【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~ 作:らっくぅ
魔界。いかにも邪悪な名前だが、実際は魔物ひしめく暗黒の地でも、悪虐非道の魔王が支配する世紀末でもない。
魔界は大気中の魔力──マナの濃度が人間界より高く、その影響で独自の生態系が形成されている。魔力によって変容した異形の生物──魔物を始め、高いマナ濃度に適応した種族──魔族がその代表だ。それ以外は、魔法が発展している為に機械は少ないものの、都市部では高層ビルや自動車などの現代的なものがちらほら見られ、音楽やゲームなどの文化も存在するなど、人間界とそれほど変わりはない。
「いや〜、いつ来てもここのマナの濃さには慣れないな」
「そう? 力がみなぎってきて、なんか良い感じ!」
そんな訳でノエルとぼたんは魔界にやって来た。その目的は、自分たちに『スターク』の討伐という偽の依頼を請けさせたヘーミッシュという男の追及だ。
「ちょっとー勢い余って変にもの壊さないでよ、団長さん?」
「もちもち。いくら脳筋系騎士だからといってそんなヘマは…あ」
と、ノエルは駅の出口で突然立ち止まる。
「どしたの?」
「そういえば〈
「まぁ難しいかも。…もしかしてノエル、使えない?」
「私、強化魔法以外苦手で…」
何故キースではなく自分を連れて来たのか。ぼたんは一瞬そんなことを考えるが、なったものは仕方ない。
「あちゃあ。まぁ大丈夫。〈
それから1時間ほど経った後。
「さて、ここからどうしようか…」
スメラギも魔界に着き、列車を降りる。魔界へ向かう前からそうだったが、ノエルを追うと決めたものの、手段については全く無策であることに我ながら情けなく思ってしまう。魔法を使えない身としては、〈
『ところで、何故彼女たちは別行動をしているのでしょうか。』
スメラギのサポートAI──APRILはそんなことを尋ねる。
「単に仕事が終わって解散…という訳ではなさそうだね。何か目的がある?」
『マスターの正体を本当に知っていたのなら、あの時逃がすようなことはしなかったでしょう。』
「ということは、ノエル達は確証がなかった?」
『そう考えるのが妥当かと。』
「じゃあ、ノエル達はその証拠を掴むために魔界へ来たのか…」
『あるいは依頼主を追っているとも推測できます。』
しかし危ない橋を渡るものだ。『スターク』かどうかも分からない、依頼主の情報の真偽も怪しいのに依頼を請けるとは。逆に言えばそれだけ『スターク』というのは世界にとって脅威であるとも言えるのかもしれない。
そう、APRILと推理しているところだった。
駅を出て広場にさしかかった時、
「やぁスメラギ・カランコエ。
「?」
ふいに横から声をかけられた。見ると、自分と同じくらいの背丈の男がいた。見覚えはなかった。
「えぇ…と、どこかで会ったかな?」
「おや、
「ッ!」
スメラギは飛び退き、臨戦体勢を取る。
いきなりの本命。今、ノエルとぼたんに会っていないのが幸いだった。
(やはりあの狙撃手はぼたん…! こうも偶然が重なるなんて…!)
「君が彼女たちをけしかけたのか。何故そんなことをッ!」
「さてな。だが俺の使命が『お前の殺害』だというのはお前がよく知っているはずだ。俺が親切にもかつての仲間に会わせてやるとでも考えていたか?」
男──ヘーミッシュは腕にブレードを構築し、同じく臨戦体勢を取る。
「ッ、君には聞きたいことが沢山あるんだ。少し大人しくしててもらう!」
「ハハハ! 少し遊ぶとしようか!!」
*
──都市ベルナバイド。
魔界最大規模の都市であるこの街には、魔界唯一の教育機関「魔界学校」がある。ベルナバイドは都市の半分ほどがこの魔界学校に関する設備であり、なおかつ人口の約6割がその生徒という大規模な学園都市だ。
魔界学校では、様々な分野の人材が育成されており、実際、魔界で活躍している著名人の多くが魔界学校出身である。マンモス校であると同時にエリート校でもあるこの学校の生徒は、街で多くの役割を担っている。土木・建築、あるいは農業・畜産業といった第一次・二次産業の手伝いから新たな街づくりの提案、そして都市の防衛まで。
「ねぇ〜あやめちゃん」
魔界学校、生徒会室。
「なんだ? せっかく来てくれたところ悪いが、余は忙しいのだ。まったく! テロリストだとぉ⁉︎破滅派だか何だか知らぬが、そんな危なっかしいものにうちの生徒を向かわせられるか!」
「部屋にあったドーナツ食べちゃった」
「はぁ!? アレは余が大切にとっておいた…!!」
あやめと呼ばれた頭にツノを2本生やした少女は思わず椅子から立ち上がり憤慨するが、もう1人の黒い三角帽を被ったいかにも魔法少女っぽい少女は意に介さず続ける。
「ここんとこ働き詰めじゃん。そんなにあくせくしてたら他の子も休めないよ?」
「…余は生徒会長だ。学校のトップとしてやらねばならぬことは沢山ある。あまり休んでなどいられん。それに、副会長には下の者に休みを徹底するよう伝えてある」
「あたしが心配してるのはあやめちゃんだよ。もう少し他の人に頼ればいいのに」
「むう、分かってはいるが…」
「ほら、ここにちょうど暇な人が1人いるよ?」
「シオンはここの生徒ではないだろう!」
「別にいいじゃーん。みんな私のこと知ってるし。るしあちゃんとか「シオン先輩」って呼んでくれるんだよ?」
「そういう問題ではない! …だが」
「ん?」
「お陰で元気が出たぞ。ありがとう、シオン」
「え、そ、そういうつもりじゃなかったんだけどな…」
あやめの素直な思いを受け、魔法少女──シオンはつい照れてしまう。一瞬和んだ空気は、だがすぐに緊張する。
遠くから爆音が響いたのだ。
「!」
「な、なに!?」
2人は部屋の窓から音のした方を見る。
「アレって…まさか…っ⁉︎」
*
「やはり力だけでは勝てない、か」
「君が僕に勝てるはずない。
スメラギはひざまずくヘーミッシュを見下ろす。スメラギには傷一つ付いていない。
一方でヘーミッシュは全身の傷から青い液体──ブルーブラッドを垂らしながらも、それでもニヤリと笑う。
「俺はこのまま遊んでいてもいいのだがな。お前の方はいいのか?」
「…どういう意味だ?」
意味深な発言に、スメラギは眉をひそめる。
「分からないか?
そう言われ、スメラギは周りを見渡す。
この大通りをまっすぐ行けば、魔界の中でも最大の都市に着く。本来ならこの辺りは魔族と人間で賑わっているはずだというのに、人っこ1人いない。
「もしや都市の方で何かあったのかもな? そう例えば…魔物が大量に現れた、とか。かはは!」
「!」
スメラギはヘーミッシュが次の行動を起こすより早くニードルレイで頭部を撃ち抜き、ヘーミッシュを破壊する。そして、スラスターを全開で噴かし都市へ急行した──
数刻前──
ノエル達も異常に気付いていた。
「ねぇ、なんか人少なくない?」
「あー言われてみれば」
2人は今ベルナバイドの入り口の近くまで来ている。流石に見知らぬ通行人に〈
「今日なんかあったっけ?」
「さぁ…って横から魔物が」
「ぅえっ⁉︎」
突然の言葉にノエルは思わず変な声が出る。その間にぼたんは構わず腰のホルダーからハンドガンを取り出し、ノエルごしに魔物に対して弾丸を放つ。
ダン‼︎ダン‼︎ダン‼︎
ノエルの左側方から襲いかかって来た魔物の頭に正確に3発、銃弾を撃ち込み、ぼたんは魔物を撃破する。
「え〜ん、何でこんなところに魔物がいるのさ〜!」
「…ちょっとまずいかも」
悪い予感がして、ぼたんは専用デバイスでE-ロッカーステーションからスナイパーライフルを電送する。
「どういうこと?」
「人通りが少ないこと、こんな街の近くに魔物が現れること。無関係なはずがない」
「…つまり、えーと……ま、街に魔物が…⁉︎」
「かもしれない。急ごう」
2人は〈
そこには。
「ギエアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」
「陣形を崩すな! 〈
「〈
「人手が足らん! F3地区から何人か寄越せないか!?」
目に映るもの全てを滅ぼさんと溢れ返る無数の魔物と破壊されていく街並みが、ノエルとぼたんの視界を埋め尽くした。
ヘーミッシュあっためた割には弱ぇな!いや、スメラギが強すぎるだけです。多分。
前回魔物とモンスターの表記についてアレコレ言ってましたが、なんか魔物のままでいけそうです。予断は許さない状況ですが。