【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~ 作:らっくぅ
「あれ、スメラギさんっ?」
「なんだ、お前も居たのか。わざわざここまで戻ってくるなんてご苦労なこって」
スメラギに気づいたラミィとエルフの男の片割れ──ラルクは声をかける。
「君たち…」
「えーと、知り合い?」
ぼたんは首をかしげる。それもそうだ。ノエルとぼたんとはこの中で一番早くに出会ったとはいえ、それはエルフの森に立ち寄った後の話なのだから。
「…実は前に一度エルフの森に行ったことがあるんだ。ほんの少しだけれどね」
「まさかこんなに早くお前を再び見ることになるとは思わなかったがな」
ラルクの隣にいる男──レゴラスは相変わらず無愛想にそんなことを口にする。
「…それより、今はこの町を救おう」
「それもそうだ。んじゃ、ちゃちゃっとやっちまいますか」
*
フレア達が加わってからは、今まで苦戦していたのが嘘のように殲滅は進んだ。とはいえ、全ての敵対アンドロイドの破壊が終わったのは既に日が落ち始め、オレンジ色が頭上を染め上げた頃だったが。
「よっ、お疲れさん」
「ラルク。それにレゴラスも。助けに来てくれてありがとう」
「良いってことよ。ま俺たちはラミィに誘われて来ただけなんだがな」
「しかしお前がいるとはな。少し驚いたぞ」
「…まぁ、色々あってね。あるものを追っていたらここに着いたんだよ」
いつものように、全ては言わない。ラルク達からフレアとラミィに情報が渡る可能性もあるからだ。
「ふうん。この前言ってたゼノクロスってやつか?」
「ゼノクロスそのものではないけど…全く関係がない訳ではないね」
「本当にあったんだな、それ。けどまぁ、お前も大変だな。行く先々で戦いが起きてて」
「…あはは、確かにね」
それは偶然ではなく必然なのだと、スメラギは心の内で呟く。戦いは、自分を誘き寄せる餌なのだ。
「何はどうあれ、知り合いにまた会えて嬉しかったぜ。しかしまぁ、久し振りに森の外に出れて、何とも気分が良いもんだ!」
「…貴様、そっちの方が目的だったな? まったく…早く帰るぞ、阿呆が!」
「あはは…またね、2人とも」
そうしてラルク達が去っていくのを見ていると、今度は後ろから声をかけられた。
「…スメラギ」
「フレア。…来てくれたんだね」
「お前たちを助けたかったんじゃない。ただの気まぐれだ」
「ラミィが説得したんですっ。割とすぐ応じてくれましたけど!」
「ちょ、余計なこと言うな!」
そんな言い合いを見てスメラギは安心した。ラミィとはすっかり仲直りしたようだ。
「もう帰るのかい?」
「これ以上人間に干渉するわけにはいかないから。さっさと元の場所へ帰るよ」
「明日また来ますっ!」
「いやだから来ないって…!」
「ありがとう、フレア、ラミィ。助けに来てくれて…」
「…礼を言われる事じゃない。私は別に…」
「素直じゃないな〜。良いんですよっ、これくらい! ラミィたちはやりたい事をやっただけですので!」
2人を見送り、ほっとしたスメラギだったが、すぐにその表情は翳る。
ヘーミッシュによれば、計画は終盤も終盤。もう後がない。
(これで最後、か…。そうなる前に、僕は…)
*
町を救ったということで、町の自治体から宿が無料で提供された。何ともRPGのような展開に、しかしスメラギ達は従うことにした。
今までだったら休息の時間は最低限に、ひたすらヘーミッシュ達を追っていたのだが、これには理由があった。
まず一つに、人間界で標的になりそうなリストの「対象」はもういなかった。唯一の懸念であった「宝鐘マリン」についても、海上にいる彼女たった1人を発見し襲うのは非効率的であろうという結論が出た。ただし、もう標的がいないということは、集められる「対象」を集め切ったということであり、次に彼らが何をしてくるか全く読めないということでもあるが。
もう一つはマーシェから、厳密にはシェラードが手に入れたマーシェの頭部ユニットから得られた。
宿の一室にスメラギやノエル達が勢揃いしている。
シェラードは一つの地図を壁に映し出す。
「これは…辺境部の地図?」
けど、とノエルはある地点を指差す。
「そうっぽいね。…あ、でもエルフの森はあるのにソフォレがない」
「この点、何だろ?」
さらに何かを示す点がいくつも散らばっていた。
「繋げたら何かあるとか?」
「さすがに安直すぎるよメル先輩…。それにここのほう、点が集中してるっ!」
「あのリストとは…少し違うね。点は全部陸にあるみたいだ」
そこで、シェラードはふと思いつく。
「これは異世界大戦期の遺跡を指しているのではないでしょうか。ソフォレには大戦時代の工廠がありますし、西の都市ゼボイムは昔は重要な拠点だったようですから」
「それにしても、何故大昔の遺跡を? 彼らの目的に何の関係があるのだ?」
あやめが疑問を投げかける。
「マーシェはヘーミッシュとの合流を待たず、単独で遺跡に向かっていました。彼女はヘーミッシュとは別に目的があるのでは? 遺跡で『何か』を見つけ出すという目的が」
「『何か』…? ゼノクロスに関連することかしら?」
「恐らくは。この地図と現在のものとで相違が見られるのが気になりますが…」
ともあれ、マーシェの足取りは掴めそうだ。
「でもマーシェを見つけて倒しても、どっちかが生き残ってたらまた復活しちゃうんでしょ? 2体同時に倒さなきゃ意味なくない?」
シオンの意見にあやめは頷く。
「シオンの言ってる事は一理あるな。では、2グループに分かれてヘーミッシュとマーシェそれぞれを追う、というのはどうだ?」
今までと違って、ヘーミッシュ達が大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。であるならば戦力を集中させる必要もない。
「そうだね。これ以上何かされる前に、さっさとやっつけちゃおう」
「どうやって分ける?」
「マーシェは多分ナノマシンを使って複数戦をしてくるだろう。マーシェを追うのは余達魔界学校組に任せてもらおう」
「じゃ、私とぼたんちゃんはヘーミッシュ担当だね!」
「おーけー。スメラギはどうする?」
「僕も…ヘーミッシュを追うよ」
おそらく、
だから、その前に倒す。絶対に。
(これ以上、奴の思い通りにはさせない…)
「では私たち白銀騎士団は団長らとは別にヘーミッシュの行方を追うことにします。何かありましたらご連絡いたします」
シェラードはそう言い、部屋を出ようとする。その時、
「…スメラギ・カランコエ。貴方を信用した訳ではありません。
シェラードは冷たく言い放つ。
スメラギの殺害を止めるようノエルに進言したのは紛れもなくシェラード本人ではあったが、それはノエル達へのリスクを考えてのことであり、彼のことを気に病んだからではない。
さらに、ノエルから魔界でのことを聞き、シェラードはスメラギに対する疑念は更に増していた。
「分かっているよ。……君たちを危険に晒すような真似はしない。それだけは覚えておいて欲しい」
*
スメラギは、ヘーミッシュが次の戦いでは『切り札』を使わないであろうとも予想していた。だから、ヘーミッシュの追跡に志願したのだ。
(おそらく彼らはどうにかして僕達を合流させてくる。その時が「最後」だ。それまでに、何としてでも…)
キィン…と脳内に声が響く。自分とは相反する考えがよぎる。あるいは、そちらの方こそ、正しい考えなのかもしれない。
(僕は嫌なんだ…っ。ゼノクロスと戦うのは僕1人でいい。だから、それまでは…)
「ぼたんちゃん、スメラギ君のこと、どう思う?」
自室に戻り、ノエルはぼたんに尋ねる。
「グレーかな。何か隠してるってのは前からだけど、先の件が終わってから少し焦っているような気がするんだよね」
先程助けてくれたエルフたちとスメラギの間に何かあった、訳ではないと思う。
だとしたら。
「…あのエルフの子たちで最後だとしたら」
ノエルは思考を巡らせながら呟く。
「ヘーミッシュは次に何をしてくるんだろう」
今まではリストの「対象」を集めることを優先していたから、こちらに直接攻撃を仕掛けることはなかった。
しかし、集め終わった今なら。
「スメラギがそれを知っていると?」
「そしてそれが、自分に向けられてるとしたら? スメラギはヘーミッシュに殺されるのを予期してるのかも」
「問題はどうやって殺すのか。あと何で殺そうとしているのか、か。ゼノクロスが世界を滅ぼしたことを知ってる唯一の人物だから、ていうのも本当かどうか分からないしね」
「ヘーミッシュもだけど、スメラギ君も要注意人物だね。いざとなったら…」
その先は口にはしなかった。まだしてはいけないと思った。
「…うん。覚悟はしておいた方がいいかもね」
「…ねぇ2人とも」
「どうしたんだシオン」
「何かしら?」
いつも軽い調子のシオンが、いつになく神妙な面持ちであやめとちょこに声をかける。
「あたし、聞いちゃったんだよね。スメラギさんとヘーミッシュが戦ってる最中に話してたこと」
「…なに?」
「何を話していたの?」
「うん…。あんまりちゃんとは聞こえなかったけど、『切り札は自分にある』とか『これでチェックメイトだ』、とかなんとか…」
「ふむ…チェックメイトというのは、「対象」を集めるというのは今回で最後、という意味だろうか?」
そう考えるのが自然なように思われた。集められる「対象」は大体集め切った、というあやめ達の認識とも一致する。
「切り札という言葉も気になるわね。「
「…ヘーミッシュの目的は、あたしたちを集めて、スメラギさんを倒すことだよね」
「あぁ。どんな方法を使うのかは分からないが、余達とスメラギさんを敵対させるのが目的なようだな」
「…その手段が『切り札』ってこと?」
つまり、あやめ達がスメラギを裏切るような、そうさせるに足る『何か』。
「その可能性はあるな」
「そもそもさ」
シオンが口を開く。
「何でスメラギさんを倒すためにあたしたちを集めてるんだろ? 自分達で直接倒せばいいんじゃないの?」
「…何か自分達では倒せない事情があるのか?」
あやめは腕を組んで考え込む。
冷静になってみれば、わざわざ各地に散らばっている人間や魔族、さらにエルフまで集めて戦力にするなんて、あまりに回りくどい計画だ。
「シンプルに、彼らでは戦力が足りないからって可能性もあるけれど」
「でもアイツらは量産できるし、数で攻めれば人間1人くらいは倒せそうな気もするよ?」
「数の問題なら、先の事件のように工場をジャックするなり魔物を使役するなり方法はある。それでも勝てないと踏んでいたのか…?」
アンドロイドが強いとはいえ、ただの、それも魔法が使えない人間にそこまで慎重になる理由が分からなかった。
「…もしかして、スメラギさん何か隠し持ってる力とかあるのかな。電気を操るだけじゃなくて」
確信までには至らない。だが、捨て去ることもできない疑念ではあった。
「……何にせよ、隠し事が多いな。スメラギさんは」
「まぁあたしたちとスメラギさんは、そんなに信頼し合ってる仲間でもないしね…」
ある意味では、それは「いざという時」の言い訳にも聞こえた。