とある姉達の心理感応(メンタルリンク)   作:絶対能力進化ver1.3

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第18話 『二人の女王』

「あら、ごめんなさい」

 

 木原ミサキは注意を帆風から食蜂へ向けると、愛想の良い笑顔を浮かべた。

 

「そうね、誰だって勝手に自分のものに手を出されちゃ怒るわよね。本当にごめんなさい。この埋め合わせは後で絶対にするから、今は見逃してくれないかしら。ね、お願い」

 

 顔の前で両手を合わせ、上目遣いに瞳を潤ませる。自分が可愛く見える角度まで完璧だ。今まではそれで許されてたのかもしれないが、あいにく今の食蜂に「許す」という選択肢は無い。

 

「全く反省の色が見えない謝罪はかえって人をイラつかせるって、どこかで習わなかったのかしらぁ」

「んー、浮気した後とか他人の彼氏を寝取った後によく言われたけど、どう謝っても解決しなかったなぁ。結局、分かったのは距離を置くのが一番ってこと」

「それは、許さなかった相手が全面的に正しいわねぇ」

 

 オリジナルとクローン。食蜂操祈と木原ミサキが対峙する。

 

「まったく、似て無いわぁ」

 

 食蜂操祈は、目の前の女性から感じた印象をそのまま口に出す。

 

 

 緩くウェーブをかけた紅茶色の髪の毛も、蜂蜜色のストレートである食蜂とは全く異なる。スタイルについて食蜂操祈をグラマーとするなら、木原ミサキはスレンダーに分類されるだろう。

 胸や太ももなど個々のパーツならともかく、身体全体における流線形のラインでは向こうの方が均整がとれていると、食蜂は素直に認めた。

 

 他人の空似、というぐらいには似ているだろう。今まで見てきた誰よりも、目の前の女性は自分に近い。

 

 

 だが、何かが決定的に異なるのだ。

 

 

「クローンというから、もうちょっと私に似た人格力を期待してたんだけど。近いだけで似てないわね」

 

 うまく言語化はできない。ただ、明らかに自分とは異質な何かを、食蜂は木原ミサキの中に見出していた。

 

「どうしようもなく近いのに、似てない」

「うふふっ、そんなの当り前じゃない」

 

 対して、クローンの女性は朗らかな笑顔で答える。

 

「人は皆、違うんだもの。クローンでもサイボーグでもドッペルゲンガーでも、それぞれに個性があって、違う人生を歩んできたんだから」

 

 たしかにクローンであれば、遺伝情報は同じだろう。しかし生育環境が異なれば、成長した姿は全く異なるものであっても不思議はない。

 

 例えば、挿し木で増殖するサツマイモや、蔓で株分け増殖するイチゴが好例だ。同じ親株から育ったものであれば遺伝的には全く同一であるが、まったくの無個性というわけではない。

 

「『姉達(エルダーズ)』シリーズは『妹達(シスターズ)』と違って、少しづつ違う個性を獲得するようにプログラムされてるの。精神系能力に関する『自分だけの現実』を強化するには、色々な人間の感情について知識を持っていた方が効率的でしょう?」

 

「それなら、なおさら好都合ねぇ」

 

 食蜂操祈は、不敵な笑みを浮かべた。

 

(御坂さんに当てられ過ぎたかしらぁ)

 

 クローンというから、少しばかり身構え過ぎていた。今の話をまとめれば、結局のところクローンいえども全くの赤の他人という事になる。

 

 

 ――だったら、何ら躊躇する必要はない。容赦なく叩き潰す。

 

 

「それじゃ。遠慮なくあなたの計画とやらを破壊させてもらうわぁ」

 

 蜂の女王。学園都市第5位の怪物は、彼女が持てる全ての戦力を投入する。

 

 

「今から完全に個人的な理由のために操らせてもらうわよ♪」

 

 

 それだけだった。

 

 

 たったそれだけで、常盤台中学の最大派閥が一斉に動き出す。

 

「―――制圧完了。次の目標を教えてくださいませ」

「―――第七学区、駅前A2出口。タピオカ屋台の列に並んでいる白いワンピースの女性です」

「―――了解しましたわ。これより制圧行動に入ります」

 

 それが操られているかどうかなど、もはや少女たちにとってはどうでも良い。中心に立つ一人の為になるのならば。喜んでその手足となろう。

 

 

 たしかに、彼女たちは第4位や第3位といったレベル5ほどの力はない。風紀委員や暗部組織のように、戦闘に長けた兵士というわけでもない。

 

 

 それでも常盤台のお嬢様という時点で、ただの一人でさえも端役で終わるはずがなかった。各々が甚大な殺傷力を持ち、統率のとれた軍隊による総攻撃。蜂の群れには女王がいるが、その本領はむしろ周囲を飛び交う兵隊蜂にこそある。

 

 

 **

 

 

 食蜂派閥が総動員されたことは、ミサキネットワークを通じて木原ミサキにも伝達されていた。何体かの『姉達』が無力化され、計画に支障をきたしている。

 

 

 だが、もう片方の女王にして司令塔であるはずの女性は、少しも慌てるそぶりを見せない。焦るでもなく、かといって余裕というわけでもなく。ただ、少しばかり困惑していた。

 

 

「あら意外……物量をぶつけ合う総力戦なら、わたしの方が有利なのに」

 

 

 いかに常盤台中学の最大派閥といえども、構成員はせいぜい数十人から百数人ほど。質で圧倒しようにも、食蜂操祈が一度に精密操作できる人間の限界は14人程度でしかないのだ。

 

 単純命令であれば3桁は動かせるが、それでも未だ3000人以上を残す『姉達』には届かない。

 

 

「やっほー、お待たせ―」

「なんなんですか、こんな場所に呼び出して」

「……私に出来ること、何かある……?」

 

 

 その証拠に、あちらこちらか『姉達』が現れる。大通りから、店の中から、あるいは『瞬間移動(テレポート)』で虚空から。

 

 ハスキーな声、セクシーな声、ガーリッシュな声、ボーイッシュな声。襟まできちんと整えた中学生の制服を着た少女もいれば、カジュアルなワンピースに幾つものアクセサリーをつけたギャル風の少女もおり、カフェでバイトしてるような大学生風の女性もいれば、露出の多い豪奢なドレスを着た妙齢の女性もいた。

 

 

「みんな、集まってくれてありがとう」

 

 多種多様な『姉達』に、木原ミサキは嬉しそうに笑いかけた。

 

「みんながいれば百人力よ。もう少しだけ、みんなの力を貸して」

 

 これで戦力差は逆転した。食蜂の前に姿を現したのは30人程度だが、周囲にはまだ隠れている大勢の『姉達』がいるはずだ。さらに必要とあらば、追加の増援もテレポートでいつでも呼び出せる。

 

 

「……お逃げ下さい。女王」

 

 エルダーズの前に立ちはだかったのは、帆風潤子だった。体細胞の電気信号を操作する『天衣装着(ランペイジドレス)』を応用し、細胞分裂を促進することで傷ついた肉体を再生した彼女は、すでに臨戦態勢に入っている。

 

「この数では全てを倒しきることは不可能ですが、時間稼ぎ程度であれば可能です。女王は今のうちに撤退し、態勢を立て直し……」

「それは駄目よぉ。ここで貴女を囮にして逃げたら、何のために現れたのか分からなくなるじゃない」

 

 それに、と食蜂は付け加えた。

 

 

「総力戦というからには、こっちもそれなりに戦力を整えてきたんだゾ♪」

 




   
 ミサキさん、「学園都市は能力開発のための街なので、能力者にとって最高の幸福はレベル6になること」と善意で思ってるとこが、やっぱり木原一族。
 
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