宝石商ラドルマの幻想紀行   作:ほりぃー

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お祭りの中で

 ウレイネレス

 

 それはある神様の名前でした。遠い、遠い昔に彼女は空から広大な砂漠を見ていました。

 

 砂漠にすむ人々はとても貧しく毎日苦しんでいました。そこで彼女は雲を両手で掬いました。すると雲はたちまち透明な水になり、彼女は砂漠のあちこちにその水を空から落としたのです。

 

 それがオアシスの始まりと信じられていました。

 

 神様であるウレイネレスは今でも砂漠の民の厚い信仰を集めているのです。

 

 

 ラドルマは大きく口を開けました。牙のような犬歯が光ります。彼女は両手で持った串にささった大きな肉にかぶりつきます。もぐもぐとおいしそうに、幸せそうに赤い髪の少女は口を動かしました。

 

 お肉は皮がぱりぱりでかみしめるとじゅわりと肉汁が零れ落ちてきます。その表面にかかったほんのり甘辛いたれをラドルマの唇につきます。

 

 彼女はぺろりと舌でそれをなめました。

 

 彼女は道の端に座り込んで食事をしました。すでに日は沈んでいますが、街は篝火に照らされて明るく活気がありました。

 

 今日は年に一度の降天祭でした。砂漠に恵みをもたらしてくれた女神に捧げるお祭りの日です。このとあるオアシスにある街も旅の商人や住民が飲めや歌えやとお祭りを楽しんでいました。

 

 ラドルマもこの日は大好きです。いろんなところでおいしいものが食べられるので彼女は幸せそうに街を歩いて回りました。

 

 小柄な赤毛の少女ですが周囲の人々が驚くほど食べて飲みます。特にお肉が大好物でした。彼女はあちらこちらのお店に行っては食べ比べをして、ぺろりとすべてを平らげていきました。

 

 それを見て街の人々は歓声を上げました。いっぱい食べれば喜ばれてほめられるのが今日です。それがお祭りでした。ラドルマはその空気もそれなりに好きでした。

 

 酒がふるまわれます。

 

 東西から運ばれてきたそれらはキャラバンの持ってきたものです。ブドウという果物で作った紅いお酒も「コメ」と呼ばれる白い粒でつくった濁った酒もあります。

 

 ラドルマはそれらをどんどん飲みました。支払いは宝石。酔っぱらった群衆にはその剛毅さにさらに歓声を上げます。

 

 酒は進みます。ご飯はおいしい。空は満点の星とまん丸の月。

 

 人々は歌い、

 

 人々は踊り、

 

 人々は笑います。

 

 ラドルマもその様子をニコニコと眺めていました。夜が終わらないような錯覚を覚えるほどの美しい光景でした。

 

 その中で震えている男がいました。

 

 不安を張り付けたように表情を強張らせて、彼は踊り回る人々を見てがたがたとおびえていました。

 

「どうしたんですか?」

 

 ラドルマは聞きました。

 

「…………ああ、あんたは商人か。……いや、今が夢の中にいるんじゃないかと思ってな」

「夢の中ですか?」

「そうだ……みろよ、この幸せな光景を。俺たちは毎日貧しい暮らしをしていたはずじゃないか。それなのに今日はなんでも思い通りになる気がする」

 

 男は頭を抱えました。

 

「ああ、今日に居たい。明日に行くのが怖い」

 

 彼は誰よりも冷静だったのかもしません。この時間が永遠ではないと知っていたのです。

 

 ラドルマは彼に背を向けました。両手を広げて言います。

 

 男の目にはラドルマの向こうに祭りに景色が見えます。そのすべてをラドルマが抱きしめているような、そんな錯覚を覚えました。

 

 彼女が振りむきます。その表情が篝火に照らされていました。そしてその大きな瞳に男の姿を映しました。

 

「明日がこわいなんて言ってないで、今日を見て回らないんですか?」

「今日を?」

「そう、今日のこの景色を……まだ来てない明日を想像なんかするよりも、今日を明日まで見続けて……本当に明日が怖いものだったかを見に行かないんですか?」

「明日を見に行く……?」

「そうですね。だって」

 

 ラドルマは祭りの光を背にして微笑みました。

 

「今日は明日に続いているのですから」

 

 ラドルマはそれだけを言いました。彼女はふとどこからかおいしそうなにおいに鼻をくんくんさせると、男から離れていきました。

 

 男はその背中を追うように立ち上がり、祭りの中に入っていきます。

 

 彼の目には今が映っていました。

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