宝石商ラドルマの幻想紀行   作:ほりぃー

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とある壁画の話

 燦燦と照り付ける太陽の光の中で、ウィルは腕で額をこすりました。

 

 くすんだ金髪に砂をまぶしたような彼ですが、その目はきらきらと子供のように光っていました。彼は腕をまくり上げたシャツによれよれのズボンをはいています。

 

 彼は遠い西から来たのです。考古学という新しい学問を彼は自らの故郷で学びました。

 

 この砂漠には大昔からいろんな人々が行きかうことはわかっています。遠い、遠い、もうみんなが忘れてしまったことです。

 

 ウィルはその忘れられてしまった過去を知りたくてたまりませんでした。若い彼はいろんな知り合いに借金をしてそれを調べに来たのです。

 

 彼はこの砂漠にあるとある遺跡を見つけました。地元の人間からすれば古ぼけた、砂の中にある残骸ですが彼には黄金を見つけたよりも明るくて熱い気持ちが胸に湧き上がるくらい尊いものでした。

 

 ウィルは自らの生活費を切り詰めて人を雇いました。遺跡を調査しようとしたのです。遺跡の周りを掘り起こしては小さなノートに鉛筆で書きこんでいきます。書くことが多すぎるのでしょう。彼のノートはどのページも小さな文字で埋まっていて、たまに拙い絵が描かれています。

 

 彼はオアシスの街にやってきては遺跡のことを聞きました。しかし、誰も覚えてはいないようです。それでもあきらめずに興味と情熱のまま彼は調査を続けました。

 

 ある日のことです。彼の調査する遺跡に赤い髪の少女がやってきました。

 

 頭にターバンを巻いて耳には金のイヤリング。青色のスカーフに緑の丈の長いスカート。それに手にはずたぼろな袋。彼女はㇻドルマといいました。旅の宝石商です。

 

 ラドルマはウィルに宝石を売ろうとしましたが、彼は宝石を手にとっては感嘆するばかりでひとつも買いませんでした。それもそのはずでウィルにはよけいなお金がありませんでした。

 

 仕方なくラドルマは聞きました。

 

「こんなぼろぼろの遺跡で何をしているんですか?」

 

 ウィルは答えます。彼はおそらく柱だった遺構に手をついていいました。

 

「私は考古学者の見習いのようなもので、この遺跡を調査しているのです」

「こうこ、がく。よくわかりませんが、あなたは昔のことが知りたいのですか?」

「そうです。だってみてください、この柱! これが数百年か千年か昔に作られてまだ立っている。すごい、すごいと思いませんか!」

 

 きらきらと子供のように目を光らせながらいうウィルをラドルマは少し目を見開いて、眺めるように見ました。

 

「ああ、そうなのですね。あなたは会いに来られたのですね」

「会いに? ……そうですね。昔の人々の残したものに会いに来たのかもしれません」

「…………いえ、そうではなくて」

 

 ラドルマは頭を掻きました。

 

「うまく言えませんが。まあ、約束ですから」

「約束ですか?」

「ええ。大したことはありません。そうそう、私はこの遺跡に関して一つだけ知っています。こちらに来てください」

 

 ラドルマはウィルを連れて遺跡をぐるりと回ってとあるところで止まりました。そこは砂しかない場所です。

 

「ここを掘ってみてください。何か見つかるかもしれません」

 

 ウィルは素直でした。彼の調査にはどうせなんのヒントもありません。彼は雇っていた人々を連れてきて穴を掘り始めます。ラドルマはその様子を見ていました。

 

 やがて階段が現れました。

 

「うおー!」

 

 ウィルは一人で興奮して中に降りていきます。他のものも降りていこうとするのをラドルマが、

 

「少し待っててください」

 

 そう止めました。

 

 階段を下ります。

 

 そこは小さな部屋になっています。そこまで深くはない地下には外から光がこぼれてきます。

 

 その部屋には壁画が部屋中に描かれていました。

 

 ウィルはその中でただ茫然と立ち尽くしています。感動しているのか、それともどうしていいのかわからないほど困惑しているのかもしれません。

 

 その壁画は人々の暮らしが刻まれていました。

 

 畑を耕すことや、ラクダに乗って遠くに行くこと、水をくむこと。時には兵士を連れた戦争のようなもの。

 

 そして大勢に囲まれた竜の壁画。

 

 ラドルマはそれらを撫でました。愛おしそうに、優しく。

 

「こ、これはすごい発見かもしれない!」

 

 ウィルは言います。ラドルマの手を取ってぶんぶんと感謝を表すように握りました。

 

「ありがとう! きっとこの部屋のことは世界中に知らせます。ああ、そうだ。研究だ。研究だ!」

 

 ウィルは興奮しきりで外に出ようとしました。ラドルマはその背中に呼びかけます。

 

「あの」

「なんですか!」

「伝言があります」

「伝言?」

「そうです……あー、えー。あなたは酒が好きですか?」

「……え? ま、まあそれなりに」

「そうですか。よかった。じゃあ、会いに行ってください。きっと喜ぶでしょう」

 

 意味の分からない言葉にウィルは怪訝な顔をしながら外に出ていきました。小さな部屋にラドルマは一人立ちます。彼女は眼を閉じました。

 

 あの頃の、その壁画を作っているころ。ウィルと同じように目を輝かせている少年少女たちに囲まれて、その男は両腕を組んでいました。

 

 彼はラドルマの記憶の中で言います。

 

「なあ、俺には見ることができない千年後にここに来るやつがいたら聞いてくれないか? 俺は喧嘩も好きだし、みんなが歌うのも好きだ。ここに描いたのは俺たちの時代のことだ。この壁画を見に来るやつはどんなやつなんだろうな。どんな顔をしているんだろうな」

 

 男は言います。

 

「聞いてくれよラドルマ。お前は酒が好きかってな、好きならあの世に来たときは俺に会いに来るように言ってくれよ」

 

 ラドルマは眼を開けました。

 

 誰もいない

 

 壁画だけ

 

 そこで彼女は笑います。

 

 寂しそうに、

 

 懐かしそうに

 

 誰もいなくなった場所で

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