とある姉達の心理感応(メンタルリンク)   作:絶対能力進化ver1.3

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第11話 『究明』

 

 『アイテム』が襲撃され、『風紀委員(ジャッジメント)』177支部で最近発生している高位能力者昏倒事件に『幻想御手(レベルアッパー)』で使われた技術が関わっていることが突き止められたのと時を同じくして。

 

 

 常盤台中学の最大派閥を率いる食蜂操祈もまた、独自の情報網で自身のクローンの存在を突き止めていた。

 

「御坂さん、ちょっといいかしらぁ」

 

 常盤台中学の廊下にて、珍しく一人でいる食蜂操祈から呼び止められた美琴は、彼女の手招きに従って人気のない場所へと移動する。

 

 傍目には友達とちょっとした内緒話といった体だが、日頃の仲の悪さから察するに単なる世間話などではない。それでもわざわざ誘ってきたということは、それだけ重要な話があるのだろう。

 

 

 廊下を少し進んだ先にある、普段あまり使われないメイド用待合室(お嬢様な生徒に仕えるメイドたちが、たまに休憩してる)で、食蜂は自動販売機の前に立った。

 

「御坂さんも何か飲む?」

「えーっと、じゃあ『ヤシの実サイダー』で」

「……それ、美味しいの?」

 

 何とも微妙な引き顔のなりながらも、オーダー通りに食蜂は『ヤシの実サイダー』と書かれたボタンを押す。

 ちなみに食蜂自身は『超健康補助飲料 ガラナ青汁』を購入した。

 

 

「さっきカイツから連絡があったわ」

 

 カイツ=ノックレーベンは、食蜂が雇っている金髪の白人男性だ。警備強化専門の「知的傭兵(アドバイザー)」を自称して情報戦を得意とするだけあって、大覇星祭の時も食蜂の依頼で御坂妹を保護して木原幻生と対峙していた。

 

 彼もまた『妹達(シスターズ)』の存在を知る人物の1人でもあり、美琴に緊張が走る。

 

「結論から先に言わせてもらうけどぉ、噂になってた私のクローン……『妹達』の『心理掌握(メンタルアウト)』版が存在することはホントらしいわぁ」

 

 

 食蜂が派閥を総動員して捜索したところ、『書庫(バンク)』に登録されている精神系能力者の数と、各学校に所属している精神能力者の総数が一致していないことが分かった。

 

「もちろん、無能力者ってことにして隠蔽しているクローンが大部分だろうから、見つけたのは氷山の一角なんでしょうけど」

 

 仮に学校や施設に登録されているにしても、バラバラに分散させて所属されているため、身元を追うのは困難だ。

 

 

 そこで食蜂が目をつけたのは能力者本人ではなく、その能力開発を担当する研究者だった。

 

 

 そして彼女の予想通り『外装代脳(エクステリア)』に関係する施設や研究者の中に、『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画および「量産型能力者(レディオノイズ)』計画のヒト・モノ・カネが多数紛れていることを突き止めた。

 

「やっぱり……」

「でも、問題はここからなのよ」

 

 食蜂は気だるげな表情を浮かべて、御坂美琴に告げる。

 

 

「私のクローン達……『姉達(エルダーズ)』も、御坂さんのクローン達と同じように“ネットワーク”を作れるみたいなんだゾ♪」

 

 

「んなっ!?」

 

 それが何を意味するか分からないほど、御坂美琴は愚かではない。

 

 

「じゃあ、また誰かが悪用して何かしようっての?」

 

 『妹達』の脳波リンクで形成されたミサカネットワークは、その処理能力の高さに目をつけられて少なくない人間に狙われている。『絶対能力進化(レベル6シフト)』実験こそ終わったものの、まだ安心できる状況ではない。

 

 

 だが、食蜂の返事は予想外のものだった。

 

「私もそう思って『姉達』を生み出した研究機関を派閥の子たちに調べさせたんだけど、逆だったわ」

「……逆?」

 

 どういう意味だ?と尋ねる御坂に、食蜂は「つまり」と続けた。

 

「研究者たちに『姉達』が()()()()()()()んじゃなくて、『姉達』が研究者たちを()()()()()()、ってこと」

 

 

 ――かつて、食蜂自身が『才人工房(クローンドリー)』を組織ごと洗脳して乗っ取ったように。

 

 

「私の派閥の子たちが特定した時には、もう研究者たちは全員が『姉達』に洗脳されていたわ」

 

 

 その、意味するところはひとつ。

 

 

「『姉達』は何か()()()()()()()()()()()()()()。ネットワークを通じて、ね」

 

 

 まるで蜂や蟻の群れのように。食蜂操祈のクローン達―――『姉達』は自らの意思で、何か目的をもって動き始めている。

 

 

 そうなのだとしたら――。

 

 

「……何をするつもりなの?」

「さぁ? そこまでは分からないわぁ」

 

 食蜂は肩をすくめ、皮肉っぽい表情になる。

 

「けど、なんとなくロクな目的じゃなさそうなのよねぇ。なにせ、『姉達』計画の推進者は()()“木原幻生”だし」

 

 

「木原幻生……」

 

 

 食蜂の口から出たその名を、御坂美琴もまた呟く。彼女にとっても、木原幻生は因縁のある相手だ。

 

 

「カイツから、追加の情報よぉ」

 

 そう言って食蜂が見せたスマホには、1人の女性が映っていた。

 

 

「断崖大学・修士課程1年、木原ミサキ――能力はレベル4の『心理感応(メンタルリンク)』で、私と同じ精神系ね。この子が『姉達』を統括する上位個体」

 

 

 スマホのプロフィール欄に移っていたのは、奇しくも『アイテム』の携帯に映っていたのと同じもの。堂々と断崖大学大学院・脳科学研究科・木原研究室・研究室紹介みたいなサイトに掲載されていて、いっそ清々しい。

 

「アンタと同じ名前に『木原』って……」

「よりにもよって木原一族に入ってるとは、私の想像力でも思いつかなかったわぁ」

 

 

 木原……学園都市の研究者たちの中では、有名な科学者の一族だ。血縁関係は様々だが、いずれも優れた科学者でありながら人を人とも思わぬ残忍な実験を強行する「木原の性質」を持ち主。

 

 目指すもの立派でも目的の為に手段を選ばず、「実験に際し一切のブレーキを掛けず、実験体の限界を無視して壊す」ことを信条とするほど。

 

 

(身元不明が怪しい精神能力者の能力開発には、大勢の『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画と『量産型能力者(レディオノイズ)』計画の関係者が関わっていた。そして2つの計画の背後には、常に木原幻生がいた……)

 

 そこで木原一族をカイツに調べさせたところ、結果はビンゴと来た。

 

 

 もちろん、嬉しくもなんともない。むしろ「とんでもなく面倒なことになりそうだ」という嫌な予感がぷんぷん漂っている。

 

 

 御坂美琴もまた、無言のまま硬い表情になった。

 

 

 『絶対能力進化』計画にて『妹達』を生み出し、先の大覇星祭でもミサカネットワークと御坂美琴を使ってレベル6を生み出そうとした木原幻生――。

 

 幻生の孫娘でもあり「体晶」による暴走能力をの制御によって「置き去り(チャイルドエラー)」の枝先万里を使った独自のレベル6シフト事件を進めていたテレスティーナ・木原・ライフライン――。

 

 そして『幻想御手』事件を引き起こした木山春生に、その基となるアイデアを与えたのも木原幻生だった。

 

 

「……つくづく、木原って碌な思い出が無いわね」

「その点は同意するわぁ」

 

 珍しく意見が一致する二人。

 

 

 いずれにせよ、『木原』姓を名乗っている以上は、送られていた写真の女にも警戒するに越したことはない。

 

「アンタのクローンが木原一族に関わってるとか、嫌な予感しかしないんだけど」

「……“木原一族が関わってる”から前は余計じゃないかしらぁ?」

 

 いかにクローンいえども、それを悪く言われるのは自分を悪く言われたようで心外である。食蜂は「アナタねぇ……」という顔をしつつも、実際に事件が起こっている以上は弁論のしようもない。

 

 

「それで食蜂、ソイツの居場所は突き止めたの?」

「もちろん、手配済みよ。あまり私のコネクションを甘く見ない方がいいんだゾ」

 

 そこでタイミングよく、食蜂のスマホから着信音が鳴る。

 

 

『もしもーし、操祈ちゃん。私だけど』

 

「高齢者狙いの詐欺みたいに言わないの。それで看取さん、手掛かりは見つかったかしら?」

 

 

 食蜂に電話をかけてきた相手の名は警策看取。大覇星祭では木原幻生と組んで、学園都市を崩壊させようとした黒幕の1人でもある。

 

 彼女はかつて『才人工房(クローンドリー)』という研究機関で能力開発を受けていたが、そこで仲良くなったドリーというクローンの少女を実験動物扱いする学園都市の闇に触れ、復讐のために木原と互いを利用し合っていた。

 

 しかし計画が失敗に終わった後、ドリーの2人目の友達となった食蜂からドリーには記憶と経験を受け継いだ妹がいることを知らされる。

 そしてドリーとの再会を経てからは食蜂とも和解し、その後はドリーのお守りをしつつ食蜂の協力者となっていた。

 

 今では、互いを『操祈ちゃん』『看取さん』と呼び合うぐらいの仲である。

 

 

『一応、断崖大学に登録されてるデータから住所をあたってみたけど、実験や居場所の手掛かりになりそうなものはなかったね。大学にも先週ぐらいから来てないみたい』

「まぁ、当然といえば当然よね。流石にそこまで馬鹿だとは思ってないけど」

 

 それから、と警策が続ける。

 

『個人に関する情報の手掛かりになりそうなものなら、いくつかあるけど詳しく知りたい?」

「例えば?」

 

『彼氏っぽい人物とのツーショット写真とか、冷蔵庫に入ってる芋焼酎とかアサイーとかマカロンとか、後はやたら充実してるコスメグッズと服のストックとか』

「ほんと、どうでもいい情報ね……」

 

 とりあえず、表面的には充実した大学生ライフをエンジョイしてるらしいことが分かった。

 

『一応、今その木原ミサキのアパートに、小型カメラを持たせた『液化人影(リキッドシャドウ)』を潜入させてるんだけど……ナニナニ、えーっと、こっちのファッション誌は第15学区の穴場バー巡り特集で、あとはラクロスとヨガの本に、キャンプで使えるレシピ本、それからボルダリング入門なんかもあるね』

 

「「………」」

 

 なんとなく木原ミサキがどういう人種なのか、御坂美琴にも分かってきた。

 

 トレンドに敏感で、ジムに通ったりスーパーフードで食事に気を使ってる自分大好き、そして実際にリアルがめちゃくちゃ充実してる都会のイマドキ女子大生。

 

「……食蜂、アンタそういう大人になるのね。うん、なんか納得した」

「人の未来を勝手に決めつけて納得しないでくれるぅ!?」

 

 食蜂の抗議を無視して、うんうんと頷く美琴。。

 

『えっ、ナニナニひょっとして美琴ちゃん近くにいるの?』

「隣にいるわよ。御坂さん、いま電話で話てるのが警策看取さん。大覇星祭の黒幕よぉ」

『ちょっとちょっと、操祈ちゃん紹介の仕方!? まぁ、それほど間違ってはいないんだけどさ……」

 

 自分の復讐に巻き込んでしまって思うところがあるのか、警策看取は抗議するも最後の方は尻すぼみになっていく。

 

 

「警策さん、だっけ? 一応、大体の事情は黒子と食蜂から聞いてるから」

 

 食蜂に代わり、美琴が電話に出る。

 

「アンタのやったことはまぁ、褒められた行動じゃないけどさ……でも、そのドリーって子を大事に思ってくれたことには感謝してる。一応、私の妹の一人みたいなもんだし……会ったことはないけど」

『……ありがとう。それから、ごめんなさい』

 

 電話越しで顔は見えないが、警策看取の声からは誠実さが感じられた。

 

「あー、盛り上がってるとこ悪いんだけどぉ、2人とも感動の仲直りは後にしてくれないかしらぁ?」

 

 そこで食蜂が割って入る。

 

「看取さん、外でカイツが待機してるはずだから、一旦こっちに戻ってきてちょうだい。改めて対策を話し合うわ。連絡先は今送ったと所よぉ」

『……マジで? ジャッジメント177支部って、白井ちゃんとこだよね?』

 

 うげ、と警策が奇妙な声を上げる。大覇星祭で白井黒子とは激闘した仲だ。ちょっと気まずい部分があるのだろう。

 

 

「当然よぉ、総力戦で行くんだから。だって」

 

 

 

 ――相手はこの、食蜂操祈のクローンなのだから。

 

 

 

 そう言って不敵な笑顔を浮かべる、食蜂操祈。

 

 

 そう、今回の相手は生半可な手じゃ通用しない。必ず極めて用心深く、計画的で、美しさと能力を兼ね備えているはずだ、と。

   

 誰に言われるまでもなく、そんな確信があった。

   




 個人的に、警策看取は霧が丘中学付属の制服のがタイプだったり。

 あと全体的にクローンドリー出身者、普通に優秀なので「天才や偉人級の人間を人工的に生み出す」って目的は割と普通に頑張ればどうにかなりそうだと思ってる。
 
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