【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~ 作:らっくぅ
先程の〈
「でもさっきみたいにナノマシンが落ちてるなんて、もう無いよね? わざわざ目印を付けてくれるわけでもないだろうし…」
アンドロイドは追跡を相当気にかけていたのか、近くには足跡すら見当たらない。痕跡など全くないように見えた。
『アンドロイドのボディは主にプラスチックで構成されています。飛行能力がないのであれば、木や建物を伝っていったはず。そこにプラスチック片が残っている可能性があります。』
「なるほどね。でも私、そういうの探す機械持ってないよ?」
「僕が探すよ」
スメラギはパワードアーマーのマスクだけを装着し、周囲の木々や廃墟となった建物をサーチする。
「これかな…?」
ある一本の木を調べると、マスクのディスプレイにごちゃごちゃと色々な物質の名前が表示される中、目当ての物質名が表記された。どうやら、これが次の手がかりのようだ。
「あ、見つけた? おけおけ、じゃあ〈
シオンはついでに〈
「うわ…シオンちゃん、ちょっと眩し過ぎない?」
ノエルは思わず手を目の上にかざす。辺りが暗いせいか、〈
「こうすれば目立つでしょ? それに、今暗いし」
「犯人にバレたらどうするんだ…」
「まぁそこは…ほら、臨機応変で…」
「むしろ察知されるくらい近づいているって事だから、それを利用して逆に先手を取ることもできる…ってことですよね?」
と、すかさずるしあがフォローする。
「そうそう! さすがるしあちゃん! あたし達一心同体だね!」
調子のいいシオンに、あやめは呆れてしまう。
「後輩にフォローさせるんじゃない…」
対してるしあは、シオンの言葉に顔を赤らめ、にやけている。
「え〜? えへへ、一心同体ってことはシオン先輩、るしあと24時間365日ずっと一緒にいてくれるって事ですか〜?」
「え、あ…うん」
「ちょっと! 何ですかその微妙な反応! るしあが嫌なのですか!?」
「いや、流石にそんなにずっとは…ね? ほら、授業とか…色々あるじゃん?」
「大丈夫ですよ。シオン先輩と一緒に授業を受ける方法は、あるので」
「ねーなんか物騒な雰囲気!?」
「ねぇねぇるしあちゃん、私は〜?」
と、突然始まった痴話喧嘩にメルが入ってくる。笑みをたたえているが、それとは裏腹におどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
「メ、メル先輩!? せ、先輩も一緒ですよ! るしあと一緒に暮らします!?」
「え、いいの〜? でも、3人でしょ? るしあちゃんと2人がいいなぁ」
「ちょっとー! シオン省かれてる! ほっとしたけどなんかやだ!」
もう泥沼だった。メンヘラが2人いるとこうも厄介になるのか。
あやめとちょこは、幼馴染の生還を祈りつつ、自分たちがその対象に入らなかったことに心底安心した。
側から見ていたスメラギは、とても声をかけにくい状況だったが、そうも言ってられないので、勇気を振り絞って泥沼の3人に声をかける。
「ええと…早く行かないと目印に置いてかれるよ?」
*
「ここで少し休憩するとしようか」
と、スメラギは提案する。あやめによると、破滅派を担当している警察の方は、スメラギ達よりも後に出発するらしい。それは、先に本陣が壊滅したことを察知した実行犯が暴走するかもしれないという懸念があった為だ。今のところ、まだ警察は破滅派と戦ってはいない。
それに、アンドロイドは徒歩で移動しているはずだから、それほど距離は空いていないはずだ。少しくらいの休息はできる。そうスメラギは考えていた。
休憩に選んだ場所は、森の中にあった小屋だ。ちょこが言うには、恐らく昔使われていた狩人の家だそうだが、保存状態はそれなりに良かった。
「あ、キッチンがある」
「いいわね。メル様、軽食でも作りましょう」
「おっけー!」
「じゃあ、それまで私、外見張っておくよ」
「僕も少し外にいるよ。みんなはここで待ってて」
そう言い、メルとちょこはキッチンへ、ぼたんとスメラギは外へ出ていった。
「あ…」
そういえば、とるしあは思い出す。
すっかり忘れていた。いや、正確にはこの違和感を確かめるのが少し怖くて、緊張していたからそれを忘れるためにメル達と話していたのだった。
しかし、そう先延ばししてもいられない。確かめるなら今しかなかった。
るしあは決心し、小屋から出る。
すると、すぐそこに木にもたれかかっているスメラギが見えた。
「す、スメラギさん、あの…っ!」
るしあは勇気を出してスメラギに近づき、話しかけようとするが、足がもつれて体勢を崩してしまう。
「ぅわっ!?」
「お…っと、大丈夫かい?」
転びそうになったるしあを、スメラギは間一髪で支える。
瞬間。
「ッ…!!?」
映像がるしあの脳内に流れ込む。
──制服を着た自分。そしてうさぎ耳の少女や褐色肌の少女、ワインレッドの髪の少女に加え、ノエルまでもが。同じく制服を着たスメラギと楽しげに談話している。
次の瞬間、場面が突然変わり、何か大きな人型のシルエットが見えた。周りには大勢の人がいて、その中には、自分だけでなくシオンにメル、ちょことあやめもいた。どうやらその巨人に敵対しているようだったが、しかしまもなくして眩いほどの光が視界を覆い、全てが塵に変わってしまう。目の前には血だらけの自分。何か魔法陣を発動していて…
「るしあ? 大丈夫? どこか調子が悪いの?」
「ぇ…?」
スメラギの声でぴくっと身体を震わし、るしあは我に帰る。
「疲れているのなら、休んだほうがいいよ。これから大変になるだろうから」
スメラギは、疲れからこけてしまったと考えているのだろう。
「あ、えと…大丈夫なのです。少し、立ち眩みしただけなのです…」
だが、動揺したのは記憶の内容に、ではなかった。
(今の…スメラギさんの記憶…? でもなんで…?
潤羽るしあはネクロマンサーである。RPGなどでよくあるゾンビやスケルトンを生み出し操る能力もあるが、本来の能力は死者を呼び出し、過去や未来を知るというものだ。るしあは未熟であるために、過去しか知る事はできないが、幼い頃からネクロマンシーを使ってきたため、触れただけで死者の過去を知ることができるようになっていた。
だというのに。その前提はあっさり崩れた。
今目の前にいるスメラギは確実に生きているはずなのに、ネクロマンシーが発動した。これは明らかにあり得ないことだ。
「そうか。…ところで、僕に何か用かな?」
スメラギはるしあを起こし、訊ねる。
「…いえ、見張りをするのならるしあ、代わるのです」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。少し外にいたいんだ。君は小屋に戻って休んでいるといい。先の襲撃で、僕よりも体力を使っていただろうからね」
と、るしあの申し出をスメラギはやんわりと断る。
「るしあも、外にいたいのです。…少し、いてもいいですか?」
「…うん。いいよ」
「スメラギさんは、傭兵になる前は何をしていたのですか?」
「僕は、高校を卒業してからすぐにアルヴィアスに入ったんだ。だから、数年前までは君たちと同じ学生だったよ」
「そうだったのですか。何で傭兵になろうと思ったのです?」
「…友達に傭兵になりたいって人がいてね。僕は何の取り柄もないし、夢もなりたい職業もなかったから、その人達の言葉を思い出して傭兵になったんだ」
「……
その台詞は、スメラギにとって全くの想定外だった。るしあの口から発せられた言葉は、スメラギの息を詰まらせるのに十分すぎた。
「ッ…⁉︎どうして、その、名前を…」
「やっぱり…。スメラギさんはるしあ達のこと、前から知っているんですよね…⁉︎スメラギさんの記憶には、るしあの知らないるしあがいた。制服を着ていたるしあ。巨人と戦って、血まみれになっていたるしあも…。スメラギさんは一体何者なんですか…⁉︎」
「っ、るしあ…」
スメラギは全てを伝えたい衝動に駆られた。しかし、それを即座に抑え込んだ。
吐き出したら、きっと楽になるだろう。るしあだけでなく、他のみんなも。苦痛を受け止め、支えてくれるかもしれない。
だが、真実を言えば無条件で信頼されるのか? それを明かして、拒絶されるという可能性は?
スメラギは目を伏せ、かぶりを振る。天秤にかけるまでもなかった。
「多分、勘違いじゃないかな? 今まで色んな世界を回ってきたからね。1人くらい君に似た人と会っていてもおかしくはないだろ?」
出来るだけ感情を殺してそう応える。
「で、でも…!」
「君は制服を着ていないし、大怪我もしていない。よく似た別人さ」
「……」
るしあはそれ以上追及しようとは思わなかった。確信が持てなかったというのもあるが、スメラギの悲しみに気付いたからだ。
決して顔に出ていないし、声色も変わらず優しい。でも、どこか苦しそうだった。安易にスメラギの、最も弱いところに触れてしまったような気がした。
「…小屋に、戻ります。お食事、出来たら伝えます…」
るしあは俯き、弱々しい声でそう告げる。
怖くなった、とは少し違う。申し訳なくなったと言ったほうが正しいかもしれない。逃げたことに対しても。
「君は、僕の知っているるしあじゃない。君は自分の生き方をしていいんだ…」
るしあが少し小走りで小屋の中へ入っていった後、スメラギは考えていた。るしあが知り得ないはずの名前が彼女の口から出たことに、ではない。それよりも、彼女が自分の記憶を知っていた事だ。
(もしかしてるしあもこの世界に…? いや、あの時、転移したのは僕だけだった…。それに、転生もこの世界では使えないはず…)
理由は分からない。だが、少なくとも本当のことだと伝えるわけにはいかなかった。
悲劇の主人公ぶりたいわけではない。去り際に言った言葉が全てだ。どれだけ記憶に寄せようとも、目の前にいるのは別人なのだ。自分のエゴで、他人を良いように使いたくはなかった。
*
「この先はしばらく平原のようだな。ここなら足跡くらいはあるだろう」
軽い休息を終え、再び目印を追っていると、森から抜け平原に出た。
「ようやく私たちも活躍できそう」
「スメラギとシオンちゃん以外役に立たないもんねぇ」
と、ぼたんとノエルは口々に言う。魔法にあまり長けていない2人だが、科学に関してもそれほど精通しているわけではない。パワードアーマーはおろか、センサーの類は殆ど持っていないのだ。だから、先程までは完全に暇を持て余していた。
「ん、あった」
周りを見渡し、ぼたんはすぐに消えかかった足跡を見つける。
「さすがぼたんちゃん、目いいね!」
「まぁね〜。
「るしあちゃんどうしたの? なんか元気ないね」
メルはるしあに声をかける。というのも、るしあが一度外へ出て小屋へ戻ってきてから、口数が明らかに減っていたのだ。思えば出撃前、いや魔物襲撃の後辺りからどこか様子がおかしかった。
「ん…いえ、るしあは…」
「大丈夫だよ。スメラギさんも、ノエルちゃんもぼたんちゃんも優しいし、怖い人達じゃないよ」
メルはるしあが人見知りなのを知っていた。だから、初対面の人達といきなりパーティを組んで行動するというのが辛かったのかと思っていた。
「…お気遣いありがとうございます、メル先輩。るしあ、大丈夫ですよ」
「そう? 大変だったら、ちゃんと伝えるんだよ? メルが癒してあげるから!」
「…はい。そうします」
るしあは小さく笑い、答えた。
そうしてしばらく足跡を辿っていると、
「しっ。何かが近づいてくる」
あやめが仲間を制止する。
「もしかして、メルたちが追ってるテロリスト…⁉︎」
「いや、空から聞こえる…。この羽ばたきは…」
段々と音が大きくなっていき、他の仲間たちにも聞こえるくらいに近づいてくる。
「…来るっ!」
ズッッッガァァァァァン!!!!! と。
急降下の衝撃で地面を抉り、砂埃が巻き上がる。その中から現れたのは、“火竜"リオレウス。
「偶然かもしれないけど、これってもしかして!?」
「多分! ヘーミッシュに操られてると思う!」
リオレウスは灼熱のブレスを薙ぎ払うように放射する。
「うわっちょっ⁉︎あぶな!」
「メルが引き付ける!」
メルは〈
「〈
すれ違いざまに、メルは白銀の氷を翼に向けて放った。大したダメージはないものの、氷は翼にまとわりつき、飛行を阻害した。
その攻撃を食らい、リオレウスは振り向き、標的をメルへ定める。
「よし、今のうち! るしあ!」
「う、うん! 〈
ノエルは大きく飛び、るしあの〈
「グオォォォォォォォッッ!!?!??」
予想外の攻撃を食らうと共に、リオレウスは地面にめり込んで身動きが取れなくなる。
しかし、それでもなお標的であるメルに目を向ける。
「わわわっ!?」
リオレウスはちょうど正面にいたメルに向けて火球を放とうとする。が、
「させない!」
スメラギが上空から、腕部のバタリングラムで発射寸前の頭部に一撃を加える。
すると、火球は発射されることなく、リオレウスの口内で爆発してしまう。
「おー! ナイス、スメラギさん!」
「妖刀羅刹、秘奥が参」
あやめは左腰に提げた刀に手を掛け、構える。
「<
大振りの居合斬りが身動きの取れないリオレウスに直撃し、竜の体が縦に割れた。
「おぉ〜…綺麗に真っ二つだぁ」
「油断しないで。奴は多分近い」
おそらくナノマシンで操られていたであろう魔物が襲ってきたという事は、目標は近い。リオレウスを倒したスメラギ達は、しかし周囲を警戒して進む。
と、
「ようやく見つけた、ヘーミッシュ」
突然ぼたんはスナイパーライフルを構え、少しはなれた何も無いところを撃つ。すると、
「やり過ごせると思ったが…中々どうして見つかるものだな」
カンッ! と弾道が不自然に曲がったかと思うと、そこからぬっと人の形が現れる。
「ヘーミッシュ!」
「アイツがあの…!」
中性的な姿のアンドロイドはゆっくり歩き、そしてスメラギ達を見て不敵に笑う。
「やれやれ、相変わらず予測より早いな。これでは、俺が全力を出さなければいけないではないか」