鬼才を誇る劣等生――イレギュラーは舞台を返す―― 作:silika
「フルネームで呼ばないでください」
「んじゃ服部範蔵副会長」
「服部刑部です! 学校にはそれで届出してます!」
「そりゃ官職だろ?」
「そんなもん残ってないです」
服部先輩とマリ先輩が遊び始めた。ハンゾウか……威牙だな。普通に狩られることあるから……。
「いえ、言いたいのはそうではなく。お話ししたいのは、風紀委員補充の件です。その1年生二人を指名するのは反対です」
そっからは流れるように話が進んでいく。実力で劣る二科生に風紀委員は無いという範蔵氏、対するマリ氏はその論理なら自分一人で充分と言う。範蔵氏、そいつの適性問題だと言うが、マリ氏は違う実力があると述べる。……いや私は?
あ、私に関しては、すでに一科の一年を2回取り押さえたことを上げた。
追加弁論、マリ氏。二科生を風紀委員に入れることの利点を上げる。まあ、溝埋めには良いかもね、今の1年に対しては。上は分かんないけど……波乱が来るよやったねわーい!
お、討論参加者3人目、司波深雪。主張は、兄は実戦じゃまず負けない。対する範蔵氏、意見聞く気なし。4人目、乗り気じゃなかったはずの司波達也、主張意見は……妹傷つけんな阿呆、ですねコイツ。シスコンを隠そうともしない。
かくして、達也対範蔵先輩、私対範蔵先輩のカードが成立した。達也の戦闘力が気になるところ。
#13
達也がCADを準備する間に私もCADを準備する。口で駄目なら力ずく、が割と奨励されているのは笑えるが、この先輩らなら悪用も基本はされないだろうし、良い制度、多分。
達也のCADは拳銃型が2丁、ストレージ切り替えで複数の系統に対応した特化型。多分に優秀そう、っていうか実戦的だわ。
「ルールはさっき提示した通りだ。それでは、試合、開始!」
武器禁止、殺害や重症になり得る行為も禁止、他アリアリ。うん、このルールなら多分わたしは勝てる。
試合は、始まった瞬間に範蔵先輩は魔法を起動、一方達也は踏み込み、範蔵先輩のすぐ近くにあらわれる。その勢いのまますれ違って、範蔵先輩が見失っている間に、サイオン波を三連、範蔵先輩が倒れる。
「待て、今の動きは、予め魔法を発動していたのか?」
「そうでは無いのは先輩もわかってるのではないですか?」
マリ先輩がある種の驚愕を滲ませながら問うが、当然の如く返される。続けて深雪が、達也が九重八雲の弟子であることを出して、裏付ける。
「じゃあ、あの攻撃に使った魔法も忍法ですか? サイオン波そのものを放ったようにしか見えなかったですが」
「多分そっちは波の合成じゃないですか? 酔ったんだよね、達也」
「正解、見ただけなのによく分かったな」
「そりゃ、よく見えるから」
私の解答に達也は花丸を付けるが、他の先輩方は納得していない様子。多分それは、一瞬、1秒程度の間に、周期の違う波、すなわち違う魔法式を3つ使えるだけの処理能力があれば、二科生ってことはないだろう、という部分だと思うけど……。
助けは思わぬ所から出てきた。
「あの、もしかして司波君の使っているCADって『シルバー・ホーン』じゃないですか?」
「シルバー・ホーンって、あの天才魔工師トーラス・シルバーの?」
真由美があずさ先輩の質問に脇から質問を加える。その瞬間にヒートアップしたあずさ先輩は、嬉々としてトーラス・シルバーについて話し始めた。私としてはそれ以上に、達也がトーラス・シルバーの名前や業績が語られる度にピクピクして、深雪が微妙に誇らしげなのが気になる。
そして、あずさ先輩がトーラス・シルバーの最大の業績とも言われるループキャストについて語り始めたあたりで制止が入った。
「ストップ! ループ・キャストについては知ってるから」
結局止まり切れずに、達也が、シルバー・ホーンを持っていることにかんして少し問い詰めてしまっていた。
「でもおかしいですね。ループキャストだとしても同一の魔法式を再生する物なので……。まさか、振動数の部分も変数化してあった……? それを実行しているのですか」
市原先輩が気付いて、驚愕に言葉を失う。私としては、現行の魔法師格付けでは放置されてるもの多いし、そういうこともあるか、という感じだけど。
「ええまあ。多数変化は評価されないですから」
「実技試験の魔法力の評価は、魔法の発動速度、魔法式の規模、情報を書き換える強度で決まる。なるほど、実技が本当の能力を示していないとはこういう事か」
服部先輩がのっそり起き上がりながら、シニカルな達也の物言いに答える。ずっと起きていたかのような台詞だけど、本人の弁論を聞く限り、好きな人の発言は気絶してようが耳に残る、とかそっちの方が実態に即していそう。
「えー、服部先輩、大丈夫ですか?」
「ああ……。いや、お前に心配される筋合いは無い」
にべもなく断わられる。まったく酷い先輩も居たものである、だけどまあ、勘違いは一つ訂正しよう。
「いえいえ。私が言っているのは、今からもう一戦できますか、ってことですよ」
マリ先輩と真由美先輩がちょっと忘れてた、って顔をしている。市原先輩は……服部先輩を哀れんでる。あずさ先輩は完璧に忘れたっぽいな。
とはいえ、普通にやるらしい。やるからには負けられない。
「試合、始め!」
マリ先輩の合図で服部先輩との模擬戦を始める。靴は履き換えているから蹴り技も使えるけど、まずは踏み込み。自己加速術式4連起動、さっきの達也を見た直後でもやっぱり吃驚させれるような速度で接近する。
そしてそのままの速度で鳩尾に膝蹴りを叩き込む。吹っ飛ぶ瞬間に、吹っ飛ぶベクトルに対して、ベクトル反転の魔法を掛けて、瞬間的に前後に揺さぶった直後、巴投げの要領で後方に吹っ飛ばした。すぐさま翻って見ると、なんとか着地はしたものの、かなりグラついている様子。ただ、まだ制止は入らないし、降参する見込みもなし。よって追撃
具体的には締め技である。首の血管を締め上げて、脳味噌に血液がいかないようにする。
「あ、落ちた」
「あ、ああ。そこまで。……さらに早いのか」
「一応確認するけど、フライングはしていない、のよね……? 魔法の速度が異常に速かったけど」
私は服部先輩の横隔膜のあたりを押し上げ、強制的に叩き起しながら答える。
「まあ、見ての通りですね。単一工程単一系統の魔法ならCAD無しで発動まで10msくらいですよ」
これまた驚愕に彩られる先輩方。こっちは深雪と達也にまで呆れられてるけど。
「……それこそ、そんな速度があれば、二科生ということは無いと思いますが」
「確かに、工程増えてもそれだったら良いんですけどね……。工程増えると極端に速度が落ちるんですよ。学校の無調整CADじゃまともな速度で出来るのは5工程くらいが限度です」
「……入試の魔法力のテストの時は……12工程だったな。なるほど、確かに評価基準と絶望的に噛み合わない」
マリ先輩がかなり呆れを滲ませている。
「まるで戦闘をする為に生まれてきたかのような能力だな。実戦でよく使う4工程程度ならCAD無しでも高速で発動でき、さっきの速度でもきっちり体を動かせ怪我をしない」
私もそう思うけど、なんでかは知らない。
と言う訳で、無事風紀委員就任、わーい!
#14
というわけで風紀委員本部にやってきた。なんか、魔法師が沢山居るのを良い事に、盛大に消防法を破った、非常階段のあるはずの部分にあった直通階段で風紀委員会本部にやってきた。
「少しちらかっているが、まあ適当に座ってくれ」
マリ先輩は言う。少し、っていうか……デスクの天板が見えないくらいに机の上をぐしゃっとしておいてそれは無い。しかもCADを転がして……。
「……達也、機械の整理と書類の整理。どっちやりたい?」
「……たしかに片づけたいが。機械の整理出来るのか?」
「一番面倒な奴は、そこに6台あるEagle Ringでしょ? 余裕」
「オーケー、書類を頼む」
うわ性格が悪い。にしても、EagleRingが6台も放置されてるって普通にヤバいと思う。感度の良い非接触式スイッチがあって、設定の自由度も高い。ソフトや一部パーツをどうにかすれば後30年くらいはやってけるハズのCADなんだけど。
「……すまん。あたしには整理が出来ない。手を動かしながらで良いから話を聞いてくれ」
達也のスカウト理由は未遂犯の罰則適正化。私と達也の両方に掛かるのが二科生に対するイメージ戦略。私らが魔法を使った戦闘に鬼みたいに強くて、2年生トップクラスの先輩を歯牙にも掛けないのは予想外の結果だけど、風紀委員としては強いに越したこと無し。
「イメージ戦略としては、上級生に対してはイマイチじゃないですか?」
「どうしてそう思う」
「同じ立場のハズの下級生に取り締まられれば、おもしろくないと感じるモノでしょう」
マリ先輩が適当に頷く。正直どうでも良かったらしい、な?
「あと1年一科にも駄目では……? 私森崎に認めないとか言われてるし」
「教職員推薦枠で入るぞ」
……まじか。思わず手が止まる。っていうかアレで大丈夫なんだろうか、凄く弱いんだけど。
「言っただろ? 腕っぷしなら私が居る。だから少々弱いのが入っても問題じゃない」
この先輩はほんとに自信家だけど、その自信を裏付けるものがあるからこその強さだな……。
「まあ、最初は断わるつもりだったんだけどな、お前らが入った以上それは無理だろ?」
「…………マリ先輩。傍から見てもイジメに見えないようにしながら精神叩き折っても良いですか!」
「風紀委員の言って良い台詞ではないな」
どうでも良いですが、箭泉玲はDMプレイヤーです。仲間内で、見つけたデータを元に、使用可能カードプールを決めて勝負する、というのを繰り返してます。
好きなデッキはホーガン系とロスパラ系のガチャ系統、嫌いなデッキはダーツデリート