とある姉達の心理感応(メンタルリンク) 作:絶対能力進化ver1.3
「ッ―――!?」
扉の爆破から浜面が息をつく間もなく、スタングレネードが投げ込まれた。眩い閃光と共に目が眩み、方向感覚の喪失と耳鳴りが発生する。五感が麻痺し、退避姿勢をとろうにも思うように動けない。
続けざまに、スモークグレネードと催涙弾。個室内は一瞬にしてピンク色の煙に包まれ、浜面たちを不快な刺激と共に大量の涙・咳・くしゃみ・嘔吐のオンパレードが襲う。顔から服まで色々な体液でぐちゃぐちゃだ。
(くっ……奇襲!?)
浜面は上着を脱いで顔を覆うも、やや遅きに失した感はある。
敵は複数人のようだった。断続的に聞こえる足音の方向に、絹旗が投げたと思しきテーブルがすっ飛んでいく。
絹旗最愛の持つ能力『
圧縮した窒素の塊を制御することで、自動車を持ち上げたり銃弾をはじき返すことすらできる。
『暗闇の五月計画』……かつてレベル5の第1位『
計画の結果、彼女は『一方通行』の『反射』をベースに自分の周囲に窒素で作った防御フィールドを展開させるという、自動防御能力を得た。
強大な能力ではある反面、効果範囲は狭く掌から数センチが限界という弱点もある。それでも、催涙弾や銃弾の類は無効化できる。
「麦野! 滝壺! どこですか!?」
だが、そんな彼女でも部屋中に煙幕を散布されては位置把握は困難だ。視界を奪われ、辛うじて聞こえる音を頼りに敵を探るのが精一杯だが、敵もサイレンサーに消音ブーツと対策を講じている。
(やば……)
しかし、彼女のように自動防御能力を持たない浜面には、大量の非致死性兵器の影響が徐々に表れ始めた。
ぐらり、と浜面の視界が揺らぐ。
既に煙でほとんど見えていないが、ついに平衡感覚までおかしくなってきたようだ。
うっすらと残る視界の隅では、キレた麦野がロクに照準も付けないまま手当たり次第に『
「クソがぁぁぁああああああッッ!!」
『原子崩し』は極めて雑な表現をすると、「全身からビームが撃てる能力」で、単純な攻撃力だけでいえばレベル5の第3位『
次々と放たれる『原子崩し』の衝撃波で、麦野は半ば無理やりに煙幕を晴らしていく。
そして徐々に明らかになっていく視界の先には、1人の女性が見えた―――写真に写っていた美女、木原ミサキだ。
「テメェがコイツらのボスか……ッ!」
麦野が忌々しそうな声を出すと、相手はふんわりとした笑顔を浮かべた。殺気だったレベル5を相手にしているとは思えないほどの、余裕に満ちた微笑み。
「ちゃんと名前で呼んで欲しいわ。私には『木原ミサキ』って名前があるんだから」
少し頬を膨らませて「むぅ」とむくれて見せる。自分が可愛いことを知っていて、どう見せれば魅力的に見えるか知り尽くした女の仕草。
だが、麦野が反応したのはそこではなかった。
「木原――木原……ねぇ」
暗部でその名を知らぬ者はないという、イカれた科学者の一族だ。
だが、そんな素性はおくびにも出さないほど、いたって木原ミサキの見た目は普通だ。
もっとも『アイテム』も傍目には年の近い少女たちの仲良しグループでしかないのだから、見た目と実態は一致しないものなのかもしれないが。
そして相変わらず穏やかな態度を崩さない木原ミサキの周囲には、同じクローンである『
年齢もスタイルも制服もバラバラで、中学や高校の制服を着ている小柄な者もいれば、カフェ店員みたいな制服を着ている長身の個体もいて、髪型や髪色まで見事に異なっていた。
共通しているのは制服の上から防弾ベストを着込んでいること、ガスマスクとカービン銃で武装していることだ。
「しかし、あれだけの煙幕を能力で無理やり吹き飛ばしちゃうなんて、ちょっと驚いちゃった。やっぱりレベル5って凄いのね」
「てめぇ……」
「もうちょっと遊んであげてもいいんだけど、今日はちょっと忙しいの。目的も果たしたことだし、この辺で帰らせてもらおうかな」
木原ミサキがそう言うと、背後にいた『姉達』のうち、一人がなにやら大きなものを担いで立ち上がった。
「っ―――滝壺ッ!?」
担がれていたのは、ぐったりとして意識を失っている滝壺理后。最初から彼女だけが狙いだったようだ。
「一人で良い気になってんじゃねぇぞ、この糞アマ!!」
コケにされたと感じた麦野がキレて、ありったけの力で『原子崩し』を叩き込む。
大抵の物は消し炭となる殺人交戦の集中砲火を受け、ズゥウウンッ!!と轟音が響く。
すると滝壺を運んでいた『姉達』の一人が悲鳴を上げる間もなく下半身を失い、残された上半身が重力に従ってドサッと地面に倒れた。
だが、抱えていたはずの滝壺理后は空中に制止したまま。まるで誰かが
「いったい何がどうなってやがる?」
麦野が舌打ちした。
『心理感応』は、あくまで精神系の能力だ。それ自体は使い方次第で凶悪な能力になりうるが、麦野の原子崩しのような物理攻撃に対しては、原則として干渉することが出来ないはず。
(まぁいい、たとえ『念動力』持ちの能力者が混じっていようと、まとめて叩き潰す!)
続けざまに、麦野は「原子崩し」を連発した。レベル5全開といった体で、ビルごと倒壊しかねない勢いで木原ミサキを攻撃する。
対して、木原ミサキはいたってシンプルに対応した。その身体が消し炭になる数秒前に消え去ったかと思えば、麦野の背後に立っていた。
「これが『原子崩し』――生で見るのは初めてだけど、動画よりずっと素敵……!」
「チッ……今度は『
苛立たしげに麦野が吐き捨てる。
逃げの一手に徹すれば、テレポートほど厄介な能力も無い。強力な破壊力を持つ『原子崩し』だが、連射ができないという性質上、テレポート相手に有効な面制圧や飽和攻撃を苦手としている。
(あるいは『
弱点を補うシリコンバーンいえども、全方位に退避可能なテレポーター相手にはいささか分が悪い。
「じゃあ、次は私の番ね」
木原ミサキの声と共に、その周囲に炎の渦が出現する。それは回転しながら徐々に膨れ上がり、竜巻となって麦野達にぶつけられた。
それだけではない。木原ミサキの全身から電撃が放たれ、周囲一帯を跳ねまわる。あるいは長大な風のナイフが全方位、四方八方に向けて土砂降りのように襲い掛かる。
(こいつ、まさか『
思わず目を見開く麦野。
(そんな情報、聞いてねぇぞ!?)
だが、目の前にいる木原ミサキは間違いなく今、複数の能力を同時展開した。
(まぁいい、どっちにしろ『原子崩し』で消し炭にしてやんよ!)
木原ミサキが複数の能力を使える『多重能力』だとして、1つ1つの威力では『原子崩し』を圧倒するほどの威力はない。
しかし――。
数十数百の炎の渦、氷の刃、電撃の散弾、風のナイフといった圧倒的な火力をぶつけられればどうか。
たしかに1つや2つ、あるいは10や20であれば麦野の能力で打ち消すことも可能だろう。『原子崩し』を盾のように展開させれば、超電磁砲ですら凌げると麦野は自負している。
あるいは一撃、二撃なら食らっても致命傷にはならない。だが、とても防ぎきれないほどの面で連続的に攻撃を受ければ、ダメージは次第に蓄積していく。
対して木原ミサキは、いつでも好きな時にテレポートでどこにでも退避できる。よって最適解は正面衝突ではなく、様々な能力を矢継ぎ早に繰り出すという物量戦。
彼女だけではない。ミサキネットワークへの接続により、周囲にいる『姉達』たちも同様の能力を行使できる。滝壺の『
(しかし『
なんとなく麦野も木原ミサキが持つ能力のカラクリが見え始めていた。もし想像通りなのだとしたら、その厄介さは並大抵ではない。
「ふふっ、分かってきた?」
「あぁ、テメェら全員ぶっ殺す必要があるってことは理解できたよ」
「あら、怖ぁい」
まったく怖がってなさそうに木原ミサキが答えると、再び2人は激突した。
むぎのんは「多重能力」と勘違いしてますが、正確には木山春生や木原幻生と同じ「多才能力」です。念のため。