鬼才を誇る劣等生――イレギュラーは舞台を返す―― 作:silika
#19
「以上が、バスケットボール部の3by3にMB部が乱入した事件の顛末です」
さっきの騒動の報告をやる。普通に面倒くさいけど、やらない訳にもいかないので、ちゃきちゃきと、罰が軽くなるように話す。といってもたかが知れてはいるけれど。
「当初の経緯は見ていないのだな?」
「はい。私が割り込んだ時点で既に乱闘は始まっていましたので。バッジを付けたのも、私が見始めて以降に魔法を不正使用した人物だけです」
質問するのは部活連会頭、十文字克人である。現在の実質的な十文字家当主であることもあって、まだ高三だと言うのに、カリスマトップの風格を漂わせている。
「また、乱闘後半に関しては私が一言多かった所為もあるので、懲罰委員会に持ち込むつもりはありません」
基本的に訴追は摘発者に依存、そして今回は実害が何一つ出てはいないので、無理に訴追する理由も無く。
「ふむ。それでは彼らにはこちらから、今回の件を教訓とするよう言っておく」
「任せた」
◇
部活連本部から、昇降口の所に行くと、先に報告を済ませていた達也を含め、雫とほのか以外のいつもの人物が集っている。
「悪い、待たせたわ」
「用件は達也と同じだったんだろ、仕方無いって」
「ありがとう。詫びと言っては何だけど、一人1000円までは奢るよ?」
と言う訳で、私主導で、なんか流れで達也と割り勘と言うことになりつつも、喫茶店へと向かう。
入学式とは別の喫茶店で、6人で今日あったことを交流する。
「--その桐原って二年生、殺傷性ランクBの魔法を使ったんだろ? よく怪我しなかったな」
「致死性がある、といっても刃の部分だけだからね、よく切れる剣と大差無い。それほど対処の難かしい魔法じゃないさ」
手放しで褒めるレオと美月、誇らしげな深雪、少々呆れるエリカ。私としては……まあさもありなん、と言った気分なのだけど。
「でもそれって、真剣を振り回す人を素手で止めようとするのと同じですよね、危なくなかったんですか?」
「大丈夫よ、美月。お兄様なら、心配要らないわ」
「随分余裕ね、深雪?」
エリカの指摘は冷静に考えると、とても正しいけど、昨日の対副会長戦を見た身としては、その自信はよく分かる。っていうか、私にとっても難かしい事では無いし。
「10人以上を捌く達也君の腕は確かに見事だったけど、桐原先輩の腕だって別に鈍じゃないよ、寧ろ、あの中じゃずば抜けてる。ホントに、深雪、心配じゃなかったの?」
「ええ、お兄様に勝てる者などいるはずが無いもの」
一厘足りとも躊躇の無い断言、ここまで来ると清々しい。流石のブラコン、胸がよく張られていて、いつも以上に美しい姿勢を生み出している。
「--えーっと……」
「達也さんの技術を疑う訳じゃないけど、高周波ブレードは単なる刀剣と違って、超音波を放っているんでしょう?」
「そういや俺も聞いたことあるな、超音波酔いを防ぐ為に耳栓を使う術者も居るとか」
「そういうことじゃないのよ、単にお兄様の体術が優れているというだけじゃなくて」
……それは開示しても良い情報なのか? いやでも、達也の顔は特に崩れていない、って事はセーフか。あのブラコン娘が兄に不都合な事をするとも思えないし、喋っても良い相手認定されてるのね、何かは分からないけど。
「魔法式の無効化はお兄様の十八番なの」
「無効化? 領域干渉でも情報強化でも無くて?」
「ええ!」
嬉しそうな深雪と、仕方無いなあ、とでも言いたげな達也。なんというか、見てて心が暖かくなる一幕である。というか、この笑顔を見る為に動く人は男女問わず沢山出て来そうだな。
「それ、結構レアなスキルだと思うのだけど?」
「まあ、少なくとも高校では教えないと思うわ、知っているからと言って誰でも出来る訳でも無いのだし。エリカ、お兄様が飛び出した直後、床が揺れた様に感じたのでしょう?」
「うん。私は大したことにならなかったけど、乗り物酔いみたいな感じになった子も居たみたい」
「それ、お兄様の仕業よ。お兄様、キャストジャミングをお使いになったのでしょう?」
とても綺麗な、でも作り笑いと分かる笑顔で深雪に見られた達也は、あっさり白旗を上げ白状する。
「深雪には敵わないな」
「それはもう、お兄様の事なら何でも、深雪は御見通しですよ」
「いやいやいやいや」
かなり素頓狂な声でレオが割り込みを掛ける。
「それって兄妹の会話じゃないぜ、恋人同士のレベルも超えちまってるって」
「そうかな?」「そうかしら?」「そう?」
思わず私は疑義を呈してしまったけど、図らずも深雪と達也とハモる結果になった。1秒程硬直した後、マジかお前、という顔でこっちを見ながらレオは突っ伏した。
「……このラブラブ兄妹につっこみ入れよう、ってのが間違ってるのよ、アンタじゃ太刀打ち出来る訳ないじゃない」
「ああ、俺が間違ってたよ……」
「どうしたの、二人揃って疲れた顔して」
不思議なくらいに疲れ果てている理由が気になる。そんな辺な事も無かったはずなんだけど。
「玲、アンタはアレ見てなんも思わないの?」
「いや別に、仲が良いな、ってくらい」
「いやそれがおかしい、普通の兄妹はあんなに仲良くないから」
「……? いやいや、時々居るでしょ、あれくらいなら。私知り合いに二桁思い浮かぶよ? 恋人同士ならもっと甘い感じになるし……。ちょい待ち、深雪に達也、なぜアンタ達まで引いている?
「……交友関係、大丈夫?」
「つまりエリカは頭が飛んで……げふぅ」
思わず言ったら殴られた、まあ当然だな。きっと私の交友関係も問題は無いハズ、みんなまともな頭をしているし。
閑話休題。
「で。キャストジャミングって言ってたよね?」
「ああ、種を明かせばそうなる」
エリカによって強引に軌道修正が図られる。大事。キャストジャミングは、魔法式のエイドスへの作用を、大量のノイズで押し潰す、対抗魔法の類。使えるなら魔法に対して最も有効な手段になる。
「あれ、でもアンティなんとかとかいう特殊な鉱石が必要なんじゃなかったっけ?」
「アンティナイトよ、エリカちゃん。達也さん、アンティナイトを持ってるんですか、すごく高価な物だったと思うんですけど」
「いや、持ってないよ。そもそもアンティナイトは軍事物資だからね、値段以前に、一民間人が手に入れられるものじゃない」
すっごく一民間人の所に疑義を呈したいけども。どっちだろうな。
「特定魔法のジャミング、かな。達也、どっちの原理を使ったの?」
「……それで合ってるが、どっち、とは?」
「んー、とさ。電波で例えるとするじゃん。まず普通のキャストジャミングは、全ての帯域にノイズを当てて聞こえなくする手段だよね」
頷く一同。まあ、この辺はある種の常識だからね。
「でも、一つの魔法を使う時に、全ての帯域を使用する訳じゃない。帯域にAからZまでの文字を振ったとして、αという魔法を使う時に帯域Aを使用するとすると、帯域Aさえジャミング出来れば、それでαって魔法は使えなくなるよね。これが思い付くパターンA」
「で、もう一つの方はもうちょい面倒でさ。一箇所の帯域を全部塗り潰すんじゃなくて、全体を薄くジャミングするんだよね。こっちの方だと、魔法が使い難くなるだけだけど、そこに精神魔法とかを使って思い込みを強調してあげると、発動に手間取ってるだけの状況を魔法を打ち消されたと思って、ホントに魔法が使えなくなっちゃう、これがパターンB」
「その色分けだとパターンAになるが、どこで気付いたんだ?」
「気付いたの自体は半分偶然で、4年前。達也が使えるだろうな、って思ったのは風紀委員の備品から非接触式スイッチの付いたCADを二つ持っていった時だよ」
「……ん? それだと、達也は二つの魔法を同時に発動したのか?」
「ああ。片側で妨害したい起動式、もう片方でそれと逆向きの起動式を展開、その両方を魔法式に変換しないで複写増幅して、サイオン信号波の無系統魔法として放つと、相手が送ろうとしているエイドスが完璧に塗り潰される、というわけだ」
深雪を除く皆様が完璧に驚いておられる。どの辺がそんなに驚きなんだろうか?
「どっちに驚けば良いんだろーな」
「それを出来ちゃうことと、それを思い付くのが同級生に二人も居ることとね」
「それに関してはどっちでも構わないが、この件に関してはオフレコで頼む」
達也が、一つ付け加えてお願いする。とても軍人らしい発想に思えるけど、実際のところ、民間レベルじゃほとんど出来る人居ないだろうし、気にしなくても良いと思うけどなぁ。
「お兄様は考え過ぎだと思いますけどね? そもそも、相手が展開中の魔法式を読み取ることも、CADの干渉波を投射することも、誰にでも出来る物ではありませんし。ですが、それでこそお兄様と言うべきでしょうか?」
「いやほんと、気にし過ぎだとは思うよ? 完全メタは無茶ぶりだし、出来る人はもう出来るだろうからさ」
「それは貴女の体感?」
「私はー、うん。起動式を読み取るんじゃなくて、相手が使いそうな魔法を予想して、先にジャミング撒いておく感じかな。どっちも難易度高いでしょ」
「それはそれでアレじゃない? 無茶」
「読み取って差し込み発動とどっちが?」
冷静に考えて、当たれば良いや程度に先回りして発動するのと、相手の発動する魔法を先読みして、該当の魔法を二つ同時に差し込みで発動するのとだと、前者の方がマシな気がするけどなぁ。
この話の根本的コンセプトが、国やら十師族やらに縛られない達也クラスの人間の話なので、まあこうなります。
差し込み発動と先読み発動は趣味次第、出来る人は気付いてるというか、技術そのものは40年程前からある設定になります