宝石商ラドルマの幻想紀行   作:ほりぃー

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井戸を掘る少年の話

 井戸の枯れた村がありました。

 

 砂漠のはずれの村でのことです。

 

 ある日ことです。この村を支えていた井戸から水が出なくなりました。

 

 村の人々は嘆き、天に向かって祈りを捧げ、できる限りのことを神に訴えましたが何も起こりませんでした。

 

 その村に一人の少年がいました。

 

 彼は一人で鋤(スキ) を手に地面を掘ることを始めました。

 

 周りの大人たちが嘆き悲しむ中で一人もくもくと手がぼろぼろになっても穴を掘り続けます。

 

 水など出るわけがないと馬鹿にされても少年は掘り続けました。

 

 太陽の照り付けるなか、村にはわずかに残った水を取り合って喧嘩も起こりました。

 

 少年はもくもくと穴を掘り続けました。

 

 それでも水は出ません。

 

 その村に一人の商人が訪れました。

 

 商人は紅い髪の少女でした。手にはズタボロな袋をもっていて、ペルシャ柄のマフラーに色鮮やかなスカートを履いた見目麗しい少女です。

 

 彼女は村を一通り回ると、あの穴を掘る少年を見つけて話しかけました。

 

 ――何をしているんですか?

 

 少年は「水を探している」と短く答えました。すでに少年の掘った穴は大きく深いものでしたが、さすがに水脈には届きそうもありません。

 

 くすりと少女は言いました。

 

 ――なーんだ。水なら買えばいいんですよ。ほら少し先の街のオアシスからは水がでますから。

 

 少年は彼女の言葉には何も答えずに穴を掘り続けました。

 

 少女はその様子ににやりと笑いました。

 

 ――そんな風に穴を掘って水が出る保証でもあるんですか? そんなことよりもどうでしょう。私は宝石商です。よかったら、あなたに宝石をお貸ししましょう。それで水を買えばいいんですよ。無駄なことをする必要はありません。

 

 少女は手に持った袋を傾けました。

 

 ゆっくりと

 

 ぽろぽろと

 

 七色の宝石が落ちていきます。

 

 少年は振り返りました。彼は少女をじっと見て言いました。

 

「……枯れた井戸は子供のころから見てきた」

 

「みんなが嬉しそうに水を汲んでいるのを見てきた」

 

「きっとあれはここになくちゃいけないんだと思う」

 

「俺は……水が欲しいんじゃない。あの頃のうれしそうな顔を……みんなに返してあげたいんだ」

 

 それだけ言うと少年はまた穴を掘り始めました。

 

 日が沈んでも、夜になっても彼は掘り続けました。

 

 紅い髪の少女はその姿をじっと見続けました。

 

 彼女は星空の下で立ち上がりました、そして少年に声をかけます。

 

 

 振り向いた少年の手元に落ちるように、少女は空に何かを投げました。

 

 少年は疲れ切っていましたが、月夜の中落ちてくるそれに目を奪われました。

 

 蒼いサファイヤ。水のように深い蒼の宝石でした。ゆっくり星の空から落ちてくる錯覚をするほど綺麗で、彼はそれに目を奪われていました。

 

 少年はそれを両手でつかみます。紅い髪の少女は空を見上げたまま言いました。

 

 ――宝石に価値はないです。宝石を美しいと思える心が美しいんです。……その宝石は私の好きな色、それを売ったりしないで大切にしてくれるならきっと幸運があると思います。

 

 少年は少女にこんな良いものはもらえないといいます。少女は預けるだけですといいました。

 

 ――いつか私が取りに来るまでここに置いておいてください。

 

 にっこりと屈託なく微笑む少女。少年は彼女と約束をして宝石を懐に大切にしまい込みました。

 

 そして夜は更けていきます。少年が流石に疲れ果てて倒れこむように眠ってしまったころ。その穴の近くにはまるで竜のような黒い影がありました。

 

 その影は少年をやさしく包んで草むらに寝かせると。彼の掘った穴に腕をいれました。

 

 淡い光がゆっくりとあたりを包み、穴の底から水があふれてきます。

 

 竜はそれをみて満足げに空を仰ぐと、そのまま飛び去って行きました、

 

 

 

 その村は数百年豊かな水をたたえる井戸に支えられました。その井戸の近くには蒼い宝石を置いた祠があるそうです

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