鬼才を誇る劣等生――イレギュラーは舞台を返す―― 作:silika
「ここ、風紀委員会本部よね?」
「いきなりご挨拶だな、真由美」
先に書類整理を終えた私が、達也に合流して手分けして機械の設定をしたりセキュリティを設定したりメンテしたりしていると、真由美とマリ先輩の会話が聞こえてくる。
「だって、どうしちゃったの、摩利。リンちゃんがいくら注意しても、あーちゃんがいくらお願いしても片付けようとしなかったのに」
「事実に反する中傷には抗議するぞ、真由美。やらないんじゃない、できなかったんだ!」
「そっちの方がどうかと思うのだけど……。ああ、そういうこと、早速役に立ってるのね、二人共」
まあ、そういうことである。っていうかマリ先輩、料理できるけど整理はできないって、家大丈夫だろうか。
「委員長、点検終わりましたよ。痛んでいた部品も交換したので、問題無いはずです」
「CADは、達也が使おうとしている2台以外は全部、適当に起動式組んで、個人調整せずに出来るギリギリにしてあります」
「ねえ摩利。あの二人、優秀過ぎない」
「ああ、そうだな」
何故かそのまま、コントに入った真由美と、巻き込まれた達也だったけど。正直言うと、真由美先輩の行動がかなり面白かった。すっごいステレオタイプにあざとい行動をしてるモンだから。
なお、来た用件はそれではなく、生徒会は今日はもう閉めるってことを言いに来ただけらしい。入学式からのゴタゴタが済んで一段落したころだったそう。
それから少して、二人の先輩がやってきた。
「ハヨースッ」
「オハヨーございまス!」
「お、姐さん。いらしたんですかい」
古風というか……古風なヤクザかなんか……? リアルでそのノリを見る機会がまた有るとは思ってなかた……。
「委員長、本日の巡回、終了致しました! 逮捕者はありません」
姐さんと言ったほうは、如何にも大工っぽいデカい奴、報告した方は見た目は普通だがなんか軍人っぽい感じがする。
「この部屋、姐さんが片付けたんですかい?」
マリ先輩が? おっきい方へがしがし近付いて? 丸めたノートを、ガシっと……ふりおろしたー!
「ってぇ!」
「姐さんと言うなと何度言ったら分かるんだ! 鋼太郎、お前の頭は飾りか?」
ベチベチとマリ先輩が頭をはたくが、いまいち効いてる用には見えない。よっぽど頑丈らしい。
「んで……そっちで機械弄ってる二人は? 新入り?」
「お前の言う通り、そっちの二人は新入りだ。生徒会枠でウチに入ることになった1-Eの司波達也と箭泉玲だ」
「紋無しですかい」
「辰巳先輩、その表現は禁止用語に抵触する恐れがあります。この場合、二科生と言うべきかと思います」
「お前たち、そんな考えだと足元を掬われるぞ。いや、正面から破られるかもな。服部がさっき、その二人に一回ずつ負けたばかりだ」
私の頭を一つの罵倒が過っている。どうしよ、っけふ!
「マリ先輩、痛いです」
「お前今良からぬことを考えただろ」
「別に考えちゃいません。ただちょっと、ウィード呼ばわりされたら、既に満開だからアンタらもう散るしかないじゃん、って言い返してやろうと思っただけです」
「……そういうのを良からぬ事と言うんだ」
もう一発ノートで殴られた。解せぬ。
「へえ、マジですかい、服部に勝ったってのは」
「ああ、正式な試合でな」
あっさり納得して引き下がるどころか、強いと聞いて歓迎してくれた二人。まったく有り難いこってす。
なんか握られた腕を適当な所で解いたら褒められたけど、私は思う。
「手を握ると、抑えるのって別じゃないですか……。握力50kg超えたら大差無くないですか?」
#15
家に帰ると、リーに抱き抱えられる。私はすっかりそのまま脱力して、リーに今日の学校であったことをぴよぴよ話す。リーと一緒に居ると言語レベルが小学生に退行するけど、それは問題じゃない。
「あのねあのね、風紀委員になったよ」
リーに報告すると、よしよしと褒めてくれる。好き、大好き。深雪がお兄様を愛するよりも深く愛していると私は言い切れる。……よりも、じゃなくてように、かな。
「玲、幾ら強くても無理しちゃだめだからね」
当然心配される。それはリーにとって、態々考えたりするようなことじゃない。リーにとって、私を心配するのも、甘やかすのも、いちゃいちゃするのも、全部自然なことなのである。そう、自然なこと、お付き合いを始めてから一気に甘やかしてくれることが多くなった。
そして何より嬉しいのは、私がそれを享受できること。疑いもなく、余裕を持って過ごせること。それが一番嬉しい。
「玲、溶けるのは構わんが、宿題とか無いのか?」
「大丈夫ー。今日も特に何かあったわけじゃないからー」
話しかけてきたのは師匠。保護者と恋人と同棲してるって結構アレな気もするけど気にしてはいけない。それに、師匠の教え方が良いお陰で、今のところ授業は恐しく温い。
「で、今は何やってるんだ?」
「CADの設計。刻印型の効率を上げたいなって」
CADの作成や調整は、本来専用の精密機械が必要な所為もあって、個人で出来るものではあんまり無い。でも、私とリーの場合は師匠がぶっとんでるから普通に出来る。
ハードはリーの分野だけど、ソフトは私の分野。普通のは。でも最近はあんまり普通のCADを作らないで、もうちょっと尖った代物ばかり作っている。
まあ、そんなことはどうでも良くて。刻印型って実質どこでも使えて自由自在だから好きなんだよね。
「効率が悪いのが難点……。サイオン消費がさ」
「それこそサイオン吸収システムの出番だよね」
リーの言う通りではあるんだけど、そうじゃない、そうじゃないんだ。いや、それで良いのか?
#16
達也は、九重八雲の寺へと向かっていた。気になることがあったからである。いつもの挨拶を抜けて、八雲の居る本殿へと向かう。
「師匠、ご相談があるのですが……」
「なんだい、達也君? 調べて欲しいことでもあるのかい?」
八雲のあまりの察しの良さに、狸と言う印象を抱くが、それを無視して話を続ける。
「箭泉玲という人物を調べて欲しいんですよ。師匠に匹敵し得る近接格闘能力を持ち、プロ並みのCADのソフトを弄るスキルがある。偶然で片付けるには怖いんです」
達也の言葉に、八雲は目を細める。それは或る種、面白がっているとも取れるものだ。
「へえ……。ん、まあ良いか。大前提は、恐らく態々君に敵対することも無いよ。彼女の逆鱗に触れなければ大丈夫」
「箭泉玲。元十師族八泉の末裔だが、俗に言う数字落ち。両親は魔法が一応使える程度で才能は無し。祖父母も十師族側の人が少々使える程度。系譜は遡ると、古式の家系、『夜出海』家まで出てくるけど、夜出海家の術式は完全に散逸していいて、伝わってはいない。まあようするに、背後関係無し、魔法能力は突然変異、かな」
その答えは、安心材料にこそなれど、謎はより増すものだった。
「その割には、かなり戦場慣れしているようでしたが」
「ああ、それは保護者の問題だろうね。彼女の保護者は、血の繋がった両親じゃない。九島烈華という人物だよ」
「それは十師族、九島家の……?」
「まあ、一応そうだね。九島烈の姉にあたる人物だ。とはいえ、所謂魔法力では足元にも及ばないよ。近接戦闘に関しては僕にとっても師の一人だけど」
それ以上は今は話すつもりのない八雲。達也としても、最低限の、少なくとも自分達の秘密を、個人の好奇心以外では暴きに来る奴ではないことを理解し、一応の納得を得た。