【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~   作:らっくぅ

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33話 その身に思いを載せて、青年は歩む

「着いたのら! ここがマイスフィールド邸なのらよ」

 

「ふぅ……ようやく帰って来たぁ…」

 

 ゼボイムから西へ数時間歩くと、農地や住宅の奥から飛行場や監視塔など、やたら物々しい軍事基地が現れた。ルーナがマイスフィールド邸と呼ぶ近代ヨーロッパの様式が見られる──先ほどのミリタリーな雰囲気とは明らかに相容れない様相ではあるが──大きな館は、さらにその奥に佇んでいた。

 

「あれ、あくあはルーナちゃんのメイドじゃないの?」

 

「あ、あたしはここのメイドなの。たまたまお使いで街に出かけてたんだけど、そこで運悪くルーナちゃんに捕まっちゃって、強引に…」

 

「何か言ったのら?」

 

「運良くルーナちゃんに誘われて! あたしの意志でここまで付いてきましたぁ!」

 

 ルーナに軽く圧をかけられただけで、あくあは半泣きで言い直す。

 

 この子はなんてか弱い生き物なんだろうと、思わずロボ子は同情してしまった。

 

 

 

 気を取り直して。

 

 あくあが先導して館の扉を開ける。

 

「ごしゅじーーーん!! お客様ですぅーーーー!!!」

 

 流石に勝手知ったる家の中では怖気付かないのか、先程の様子からは考えられないほどの声量で家主を呼ぶ。

 

 

 

 しばらくすると、2階から逞しい肉体をスーツに包んだ壮年の男が降りてきた。

 

「あ、ご主人。おはようございます」

 

「あぁおはよう。そしておかえり、あくあ。…して、客人とは? 私は今日、誰かと会う予定は無いのだが…」

 

 家主──シュテッフェンがやって来たと分かると、ルーナ達は玄関から少し前に出る。

 

「こんにちは! シュテッフェンのおっちゃん!」

 

「あぁ、ルーナ姫か。貴女はいつも急だな。それに君たちは、傭兵か? 今日は何の用事だね? 出来ることなら愉快な内容であって欲しいが」

 

「そんな気楽なもんじゃないのら! 世界の危機なのらっ!」

 

 それを聞くと、シュテッフェンはわずかに表情を硬くする。

 

「…それは、不愉快なだけでなく、厄介な用事のようだ。中へ案内するよ。そこで詳しい話を聞くとしよう。…あくあは仕事に戻っていなさい。ご苦労だった」

 

「あ、はい…」

 

「ほら、スメラギとロボ子ちゃんも行こっ」

 

「おっけー」

 

「あぁ」

 

「…スメラギ?」

 

 その名を聞き、シュテッフェンは足を止め振り返る。

 

「? 僕がどうかしましたか?」

 

「…あぁいや。そういえば『スメラギ』とは、アルヴィアスの『エース第3位』の名であったなと思い出しただけさ」

 

「なるほど…ご存じ頂けて光栄です」

 

 その返答に、スメラギは少し違和感を感じたが、追及はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…。つまり古代兵器であるゼノクロスが目覚め、並行世界を滅ぼした。そして次の標的はこの世界、ということだな」

 

「ええ。とすると姫森家の領地にあるその格納庫は、彼の補給地点として機能し得るということになりますね」

 

「ゼノクロスが万全の状態なら、この世界は既に滅んでいるのら。そうじゃない以上、ゼノクロスは数千年の時が経ったおかげである程度経年劣化していると予想できるのら」

 

 であるならば、ルーナの発見したドックの重要性は増してくる。ゼノクロスは、そこで自分を修復しようとするはずだ。

 

「なるほど…だからマーシェは遺跡を探して回っていたのか…。ゼノクロスが完全な状態になったら手が付けられなくなる。その前に彼を破壊しなければ」

 

 

 

「では、ルーナ姫は私にゼノクロスに対抗しうる戦力を集めよと言うのかな?」

 

「まぁそうなるかな。ルーナもルーナで戦力を集めるつもりなのらけど」

 

 そう言うと、ルーナはソファから立ち上がる。

 

「じゃあ早速家に帰って父上に頼んでくるのら。後であくあちゃん経由で連絡するのらっ!」

 

「あぁ待ちたまえ。帰るのなら私の兵を寄越すよ」

 

 まるで友達の家から帰るかのように1人でとっとと去ろうとするルーナを制止し、シュテッフェンは執事に兵を2人護衛に付けるよう伝える。

 

 

 

「…さて」

 

 ルーナが行った後、シュテッフェンはスメラギに目を向ける。

 

「君と少し話がしたいんだ、2人でな。いいかな?」

 

「…? えぇ、構いませんが…」

 

 スメラギはちらりと横にいるロボ子と視線を交わす。

 

「じゃあ僕、外で待ってるね」

 

「ありがとう、ロボ子さん」

 

 

 

 ロボ子が応接間を出ていくと、シュテッフェンは話を始める。

 

「スメラギ君、だったね。あくあとは話したか?」

 

「いえ、あまり…」

 

「ハハハ、そうだろう、あの子は人見知りだからな、初対面の人間と話すのは難易度が高かろう。それに頻繁にドジを踏むし、隠れてゲームをしていたりもするが…素直でいい子だよ」

 

「はぁ…」

 

 まさかこの話が本題という事はないだろう。スメラギは少々困惑しつつも、心の準備をする。

 

「…率直に聞こう。君は並行世界の住人か?」

 

 その質問に、身体が少し強張る。

 

「…えぇ、そうです。僕はこの世界の住人ではありません。…ですが何故?」

 

「並行世界が2つも滅びたという情報は、私ですら初耳だった。そんな情報を知っている君は、元はこの世界にいたのではないはずだ。いや、それどころか、実際に滅びる瞬間を目にしたのではないか?」

 

「そう、ですね…。僕は、ゼノクロスと戦い、敗北した。そして、世界が滅びるのを2度も許してしまった」

 

「そうか…。それを責めるつもりはないよ。…それよりも、並行世界の住人ということは、私やルーナ姫達とも知り合いだったのかな?」

 

「…そうだとしたら?」

 

 シュテッフェンの質問の真意を、スメラギは掴めなかった。

 

 少し怪訝な表情を浮かべ、スメラギは答えた。

 

「復讐のために戦っているのではと少し心配でね。別の私が何を言ったかは分からんが、それに縛られる必要なんてないのだからな。過去や誰かの願いの為に戦うのはよしたほうがいい。我々はいつだって、未来にしか影響を与える事ができないのだからな」

 

 それを聞き、スメラギは緊張を緩めた。

 

(あぁ、このシュテッフェンという人は…)

 

 シュテッフェンの言葉を、今のスメラギはフランクに受け取る事ができた。

 

 世界を託されたから。仲間を殺されたから。

 

 今までは、その為に戦ってきた。自分にとって、それだけ仲間というのは大切な存在だったから。

 

 でも、どうしたって消えたものは戻ってこない。過去を変える事は、できないのだ。

 

 だったら今の仲間を大事にすべきだ。彼女達の未来の為に。

 

 それを守り続けたいと願う自分の為に。

 

「ありがとうございます、マイスフィールド伯。戦います、僕は。誰かの為じゃない。僕自身の、願いの為に」

 

 いつものように穏やかな、それでいて力強く、スメラギは答える。

 

「あぁ。それでいい。君が何者であったとしても、君は『スメラギ・カランコエ』であるということを忘れるな」

 

 

 

 

 

「あ、スメラギ。おかえり〜」

 

「待っててくれてありがとう。ロボ子さん」

 

 応接間からスメラギがやって来たのを察知すると、ロボ子は広間の椅子から立ち上がってスメラギを出迎える。

 

「何の話をしてたの?」

 

「うーんまぁ……色んな人が、僕を支えてくれているんだなって」

 

 曖昧な回答だったが、それでロボ子には伝わった。

 

「…そっか」

 

 ロボ子は微笑みながらそれだけ言う。

 

 

 

「あ、ど、どもぉ〜…」

 

 と、そこへ仕事を終えたらしいあくあがやって来る。

 

「あ、あれ…ルーナちゃんは…?」

 

「ルーナちゃん帰っちゃったよ」

 

「はや……。あ、えと、お2人はこれからどうするんですか…?」

 

「ゼボイムに戻ろうかな。こうなった以上、あまりゆっくりもしていられないしね」

 

「あ、そ、そうですか…わざわざ付いてきてくれてありがとうございます…」

 

 あくあは律儀にお礼をする。

 

「いいっていいって! 僕たちにも関係あった事だもん。ね、スメラギ」

 

「あぁ。こちらこそありがとう。あくあ」

 

 このまま館を出ようとしたところで、今度はシュテッフェンがやって来る。

 

「マイスフィールド伯? 何もそんな早く動かなくても…」

 

「いや、今集めた方がいい。奴さんはこちらの都合なんか考えないだろうからな」

 

 どうやら、思い切りの良さは見た目通りであるようだ。

 

「あくあも付いてきてくれ。ここにいるという事は仕事は終わったのだろう?」

 

 その言葉に、あくあは目をぱちくりする。

 

「え、あたしも、ですか?」

 

「大体のことは私1人で片付くんだが、1人で動き回っては下の者に要らぬ心配を与えてしまう。まぁ要は護衛を頼みたいという事さ」

 

「失礼ですが…あくあは戦えるんですか?」

 

 今度は、スメラギが驚く。確か記憶が正しければ、彼女は戦闘に関しては全くの素人だったはずだが…

 

「ルーナ姫は知らなかったからな。君たちが知りようもないだろうが、あくあの銃の腕前はかなりのものだぞ。シミュレーションとはいえ、私は1回も勝てた事がない」

 

 ハハハ、と豪快に笑うシュテッフェンだが、反対にあくあは顔を赤らめもじもじしている。

 

「うぅ…あんまり言わないでくださいよぉ…」

 

「なんだ、もっと誇ってもいいんだぞ? だがまぁ、そういうことだ。心配はしなくていい」

 

「では、次に会う時はゼノクロスとの戦闘の直前という事になりますね」

 

「あぁ。それまでにお互い、やれるだけの事はやっておこう」

 

「ええ。ありがとうございました、マイスフィールド伯」

 

 スメラギは別れを言い、ロボ子と共に館を出ようとする。

 

「あぁ待て。私のことはシュテッフェンと呼んでくれ。我々は、共に戦う同志なのだから」

 

「…はい。行ってきます、シュテッフェン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、2人は再びゼボイムの郊外までやって来た。

 

「ここからトエイクまで行くんだよね?」

 

「いや、寄り道した分、彼女たちもこちらへ向かっているはず。今トエイクに向かったら行き違いになるかもしれない」

 

「じゃあここで待っとく? でも、お友達が素通りしちゃったりする可能性もあるよ?」

 

「大丈夫。みんなを呼び寄せる方法はある」

 

「それは?」

 

 スメラギは目を閉じ、やがて開ける。

 

「こうするんだよッ!!」

 

 轟ッッッ!!!!!!! 

 

 オーガストが目を覚まし、身体から邪神の力を放出する。

 

 何を破壊するわけでもなく、指向性を持たない『力』は全方位へその存在を誇示する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

「…ッ!!」

 

 思いを載せた邪悪極まりない『力』は、確かに彼女達に届いた。




あれ、おかしいな…当初の予定では、あくたんはレギュラーメンバーだったはずなのに、いつの間にかスポット参加になってるぞぉ…?

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