とある姉達の心理感応(メンタルリンク) 作:絶対能力進化ver1.3
地面に倒れた『
トドメを刺そうとしているのではない。むしろ、その逆だ。
「貴方の能力は確かに最強かもしれないけど、致命的な弱点が1つだけあるわ。それは‟演算を自分自身では出来ない”ってとこ」
一方通行はその演算の大部分を、ミサカネットワークに依存している。仕組みとしては、遠隔操作されている超強力な無人兵器と変わらない。
倒す方法は2つ。無人兵器そのものを倒すか、それとも遠隔操作しているホストを倒すか。
「ラストオーダーの脳を乗っ取って、ミサカネットワークごと直接乗っ取るのが一番早いんだけどね。ラストオーダーは
だから、木原ミサキは次の策を講じることにした。
「ネットワークを潰すにはホストから潰すのが一番効率的だけど、効率さえ度外視すれば‟
それは実に単純な人海戦術だった。未元物質で無限に増殖させ続けたクローンで、『
個々の『妹達』は、せいぜいレベル2~3程度の能力しかない。いかに電気系と精神系の相性が悪くとも、物量でゴリ押しすればさほど困難な作業ではなく、物量はいくらでも供給された。それに最悪、「殺す」という手も無いわけではない。
「世界中に分散させた『妹達』だけど、居場所は『
一見すると非効率の極みといえる人海戦術だが、圧倒的な物量を前提条件とした上で効率よく使う方法というのを、木原ミサキはわきまえていた。
厳密に言えば、まだ全ての『
そう、木原ミサキの目標は最初から学園都市第1位のみ。
「だって『
あれだけ『
もちろんスペアだからといって気を抜いたりはしないし、もし一方通行の確保に失敗した場合には垣根をレベル6にシフトさせる予備計画への移行も選択肢に入れていた。
だが、計画は無事に完了した――。
木原ミサキによる「絶対能力進化」実験の肝は、基本的に洗脳した脳をネットワーク化させることで演算能力を向上させ、さらに強力な洗脳で脳のネットワーク化を繰り返していくという、倍々ゲームのような仕組みになっている。
ミサキネットワークによる洗脳で1万人の能力者を洗脳し、『
ついには、もっと大きな獲物――垣根帝督の未元物質までを取り込み、その能力を応用して作り出した複製体が、さらに別の未元物質でできた複製を生み出すというネズミ算により、文字通り無限に自己増殖し続ける。演算能力は向上し続ける。
無限に、そして永遠に。
このまま順当に進化していけば、滝壺が順当に成長して8人目のレベル5『学園個人』となった場合と同等、あるいはそれ以上の可能性すら視野に入るだろう。
どんな能力者でも例外なく、その有する能力の種類やレベルを自由自在に操る。能力者を無能力者に、無能力者を超能力者に。
能力の系統を変更して好きな種類の能力を与え、希少・強力な能力者を量産する。一人一能力の原則も覆し、幻の「多重能力」を実現する――。
学園都市の能力者開発機関としての機能を、木原ミサキ……否、『
「それじゃあ、実験の続きを始めましょうか」
満を持して一方通行に挑んだのは、彼の能力すらも乗っ取るため。未だ謎の多い彼の能力を完全に解析し、レベル6への道を切り開く。
「幻生教授の夢は、わたし達が叶えるから」
白い羽はふわりと一方通行を優しく包み込むと、その身体を愛おしむように持ち上げた。そのまま傷のひとつも付かないよう丁寧に、大きく広げられた2枚の翼の上で仰向けにしていく。
傍目には、巨大な純白の羽毛ベッドの上でに、一方通行が大の字で寝転んでいるように見えただろう。
木原ミサキの口元が、歓喜に歪んでいく。
「―――木原ミサキこと『
うっとりと、木原ミサキは勝利を宣言した。
「―――学園都市第1位『一方通行』を確保、同調を開始。これより、『
一方通行は確保した。垣根帝督も、滝壺理后も、ミサカネットワークも、大勢の多種多様な能力者も確保した。
あとは一方通行のレベル6シフトと、そのバックアップとして未元物質で複製体を無限に生成する作業を、同時並行で進めていくだけ。
「さて……今度こそ天上の意思、レベル6に辿り着けるかな?」
***
右脳と左脳が割れた音がした。
切り裂かれたその隙間から、何か鋭く尖ったものが頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚が確かにあった。脳に土足で割り込んできた何かは、あっという間に一方通行の全てを飲み込んでいく。
ぐしゃりと果物を潰すような音が聞こえ、両目から涙のようなものが溢れた。だが、涙ではない。もっと赤黒く手薄汚くて不快感を催す、鉄臭い液体でしかなかった。涙腺からこぼれるものすら、既に嫌悪感しかない。
そして訪れたのは、圧倒的な暴走だった。
「……ォ」
自分を構成する柱が砕ける音を、一方通行は確かに聞いた。身体の中心から末端までがドロドロした感情に染まっていく。歯を食いしばり、眼球を赤く染め、一方通行は世界の果てまで咆哮を轟かせる。
「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
背中がはじけ飛ぶ。そこからドス黒い翼が飛び出した。
噴射にも近い漆黒の翼――それは一方通行の意識すら吹き飛ばし、自我を叩き潰すほどの怒りを受けて爆発的に展開する。
一対の黒い翼は瞬く間に数十メートルも伸びてアスファルトを薙ぎ払い、ビルの外壁を削り取った。
「わぁお」
木原ミサキはそれを見て、アレイスターの意図を悟る。
『一方通行』と『未元物質』、有機と無機の抱えるもの。神にも等しい力の片鱗と、神が住む天界の片鱗……それが何であるか、そこから引きずりだしてきたものなのか。何を意味していたのか。
「すごぉい、やれば出来るじゃない……!」
圧倒的な力を前に、木原ミサキは恍惚とした表情を輝かせた。
「数多さんを倒した黒い翼、ナマは初めてだけど、素敵……! しかも、あの時よりもずっと大きい……! それに――」
圧倒的なパワーが、自分に流れ込んでくる。今まで感じたことも無いほどの力が、体の中で暴れている。自らを両手で抱きしめ、木原ミサキは歓喜に悶えていた。
「ぁあ……入ってくる……私の中に、こんなに強くて大きなものが―――」
ミサキの嬌声に呼応するように、12枚の翼が爆発的に展開される。
白い翼と黒い翼、それが交互に数十メートルにわたって延びていく。6枚の白い翼は神秘的な力をたたえ、しかし同時に機械のような無機質さを秘めている。
そして残る6枚の黒い翼は、まるで冥界から引きずり出してきたかのような禍々しさを纏い、悪魔や堕天使の持つ凶悪な兵器のように有機的な不気味さを放っていた。
ミサキが12枚の翼を展開した直後、一方通行が空を仰いだ。
黒い翼が噴射する勢いがさらに増していく。一方通行の背にある黒い翼が与えるのは、人の領域を超えた絶望だ。圧倒的なパワーを前に、誰もが希望を失う。
そんな中、木原ミサキただ一人だけが希望を見出していた。
「いいわ……もっと、もっとよ……!! 」
「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
ズドン!! という衝撃がその場の全員に走り抜けた。
それは物理的なものではない。ただ単なる命の危機だ。動物としての本能が、ギリギリと心を締め付ける。油断するとそのまま地面につぶれそうなほどの重圧だった。
一方通行の関心は、もはや木原ミサキに向けられていない。その程度のものなど眼中にはない。
にもかかわらず、その感情の切れ端だけで彼は世界を支配し、捻じ伏せ、叩き潰しかけている。
「……来る!」
木原ミサキが、一気に数百メートルも後方へと退避する。
身の危険を感じて逃げたというより、特等席で確かめるためだった。彼女は今、世界初にして史上初のレベル6の誕生を目の当たりにしようとしている。
それは歓喜だった。至上の喜び。未だかつて感じたことのない絶頂――。
「あぁ……ぜんぶ、持てる力を全部出して……! この街ごと何もかも、滅茶苦茶に――!」
その時こそ、自分はついに目の当たりにするのだ。天上の意思・レベル6とその先にある、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』を――。
木原ミサキ、テンション上がるとお下品になるのは、木原一族ゆえ。