とある姉達の心理感応(メンタルリンク) 作:絶対能力進化ver1.3
第14話 『スクール』
学び舎の園……常盤台中学を含む5つの名門女子高が共同管理している乙女の花園だ。
「っ……これは!」
白井黒子が苦々しげに声を漏らす。
慌てて瞬間移動した学び舎の園では、野戦病院さながらの光景が広がっている。見たことも無い数の救急車が詰めかけ、大勢の生徒をレスキュー隊員が担架で運びこんでいた。
色とりどりの花が咲き誇る庭には運びきれない被害者の為のテントが設営され、グラウンドには救急患者を空輸するためのヘリコプターが何台も離着陸を繰り返している。
「一歩、遅かったようですわね……ッ!」
思わず舌打ちする。あと少し、気づくのが早ければ。
「あれは……」
簡易ベッドに寝かされている生徒の姿に、見覚えのある者がいた。特徴的な広いおでこに長い黒髪、そして扇子……。
「婚后さん……!」
同じ常盤台中学1年でレベル4の「
すぐ傍には、ウェーブのかかったセミショートの茶髪の生徒も簡易ベッドの上で倒れている。
「湾内さんまで……」
不幸中の幸いと言えるのは、昏倒した2人を看病している黒髪ロングの女子生徒に見覚えがあったからだ。
(泡浮さんは無事だったようですわね)
少しだけ、心が軽くなったような気がする。甲斐甲斐しく看病してくれる人間がまだ残っていたという安心感と、残っていた泡浮万彬がレベル3であるということの2点からだった。
(泡浮さんは湾内さんと同じレベル3……レベル4の婚后さんを昏倒させるほどの能力がありながら放置されているということは、犯人の木原ミサキはもう此処に用は無いということ)
少なくともこれ以上、学び舎の園で被害が拡大することは無さそうだ。
(ですが、犯人の木原ミサキは常盤台を始め多くの中~高位能力者をネットワークに取り込んだはず。ますます手が付けられませんわね……)
――そんな彼女が次に狙う得物は何か。
その答えは分からない。ただ、分かるのは時間の問題だということは理解できた。それも、そう遠くない内に。
***
ちょうどその頃、第18学区・霧が丘女学院の近くに位置する素粒子工学研究所には、4人の男女グループが1つの部屋に集まっていた。
「……これだけ襲撃がスムーズに進むと、逆に気味がわりぃな」
暗部組織の1つ『スクール』のリーダー・垣根帝督が、巨大な金属の箱を開けながら呟いた。
「これが『ピンセット』か」
超微粒子干渉用吸着式マニピュレータ、通称『ピンセット』――磁力・光波・電子などを利用して、原子よりも小さな素粒子を「吸い取る」機械の指だ。
垣根は工具箱を開けると、中からドライバーを取り出して大型装置『ピンセット』のネジを緩めていく。
「せっかく手に入れたのに、壊しちゃうんですか?」
スナイパーの弓箭猟虎が首を傾げる。
フレンダと佐天への襲撃が急きょ中止となった後、彼女を含めて『スクール』のメンバーは垣根と行動を共にしていた。
本来であれば彼女たちが今いる素粒子工学研究所への襲撃は2日後に予定されていたのだが、原因不明の大規模な能力者昏倒事件が学園都市中で発生しているのを受けて、垣根は計画を前倒しで実行することにした。
そして実際に垣根の読み通り、原因不明の事件に対応するべく、様々な人員や組織に警備が割かれるといったイレギュラーが生じた。
その警備体制の隙をついて手薄になった素粒子工学研究所を襲撃したところ、拍子抜けするほどあっさりと『ピンセット』へ辿り着いた。
「貴重な獲物を壊すわけないだろ。組み直してんだよ」
垣根はつまらなそうな顔で肩をすくめた。
「こいつは盗難防止のためにデカく作られてるが、必要最低限のパーツだけ集めりゃもっと小さくできるはずだ」
ガチャガチャと組み直す音がしばらく続き、やがて本来の最適化された形へと変化する。
垣根の人差し指と中指の2本にガラスで出来た長い爪のようなものがあり、さらに爪の中には細い金属の杭のようなパーツが収まっている。
手の甲の部分には携帯電話のような小さいモニターがあり、ガラスの爪から抽出した素粒子を金属杭で測定した結果が表示される。
「いつも疑問に思ってた」
垣根は爪をカタカタを鳴らしながら呟く。
「アレイスターのクソ野郎は、俺たちの動向を知り過ぎてるってな」
防犯カメラや警備ロボット、衛星だけの監視では到底知りえないほどの情報を、アレイスターを含む統括理事会は持っている。それが疑問でならなかった。
「なんて事は無い。街中に見えない監視機器を5000万ほどバラ撒いて情報収集してたんだ。そりゃ隅々まで知り尽くしてて当然だな」
その監視装置群の名は、『
形状はボール状のボディの側面から、針金状の繊毛が左右に3対、6本飛び出しているというもの。移動方法も地上を歩くのではなく、空気中を漂うといった感覚に近い。
この極小の機械は空気中の対流をうけて自家発電を行い、半永久的に情報を収集し、量子信号をつかったネットワークを形成している。
『滞空回線』は『窓の無いビル』と直結する唯一の玄関口であり、当然ながらその小さな体内には世界を揺るがすほどの‟最暗部”の情報がいくつも隠されているはずだ。
だが、垣根が『滞空回線』の存在を知ったところで、そこから情報を取り出す手段が無かった。そこで必要とされたのが『ピンセット』という訳だ。
垣根はこれを使って、アレイスターとの直接交渉権を得ようと考えていた。
「よし、良い感じた。次の行動に移るぞ」
了解、と残りのメンバーが頷いた時だった。
バギン!!という鋭い金属音が部屋中に響き渡る。
驚いた『スクール』の面々がそちらを見ると、分厚い壁がドアのように四角く切り取られていた。
「敵襲ですね……『グループ』か、それとも『アイテム』でしょうか?」
レベル4の誉望万化が呟く。
即座に警戒態勢をとる4人だが、返ってきたのはこの場に似合わぬ柔和な女の声だった。
「あら残念、どっちもハズレよ」
明らかに場違いに思える、たおやかで落ち着いた声。綺麗に切り取られた壁の向こうから、1人の女性が歩いてくる。
見た目は女子大生。それも、生まれも育ちも良くて何ひとつ不自由なく育ってきたような、いかにも「高嶺の花」といったタイプの女だ。
「こんにちは、『スクール』の皆さん」
「……誰だ」
垣根がぶっきらぼうに答えると、女は「あ、そういえば自己紹介がまだだった」と呑気に返してきた。
「木原ミサキです、よろしくね」
丁寧な仕草でぺこり、と頭を下げる。とても暗部の人間には見えない、都会的で洗練された女性の優雅な振る舞い――。
だからこそ一層、目の前にいる女の異常さが際立っていた。
これがただの女子大生なら、こんな非日常的な風景の中で日常と寸分違わず振る舞えるはずがない。
「アレイスターの使い、ってわけじゃ無さそうだな」
垣根は咄嗟にそう判断した。
もし垣根たちの計画を察知したアレイスターの討伐部隊であれば、問答無用で『スクール』を攻撃しているはずだ。
わざわざのんびり自己紹介なんてしているということは、目の前の女に今この場でやり合う気がないということ。
「……ひょっとして、テメェが今回の騒動の黒幕か」
「ご名答、さすがは学園都市第2位のレベル5。どうしてまだ『
「ナメてんのか。よっぽど愉快な死体になりてぇと見える」
わざわざ「第2候補」なんて本人の前で煽る胆力は大したものだが、そのツケは決して小さくない。
――そして。
次の瞬間には、ドバァ!!と木原ミサキの身体を正体不明の白い翼が貫いていた。
**
「ぁ……、」
エメラルドグリーンの瞳が、驚いたように見開かれていた。
木原ミサキは何がゆっくりと自分の眼を下へ向けると、脇腹から白く輝く翼の先端が刃物のように飛び出している。そこから下は、真っ赤に染まっていた。
「か、はっ……!」
木原ミサキは大量の血を吐き出すと、ぐらりと身体を傾けて地面に倒れていった。時間の経過とともに、血の池が恐ろしいほど広がっていく。
「……」
垣根提督は無言でそれを眺めていた。
彼の背中から、天使の羽のように6枚の翼がゆったりと広がっていく。これが垣根帝督の持つ超能力『
この世に存在しない物質「未元物質」を生み出し、周囲を異法則の世界へと書き換えることで、物理法則ではありえない現象を引き起こす。
「まだ見つかっていない」「理論上は存在するはず」といったモノではなく、正真正銘「この世界には存在しない物質」だ。ゆえにこの世界の物理法則に従う必要はなく、相互作用した物質もこの世のものでない独自の物理法則に従い、『未元物質』は動き出す。
つまるところ垣根の能力は、単に変わった物質を作るというだけはでなく、物理法則そのものを塗り替えてしまう能力でもあるのだ。
実際、この『未元物質』を使って天使のような白い6枚の翼を生み出すことで、垣根は飛行に防御・打・斬・風・衝撃波・光線など様々な応用性を持つ。
学園都市に7人しかいないレベル5といえども、第3位以下に比べれば垣根の能力は突出している。
ゆえに、所詮はレベル4の超能力者でしかない木原ミサキ程度であれば、垣根がその気になれば瞬殺されるのは当然の結果といえよう。
だが―――。
「なるほど、これが『未元物質』なのねぇ。わたし、死んでみる価値あるか不安だったけど、想像以上で安心しちゃった」
四角く切り取られた壁の向こうから聞こえてきたのは、今さっき殺したはずの木原ミサキのものだった。
みんな大好き垣根帝督。初登場の頃が全盛期で、話が進むごとに段々いたたまれなくなってくる・・・。