とある姉達の心理感応(メンタルリンク) 作:絶対能力進化ver1.3
今や爆心地のようになった学園都市の一区画で、眼鏡をかけた木原ミサキは実験記録をデバイスにカタカタと軽快に打ち込みながら、のんびりとチェーン店のコーヒーを啜りながら呟いていた。
「あ~あ、まさか10分で200体も壊されちゃうなんて。ちょっと予想外で、お姉さんもビックリ」
勝手気ままに呟く彼女の口調に、苦いものは無い。
何を破壊されても、新しく生み出し続ける事のできる「創造」の未元物質。
そもそも、あらゆる攻撃をベクトル操作で迎撃できる「破壊」の一方通行。
一番重要なのは、上っ面の物理現象ではない。その能力の根幹となる演算パターン、「自分だけの現実」、思考回路……能力者を特別にしている何か、そのものを解析して分析し、つまびらかにする事こそが、明確な勝敗を分ける。
オリジナルの垣根提督は、この世に存在しない「未元物質」を使い、太陽光や衝撃波を反射させることで「地球上にはありえないベクトルから」の攻撃を実現した。
第1の前提―――それは一方通行の持つ「反射」の壁を、どうやって切り崩すか。そこへ重点を置いて観察すれば、これまでの戦闘の真の経過が見えてくる。
「攻撃パターン、‟反射”のロジック、君が壊した200体からは貴重なデータが取れたわ。科学の進歩には犠牲がつきものだけど、無駄な犠牲なんて無いのよ」
そう語る木原ミサキもまた、既に何度も個体を変えていた。今の個体は茶髪をハーフアップでまとめ、黒いノースリーブニットの上から薄いラベンダー色のシースルーシャツ、青いジーンズといった華奢な格好であるが、あくまで便宜的なものだ。
『
「一見すると無駄死に見えても、神経衰弱と同じでカードの絵柄と数字を覚えておけば次に繋げられる。データを豊富に蓄積して、そこから逆算して回帰すれば全体像を正確にシミュレートできるわ」
木原ミサキの頭上に、大きな影が差す。
まるで大型のエイのように見えるそれは、アメリカ軍の最新鋭ステルス爆撃機を模した『姉達』の一人、その成れの果てだった。もはや「ヒトの形を保つ」必要すら無い。
「ほらほら、お姉さんをガッカリさせないで。もっと頑張れるでしょう? 男と女の戦いが途中で中折れなんて、示しがつかないじゃない」
「……こっちにも好みはある。相手が淫乱女じゃ萎えンだよ」
巨大な陸橋の下で、悪態をつく一方通行。しかし木原ミサキの言う通り、チョーカー型電極のバッテリーは30分しか持たず、残り時間は5分を切っている。
短期決戦を拒んだ『姉達』が、断続的に嫌がらせ目的の牽制攻撃を続けるだけで、追い詰められるのは一方通行の方だ。
とある事情によって脳に深い傷を負った一方通行は、チョーカーを経由してミサカネットワークに代理演算してもらわなければ、最強の能力を振るうどころか2本の足で立つことも、人の言葉で意思疎通を行うことも出来ないのだから。
(だが、それが絶対のタイムリミットってわけじゃねぇ。単にバッテリーの容量がそれしかないってだけで、だったら……!)
陸橋は水道管や電気ケーブルにも通じており、一方通行のすぐ近くには太い配管が走っていた。ケーブルを目で追い、そこを通る電流と電圧を確認してから、容赦なくその外装をはぎ取っていく。
充電――。
簡単といえばあまりにも簡単な手口だが、一方通行はここに潜り込むまでに調達した鉄板を積み重ね、針金で束ねて即席の変電装置を作り上げていた。
計算をわずかにでも誤ればチョーカー型電極が発火するどころか、指先ごと弾け飛ぶ。しかし躊躇はしない。
素早く送電ケーブルと変電装置を接続すると、細いコードを使ってバッテリーに電力を供給していく。
(これを繰り返せばかなり長期の消耗戦にも耐えられるだろうが、千日手じゃ埒が明かねぇ。さすがに24時間不眠不休ともなれば、交代要員を送り込めるヤツの方が有利……)
率直に、自分が不利だと一方通行は認めた。現実をあるがままに受け入れ、その上で先に進む。
(だが、あと5分だけ時間を稼げば俺がガス欠になると思ってるんなら、多少の回復で十分だ。誤差の中で追加の一撃を放って、そのままブチ抜いてやる)
そのための布石は既に打ってあった。学園都市第一の怪物は、ただ無為無策にバッテリーを消耗したわけではない。
だが、反撃に移ろうした一方通行は、1つの事を失念していた。
木原ミサキが取り込んだ能力の1つである、『
当然、一方通行に対して木原ミサキも「能力の乗っ取り」は仕掛けているし、一方通行も何万というベクトルを操ってあらゆる介入を防いでいた。
ゆえに『未元物質』と『一方通行』の戦いの裏で行われていた、『能力追跡』と『一方通行』の戦いで、今のところ一方通行は全ての防御に成功している。
だが、それゆえに「能力者の位置特定」という『能力追跡』本来の能力――能力ハッキングに比べれば、やや地味にも映る能力の持つ危険性への対処が遅れてしまった。
『―――ミサキ161739号より、ファーストオーダーへ。ロシアのノボシビルスクにいたミサカ19999号の取り込みを完了』
『―――ミサキ025673号より、ファーストオーダーへ。グアテマラのサカパにいたミサカ10050号の取り込みを完了』
『―――ミサキ113986号より、ファーストオーダーへ。インドのアーメドナガルにいたミサカ12053号の取り込みを完了』
そして、ついに
***
「ッーーー!?」
違和感を感じた次の瞬間、一方通行は瓦礫の上にうつ伏せで倒れていた。
(演算が、できない……だと!?)
前後左右のバランスが掴めない。どちらに向けて力を入れれば起き上がれるのか、それすら計算できない。投げ出された手は見えるが、指が何本あるのか目で追いながらカウントしていくと数が分からなくなる。
(バッテリー、は……まだ、残ってた、はず……)
辛うじて思い起こした記憶も、それを事実として受け止めることはできるが、それに何の意味があったかまでは思考できない。
そんな一方通行の視界の上から、ゆっくりと木原ミサキが舞い降りた。うっとりと無言で一方通行を見つめるその顔は、慈愛すら感じさせるほどだ。
だが、彼女が一方通行に慈悲の手を差し伸べることはない。彼女の役目は死を告げる殺戮の天使であって、何かを癒すことではないからだ。
そして10秒後。
ピピッ、という小さな電子音が無機質に響いた。それは首元のチョーカー型電極から発せられた、小さな最後通牒。示された意味はバッテリー切れ。
逆に言えば一方通行が倒れてからの10秒間、バッテリーは機能していたのだ。それだけあればフィルタの再設定を終えた一方通行によって、倒れている者と見下ろしている者の立場が逆転していたはずだった。
(ミサカ、ネットワーク……の、代理演算、領域を喪失……!?)
推測したわけではない。その程度の演算すら、今の一方通行には不可能となっている。
ただ、これまで僅かながら繋がっていたミサカネットワークが、突如として強制的に切断されたことを実感として感じ取っていた。
ラストオーダーを確保してネットワーク全体を掌握するんじゃなくて、未元物質でクローンを無限に増やし、AIM追跡を使って1万のシスターズを一人づつ特定して洗脳してミサキネットワークに組み込んでいけば、ミサカネットワークは動かなくなるという、脳筋物量作戦。移動手段は多才能力で取り込んだテレポートの繰り返し。