とある姉達の心理感応(メンタルリンク)   作:絶対能力進化ver1.3

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第15話 『垣根帝督』

「なるほど、これが『未元物質』なのねぇ。わたし、死んでみる価値あるか不安だったけど、想像以上で安心しちゃった」

 

 

 四角く切り取られた壁の向こうから聞こえてきたのは、今さっき殺したはずの木原ミサキのものだった。

 

 再び壁の向こうから現れた木原ミサキは、今度はシンプルなTシャツとデニムのホットパンツを着込んでいる。

 ブラウンの髪の毛は低い位置でサイドテールにまとめられており、ややアクティブな印象だ。

 

「ねぇ、さっきの子とどっちが好み?」

「知るかボケ」

 

 垣根は悪態を吐きながら、6枚の翼を構えた。油断なく木原ミサキを警戒しながら、背後にいる『スクール』のメンバーに短く指示を出す。

 

「下がってろ。コイツは俺の獲物だ」

「それはどうも」

 

 ドレスの少女――獄彩海美は感慨もなく、あっさりとした口調で答えた。この場にいても邪魔になるだけだと判断したのだろう。

 

「ケリがついたら教えてね。その間、『アイテム』の連中への対応策でも練っておく」

 

 おう、と垣根が答えると『スクール』のメンバーたちは立ち去って行った。薄情というより、垣根の勝利を確信しているからこそ、敢えて余計なことはしない。

 

 

 そして2人きりになったところで、垣根の背中から生えた白い翼が大きく広がっていく。天使のような翼が、ゆっくりと羽ばたいた。

 

「ふふっ、信頼されてるのね。メルヘン君」

「やめろ、自覚はある」

 

 言葉と共に、二人は激突した。

 

 

 

 ***

 

 

 先ほどと違って、今回は木原ミサキの方が早かった。

 

 轟!!という烈風が、木原ミサキの正面から垣根のいる場所へと突き抜ける。風速120メートルに達する空気の塊が、砲弾となって真横へ飛んだ垣根を打ち落とそう飛んでいく。

 

「っ!」

 

 器用に翼を動かし、垣根は一気に数十メートルも飛翔して建物の壁を破壊して飛び出し、大通りの中央分離帯の上に着地した。

 

( 今のは『風力使い(エアロシューター)』か? だが、ヤツは精神系能力者のはず……)

 

 頭に浮かんだ疑問が解ける前に、カツンと高い音が響いた。見れば、垣根のいる中央分離帯のすぐ横の路面に、木原ミサキが足を乗せたところだった。

 

 

「っ……!」

 

 一体どうやって接近したのか、いつの間にそれを実行したのか―――推測する間もなく、木原ミサキが腕を突き出し、その延長線上に炎がばら撒かれる。

 

(今度は『火炎放射(ファイアスロアー)』か!?)

 

 垣根は僅かに驚愕しつつ、翼を使って身を守った。炎が翼に燃え移ると同時に、自ら翼の一枚を無数の翼に変換して拡散させ、延焼が自分自身へと伝わるのを阻害する。

 

 

「オーケー、なんとなくテメェの能力が分かってきたよ」

 

 垣根が呟く。

 

「本物の『多重能力(デュアルスキル)』か紛い物の『多才能力(マルチスキル)』かは知らねぇが、複数の能力を操る能力者っては確かみてぇだな……ったく、器用なもんだ」

 

 ヒューッと軽く口笛を吹いて、その能力を賞賛する。

 

 

 だが、敵への賞賛というのは余裕の表れだ。最終的には自分が勝つと思っているからこそ、相手の健闘を称えるだけの余裕が持てる。

 

「ひとつだけ教えといてやる。能力者は量より質だ。そもそも、どうしてレベル4とレベル5が分けられているか知ってるか?」

 

 垣根は笑いながら、緩やかに両手を広げてこう言った。

 

 

 

「その間に、絶対的な壁があるからだ」

 

 

 

 たしかに複数の能力が使えれば、その分だけ手数は増えるだろう。戦術の幅も広がるかもしれない。

 

 

 それでも、行使できる能力の強さそのものはレベル3からレベル4程度でしかないのだ。

 

「足し算じゃねぇんだよ。レベル3だのレベル4風情が寄ってたかって束になろうが、レベル5には届かない。仮にも木原一族に名を連ねているなら、それぐら分かるもんだと思っていたがな」

 

 

「そこまで言わなくても……わたし、悲しい……」

 

 しゅん、と肩を落とす木原ミサキ。

 

「相似先輩のデータだと、‟3300以上の事象を同時に展開可能”って話だったから、倍の7000パターンぐらいの能力を集めればいけるかなって思ったんだけど」

 

「足りねぇな」

 

 垣根の翼が音も無く伸びる。20メートル以上に達した翼は巨大な剣のようで。『瞬間移動(テレポート)』で回避を試みる木原ミサキに向けて、ゴバッ!!と凄まじい光を放った。

 

「きゃっ!?」

 

 テレポートを繰り返して距離を取っていた木原ミサキが、突如として制御を失ったように墜落する。

 

 

「今のは11次元への特殊変換を妨害する光波だ。正確には『回折』を使った未元物質による、空間そのものへの干渉だがな」

 

 未元物質は、この世に存在しない素粒子を生み出し、操作する能力だ。既存の物理法則は通じない。

 

 それこそ、ピンポイントで「瞬間移動のために必要な、3次元から11次元へ特殊変換だけを歪める光線」を作り出すことさえ可能である。

 

 

 そして白い翼には目に見えないほど細かい隙間があり、その隙間を通った太陽光が性質を変え、空間が変質することでテレポートを妨害した。

 

 つまり白い翼が放った光が瞬間移動を妨害したのではなく、白い翼を通過した光が性質を変え、その光が通過した空間が瞬間移動できない空間へと変化したのだ。

 

 

「ま、何にしても応用次第だよ。そして俺の未元物質が持つ応用の可能性は無限大だ」

 

 垣根の生み出す『未元物質』は、この世に存在しない物質である。

 

 それは『まだ見つかっていない』、あるいは『理論上存在するはず』というような話ではない。本当に存在しない、レベル5によって生み出された新物質だ。

 

 

 物理法則を無視し、まるで異世界から直接引きずり出してきたような白い翼。それは突風だろうと雷撃だろうと、既存の物理法則の全てを無力化する。

 

 

「でも、それなら――」

 

 再び、木原ミサキが矢継ぎ早に繰り出す。

 

 炎の雨、雷の剣、氷の槍、風の刃……さらには転がっていたアルミ缶を『量子変速(シンクロトロン)』で爆発させたり、果ては『表層融解(フラックスコート)」の応用で液状化したアスファルトの沼に沈める、『念動力(テレキネシス)」で放り投げた自動車を『発火能力(パイロキネシス)』で爆発させてミサイルのように打ち込んだり。

 

 

 しかし、そのどれも垣根帝督に傷ひとつ付けることは出来なかった。

 

 

「よくもまぁ、これだけ多様な能力を集めたもんだよ。なかなかコレクションとしては悪くない。レベル5相手でも麦野あたりなら、組み合わせ次第じゃ弱点の1つや2つは見つけられるかもしれねぇな」

 

 だが、と垣根は呟いて告げる。

 

 

 

「俺の『未元物質』にその常識は通用しねぇ」

 

 

 

 再び、垣根の背中から唸りと共に新しい翼が生えた。

 

「手札は後どれだけ残ってるんだ? 数十か? 数百か?」

 

 垣根はせせら笑った。

 

 たとえ数千数万だろうが、未元物質はその全ての可能性に対応し、粉砕する。木原ミサキの能力に対抗できる物質を生み出し、物理法則を変化させ、防御にも攻撃にも応用できる無限の可能性。

 

 

 それこそが――。

 

 

「これが『未元物質(ダークマター)』だ」

 

 

 垣根は笑いながら6枚の翼を構える。

 

「異物の混ざったこの空間は、テメェの知る世界じゃねえんだよ」

 

 

 木原ミサキが能力の組み合わせによって新しい現象を発動させても、垣根の未元物質はすぐにそれに対抗できるような、この世に存在しない素粒子を引きずり出す。

 

 そうやって生み出された未元物質を操作することで、木原ミサキの持ち札を1つ1つ潰していけば、いずれチェックメイトの時が訪れる……。

 

 

 その、――はずだった。

  




 いちいち台詞がかっこいいんですよね、第2位って。
 
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