とある姉達の心理感応(メンタルリンク)   作:絶対能力進化ver1.3

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第17話 『帆風潤子』

 自分は何をやっているんだろう、と帆風潤子は首を傾げていた。

 

 巨大な縦ロールが特徴的な彼女は、オープンカフェにいた。ただし一人ではない。同じテーブルには、アホ毛が特徴的な小さな女の子がいる。

 

(女王から病院周辺の警備を仰せつかったものの、いつの間にか迷子探しに……)

 

 歩いていると、たまたま目の前にいる少女……打ち止め(ラストオーダー)がタクシー運転手と口論している姿が目に入った。

 どうやら少女の方が目的地まで付かないうちに降りたいと駄々をこね始め、料金を既に保護者から貰っていたらしい運転手が困っているといった様子だった。

 

 

 帆風潤子は、おっとりしているが正義感は人一倍強い少女である。放っておくわけにもいかず、タクシー運転手と連絡先を交換してラストオーダーの迷子探しを手伝うことになった。

 

(とりあえず、風紀委員の支部に連れて行って保護と身元の確認をしてもいましょう)

 

 そう考えて歩き出したのだが、どうも歩いている内に少女は足が痛くなったのと、カフェのパフェに惹かれたらしく、しばし小休憩という状況である。

 

 

「あのぉ、少しよろしいでしょうか」

 

 

 不意に横からそんなことを言われたのは、コーヒーを啜っている最中のことだった。

 

 マグカップを置いて声がした方をみると、上品な雰囲気の女性が立っていた。

 

 秋物の茶色いロングPコートに白とベージュのマフラー、赤いベレー帽、黒いストッキング、高級感のあるイヤリング、黒い手袋、ブランド物のバッグ……常盤台OBの大学生と言われても違和感のない、ザ・お嬢様といった空気を纏っている。

 

 ゆるくカールさせた長い髪、わざとらしいぐらいのシャンプーの香り、控えめのナチュラルメイク、少しだけ伸ばした爪には薄いマニキュア。

 いかにも男ウケのよさそうな柔和な表情に、ぴんと伸ばした背筋が凛とした雰囲気を同居させている。女子アナにでもなっていれば、間違いなくネットで人気が出ることだろう。

 

「どちら様でしょうか」

「あ、ごめんなさい。断崖大学の木原ミサキです」

 

 優雅に会釈をして、ミサキと名乗った女性はスマートフォンの画面を見せる。

 

「ちょっと頼まれごとをされちゃってて。芳川さんっていう、学会で知り合った研究者の先輩なんだけど」

 

 そう言って木原ミサキは、ラストオーダーへと視線を移す。

 

「彼女からラストオーダーちゃんを家まで送って欲しい、って頼まれてるの。お邪魔でなければ、わたしも少しいいかしら?」

 

 ミサキは画面をラストオーダーにも見せる。ラストオーダーの反応を見る限り、芳川という白衣を着た女性研究者が彼女の保護者だという話に嘘は無いようだった。

 

 

 ―――しかし。

 

 

 咄嗟に。帆風潤子は考えるよりも早く行動した。

 

 テーブルを吹き飛ばし、ラストオーダーを抱えて離脱を図る。目の前の女性にこの少女を渡してはいけないと、本能が告げていた。

 

 彼女の能力はレベル4の『天衣装着(ランペイジドレス)』だ。体内の電気信号を自在に制御し、パワー・スピード・五感・動体視力などの身体能力を限界以上に引き出す。そんな彼女が全力で逃走を図れば、同レベルのテレポーターでもない限り追跡は難しい。

 

 

 ―――はずだった。

 

 

 ゴン!!という衝撃がこめかみを走り抜け、殴られたと気づいた時には既に彼女の身体は壁に激突していた。周囲から通行人の悲鳴が響く。

 

「えぇ、なんで逃げるのー? わたし、そんなに怖い顔してた?」

 

 そういう問題じゃない、と帆風潤子は心の中でツッコミを入れた。第一、逃げたからといって即行で攻撃してくる人間がマトモであるはずがない。

 

「帆風潤子。常盤台中学3年生、能力はレベル4の『天衣装着(ランペイジドレス)』」

 

 木原ミサキはゆっくりと、うっとりするような声で確認するように言葉を紡ぐ。

 

「出力だけならレベル5級なのに、痛みに対する無意識の防衛本能のせいでレベル4に留まってるだなんて可哀そう。わたし、力になるよ?」

 

 心の底から憐れむような表情で、木原ミサキは頼んでもいない同情を浮かべた。だが、その瞳孔は僅かに開かれ、どこかにいるであろう別のクローンが『体晶』を使用し、帆風にAIMハッキングをしかけたのは明らかだった。

 

「別に……人の道を捨ててまで、レベル5に達しようとはおもいませんわ」

「そんなぁ。もったいない」

 

 それが木原ミサキの本心のようだった。彼女は偽善から憐れんでいるのではなく、本気で「人間であるがゆえにレベル5へ到達できない人の限界」を悲しんでいる。

 

「この街は、レベル6に到達するための学校。能力があるのに、それを宝の持ち腐れにするなんて絶対にダメ。貴女の能力は、貴女の宝物よ。頑張って活かさなきゃ」

 

 必死に。心の底から。

 

 別れ話を切り出した恋人を説得するように。出産を控えた妻を励ます夫のように。木原ミサキは激励する。

 

 

 ――諦めるな。一緒に夢を叶えよう。

 

 

 だが、言葉とは裏腹に『能力追跡(AIMストーカー)』の応用である能力ハッキングが行使され、帆風の意識は遠のいていく。

 恐らくハッキングだけでなく、木原ミサキ本来の能力である精神系の能力も同時に行使して威力を底上げしているのだろう。

 

 

「大丈夫、安心して。わたしは貴女の敵じゃない。一緒に、夢を叶えましょう」

 

 

 レベル6への到達という、学園都市の存在意義でもある、その夢を。

 

 

「帆風さん、貴女はレベル4で終わる人じゃない。もっと上を目指せるわ……わたし達と一緒なら」

 

 

 その最後の一言で、帆風の意識は塗りつぶされる。帆風潤子という個人の意識は消え去り、ミサキネットワークというシステム総体の一部として、肉体の限界と呪縛から解き放たれる……。

 

 

 その、はずだった。 

 

 

 だが、そこで帆風潤子は聞いた。

 

 

「―――私の帆風さんに、勝手に手を出さないでくれるかしらぁ?」

 

 

 学園都市最強のレベル5の一人。精神系能力者の頂点に立つ、最も敬愛する女王の声を。

 




  
 原作だと初春と垣根だったけど、帆風さんと木原ミサキに。

 ラストオーダーを狙った理由は、ごく普通に演算能力向上のためのミサカネットワーク乗っ取りです。
 
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