─ 翌日 ─
朝七時に起こされ、近くにあるそれなりに大きな病院へ家族で向かった。車の中、何故か皆顔が強ばっている。
何何、何なのよ。え、誰か危篤ですか??もしかして私死にますか??
「ねぇねぇ、びょーいん、なにしにいくの?」
私は隣に座っている兄の袖をクイクイと引っ張った。海空はチャイルドシートで熟睡中。今日も可愛い。
「何って、お前の個性を調べに行くんだよ」
個性って病院で調べれるんですか??
私の昨日の努力は??
「そうよ。もしかしたら、分かりにくい個性なのかもしれないし。暴走でもしたら危ないわ」
「そうそう、調べて損は無いってことだ」
父さんと母さんにも私の質問が聞こえていたらしい。
なるほど、火や水を出す分かりやすい個性ではなく、誰かの心に干渉するだとか、目に見えにくい個性を持っている可能性もあるって思ってるわけか。
ねぇ大賢者、病院で調べられたら、大賢者がいることも分かるの?
《解。詳しく個性因子を調査、解析された場合、可能性はあります。さらに、各スキルも発見された場合、これまでにない複数個性持ちと誤認される可能性もあります》
うわぁ、面倒くさそう。便利なのはいいけど、なんかニュースとかでやりそうじゃん。それは本当に勘弁。
《告。個体名:龍魔智慧の総合値は、この世界において上位に入ります。ヒーローへの勧誘が増加すると推測します》
総合値・・・戦闘値的な数値かな?そうだな、きっと。
えぇ・・・いやね、ヒーローカッコイイなぁとは思いますけども。押し付けがましいのはヤダわ。
ほら、よくあるやつ。国のお偉い方がやってきて、金払うからそのガキよこせって言うやつ。
私、家族大好きだから、離れたくないのよね。
いや、自意識過剰と思うかもだけど、計算能力高い大賢者が言ってるんだから(国に拉致されるとは言ってない)念には念を的な。
大賢者、個性の複数持ちは何個までならセーフ?
《解。個性複数持ち個体は特例で、例は多くありません。偽装するならば、個性単体持ちを推奨します》
うわぁ、聞けば聞くほど私ってチート。思わず顔をしかめそうになった。
まあ、使えなくなる訳ではないし、どれか一つに纏めるか絞るかしましょうか。
大賢者、今日の個性検査で単体持ちってなるようにして。不自然にならないように。
《了。個性検査での偽装を行う為、スキルの選別を行います》
あと怖いのは、お前の個性良いなよっしゃ国の奴隷決定なルート。これも同じく拉致されて家族とバイバイ。絶許。
大賢者、大賢者は隠しておいた方がいい?ハイスペックすぎて人体実験とか、されない??
《解。“ハイスペック”という個性は、既に確認されています。しかし、ユニークスキル【大賢者】の能力は、ハイスペックを大幅に超えるため、秘匿することを推奨します。また、国の目に止まるという点では、高性能なスキルも同様です》
つまり、大賢者は内緒決定。その他のチートスキルも国家公認拉致イベ発生するから、そっちも内緒。
高性能なスキルって言ったら、大賢者、探求者、五元素操作、自己再生。耐性入れたらもっとじゃん。痛覚無効とか熱変動耐性とか。
そうなったら分身体くらい?母さんの個性だったんだし、問題ないと思うんだけど。
《解。個性は遺伝するので問題ありません。個性検査の結果を分身体に偽装しますか?
YES/NO》
もちろんYES!
──そう答えようとした時だ。
「は?おいおいおいっ」
「ちょ、こっち来てない!?」
車が突然急ブレーキ。ものすごい音と共に体が前に倒れた。父さんと母さんの焦ったような声が聞こえる。
前のシートに手をついて身を乗り出し、二人の視線の先を見る。お兄ちゃんは海空のチャイルドシートを抑えて、私と同じように前を見る。
「なに、あれ」
黒い人型が、こっちへ走ってきている。その後ろには、黒一色の街と道に転がる黒い何か。それらからは黒い煙が上がっている。
それらを見た──正確にはさらによく見ようとした、次の瞬間。
眉をしかめて、目を凝らして見ていたものが、より鮮明に。
音も色も温度も、何もかもが全て。
全てはっきり分かる、感じる。
──見える──
黒い人型の目は血走っていて、真っ直ぐこっちを見ていた。黒色のそれは炎のように揺らめいている。きっと、火に関する個性なんだ。それで全身を覆っている。
──聞こえる──
その人型の後ろ。その黒炎の海の中から、老若男女様々な声が聞こえる。悲痛に満ちた、助けを求める声。助けて、救けて、たすけて、タスケテ。
──鼻をかすめる──
焦げ臭い。何が焼けているんだろう。ビル、家、並木──人、ひと、ヒト、人。鼻にこびりついて離れない。
──感じる──
あんなにも遠いはずの熱が、まるでその中にいるように生々しくジリジリと感じる。熱くない、痛くもない。ただ、燃えているんだと分かる。熱いんだって分かる。
一体目の前で何が起きている?
「離子!!!」
「分かってる!この子達を避難させたらすぐに行くわ!!」
父さんはすぐに車から降りて、脇目も振らず炎の方へ走っていった。
母さんは私達を車から降ろして、分身を使った。三人作って、本体は私たち三人の頭を優しく撫でる。
「いい?安全な場所に連れてくから、ジッとしてるのよ」
「父さんと母さんは?」
お兄ちゃんが不安そうにそう言った。私も全く同じ気持ちで、母さんを見る。
「お母さんは行かなきゃならない。助けに行かなきゃ」
いやだ。行ってほしくない。そばにいて。怖いの。
そう思った。でも、口から出せなくて、何でか出なくて。ただ、はくはくと開いたり閉じたりするばかり。海空も何か感じ取ったのか、大きな声で泣き出した。
「ごめん、ごめんね。行かなきゃ。
「・・・・わ、かった」
「・・・うん、はやく、はやくもどってきて!」
「えぇ、もちろん」
また優しく微笑んで、
変わらずに分かる状況は、あまりにも悲惨で、無惨で、理不尽で。
その中へ走りゆく背中は、とても大きくて、強くて、誇らしい。
そうだ、
そうだ、
そうだった、
私の父さんと母さんは、
ヒーロー だった