【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~   作:らっくぅ

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21話 綻び

「あいつらの追跡で有耶無耶になる前に。スメラギ君、詳しく教えてもらおうかな」

 

 〈転移(ガトム)〉で魔界学校に戻った一行。

 

 あやめにより全員が生徒会室へ案内されると、ノエルはそうスメラギに尋ねる。口調こそいつも通りだったが、その雰囲気は穏やかではなかった。

 

「…分かった、話すよ。彼らを倒すまで君達が共に行動するのなら、いつかは話さなければならなかった事だからね…」

 

 正直、魔界学校組の5人は状況を把握しきれていない。そもそも、先ほど追っていたマーシェやその仲間のヘーミッシュが何者で、何の為に何をしているのかすらはっきりと分かっていないのが現状だ。

 

 もっとも、それはある意味では全員そうとも言えるのかもしれないが。

 

「まず、私達にも詳しく説明して欲しいわね。ヘーミッシュとマーシェは何者で、何をしようとしているの?」

 

「彼らはゼノクロスが生み出したアンドロイドだと僕は考えているけど、はっきりしたことは分からない。ただ、彼らが僕を狙っているというのは確かだ」

 

「はいはいっ。何でスメラギさんが狙われてるの?」

 

 椅子にあぐらをかいて座っているシオンがそう尋ねる。

 

「それは…その前に、僕の本当の目的を言った方が良いかもしれない」

 

 もちろん、全てを話すつもりはない。彼女達に向けられた疑惑を完全に払拭する必要もない。自分が今すべきなのは彼女達の信用を得る事ではなく、「最小限の被害」で済ませる事だ。

 

 スメラギはそう再確認し、言葉を選びながら続けた。

 

「僕の目的は、ゼノクロスを倒すこと。彼を破壊し、世界を守ることだ」

 

 

 

「マーシェってアンドロイドも言ってたけど…ゼノクロスって何ですか?」

 

 と、右手をちょこっと挙げメルが質問する。

 

「ゼノクロスは異世界大戦期に建造されたとされる人型兵器だよ。科学世界側の兵器で、その力は世界をも滅ぼせると言われているんだ」

 

「けど、ゼノクロスはそもそも実在自体が怪しい都市伝説みたいなものなんじゃなかった?」

 

「ああ。ぼたんの言う通り、その存在が確認されず、資料も残されていなかった。つい最近までは」

 

「…つい最近までは?」

 

 思わず、ノエルはその言葉を反芻する。

 

「数ヶ月ほど前、ゼノクロスが突然ある世界に現れたんだ。そして、彼はその世界を攻撃し、滅ぼした」

 

「どうして…?」

 

「…分からない。けど、暴走してるのとは少し違ったように思う」

 

「なんか見てきた風に言ってるけど。そもそも何でゼノクロスが世界を滅ぼしたとか知ってるの?」

 

「…ゼノクロスが最初に現れた世界は、僕の故郷だった。彼は故郷を滅ぼしたのち、さらにもう一つの世界を破壊した。僕が逃げ延びた先の世界だ」

 

 スメラギは目を閉じ、静かに答えた。ふと瞼の裏に、共に語らい、戦った仲間の姿を思い浮かべながら。もう乗り越えたと思っていたが、未だ悲しみは消えなかった。

 

「じゃあ、スメラギは復讐のためにゼノクロスを追ってるわけ?」

 

 その答えに、ぼたんは鋭く切り込む。対して、スメラギには怒りも戸惑いもなかった。

 

「…僕は、世界を守るために戦っている、と自分では思っているつもりだけれど、本当はぼたんの言う通りなのかもしれない。けど、これだけは確かだ。ゼノクロスは倒さなきゃいけない。世界を滅ぼす力を、これ以上使わせるわけにはいかない」

 

 

 

「えっと…でもさでもさ。世界が2つ滅びたなんてニュース、無かったよ? 確かにちょうどその時、異世界との繋がりが途絶えたって聞いたけど、それでも観測自体は出来るはずだよね」

 

 と、シオンは疑問を口にする。確かにその通りだった。世界が2つも、それも人為的に滅んだのなら、どこの新聞社、放送局も大々的に取り上げるはずだ。なのに、この世界においてはそれが全くなかった。

 

「恐らく、この世界を覆う結界の影響かも知れない。何故結界が張られているのかは分からないけれど…。この世界で、世界が滅びたことを知っていたのは僕だけだった。ゼノクロスが僕を狙うのは、それが理由じゃないかと思うんだ」

 

「つまり、自分が世界を滅ぼした事を隠すために、それを知ってるスメラギさんを口封じしようとしてるってことです?」

 

「多分ね…」

 

 

 

 しかし、ノエルは違った予想をしていた。

 

 ノエルだけでなくぼたんも、当初はスメラギを殺害の対象と捉えていた。スタートからしてマイナスであったがために、スメラギの言葉をそのまま受け取ることはしなかった。

 

(それだったら、わざわざマーシェがゼノクロスの存在を私達に知らせる理由が分からない)

 

 世界を滅ぼした事実を唯一知っているスメラギを殺すのが目的なのに、それを自分達に知らせてしまっては、いたずらに標的を増やしているだけだ。もしそれを世界中に知らせたら、彼らの抹殺対象は、今度はこの世界の全ての住民という事になるのだろうか。

 

 あるいは、()()()()()()()()()()()()()()

 

(でも、何か違う。多分、奴らはスメラギのこと…)

 

 今はまだ疑念でしかない。一度は捨てた考えを再び持つには、決定打に欠けていた。

 

 

 

 

 

「ふむ、スメラギさんの考えでは、マーシェとヘーミッシュはゼノクロスの手下ではないか、という事だな?」

 

「恐らく」

 

「しかし、ゼノクロスの最終的な目標があなただとしても、何故魔物を使って街を襲うなどという回りくどい方法を使ったのだ?」

 

「……」

 

「それについては、多分私達の方が知ってると思う」

 

(ししろん?)

 

(カードを切るなら今。というより、これ以上出し惜しみする必要もないよ)

 

 意図せずして「対象」は集まってしまった。だがこれは逆に幸いだ。彼女達にこれを見せれば、何かしら情報は得られるかもしれない。そして、スメラギからも。

 

「どういうこと?」

 

「ヘーミッシュ達は、とある人達を狙って行動してる」

 

 ぼたんはポケットからデバイスを取り出し、写真をホログラムで投射する。

 

 映し出されたのは、ヘーミッシュ達の記憶の会話にあったもの。およそ30名ほどの少女がリストアップされている。

 

「これは…? 私達もいるわ」

 

「余達5人の他にも、ノエルやぼたんもいるな」

 

「あっ、ココちゃんにトワちゃんもいる!」

 

「ヘーミッシュ達はこのリストにある「対象」を集めてるっぽい。なんでも、スメラギを倒す為らしいけど」

 

 と、ぼたんは説明を続ける。

 

「っ…」

 

 スメラギは思わず、苦い顔をする。リストアップされていた少女を、全て知っていたからだ。

 

 どれだけ乗り越えようと、忘れようとしても、どこまでもつきまとってくる。その度に、胸が締め付けられるように苦しくなる。

 

(やっぱり、そう言うことかヘーミッシュ…)

 

 しかし今回はそれ以上に。

 

 ヘーミッシュ達は彼女らを利用して、自分を殺そうとしている。

 

 そんな悪い予感が無慈悲に的中してしまった事が、スメラギの心を強く痛めつける。

 

(こんなこと…絶対に起きて欲しくない。そうなる前に、僕は…)

 

「しかし、余達は奴らと敵対している。それでは意味がないのではないか?」

 

 スメラギのそんな思いをよそに、あやめはぼたんに疑問を投げかける。

 

「それは私も思った。スメラギを倒す為なら、自分達の側につけるのが自然だと思うんだけど…」

 

「何か裏があるのかもしれないわね。何にせよ、それが実行される前に彼らを捕まえる事ができれば問題ないけれど」

 

 

 

 

 

「さて、では今後の余達の行動だが……その前に、実は先ほど、境界監視局からテロリスト逮捕時に人間界に渡った者がいたという報告を受けた」

 

 おそらくはマーシェによって複製されたヘーミッシュ。やはり、人間界にいる「対象」を狙っているのだろう。

 

「リストにある中では、魔界にいるのは余達だけだ。奴らの狙いは、完全に人間界に移ったといってもいいだろう」

 

「じゃあ、しばらくは人間界に滞在することになるのかな?」

 

「そうだな。今回は長期間のクエストになると思う。各自、準備と休息を怠らぬように。では一旦解散だ」

 

 

 

 

 

「すぐに出発しなくていいの?」

 

「本音を言うなら、すぐにでも奴らを捕まえたいところだが、体力も魔力も消耗してるしな。それに、あちらにはノエルの仲間たちがいると言う。急ぐ必要もなかろう」

 

 ヘーミッシュが人間界に渡った事を聞いてからすぐ、ノエルはシェラードにその事を伝えてあるので、何かあれば連絡してくるだろう。となれば、万全の準備をしてから臨むべきだ。

 

「なるほどね。あやめもちゃんと仮眠と準備をしておくのよ? お金、まだ持ってるわよね? 身分証とか、テントとか忘れちゃダメよ?」

 

「いつもながら思うが、過保護すぎだっ。というか、テントが必要なくらいサバイバルな所でもないだろう人間界は!」

 

 と、あやめとちょこは他愛もない会話を交わすが、

 

「…しかし」

 

 すぐにあやめの表情が曇る。

 

「スメラギさんの言っていたこと、本当なのだろうか」

 

「えっと、どれのことかしら」

 

「ゼノクロスが彼を狙う理由だ。本当に、世界を滅ぼしたことを隠すためだろうか。そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 原点に立ち返ってみれば、まだ明かされていない事があった。そしてそれは図らずとも、あるいは必然的に、核心へと迫っている事に、果たしてあやめ達は気づいているだろうか。

 

「…そう言われてみれば確かにね」

 

 スメラギの故郷に原因があったのなら、その世界が滅べばゼノクロスは破壊活動を止めるはずだ。しかし現実はこうしてゼノクロスが、その手下のヘーミッシュが暗躍している。だとしたら。

 

「つまり、あやめはスメラギ様が()()()()()()()()()()()()()()()()を持っていると?」

 

「憶測でしかないがな。何にせよ、スメラギさんは何か隠している。あまり悪い事でないと良いのだが…」

 

 疑念は広がる。そして、拭えないものへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リストの「対象」達。それには「不知火フレア」や「宝鐘マリン」なども含まれていた。

 

 るしあが触れたスメラギの記憶。あれは、滅んでしまった世界で過ごした記憶なのだろう。何となく、確証があった。

 

 やはりスメラギは自分達のことを知っていたのではないか。そして、リストに載っていた「対象」達も。

 

(そうだとしたら、スメラギさんは…)

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