とある姉達の心理感応(メンタルリンク)   作:絶対能力進化ver1.3

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第20話 『一方通行』

   

 バッ!!という爆音が鳴り響いた。

 

 木原ミサキと、一方通行(アクセラレータ)が真正面から激突する。その余波としての衝撃波が周囲一帯へ均等に炸裂し、人々はなぎ倒され、ガラスが木っ端みじんに砕け散った。

 

「ベクトルを制御する能力者なら、全部のベクトルを集めても動かせないほど巨大な質量をぶつければ何とかなるかなって思ったんだけど、やっぱりダメみたいね。わたし自身のベクトルまで好きなように操作されるんじゃ、どうしようもないもの」

 

 店内から出てきた木原ミサキの全身は、白い繭のようなものが包まれている。天使のような白い12枚の翼が、無傷の彼女の背でゆっくりと羽ばたく。

 

「似合わねぇな、メルヘンビッチ」

「心配しないで。自覚はあるから」

 

 言葉と共に、二人は再び激突する。

 

 脚力のベクトルを操作して真っすぐ突っ込む一方通行に対し、翼で空気を叩いた木原ミサキは真横へ飛ぶ。

 

 一気に数十メートルも飛んで大通りの中央分離帯の上に着地したミサキに対し、一方通行は腕を振って空気を引き裂き、その大気の流れのベクトルを文字通り掌握した。

 

(しかし、『未元物質(ダークマター)』か……)

 

 つくづく厄介な能力だ、と一方通行は舌打ちする。 

 

 それは“まだ見つかってない”でも“理論上は存在するはず”でもなく、“本当に存在しない”レベル5第2位によってのみ生み出される新物質。物理法則を無視し、学問上の分類にも当てはまらない。

 

 「この世の物質」ではない以上、この世の物理法則には従わないし、相互作用した物質もこの世のものでない。まるで異世界から引きずり出してきたような白い翼は、独自の物理法則に従って動き出す。

 

 

「ふふっ、()()()()の『未元物質』に、常識は通用しないの」

 

 

 ミサキの声と共に、彼女の白い翼がゴバッ!!と凄まじい光を放つ。

 

「ッ!?」

 

 次の瞬間、ジリジリと焼けるような痛みを感じた一方通行は、思わず彼女から距離を取る。それから、事態の異常さに気づいた。

 

 あらゆるベクトルを『反射』するはずの一方通行が、外部から干渉を受けている。

 

 

「学園都市第1位の『ベクトル変換』は全てを『反射』する……けれど、それは正確じゃない」

 

 音を全て反射すれば何も聞こえないし、物体を全て反射すれば何も掴めない。だから無意識に有害と無害のフィルタを作って、有害なモノだけを選んで『反射』している―――木原ミサキは、その穴を突こうとする。

 

「私の『未元物質』を使って大量のベクトルを注入して、アナタの『反射』の具合から有害・無害のフィルタを解析したら、どうなるかな?」

 

 

 理論上、無害に分類しているベクトルの中に偽装した「ありえないベクトル」を撃ち込めば、『反射』はすり抜けられるはず。

 

 なぜなら一方通行が反射するベクトルは、基本的にホワイトリスト形式で登録されている。

 

 であれば『未元物質』で一方通行が普段「受け入れているベクトル」を変質させ、攻撃を「受け入れているベクトル」に偽装すれば反射を素通りできる。

 

 そのために木原ミサキが利用したのは、単なる太陽光。それを白い翼にある見えないほど細かい隙間から、隙間を通る際に未元物質に触れた太陽光の波を回折によって干渉させることで、太陽光の性質を殺人光線へと変化させた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 ただならぬ気配を感じた一方通行が回避に移ろうとするも、すでに12枚の翼は放たれていた。これまでとは違う、撲殺用の鈍器として。

 

 ゴリゴリゴリッ!!という鈍い音が、一方通行の体内で炸裂する。あらゆるベクトルを反射するはずの学園都市第1位が勢いよく吹き飛ばされ、20メートル以上先にある街路樹に激突し、太い幹を一発でへし負った。

 

 

「ごっ、ぱぁ……ッ!」

 

 ミサキの白い翼が音も無く伸び、20メートル以上に達したそれは巨大な剣のように見えた。

 

「私の『未元物質』の影響を受けた太陽光と烈風には、それぞれ2万5000のベクトルを注入しておいたわ。もしアナタが仮に『反射』の組み立てを変更したとしても、すぐ再解析すれば元の木阿弥でしょう?」

 

 

 一方通行はその言葉を無視し、足元のアスファルトを踏み抜いた。衝撃で浮かび上がる小石を、思い切り蹴りつける。

 空気を切り裂くような音が炸裂し、ベクトル操作を受けた小石は消滅して衝撃波と化した。

 

 しかしミサキも白い翼にありったけの力を込めてカウンターの衝撃波をまき散らし、衝突した2つの波によって発生した空気の津波が看板や信号をもぎ取っていく。

 

 激突の余波を受けて鉄筋コンクリート製の構造物がギシギシと頼りなく揺れるころには、既に2人はそこから消えていた。

 

 

「千日手は私の味方よ。根気強く続けりゃダメージは蓄積していくし、アナタのバッテリーが切れればチェックメイトだもの」

 

 

 並行するように移動しながら互いの能力をぶつけ合い、時に風力発電のプロペラに飛び移り、時に信号機の側面を蹴飛ばしながら、恐ろしい速度で街を駆け抜けてゆく。

 

 一方通行が吐き捨てるように言う。

 

「チッ……確かに『未元物質』は厄介な能力だ。このまま持久戦に持ち込まれれば、ダメージの蓄積かバッテリー切れで死ぬ。だが、攻略法が無いわけじゃねぇ」

 

 ミサキが行ったのは、あくまで太陽光という通常「一方通行が反射せずに通しているもの」の性質を未元物質で有害に変更しただけである。つまり、ベクトルとしては受け入れている太陽光と同一のものを持つ。

 

「テメェの言う通り、この世界にゃオマエの操る『未元物質』なんてものは存在しねぇ。だがよぉ、だったらソイツも含めて反射のフィルタを設定し直せばいいだけだろうが」

 

 一方通行は人差し指を動かして誘いながら告げる。

 

「改めて“この世は未元物質を含む素粒子で構成されている”と再定義して、偽装攻撃のベクトルや偽装方式を認識・演算した上で排除フィルタを意識的に組み直せば、新世界(オマエ)の公式は暴かれる」

 

 なるほど、と木原ミサキが手を叩く。

 

「つまり、アナタのベクトル変換で『未元物質』をも操るってこと……?」

「出来ねぇと思うか、三下」

 

「いいえ」

 

 

 木原ミサキは、きっぱりと一方通行の言を肯定する。嬉しそうな表情すら浮かべて、素直に感心する。

 

「やっぱり第1位って素敵……能力同士のぶつかり合い、能力の裏をかくような知恵比べじゃ、悔しいけど勝てないわね」

 

 口ではそう言いつつも、特に悔しがる素振りはない。木原ミサキは研究者として、純粋に納得していた。これが、第1位と第2位の差なのかと。

 

 

 けれど、と彼女は微笑む。

 

 

 

「わたしは1人じゃない。みんな(エルダーズ)がいるもの」

 

 

 

 そう、一方通行はどれだけ強くとも1人しかいない。

 

 

 1人の第2位であれば、1人の第1位に勝てないのは道理だろう。けれど、100人の第2位がいれば、1000人の第2位がいれば、1万人の第2位がいれば。

 

 

 

 木原ミサキの言葉に、一方通行の動きが止まった。背後から来る殺気を感じ取ったからだ。

 

「ッ―――!?」

 

 咄嗟にベクトル操作で跳躍すると、先ほどまで一方通行が立っていた場所がドバッ!!と砕け散るのが見えた。

 

「チッ」

 

 舌打ちする一方通行。

 

 攻撃は背後のビルの中からだった。それはいい。問題は、攻撃してきたモノがありえないはずのものであったからだ。

 

 

「抗議します。もう2秒ぐらい引き付けられなかったんですかね。上位個体のくせに随分とお粗末な」

 

 

 ビルの中から現れたのは、学生服に身を包んだ『姉達』の一人だった。案の定、その背中からは2枚の白い翼が生えている。見た目こそ天使の羽のようだが、あまりにも滑らかで潔癖な白く輝く翼。

 

 だが、未元物質の人工的な輝きは翼だけに留まらない。端正な顔が、ほっそりした腕が、なまめかしい太ももが――すべて同じ、無機質な白い輝きを放っている。

 

 

「――滝壺理后の『能力追跡(AIMストーカー)』を使った『未元物質』の解析と完全な能力複製を完了、ミサキネットワークにシェアされた第2位の能力は任意に使用可能です」

 

 

 そう。木原ミサキは、垣根提督の能力を滝壺の『能力追跡』でハッキング、コピーしたというだけではない。

 

 ミサキネットワークにレベルアッパーを掛け合わせた膨大な演算能力により、その出力はオリジナルの垣根提督すらをも凌駕する。その上で、未元物質という能力を使って、延々と『未元物質』を生み出し続けていたのだ。

 

 

「垣根君は、まだ気づいてなかったみたいだったけど」

 

 木原ミサキは告げる。

 

「第2位の『未元物質』が持つ能力は、‟この世に存在しない物質を作り出す”こと。でも、重要なのは()()()()()()()()()っていう前半部分じゃなくて、()()()()()()()っていう後半部分なのよ」

 

 ミサキネットワークに取り込んだ垣根帝督にまだ意識があったとすれば、恐らく彼は渋々ながらイエスと答えただろう。

 

 そう、未元物質の真価は応用幅の広い汎用性にあるのではない。その真価は、実に単純な()()()()()()にあるのだ。

 

 

 つまるところ、垣根帝督は自らの持つ能力の強みを根本的に勘違いしていた。

 

 敵を倒すにも正々堂々、1対1のタイマン勝負などという騎士道精神は、科学と合理主義の街・学園都市には馴染まない。どうせ倒すのであれば、可能な限り効率的に。

 

 

「今まで喧嘩じゃ負け無しだったから垣根君は気づかなかったのかもだけど、‟量より質”の喧嘩と違って、戦争は‟質より量”なんだゾ♪」

 

 

 それが、喧嘩と戦争の違いだった。

 

 

「そうそう。喧嘩に兵站なんてないけど、戦争だったら後方支援も大事よね」

 

 思い出したように木原ミサキが頬に指をあてる。

 

「つまり、追加のAIM拡散力場ね。最初はバレないよう強い能力者だけを洗脳してミサキネットワークに組み込んでたけど、もうその必要もないし」」

「オマエ……まさか学園都市180万人の脳波を取り込むつもりか……?」

「最終的にはね。もともと私の能力は精神操作系だし、今は『未元物質』で私を無限に複製できる。ちゃんとバランスを維持しながら複製と洗脳を同時進行で進めれば、いずれは能力者全員のAIM拡散力場をミサキネットワークで制御できるようになる」 

 

 

 そうなれば、もはや木原ミサキがAIM拡散力場そのものと同化したも同然だ。かりそめの『多才能力』ではなく、幻の『多重能力』すら視野に入り、しかもそれを無限に量産できる。

 

 彼女自身が学園都市そのもの、と言い換えても言い換えてもいいかもしれない。

 

 

「これが『学園群体(プラットフォーム)』よ」

 

 

 うふふ、と木原ミサキは夢見るように微笑む。

 

 

「君がまだ知らない世界を、お姉さんが見せてあげる」

  




 
 ミサキが垣根と同じように一方通行の能力の裏をかこうとしたのは、一応は消耗を抑えるため。人海戦術とか物量作戦でも、それなりに消耗は気にするものなので。
 
『学園群体』
 ・元ネタは滝壺が順当に成長して8人目のレベル5になっていたら、なっていたであろう『学園個人』。ミサキは滝壺を取り込み、レベルアッパーとクローンの脳波ネットワーク、未元物質で複製したクローンを使って、群体で「学園個人」を実現しているというイメージです。
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