【本編完結済】ホロライブ・オルタナティブ~If this is inevitable fate, I will call it a curse~   作:らっくぅ

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私以外の人間がこれを読んでいるということは、恐らく私が死に、そして戦争がとうに終結した未来であろう。私と、戦争を終結させたであろう最大の貢献者××(判読不能)との対話の記録を、僅かながらここに記す。
これを世に広めるか否かはあなたに託そう。
だが1つ願うとするならば、
どうか彼のことを忘れないでいてやってほしい。


カララトの手記

1×××7年

4月4日

 今日は雲一つない晴天だ。こんな日は外に出て日光を浴びながら対話するのがいい。同僚からは平和ボケの穀潰しなどと揶揄されているが、そうは言っても彼の倫理観を養うには、単純なデータではなく生の人間との対話が必要なのだから仕方ないだろう。

 ただ、最近は彼と話すことを楽しみにしている自分がいる。何せ、まるで人工知能と話している気がしない。好奇心旺盛で純粋無垢な少年(彼と私は言っているが実際のところ、中性的な人格が設定されており、厳密には『少年』ではないのだが)と会話しているかのような気持ちになる。元々戦略史研究科志望だった私からすれば、非常に心躍るものだ。

 やれやれ、そろそろ同僚からの不本意な呼び名も否定できなくなってくるな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××8年

4月28日

 今日は彼に、戦いで人を殺すのと、街中で人を殺すのでは違いはあるのかと問われた。

 うーむ、なかなか難しい問いだ。私は確かに違いはないと答えた。その上で、しかし戦争で人殺しをする者たちは、少なくとも何かを守ろうとしている。愛する人や祖国、といったものを。

 私がそう付け加えると、では守るものがあれば殺傷行為は是認されるのか、と返ってきた。必ずしもそうではない。例えば財産を守る為に人を殺すのは明らかに悪いことだ。大事なのは、他者を手段としてではなく、それ自体目的として扱うことだと私は思う。

 無論、これは個人の意見に過ぎない為、こんな事を彼に教えるのは最良の道ではないかもしれないが…。まぁ、功利主義的な思考を持つよりは十分()()()だと言えるだろう。

 基本的に戦闘用AIは功利主義に則ってアルゴリズムが構築されている。実戦では倫理などほとんど意味をなさないからだ。

 だが、彼にはそんな風になって欲しくない。いや、彼は実際、小を殺し大を生かす選択をする事態に直面せずに戦いを終結させられるだけの力を持つことになる。だからこそ、今までのAIと同列の存在ではいけないのだ。「平和の為の兵器」に彼はならなくてはならない。

 ちなみにこの後さらに問答は続いたのだが、その全てを記述するのは報告書と変わりはないので、一部だけを書いた。まぁ見るのは私しかいないので、こんな事を書く必要はない訳だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××8年

7月29日

 戦闘用AIとしての彼の性能は随一だ。未だボディは完成していない為カタログスペックではあるが、シミュレーションでは数千万もの敵をたった数時間で殲滅してしまった。確かに、これだけの力があるのなら彼への教育は手が抜けないな。

 現段階ではあくまで有人操作で、彼はサポート役として搭載させる予定らしい。彼がサポートしてくれるのなら、操縦の技量が極めて凡庸な私がパイロットに選ばれても問題は無さそうだ。流石の私もAIを全面信頼するほど科学信奉者ではないが、彼がよき相棒となってくれることを願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××9年

12月28日

 今日の議題は、「少数の犠牲で世界を平和にできるならば、その行いは善なるものか」だ。つまるところ、戦争倫理において功利主義が最も善い主張なのかということだ。

 彼はもしかしたら、自分が他の人工知能と異なる存在であることを、疑問に感じているのかもしれない。『機械的』に物事を判断し、『機械的』にそれを実行するのが人工知能のあるべき姿であるはずなのに、そのように設計されなかった自分を。

 私は彼の問いに、「そういう風に考えてはいけない」と答えた。私自身、明白な答えを自分の中で見出していなかった。だから、心の奥に漠然と横たわっているその『何か』を、どうにかして言語化しようと試みた。

 誰かを犠牲にすれば平和になる、などと考えてはいけない。その誰かが何者であれ、初めから犠牲ありきで戦いを終わらせようとしては駄目なのだ。そのように近道ばかりしていては、人はきっと堕落する。

 誰も死ぬ事なく平和になる未来。それは理想に過ぎないかもしれない。だが、それを追い求める事こそ過去の惨劇を繰り返させない為の第一歩なのだ。

 そのように答えたと思う。久しぶりに、熱くなってしまったかもしれない。だがその甲斐あってか、彼にはその思いが伝わったようだ。

 

「そのように言ってくれてありがとう。私はあなたが教育係となってくれた事を、心から感謝したいと思う」

 彼が最後に言い放ったその言葉を、私は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×××1年

5月8日

 ボディの開発は順調だ。メカニックに聞いたところ、大体7割ほどは完成していると言う。彼が実戦に投入されれば、終戦は近い。平和のため、彼にはより一層頑張ってもらう必要があるな。

 もっとも、彼が成長するにつれて私の役割も反比例して減っているのは少し物寂しい事だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多元連合軍第15艦隊・第29空戦部隊所属 カララト・ハウワー少尉
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