魔法少女サクリファイス【完結】   作:難民180301

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日記3

△月✕日

 私塾経営が忙しい。

 

 一番の原因は難民まで生徒になったことだ。魔法の国出身者と違って、難民たちの中には勉強に必要な字が読めないやつもいる。魔法の国のガキどもがそのことをあげつらい、難民と諍いになる問題も出てきた。そのたび私かクロア、サプーが成敗に行くから無駄に手間がかかる。

 

 スラム故に食料が不足して、みんな腹を空かせているのもまずい。空腹じゃ学習の効率が落ちる。

 

 というわけで、この前悪漢を殴ったあたりの外れで穀物と芋類の栽培を始めることにした。幸い魔法の国は地脈エネルギーに恵まれた肥沃な土壌だから、多少雑なやり方でも育つだろう。種子は中央から爪弾きにされた闇商人をせっついて入手。乞食から元王族までスラムの人種は幅広い。

 

 難民とケンカする余力があるやつは働け、と命じた。反発するガキもいたが、目の前で土魔法を使って耕す見本を見せてやると、嬉々として参加しだした。とにかく魔法が使えればなんでもいいんだろう。チョロい奴らめ。

 

 今日は初級魔法以上を修めたガキを集め、土魔法で一斉に開墾した。

 

 ちょっと広くなりすぎたけど、せっかくだから魔法の国の市場経済を破壊するつもりでやるぜ。

 

 

 

△月✕日

 やらかした。

 

 いくら私が地脈エネルギーを集められるとはいえ、一日じゃ食料は実らない。働いて腹を空かせたガキ共から総スカンを食らった。

 

 例の闇商人も、一度に大量の食料を仕入れることはできないという。

 

 ガキ共がうるさいので、昔私に貢がれた食料のうち日持ちするものを配給した。それでも不満が出るのはまあ、無敵の魔法少女様といえどどうしようもない。

 

 ちくしょー。

 

 

 

△月✕日

 講義は妹たちに任せ、一日中エネルギーを増幅させた。

 

 やっと芽が出た。

 

 結実は遠い。

 

 私に都合の良くない自然の摂理なんざ滅べばいいのに。

 

 

 

△月✕日

 やったぜ。自然はともかく世界は私に都合がいい。失敗や敗北とは無縁の勝ち組魔法少女とは私のことだぜ。

 

 魔王がやってきた。

 

 初めて見た印象は冴えない男だった。魔性位階持ちでもないお飾りの王様が冴えてるはずもない。こいつのご先祖が昔山の向こうに魔獣を追いやった功績がなければ、誰も存在すら知らないだろう。実際私も証拠を見るまでは詐欺師かと思った。

 

 だけど飾りとはいえ王様は王様だ。魔法の国で一応、遺憾の極みではあるが、たぶん一番えらい。

 

 そんなえらい魔王様が、私に頭を下げた。つまり私はこの国で魔王以上にえらい魔法少女なのだ。思い出すとニヤニヤ笑いが抑えられない。

 

 経緯としてはこうだ。

 

 アトリエにやってきた魔王は、私が教えている魔力解釈論における地脈増幅説を国中に普及してほしいと言った。なんでも魔王を始めとする上流階級の子息の中には、生まれつき魔力がないために存在を秘匿され、無情な扱いを受ける者たちがいるらしい。魔王はそういったかわいそうな子供たちを見ていられない。心を痛めていた折、私の教え子が例の説を学校で語っているのを知って、ピンと来た。

 

 魔力を持たない者を冷遇する風潮を、私の教えが打破できる。お飾りではない魔法少女の肩書と実力のある私であれば、魔法の国の悪弊を変えられる、と。

 

 あまりにも胡散臭い理屈だ。

 

 当然の流れとして私は土下座を要求した。

 

 魔王は何の間違いかこの国で一番えらい。そんなえらいやつが、社会的弱者の扱いに心を痛めることがあるか? 絶対ない。隣国エボルレアから戦争と革命がなくなるのと同じくらい、あり得ない。

 

 どうせいいやつのフリして腹黒い企みがあるんだろ。土下座しろと言われたらすぐ態度変えるんだろ。

 

 と、思ってたら意外や意外、あっさり額を地面につけやがった。

 

 念には念を入れて、頭を踏んだ。丁寧語でお願いするようにも求めた。やつはすべて言う通りにした。

 

 見かねたクロアに止められなかったらもっと続けていただろうが、あいつはきっと何を言ってもその通りにしただろう。

 

 えらいヤツのくせに、本当にまっすぐで純真で誠実な野郎だった。

 

 気に入らない。私はこの手の根っからの善人がきらいだ。私のクズっぷりを鏡で見せられてる気分になる。

 

 なのでクズはクズらしく、土下座に加えて更にいろいろな要求を突きつけてやった。

 

 スラム区画の改築、造成、振興、投資。徹底的に金と人材を回して中央と同じ生活水準にすること。その代わり、私は無魔力冷遇の風潮打破を確約する。

 

 あの野郎、あっさり納得してそれどころか礼まで言いやがった。頭を下げたことなんざまるで気にしてない。あいつがお飾りの王で良かった、もし外交の矢面にでも立ってればこの国は終わりだ。魔法の抑止力バンザイ。

 

 スラム街の変革は遅くとも今月中に始まる。うまくいけば食料問題も解決できるだろう。

 

 万事順調、都合よく回ってまさにやったぜの極み。えらいやつに頭を下げられて気分もよかった。

 

 が、一つだけ懸念がある。

 

 魔王が機嫌良さそうに帰っていくとき、会談をのぞいていたユノンと鉢合わせした。ユノンはすぐに私の後ろに駆け込んで隠れた。魔王は「君は!」とか言ってたいそう驚いていた。さっさと帰れ、と私はヤツの背を押しやった。

 

 何か面倒な気配がした。まさかサプーに続いてユノンまで王族じゃあるまいな。生き別れになった魔王の隠し子とか。

 

 後で問いただすと、ユノンはぷるぷる首を振っていた。

 

 ユノンはウソをつけない子だが、できれば拷問をしたい。しかしクロアやサプーと違って、ユノンにやるのはかわいそうな気がする。

 

 頼むから面倒なことになりませんように。

 

 代償なんて使いたくないぞ。

 

 

 

△月✕日

 魔王の野郎、今日は音沙汰なしだった。

 

 騙された? しかしプライドを踏みにじられてまでウソをつく理由が分からん。

 

 ガキ共は腹が減ったとうるさい。土魔法耕作には早くも飽きてきたようだ。くそったれ今日も私は断食だ。

 

 はからずも食事を断つと感覚が研ぎ澄まされ地脈との同調が深化すると判明した。魔法少女としてのレベルが上がったぜ。

 

 あの魔王野郎覚えてろ。このままだんまりするつもりなら、地脈を暴走させて居城を消し飛ばしてやる。

△月✕日

 ああ、魔王様ありがとう。魔王様は偉大だ。私には及ばずとも魔王はえらくてすごいやつだ。

 

 スラム街大改革は会談から二日後に始まった。

 

 魔王がまずよこしたのは、土、水、火の魔法を建築用に特化させた、国お抱えの職人集団。それから国内外に蜘蛛の巣みたいな販路と流通経路を巡らせる商工会のおっさんども。ここ数日はこいつらと顔を突き合わせて変革計画の打ち合わせに追われていた。

 

 商工会は当初嫌そうな顔を隠そうともせず魔王に言われたから来たのだと言わんばかりだったが、開墾途中の農地を見ると目の色を変えた。いわく、広大かつ極めて肥沃。この土地の運用次第では莫大な利益が見込める云々。夜な夜な地脈の流れをここに集約しといたかいがあったぜ。

 

 先行投資として種子を譲り受け、生徒の人数で管理できる分だけ撒いた。つまりは国境地帯の平原見渡す限りに。作業に従事した生徒たちには商会から賃金を出す。

 

 その賃金の使いどころとなる市場および娯楽施設は建設保留。当面は住宅街が優先される。

 

 私塾の大講堂と私たちの住まいは職人曰く「手の加えようがない」ので、そのまま運用する。

 

 衣食住の整備と雇用と経済システム。計画通りにいけば中央ほどとはいかずとも、子どもたちが学びながらそこそこの生活ができるようになるだろう。

 

 みんな魔王様のおかげだ。

 

 優しい聖人の魔王様がいるおかげでこの国は安泰だぜ。魔王様ありがとー。

 

 

 

△月✕日

 クロアたちに日記を読まれた。昨日の。

 

 白い目で見られた。手のひらくるくる? こういうのは魔法少女用語で硬軟自在というのだ。我ながら賢いぜ。

 

 それはさておき、計画進捗は順調。

 

 ガキ共の中には、職人や商会のおっさんどもに話しかけて仲良くなってるやつもいる。その年から人脈作りとはしたたかなやつらめ。

 

 

 

△月✕日

 計画は大きな変更を強いられた。ただし悪い意味じゃない。

 

 温泉が湧いたのだ。職人たちが基礎を打ち込んでいるとき、湧き出したらしい。

 

 地脈をこっちに引っ張りすぎたかもしれない。大元の流れがあまりにも大きすぎて加減を間違えたかも。反省。

 

 生徒たちの希望で娯楽施設、大浴場を建設することに。住宅用地運用に大きな変更が必要になり、職人たちは渋面だった。

 

 浴場ができたら姉妹で入りにいこう。

 

 

 

△月✕日

 クロアとサプーが、ユノンのことを心配していた。

 

 もちろん私もあいつの異変には気づいてる。魔王がやってきて以来、何かに怯えるように周囲を見回したり、夜魘されることが多くなった。心配だ。

 

 サプーは「拷問ですわ」とはしゃいでいたが、ダメだ。あんな小さくてかわいい子に酷いことはできない。クロアも同じ意見だった。

 

 差別ですわですわとうるせーので、特に聞くことはないがサプーを拷問した。

 

 淑女然としたサプーがくすぐられてもがき苦しむ様は、癒やしになる。サプーを羽交い締めにしてたクロアも楽しそうだった。

 

 やられた後は不満げに頬を膨らませるサプーだが、抱きしめて優しく頭を撫でるとすぐに機嫌を直す。ここまでが様式美。

 

 姉妹のスキンシップは素晴らしい。

 

 ユノンには要注意。

 

 

 

△月✕日

 あの魔王野郎が面倒な連中を送りやがってしばくぞ。

 

 ケツの穴を地脈に直結させて五体四散させてやろうかこのヤロー。

 

 

 

△月✕日

 昨日の日記は魔王様への怨嗟だけになってしまった。

 

 魔法少女とはすなわち女の子。誰かへの怨嗟を吐き出すなんて、女の子としてはしたないことだ。

 

 昨日、上流階級のご子息七人が私塾へやってきた。魔力がないために、存在を抹消されている権力者の血縁者たちだ。

 

 年は下は七歳から上は十五歳までの男女。こいつらが魔法を使えるように教育することで、地脈増幅説普及の足がかりにする、というのは会談当日に決めていたことだ。

 

 ただ、このガキ共は面倒くさかった。

 

 高飛車とか偉そうとかではなく、むしろ逆だ。魔法が使えないのを周囲に相当ひどく詰られてきたのか、死人のように暗い。私塾に来たのも厄介払いされたと思いこんで、絶望しているやつもいた。

 

 これだけならスラムのガキにも同類がいたけど、ここからが真のめんどくさポイントだ。

 

 朝から日がくれるまで地脈との同調を教え込んでいると、一人が基本の灯火魔法を使えるようになった。そいつはしばらく呆然としてから、我を忘れたように地脈からエネルギーを吸い出し始めた。周囲の奴らも同じようにした。

 

 全員にゲンコツを落とした。

 

 この最強無敵魔法少女サクリファイス様の教えを無視して、地脈に没頭するとはなにごとか。私に教えられたこと以外はやるな。と、厳命しても何人か無視しようとした。

 

 中でもツインテールのクソガキは耳のキンキンする声で喚いてうるさかった。やつが言うには、

 

「うるさい止めるな! あたしにも魔法が使えるのよ。もう無能なんて呼ばせない、恥さらしなんて言わせない! スラムのゴミにできてることができない訳ないのよっ! さっさと使えるようになってこんなゴミ溜め抜け出してやるんだから!」

 

 へし折れたプライドが、降って湧いた幸運によって蘇り、クソ生意気なおぼっちゃんお嬢様の本性が出たってわけだ。

 

 こんこんと理屈を言って聞かせたが、果たして通じたかどうか。

 

 念のため、あいつらが勝手に地脈を使わないようエネルギーを散らしておいた。これだけ散らせばあいつらの練度じゃどうにもならないだろう。

 

 先は長そうだ。

 

 

 

△月✕日

 プライドの高いガキを見くびっていた。

 

 まさか散らしたエネルギーでお構いなしに暴走しやがるとは。

 

 が、一度痛い目にあって懲りたのだろう。

 

 ツインテはじめ、連中は私に対してとても従順かつ素直になった。

 

 結果よければすべてよし。

 

 

 

△月✕日

 作物が実った。品種は芋。

 

 出来は良い。さっと茹でて皮をむくと、ほくほくした白い果肉が湯気を立ててた。かじるとあっさりほころんで、ほのかな甘みが口いっぱいに広がった。腹持ちもいい。気のせいかもしれないが、地脈との同調率も上がった気がする。

 

 ガキ共は貪り食っていた。

 

 商会のおっさんたちは、頭を抱えていた。

 

 いわく、この品質の作物を大量に流通させれば市場が壊れる。もっと質を落とせないかと相談された。

 

 良いものをたくさん作って流せばいいってわけじゃない。経済ってめんどくさい。

 

 

 

△月✕日

 おっさんどもと相談。

 

 地脈から引っ張るエネルギーを微調整。

 

 講義はクロアとサプーに丸投げ。いつの間にか上級魔法の講義までこなすようになってた。

 

 特にクロアの上達ぶりは好ましくない。すでに賢者クラスはある。もし魔法少女になったら私が威張れない。どうか壁にぶつかりますように。

 

 ユノンは中級まで使えるように。以前の危うい様子は見られなくなった、と報告。

 

 万事上々。

 

 

 

△月✕日

 私塾から退学者が出た。

 

 職人や商会のやつらと仲良くしていたガキ共で、それぞれ弟子入りし見習いや雑用として働くことになったらしい。

 

 なんとなく上級と応用を修めて学校に行くのが卒業だと思ってたけど、考えてみればこれも退学ではなく、卒業の一つかもしれない。

 

 クソが、こいつらといいクロアといい、いつまでも私の下で這い回っていればいいものを立派になりやがって。二度と戻ってくるな。

 

 

 

△月✕日

 住宅地の区画が一つ竣工。予定通りの人数が居住開始。

 

 最近、ツインテールのガキがつきまとってきてうっとうしい。クロアがよく牙と爪をむき出しにして追い払っている。獣かよ。

 

 朝起きると私の腕によく爪を食い込ませていて痛い。切っても切ってもすぐ生えてくる。

 

 引っぺがそうかな、とつぶやいたらクロアは震えて後ずさりした。怯えた顔で満足したので見逃す。サプーとユノンには、「いきなり怖いこと言うのやめて」と呆れられた。別に怖くはないだろう。気さくな冗談だ。

 

 ユノンはいつの間にか、すっかり平生のぽやっとした雰囲気に戻った。もう心配ないだろう。

 

 スラム街の改革は順調。魔獣との防衛戦も大した情報がないから、安定しているのだろう。

 

 まさしく天下泰平。

 

 世の中平和で何よりだ。

△月✕日

 

 私は親子のシステムが嫌いだ。

 

 親は子を生むかどうか選べるが、子は生まれるかどうかを選べない。親がいないと生きられない以上、子は親の支配を受けるしかない。不公平だ。大嫌いだ。

 

 だからその分、姉妹の関係が好きだ。うっかり生まれちゃった苦労を分かちあえる仲間だから。

 

 だけどサプーといい今回のユノンといい、私の大切な妹分たちは出生で私を驚かせる癖があるようだ。クロア、お前だけは信じてるぞ。三度目はやめてよもう。

 

 とりあえず今日の感想はただひとつ。

 

 魔王様ありがとー。

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