【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~ 作:らっくぅ
「おい。なんでコイツを助けた。まだ未練があんのか?」
「違う…。彼女は、彼女達は、敵じゃない。守るべき存在だ。放ってはおけないよ…」
スメラギはロボットの少女──ロボ子を抱え、近くの廃ビルへと向かった。
部品がなくとも、ナノマシンがあれば代用はできた。スメラギはAPRILにサポートしてもらいながら、修理を始める。
『ロボ子様には私もお世話になっています。恩返しの為にも、彼女を修理すべきと判断します。』
「ハッ、機械が恩返しだと?」
オーガストはせせら笑う。
「いいかAPRIL。テメェはセンチュリオン搭載のAIだ。そのお前が俺達に指図してんじゃねぇよ。テメェが何を考えていようと、俺は誰かと手を組むつもりはねぇ。スメラギがまだ生きているから、こんな寄り道に付き合ってやってることを忘れんな」
『お言葉ですがオーガスト、破滅的な自己犠牲は誰も幸せにはしません。何の為に戦うのか、それをお忘れなきよう。』
「勘違いしてんじゃねぇ。俺は、俺の命を奪おうとする奴を殺すだけだ。世界の為? 仲間を守る為? そんな安っぽいヒロイズムで俺が戦ってるわけねぇだろうが」
「……」
APRILのその言葉に、一方スメラギは沈黙する。
自分は何の為に戦おうとしている?
あの時死ぬのを拒み、ゼノクロスと戦う事を決めたのは何故だ?
答えは分からない。
そんなもの、ないようにすらスメラギには思えた。
「僕には、分からないよ……ゼノクロスを倒すべきかどうかも。けど、倒すと決めたんだ。歩みを止める事はできない…」
『止まる事はできなくとも、またゴールを変えることができなくとも、どの道を歩むかを選ぶ事はできます。』
「進むべき道……。そんなの、もうとっくに……」
今の自分には選ぶ事すらできない。そんな勇気を、スメラギは持ち合わせていなかった。
そうこうしている内に、ロボ子の修復が完了する。
「…行こう。今度こそ、奴を倒しに」
スメラギが立ち上がり、ビルの外へ向かおうとすると、ポケットの中にいるAPRILがヴヴッと震える。その直後、
「ま、待って…君が、僕を助けてくれたの…?」
最悪の展開だ。よりによってこのタイミングで目覚めてしまうなんて。
「もののついでだよ。…僕は用事があるから、これで…」
振り返ることなく、早々に歩き去ろうとするスメラギを、ロボ子は慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっと待ってって! こんな所に、それも1人で来るなんて、よほどじゃない限りあり得ないよっ。君はどうしてここに?」
「……」
スメラギは沈黙する。
これ以上彼女達を巻き込むわけにはいかなかった。
それは、彼女の為にならない以上に、もう誰かに拒絶されたくないという思いからであった。
「君、1人で行くの?」
先程の質問に答える気がないと悟ると、ロボ子は質問を変える。
「…もちろん。独りの方が、気楽でいい…」
「嘘。本当にそう思ってるなら、何でそんな悲しそうにしてるの?」
ロボ子はゆっくりと立ち上がり、スメラギに近づく。
あぁ、まただ。
自分の進む道すら、こうもままならないのか。
どれだけ決意しようとも、世界は簡単に自分の思惑なんかぶち壊してくる。
これが運命ということなのだろうか。
「君には関係ない事だ。……これ以上、僕に関わらないでくれ。もう、誰かと関わるのは、嫌なんだ…」
それだけ言うと、スメラギは今度こそこの場を去ろうとする。
「…だとしてもっ。君が悲しそうにしてるなら、僕は助けたい!」
遠ざかっていくスメラギに、ロボ子は叫ぶ。
何があったのかは知らない。
名前だって聞いてない。
それでも。
全てを諦めたような顔をして、独りで途方もない責任を背負い込んでいるような人を、黙って見過ごすことなんかできない。
「何を抱えてるかなんてどうでもいい! 君がどんな絶望を味わったかなんて聞くつもりもない!
「……っ!」
その言葉は、スメラギを踏み止まらせた。
暖かな善意は、しかしスメラギの心を蝕んでいく。それはきっと、強くあろうとするからだ。強いということが何かを履き違えて。
『マスター。かつて私が貴方にしたアドバイスを覚えているのなら、どうすればいいか、分かるはずです。』
「信頼……」
するだけでも、されるだけでも駄目。
信頼し合うこと。それが、人間の真価を発揮する。
優しさは、弱い心を溶かしていった。
「独りで生きていくのは寂しいことだよ……。君が何か特別なモノを持っていたとしても、独りで生きなきゃいけない、なんてことはないよ」
「その力が…誰かを傷つけるものだとしてもかい?」
初めてスメラギは振り返り、ロボ子の目を見る。
それは、機械とは思えないほどに、綺麗な瞳だった。
「力の本質は、力そのものにあるんじゃない。それを持つ人の心にあるんだよ。僕はそう教わった」
「…優しいんだね。君を作った人は」
「うん。優しかったよ。僕はあの人からいっぱい優しさをもらった。だから僕も、君に優しさを分けたいんだ」
(おい。テメェ、また流されるつもりか? そうやって楽な方に流れて、どれだけ苦しみを味わってきた⁉︎何も学んじゃいねぇ‼︎仲間なんてのは一時の安心でしかない‼︎優しさは人を堕落させる毒であり、信頼は絶望への始まりだ‼︎俺たち『スターク』は、誰を信じる事なく、冷酷に、生きたいように生きる事しかできねぇんだよ!!!)
スメラギの半身が、そう叫ぶ。
オーガストは、自分だ。悲劇が起きるのが怖くて、正体を知られるのが怖くて、強がらなければ生きていけないという思いから生んでしまった、悲しき怪物だ。
だから、ずっと目を逸らしてきた。弱さを直視するのは、辛い事だから。
でも今なら。
誰かに支えられる、誰かを信頼する事を知ったスメラギなら。
「違うよオーガスト。確かにそれが僕たちの運命かもしれない。それは変えられないかもしれない。でも、変えようとする事はできる。そうする事に、意味があるんだ。……僕は邪神の力が怖かった。いや、邪神の力を持っている事が周りにバレるのが怖かった。虐げられ、いつかは殺されるんじゃないかと…。だから、邪神の力を誰かに押し付けたくて、君を生み出した」
(知れたことを。今更謝ろうって言うのか?)
「オーガスト。君も気づいているはずだ。ゼノクロスを倒すために、僕たちは手を取り合わなければいけない」
前の並行世界で、スメラギは表れそうになったオーガストを抑え、ゼノクロスと戦った。しかし惨敗に終わってしまった。
立ち上がらなければならない。このままもう一度彼女達を無駄死にさせるのか。
(……)
「君が生きる為に戦うと、死ぬ運命に抗うというのなら。僕に協力してくれ」
(…ハッ、ようやく逃げるのをやめたか)
相変わらず人を食ったような態度でオーガストは問う。
「ああ、逃げないよ。力の責任から逃げて、君と向き合うことから逃げて、結果みんなを傷つけ死なせてしまった…。だからもう、同じ過ちは繰り返さない」
スメラギは力強く答える。もう、動じることはない。
「向き合うよ。過去にも。今にも」
歩み出す。全てに決着をつけるために。
*
変化は、あちらだけではなかった。
あれからノエル達は、アイゼオンとゼボイムの中間にある町──トエイクで一度休むことにした。
「今日は疲れたな〜…」
部屋に着くなり、メルはベッドにバタンと倒れ込む。
一方るしあは、
「……」
「るしあちゃん?」
様子のおかしいるしあに、メルは声をかける。
だが無理もない。仲間だと思っていた人が、実は『スターク』で、今回の黒幕だったのだから。
「…確かに、ショックではあったけど、今更どうしようもないよ。私たちが、何とかしないと」
「あのっ…」
るしあは口を開くが、そこから言葉が出ない。
言うべきかずっと悩んでいた。だって信じられない事だったから。
でも、このまま1人で抱え込んでも、何も進まない事も分かっていた。
それに、ここで言わなければ取り返しのつかないことになる。
だから。
「実は…フレアとぺこらを、前に見たことがあるのです」
るしあは、言葉を選びながらゆっくりと話し始める。
「え? るしあちゃん、人間界に行ったことあったっけ…?」
唐突な話に、メルは首をかしげる。
「実際に姿を見たわけじゃなくて……その、見ちゃったのです。スメラギさんの記憶を。そこにフレアとるしあ、それにノエルと宝鐘マリンって子、あとぺこらがいたのです…」
「え、えぇと…るしあちゃん、死人の記憶しか見れないんじゃ…? それに、そこにるしあちゃんもいたって…、一体どういう事…っ?」
無理もない話だ。当のるしあ自体、なぜ記憶が見れたのかいまだに分からない。
でも、後者に関しては答えることはできた。
「多分、それはスメラギさんの故郷の記憶だと思うのです。スメラギさんは、るしあ達と出会う前からるしあ達を知っていた。正確には別世界のるしあ達を。そして「リスト」に載ってる子たちも、多分みんな知っているんだと思うのです。ヘーミッシュは、スメラギさんの過去の仲間を集めているのではないでしょうか」
「だとしたら……ヘーミッシュは、中身こそ違えど昔の仲間を使ってスメラギさんを殺そうとしたってことっ…⁉︎」
メルは思わず息を呑む。
確かに、仲間と戦いたい人なんていないが、こちらはそうではない。自分達にとって、スメラギは『赤の他人』でしかないのだ。
ヘーミッシュはそんな状況を利用して、スメラギの殺害を企てていたのだ。
「スメラギさん、辛そうだった…。昔の知り合いを目の前で失って…転移してきた先で同じ姿の別人と会ったと思ったら、よりにもよって戦わされてっ……そんなの、平気でいられるわけないのです…っ!」
もし自分が別世界に転移して、同じようにメルやシオン達と会ったら。
同じ姿形、声色の人物なのに別人として接しなければならない。思い出も感情も殺して。
それはきっと、並大抵のことじゃない。
「……るしあちゃんは、どうしたいの?」
メルは問う。るしあの選択を、静かに聞く。
「いくらスメラギさんが『スターク』だとしても、こんな仕打ち、酷すぎる」
今まで、うじうじしていた。
いきなり重要な鍵を渡され、その使い方も分からぬまま、流れに身を任せてきた。
だが、それももう辞めにしよう。
ここからは自分で切り拓く。
進むべき道を。
為すべきと思ったことを。
「助けたい。スメラギさんの正体とか、真の黒幕とか、そんなのに惑わされてちゃだめ。るしあのやりたい事、やり遂げたい!!」
上条当麻みたいなキャラ、大好きなんです
ようやく、スメラギの成長です。楽しくなってきたぜ…!