魔法少女サクリファイス【完結】   作:難民180301

2 / 9
日記2

○月✕日

 

 今の寝床は私含め二十七人の大人数を収容できる大きさじゃないから、クロアに言って手近な場所にガキ共の寝床を作った。今日はそこを一つずつ回って基礎から教えるのでまる一日使った。疲れたけど、無知なガキにモノを教えていると頭がよくなった気分がして心地良い。

 

 それと良い出会いもあった。

 

 ガキ共はよっぽどこの底辺から抜け出したいらしく、分からないことはすぐ質問して貪欲に知識を吸収した。クロアほどとはいかないがかなり筋がいい。魔力がなくても魔法が使える理論にはみんな驚いていた。

 

 でも底辺の中には、どんなに頑張っても覚えの悪い最底辺の落ちこぼれがいるものだ。

 

 その落ちこぼれのメスガキは名をユノンという。ユノンは普通一度で分かることでも噛み砕いて三度は説明しないと分からないし、そのくせ無駄に遠慮がちなせいで質問もしない。一人だけ私の講義についていけず、寝床の隅でしくしく泣いていた。

 

 それでいいんだよ。底辺のくせにスラムのガキ共はみんな優秀過ぎる。自分よりも劣った存在を認識したときのあの快感! ユノンのような無能が私は大好きだ。

 

 だから私はユノンを寝床に引っ張り込み、付きっきりで教え込んでやった。ユノンは何を理解できてないのか理解できず、質問しようとしても「あうあう」と何度も涙目になっていた。その覚えの悪さときたらもう、最高。

 

 今は私が日記書いてる横で寝てる。気持ちよくなるのに忙しくて気にしなかったけど、年はクロアとサプーよりも一つか二つ下に見える。サラサラした銀髪は手慰みで撫でるのにちょうどいい。

 

 よし、この無能な幼女は私の新しい妹分だ。せいぜい私を引き立て、快感を与えてくれ。

 

 

 

○月✕日

 

 クロアが拗ねた。

 

 私は賢いから原因は分かってる。最近ガキ共に教えて回るのとその後寝るまでユノンに付きっきりだから、構ってもらえなくて寂しいわけだ。

 

 と、正面から言ってやったら久しぶりに引っかかれた。「姉さんのバーカ!」だって。

 

 顔真っ赤だぞさては図星か〜? と追い打ちすると、サプーに泣きついていた。サプーはクロアをあやしながら、咎めるように私を睨んだ。ユノンはおろおろしていた。

 

 結局クロアはサプーと寝て、ユノンもおそるおそる二人に話しかけにいき、私は今一人で日記と向き合っている。

 

 さてここまでの描写を通して私自身を客観視して判明したことは、私は人類史上最大級に全くこれっぽっちも悪くないことだ。私悪くない。

 

 悪くない。

 

 だけど引っかかれた傷が痛い。ので、明日クロアと話がしたい。

 

 微妙に理屈が通ってないのもきっと、引っかき傷が痛いせいだ。

 

 

 

○月✕日

 

 クロアの機嫌が直った。妹分のゴキゲンを取る程度、私には造作もないことだった。

 

 ガキ共には講義のお休みを告げ、寂しそうなユノンはサプーに任せて、一日中クロアに引っ付いていた。初めて会ったときケツをしばいたこと、かなり臭かったこと、妹分にしたこと。なだめすかして抱きしめながら思い出話をすると少しずつ笑顔になって、「一番の妹は私だもん!」と言いながら身体をすりつけてきた。

 

 ただ、引っかき傷のお返しに「お仕置きされなきゃ」とか言って尻を差し出してきたのはびびった。はしたないことはやめろ、と一発叩くとかわいらしい悲鳴を上げていた。私も変な趣味に目覚めそうだった。サプーとユノンの視線が痛かった。

 

 

 

○月✕日

 

 機嫌を直したクロアは、ガキ共に対し急にお姉ちゃんヅラをし始めた。

 

 私の出番が奪われるようでウザかったものの、元々ガキ共に教えていただけあって、中々分かりやすい講義だった。私のユノンへの特別授業にも顔を出し、そのおかげってわけじゃないだろうけど、ユノンが初めて指先に火を灯した。

 

 ユノンは大泣きして喜んでいた。ちょっと異常な喜びようだったから私達が戸惑っていると、ユノンは涙ながらに「魔力がないせいで家を勘当された」と語った。

 

 魔法の国は魔法を使えないもの、つまり魔力を持たない者にとても冷たい。そのことを改めて考えると、魔力がなくても魔法が使える私の地脈増幅説って、けっこう福音なんじゃね? さすがだぜ私。

 

 

 

○月✕日

 

 今日はいつも通り、無能なガキ共にモノを教えて気持ちのいい一日だった。

 

 ユノンの学習進捗はクロアの介入で向上した。どうもクロアと感性が合うらしい。しかし地脈との同調を説明するにあたり、「ふわふわした感覚に身を委ねて魂さえふわふわしてきたら同調できてる」としたのはいただけない。ふわふわしすぎだろう。これでユノンが一発理解できたのも釈然としない。

 

 釈然としないといえば、ガキ共が受講料と称して食料を貢ぐようになったのもそうだ。私は無能に教えることで気持ちよくなりたいだけであって、食べ物がほしいわけじゃない。少食だし。

 

 断ってもガキ共が譲らないから、持ち帰って妹分たちにあげた。

 

 

 

○月✕日

 

 最近、朝起きるとクロアとユノンが私に引っ付いている。冷え込みの厳しい季節だからありがたい。二人の肌と体温は暖かで柔らかくなめらかだ。皮膚を剥いで毛布になめしてやりたいぜ。

 

 と言ってみたら後ずさりして震えだした。ただの冗談なのにかわいい妹分たちだ。

 

 どうせならサプーも引っ付いてくれたらもっといいけど、奥ゆかしいあいつは一歩引いた位置で見守っていることが多い。「私には過ぎた幸せですわ」だと。メスガキが生意気にも遠慮しやがって。

 

 

 

○月✕日

 

 教えるガキの人数が激増した。二十七人から百八十五人へ。バカかよ。

 

 

 

○月✕日

 

 今日は相当に働いた。底辺相手に教師面して気持ちよくなる暇なんかない、まる一日土木作業だった。

 

 ガキが増えたのは、貧民同士のつながりが原因だった。その日の食料にさえ困るスラムでは、貧民たちがそれぞれにコネを持って支え合うのが常道。最初の二十七人が少しずつ魔法を使えるようになると、コネのある貧民たちはその方法を知りたがった。魔力を持たずとも魔法が使えるウワサ、すなわち私が教えているとの情報が瞬時に拡散し、ほぼスラム全体のガキ共が集まってきたわけだ。

 

 もちろん私は受けて立った。数が多すぎるからって突っぱねるのは負けた気がする。最底辺の肥溜めで魔法少女が負けるわけないんだよ。

 

 まずは全員に教えを授けるための場所を作った。ガキ共を総動員してスラム中から廃材をかき集め、火と水の魔法で溶接したり土の魔法で接着したりなんだり。

 

 そうして先程竣工したばかりのそこは、ボロボロの大講堂だ。内側はまだ空っぽだけど、明日中には教壇と階段状の座席を作って一度に百人は入れるようにする。講義内容は初級、中級、上級、応用に分けて一コマ九十分。初級と中級の講義はクロアとサプーにも担当してもらう。日時を決めてそれぞれの講義をやれば、希望者全員に教えを授けることができるだろう。

 

 ここまで書いて気づいた。

 

 なんで私がこんな丸きり教師のマネごとしなきゃいけないんだよ。全員学校行けや。

 

 行っても魔力がないから入学さえできない? 知らんわ。

 

 まあここまで大きな建物を作ったからにはやるけども。めんどくさいな。私はただ底辺相手にイキりたいだけだったのに。

 

 とはいえ、クロアとサプー、ユノンから向けられる尊敬の眼差しが気持ちいい。サプーに至っては畏敬を感じるほどだ。頑張る理由としてはこれで十分か。

 

 よし、日記を書いた勢いでカリキュラムを組もう。今日は徹夜だぜ。

 

 

 

○月✕日

 

 講堂完成。さっそく新顔のガキ共相手に講義開始。

 

 無教養で無節操なガキだけあってうるさいことこの上なかったが、教壇で私が変身してみせるとすぐ静かになった。魔法少女の肩書はこいつらにさえ通用するらしい。やはり私はすごい。

 

 誤算だったのは、初級の講義時間よりもその後の質疑応答の時間が長くなったことだ。ほぼ全員のガキが挙手して、ときに鋭くときに的はずれな質問を飛ばしてきた。質疑の内容はクロアが記録してくれてたから、よくある疑問を次の講義内容に組み込んでいこう。クロアにはごほうびを用意しないと。

 

 

 

○月✕日

 

 一日中講義。ほぼ同上の内容。講義の改善案別紙にメモ。

 

 クロアが希望するごほうびの内容に困惑。頭を撫でる、抱きしめる、キスする、尻を叩く。すべて実行したが、次第に恍惚としてヨダレを垂らし始めたので中止。

 

 妹の趣味嗜好に懸念。

 

 

 

○月✕日

 

 講義。同上。

 

 忙しくて日記に割ける時間が減ってきたけど、気がかりを一つメモ。

 

 最近サプーの様子がおかしい。「体調が優れない」などと言って講師役を辞退することが多い。さらに、私だけでなくクロア、ユノンと接することも減った。朝起きるとどこかへ姿を消していることもある。

 

 私達と距離を置こうとしている?

 

 怪しいので、明日拷問予定。

 

 

 

○月✕日

 

 講義、同上。

 

 クロア、ユノンに命じてサプーを捕らえ、三人でくすぐり拷問を実施した。質問内容は「何か不穏なことを抱え込んでいないか」。

 

 結果から書くと、サプーは口を割らなかった。何を聞いても必死で歯を食いしばって押さえつけられた身体をよじっていた。一時間足らずで涙を流し始め、私はなんなら漏らすまで続けるつもりだったけど、クロアとユノンが「かわいそうだから」と音を上げて拷問を切り上げた。サプーははだけた衣服を直しながら、涙目のふくれっ面で私をにらんだ。

 

 反抗的な目つきにとても興奮したので、抱きしめて頭を撫でてやった。サプーはしばらく抵抗したものの、次第に大人しくなってしくしく泣き出した。

 

 何か抱えているのは明白なくせに、耳元で「吐け」と囁いても首を横に振るだけ。これにはさすがの私も白旗だった。もう勝手にしろ、私は忙しいんだ。

 

 さあ講義、講義。

 

 

 

○月✕日

 

 講義、同上。

 

 サプーの口数が少ない。

 

 

 

○月✕日

 

 朝。

 

 最初期の二十七人、私と妹分たちを抜いて二十三人が学校に出向いた。

 

 魔法の国の中心、グランマギクス中央学校。十分な魔法の素質ないし腕前を試験にて披露すれば、即日入学の上に身分まで保障される、魔法至上主義の象徴的な施設。

 

 底辺のガキ共が将来どうなろうと私は興味がない。

 

 だけど私の顔に泥を塗るような結果になれば容赦しない。きちんと結果を出すか本人が諦めるまで、徹底的に教え直してやる。

 

 夜。

 

 全員合格。

 

 最初等から学校で学べることになった。身分が与えられ、これからは寮で暮らすことになる。きちんと卒業して魔性(ましょう)位階を獲得すれば、充実した魔法生活を送れるだろう。

 

 私は泣いた。私の愛する最底辺の無能なガキ共は、いっぱしの成功者としての道を歩み初めてしまったのだ。もはやあいつらは私が見下せる連中じゃない。

 

 二度と面見せるな成功者ども、せいぜい落ちぶれないよう気張ることだ。そんな捨て台詞に傷ついたのか、あの憎い成功者共も泣きながら私に抱きついてきた。クロア、サプー、ユノンも泣いていた。なぜか涙が止まらなかった。

 

 見下していた最底辺のガキ共が、まっとうな人生を歩み出す。そのことを考えると無性に虚しい。

 

 私は何をやっているんだろう。

 

 

 

○月✕日

 

 講義に熱が入った。虚しさをごまかすために。

 

 生徒たちの中にいつの間にか新顔が混ざっていて、卒業した二十三人以上に数が増えていた。ガキだけでなく、いい年したおっさんやおばさん、乞食の類も混じっていた。

 

 別に私より劣っている底辺であればガキである必要はないけど、講義を一つでも飛ばすと理解度にムラが出る。クロアに言って、全員の名前と出席を記録することにした。

 

 生徒総数二百四十四人。

 

 うっかり生徒って単語を使ってしまった。

 

 魔法の国の学校といえばグランマギクス一つだけだから、あえて言うなら私塾だろうか。

 

 なんであれ、底辺と向き合うのは気持ちがいい。相対的に私がすごいやつだって思えるもの。

 

 書いてて虚しくなってきた。

 

 

 

○月✕日

 

 講義、同上。

 

 サプーへの第二次拷問が必要かもしれない。あのメスガキ、顔色が悪い。匂いがしないから月のモノでもないだろうに、何を隠しているのか。

 

 ユノンも心配になってきた。ユノンは覚えが悪いなりに、基礎の魔法をもう習得している。その気になれば学校にも入れるだろうに、素振りさえ見せない。

 

 指摘してやると、ユノンは真っ青になって頭をぶんぶん横へ振った。何かに怯えているみたい。ユノンはユノンで何を抱えているのやら。

 

 ちなみにもう上級魔法を使いこなせるクロアは、学校にまったく興味がないようだった。

 

「姉さんとずっと一緒にいる」

 

 と、言ってくれたのは嬉しい。

 

 でも蕩けた瞳でもじもじ膝をすり合わせながら言うのは、ちょっと恐ろしい。妹が姉に向ける目とは思えない。怖い。

 

 

 

○月✕日

 

 朝起きるとクロアが私の右半身に抱きついて、発情していた。全裸だった。

 

 左半身ではユノンがきょとんと不思議そうに、クロアの痴態を見つめていた。

 

 教育に悪い。お仕置きしたら、クロアの嬌声が大きく響いた。

 

 何しても悦ぶとか無敵かよ。

 

 

 

○月✕日

 

 まったくサプーのやつめ、面白い秘密を抱え込んでたものだ。

 

 なぜ話さなかったのかと聞くと、妹じゃないからだと。

 

 今日記を読み返してみたけど、確かに弟子扱いはしてもサプーを妹扱いはしたことがなかった。それで寂しくなって距離を取り、秘密も言えずにいたらしい。

 

 これは私が悪い。そばにいるのが当たり前すぎて言葉にしなかった私が全面的に悪い。本人にはもう言ったけど、改めてここに明記しよう。

 

 サプーは私の妹分だ。あいつがどんな身の上であっても。

 

 そして妹分は姉より下なので私のほうがえらい。私は常に誰かが下に見えてないと死んでしまう病なんだから、勝手に下から抜け出されるのは困る。

 

 それを阻止するために二十年の寿命を捧げたと思えば安いものだ。

 

 ゴミ未満の価値しか無かった私の命にも、ようやく値打ちがついてきたらしい。とはいえクロアたちが心配しないように、代償の固有魔法は秘密にしておこう。

 

 日記を書いている後ろで、クロア、サプー、ユノンが抱き合って熟睡している。

 

 安らかな寝顔を見るにつけ、二十年は安かったと確信できる。

 

 

ーーー

代償ストックメモ

 寿命五十三年

 腕二本

 足二本

 五感

 主要臓器

代償レートメモ

 二十年=致命傷の即時完治

ーーー

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。