【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~ 作:らっくぅ
「くっ…」
剣士──シェラードの言う通り、スメラギは防戦一方で、牽制以外に攻撃を一度もしていない。それはノエルを、ノエルの仲間たちを傷つけたくないからだった。
「とんだ腰抜けだな! 尻に火を付けなきゃ戦えねぇのか⁉︎」
ノエルとスイッチして、団員がスメラギに襲いかかってきた。
スメラギは受け止めていた魔剣を受け流し、迫ってきた斧をシールドで受け止める。
スメラギは団員を膂力で押し返すと、そのまま飛び退き、崖へ向かう。が、
「かはッ⁉︎」
突然後ろから衝撃が襲ってきた。
『ベクトル操作によって背後に回ってきた弾丸と思われます。』
APRILの解析を聞いている暇もなく、スメラギは前に押し戻され、再び騎士団との戦闘を強いられる。何としてもここで仕留める気だ。
(このままじゃやられる…‼︎)
あまりの危機的状況に、スメラギは一瞬意識が遠のきそうになるが、それを堪える。そうなってしまってはおしまいだ。本当に取り返しのつかないことになってしまう。
(何とかしてここから離れる方法はっ…⁉︎)
あるとしたら。
「…っごめん! ノエル…!」
スメラギは小さく呟くと、団員に向けてリパルサーレイを放つ。
「おうっ!!!?」
スメラギが攻撃すると思っていなかった団員は、もろに食らい、吹き飛ばされる。
「アレン‼︎」
「油断するなと言った!」
他の団員が続けて襲いかかってくる。スメラギはそれらの攻撃を捌きつつ、スメラギは逆に彼らを圧していく。
「急にやる気出してくるじゃねぇか…!」
「流石に並の敵ではない…っ!」
だが彼らを倒すことが目的ではない。抵抗すれば、耐えかねて来るはずだ。
「エディソン、キース、アルマハド! 下がって!」
鋭いその一言で、団員は素早く後退し、代わりにノエルが向かってくる。
(来た…‼︎)
「破砕鎚、秘奥が壱…」
ノエルは自身の魔力を無にし、脱力する。
「…ッ⁉︎団長! いけません‼︎」
シェラードが慌てて止めるが、もう遅い。
「〈
「…ッ!!!」
ノエルは瞬間、ありったけの力を込め、メイスを振り下ろす。
スメラギは多重構造のシールドを構築し、それを防御しようとする。しかし、凄まじい衝撃が、それも瞬時に二度打ち込まれ、シールドは木っ端微塵に砕け散る。その衝撃はシールドだけでなく、スメラギ自身にも波及した。しかし、スメラギは敢えて耐えず、衝撃に任せ吹き飛ばされる。
後方の崖の向こうへ。
「…っしまった⁉︎」
その意図に気づき、慌てて崖の方へ駆け寄るが、スメラギは既に崖から遠く離れ海へと落ちていた。
仲間思いのノエルの事だ。団員を攻撃すれば、黙ってはいられない。怒りに任せ本気でぶつかってくるだろう。
彼女を利用した感じになってしまい罪悪感が残るが、苦肉の策だ。これがスメラギの出来る最良の選択だった。
「あちゃ〜…やっちゃった…」
ノエルは思わず呟く。死んではいないだろうが、海の中に落ちてしまったら追うのは面倒だ。こちらの編成は近接寄りな上、唯一の遠距離タイプであるぼたんも水中の敵には有効打は与えられない。待ち伏せされていたら、不利になるのは自分達だ。
「それを見越して私を挑発したってこと…?」
仲間を攻撃されついカッとなってしまったとは言え、しかしこれは失態だ。ノエルは小さく呟く。
「仕方ありません。団長の秘奥を食らう際、衝撃波で敢えて真後ろに吹き飛ばされるように調整できてしまうほど計算高い相手です。それより…」
ノエルをフォローしつつ、シェラードは訊ねる。
「どうでしたか? 彼が邪神の力を持っているという感触は」
「…結構追い詰めたと思ったんだけど、尻尾は出さなかったね」
ノエルは悔しそうにそう答える。
「団長の秘奥を前にしても力を使おうとはしませんでしたね」
「つまり、彼は『白』…」
「そう判断した方がいいかもだね」
と、そこへ遠くの高台から降りてきたぼたんが合流した。
「最後に撃ったベクトル弾、『スターク』なら防げただろうし、そのまま逃げる事だってできたからね」
手加減しているという気配は出さなかったし、相手にもそれは伝わっていないはずだ。その上でスメラギ・カランコエは力を出す事なく逃げる事を選んだ。
「…そうだね。じゃあ」
ぼたん達の言葉に一応は納得したのか、ノエルはこう判断した。
「
「
こうして、ノエル達はスメラギより一足先にアイゼオンへ帰還する事となった。
「なぁ、アイツが攻撃を始める前、一瞬だけ不自然に動きが止まってなかったか?」
「あぁ? 気のせいだろ。それより、今のうちにちゃんと休んでおけよ。これから忙しくなりそうだからよ」
暗雲が立ち込めつつ。あるいは、意図せず真実に近づきつつも。
歯車は回り始める。
*
一方、スメラギは襲撃者達を撒くことが出来たとはいえ、無事ではなかった。海に落ちた時の衝撃はパワードアーマーが吸収してくれたものの、ノエルの秘奥のダメージで早くもアーマーが半壊状態だ。
「ぐっ… ダメージを吸収しきれなかったか…」
『報告します。骨折箇所、肋骨3本に右腕2本…』
「いや、言わなくていい。痛くなかったところまで痛くなってくるよ…」
『追加情報として、あと10秒後に浮上しなければ海底に沈み、現在の推力では地上に戻れなくなります。』
「そっちの方が重要だよ⁉︎」
スメラギは慌ててスラスターを噴かし、近くの岩礁へ着地する。
「今上に上がってもまた出くわしそうだな…。とは言っても、今の状態じゃ、街までスラスターが持つかどうか…」
仕方ないので、ここで待つ事にした。しかし、もう日暮れの頃合いだ。この小さな岩礁で一夜を過ごすのは流石に気が引ける。どうにかできないものか…。
『救難信号を出した方が良いかと。予測ですが、彼らは連絡手段を魔法に頼っているようで、信号が傍受される危険性は少ないと思われます。』
「そうだね…ダメ元でやってみよう」
そうして、数時間が経過した頃、スメラギの元に通信が届いた。
『あ〜もしもし、SOSを出した方、聞こえてますか〜?』
「…あ、あぁ。聞こえてる、聞こえてるよ!」
特徴のある声に、スメラギは一瞬返答が遅れる。
『お、生きてたようで何より。身体の具合はどう? 五体満足? 無事ならそっちにウチらの座標教えるからそこまで泳いでくれない? そんなに遠くないから大丈夫だと思うけど』
「……まぁ、無事ではないけど動けるよ。場所を教えてくれ」
仮にもSOSを出してる人間に向かって泳げはないだろうと内心で呆れつつも、スメラギは座標を受け取り、そこまで飛行する。実際それほど遠くなく、故障しかけているスラスターでもギリギリ到着することができた。
見えてきたのは船の甲板だ。現代的な船で、大きさは小型軍艦程度だ。海上保安隊とかの船だろうか、とスメラギは考えていると、
「君が信号出してた遭難者? めっちゃボロボロじゃん! どしたん? 海獣にでも襲われたんかっ?」
艦橋の根元から、いかにも海賊という風貌の少女が現れた。
「あ、あぁ…まぁそんなところさ。僕はスメラギ。助かったよ、ええと…」
「船長はぁ〜! 宝鐘海賊団のぉ〜! 宝鐘マリンですぅ〜!」
なんか身体をくねくねしながら挨拶をしてきた。以前にも見たことはあるが、何とも歳不相応なポーズと動きだなと当時のスメラギは思ったものだ。ちなみに今もその感想は変わらない。
「もう! 見知らぬ人間にそんなのしないでくださいよ船長! 恥ずかしいったら…」
「なんで君たちが恥を覚えてるんだよ! そんなのって言うな! 共感性羞恥って言うなぁ!!」
「えぇと……と、とりあえず、ありがとうマリン。しかし、僕みたいな傭兵を助けてくれるなんて。海賊なのに珍しいね」
新現代になっても海賊や山賊は存在する。いわゆる社会のはみ出し者はいつの時代にもいるため、
そして、その本質もあまり変わらない。つまりは略奪。生きるため、私欲のため、色々とあるが、結局海賊とはこの一言に尽きる。
だから、スメラギにとって人を助ける海賊など変わり者でしかなかった。
「あぁーまぁねぇ。でも海賊だからって人助けしちゃいけない理由はないでしょ? それにあたし達、海賊名乗ってるけど犯罪は犯してないからねっ!」
「そうそう、俺たちクリーンな海賊だから!」
「つーかもう海賊じゃねぇよな。ただの冒険集団よ」
「それを言っちゃしめぇよ! 俺たちゃ宝鐘海賊団! それはちげぇねぇだろぉ!?」
「おぉよ! 泣く子も笑う宝鐘海賊団さ!」
マリンの言葉に、甲板に上がってきた船員は勝手に盛り上がる。なかなか陽気な船員だ。それに今どき、冒険目当てで海賊をやっている連中なんて本当に珍しい。
「こらっ! 盛り上がってないで、スメラギの手当てしてやって!」
「へい船長!」
マリンに言われ、数人の船員が医務室へ案内する。
「ここが医務室な。つっても、だいたい魔法で済ませるから包帯とか薬とかはあんまねぇんだけどな」
確かに医務室にしては最低限という感じだ。学校の保健室と同程度かも知れない。
「しかし、右腕とあばら何本かの骨折、全身の裂傷…。まるで誰かに襲われたみたいな傷だなこりゃ」
スメラギは船医の〈
「い、いやまさか…。海獣に噛みつかれたんですよ…」
「ふぅむ…。ま、一応傷は治ったが、あまり激しい運動はするなよ。傷が開くかもしれんからな。それと…」
「?」
「君はこれからどうするんだね? まぁ、しばらくここで休んでもらう事になるだろうが、ウチじゃ君のパワードアーマーを直す事はできんぞ?」
そういえばそうだ。パワードアーマーのスラスターはここに来る為にさらに寿命をすり減らし、今やジャンプくらいしかできなくなっていた。
「だったら、アイゼオンまで乗っけてやればいいんじゃない? あたし達もあそこで食料とか弾薬とか足しに行かないといけないからさ」
扉の方を振り向くと、いつの間にかマリンがいた。
「いいのかい? 僕は…」
「野暮な事はいいの! それに、君には今からあたし達の仕事を手伝ってもらうんだから」
「仕事?」
マリンはそう言うと、ちょいちょいとスメラギを呼ぶ。
「もうあらかた治ったっしょ? こっち来てよ」
スメラギはマリンに案内され、医務室を離れて艦橋へと向かった。
『仲間』と共に行動するのは、できれば控えたかった。今までだって、流れで一時的に彼女達について行っていたが、本当は最初から最後まで1人でいたかったし、そうするべきだと考えていた。
それでもマリン達の世話になる事を選んだのは、このままアイゼオンに向かえば再びノエル達と鉢合わせる可能性があるため、港からアイゼオンに入った方がいいと判断したのと、船ならば歩くより早くアイゼオンに着くのではないかと思ったからだった。
しかし、助けてもらった先がよりによってマリンの船だとは。
(これだけ会ってたら、もう巻き込まない、なんて言えないな…)
またしても、だ。
本当に何か縁のような、はたまた呪いのようなものにかかっているのかもしれない。スメラギはそう思わずにはいられなかった。
「イエス、ユア・ハイネス」は本来ブリタニア皇族に対して使うものなのですが、語感が良いので騎士団でも使わせてもらってます。
ちなみにマリン達の船の名前は「ローエングリン」と言います。あくあマリン号じゃないの?と思うかもしれません。僕も思ってます(は?