、暴力によって行われた革命は、その暴力そのものによって破滅に導かれたんだからさ、学ぼうぜ。

 

「こういうことは中途半端に隠しても、悪い結果にしか繋がらないものなんですが」

「ええ。達也くんの言う通りよ。魔法師を目の敵にする集団が居るのは事実なんだから、彼らが如何に理不尽な存在であるか、そこまで含めて正しい情報を行き渡らせることに務めた方が一見最もらしく見えるアジテーションをそのまま隠してしまうよりも、効果的な対策を取れるのに……」

とは七草会長。一見まともっぽい事を言えるようで、少し感心した。いつもは愉快犯的行動しかしないわりに、これでも十師族ということなんだろう、きっと。

 

だけど。

「無理ですよ、それは。日本がこうである限り、彼らの発言は大して理不尽じゃないですから。やり方は理不尽ですけど」

「ん……? いや、理不尽だろ、ブランシュの発言は。魔法師が政治的に優遇されているなんて事実は無いぞ?」

「それを、提示して見せたことはありますか? 普通の視点で見たら、十師族の権勢が強過ぎますし、魔法能力が血によるモノとされている所為で、一族主義に見えるんですよ。それに対する反証自体は立てれるかもしれませんが、誰もが十師族や政府、軍隊が沢山の隠し事をしているのを知っています。そこで態々反証を立てたら、隠蔽していると見做されるのがオチです。それを回避したければ、事実のみを全て開示する必要がありますが、今の日本にそれは不可能です。何故なら、魔法師に関する日本の全事実の公開は、所謂安全保障的に考えれば、実質的な敵対国に対する情報明け渡しですか1ら」

 

そこで一旦言葉を区切る。うーんよくない、これはちょっと威圧的過ぎるか……?

「つまり、結論として。何のツテもない一般市民は、ブランシュの発言を否定出来るだけの根拠を持ち合せる事が、本人の主観で出来ない状態なんですよ。そんな状態でアレコレ言っても仕方が無いと思います」

「つまり、ブランシュの主張を理不尽だと断じるなら、誰が見てもその主張を不当だと判断出来るだけの情報を開示しろ、ということか?」

「はい。端的に言うならそうですね。……あ、勿論彼らのやり方や主張には基本反対ですよ。特に、魔法師が魔法を使った仕事をする事に関して無償労働を強いる辺りは。ただ、原発下っ端作業員と、原発付きの魔法師の賃金格差には物申したいですけど、原子力技術のレベル、魔法周り除いて100年前から大した進歩してないんですから」

 

なーんか。すっかり妙な空気になってしまった。ただ、それでも。特に十師族の人には、十師族がどれだけの力を持った、巨大なシステムであるか。

あと、深雪にこそこそ囁く。

「分かってます、玲。お兄様こそ気にしてませんけど、お兄様が無能扱いなこのシステムがどこかおかしいことくらい」

深雪をね、抱き込めば達也も抱き込める。司波兄妹の抱き込みは、世界を変える一手の類だと思う、きっと。やっぱり、こんな不条理は許せないし。

 

#21

本日は実技テスト。単一系統単一工程の魔法を制限時間内にコンパイルして発動するだけの簡単なお作業、というか私のもっとも得意な分野。このレベルだと、500ms以内に発動するのが一流の条件な訳だけど。

「43ms、新記録って出てるんだけど?」

こうなる。ほんとに、一工程ならなんとかかんとか何だけど……。

 

「簡単な魔法は得意、って言ってたけど、ここまではとはね……」

「エリカ、エリカ。私、個人調整したCADだったらもっと速いよ?」

「なんで二科に居るのよ、アンタ」

そりゃまあ、多工程が苦手ですから。

「十工程でも、こんな風に出来たら此処に居ないって……。ほんとに、少工程でしか使えない、魔法的には戦闘特化みたいなモンなのよ、私」

というわけできゃっきゃきゃっきゃと話を続ける。これは秘密だけど、単一工程単一系統なら、1msを切った発動すら可能。まあ、これは参考記録以上には出来ないけど。

 

そして昼休み。

「1060ms……ほら頑張れ、あと一息だ」

「と、遠い……0.1秒がこんな遠いとは知らなかったぜ……」

「バカね、時間は遠いとは言わないの、それを言うなら長いでしょ」

「エリカちゃん……1052msよ」

「ああもう! 言わないでよ、折角バカで気分転換してたのに!」

「ご、ごめんなさい……?」

「ううん、良いのよ。どうせ何時かは現実を直視しなきゃいけないもの」

「テメエの三文芝居なんざどーでも良いが、いい加減人を玩具にするのをやめやがれ」

仲良く1000msを突破できなかったお二人。達也をコーチ役に指名しての居残り。レオの方はちょろく達也が教えてるから良いとしても……。

 

「エリカは何が問題なんだろうな……」

「えー。玲は分かんない?」

「んー、パネルの上で両手を重ねて、計ってみて?」

「そんなので変わる?」

「確証は無いけど、まあ実験実験」

 

余剰想子光が閃き、丸い小さな的の上で、時間と圧力が表示される。時間は発動に掛かった時間、圧力は魔法で発生させた圧力の最大値。

「1010ms、一気に40も短縮したよ、あと一息」

「よーし、やれそうな気になってきた」

時間は、起動式を読み始めてから、圧力が既定値を超えた時までを計る。

 

「お兄様、お邪魔しても宜しいですか?」

「っとと、深雪に、雫に、ほのか?」

「すまん深雪、次でラストだから少し待っててくれ」

「ちょ!」

「エリカ、気ィ逸らさない!」

達也がしらっと圧力を掛けてるけど見ないフリ。まあ、実際終わるでしょ、多分。




玲は、テロ等の言葉に関しては強いこだわりがあります。そして、強権的な政府もまた嫌いです
(嫌いなもの:リアル西欧にアメリカなど)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。