とある姉達の心理感応(メンタルリンク)   作:絶対能力進化ver1.3

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第09話 『誘拐』

 

 サロンで麦野と木原ミサキが派手な爆発音を響かせているのを横目に、絹旗は壁際まで走ると小さな拳でそれを容赦なく破壊した。そして浜面と滝壺の手を掴むと、その奥へと飛び込んでいく。

 

 

「浜面、超急いで車の確保をお願いします。木原ミサキの狙いは滝壺さんでしょうから」

 

 恐らく滝壺の厄介なサーチ能力を知って、追跡を振り切るために潰しに来たのだろう。あるいは滝壺の能力を利用して、次に昏倒させる予定の能力者がどこにいるのか位置を割り出すのか。

 

 どちらにせよ、今は身を潜めることが先決だ。そして隠れ家がバレている以上、他の情報も知られていると考える方が自然である。

 

 

「見た目の破壊力なら麦野や私の方が派手ですが、滝壺さんさえ潰してしまば『アイテム』の動きはかなり制限できます。彼女がいるかいないかで『追跡する側」と『追跡される側』は逆転します」

「……逆にいえば、滝壺さえ無事なら巻き返せるってことか」

「顔に似合わず、理解が早くて超助かります。フレンダにも連絡して、『アイテム』以外の隠れ家に潜伏しといてください」

 

 

 絹旗は言いながら、ポケットからスタンガンを取り出した。それを滝壺の手に掴ませる。

 

 

「あなたはボーっとしていて超危なっかしいですから、これぐらいの武器がちょうど良いでしょう。これなら爆発もしませんし」

 

 

 再び、爆発音が響く。

 

 

「―――報告します。対象を発見」

 

 無機質な声が聞こえた。浜面たちが振り返ると、『姉達(エルダーズ)』の一人が通路から出てきたところだった。

 

 

 未だにサロンからは爆発音が聞こえていることから、麦野が倒されたわけではないだろう。ただ、数の優位は敵にある。

 

(やはり敵の狙いは滝壺さんの確保……別に『アイテム』全員を殺さなくても、時間稼ぎさえ出来ればいいという割り切りですか)

 

 

 滝壺の目の前にいるエルダーズは、サイレンサー付きのH&K社製MP7個人携行火器で武装していた。ガスマスクは外してあり、レディーススーツにチョーカー、ショートカットの黒髪とクールな印象を受ける。

 

「―――警告します。貴女たちは完全に包囲されています。無駄な抵抗は止めて、大人しく投降してくれれば危害は加えません」

「教科書通りの警告ありがとうございます。でも、それで素直に従ったケースって無いですよね」

 

 絹旗が警戒しながら答えると、スーツのエルダーズは即座に銃を構えて引き金を引く。

 だが、サブマシンガン如きに貫通されるほど絹旗の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』もヤワではない。

 

(とはいっても、超すぐ増援が着ますよね。この状況なら)

 

 絹旗は短く告げた。

 

「滝壺、行ってください。超早く」

 

 浜面と滝壺が何か言う前に、その小さな少女は戦場へと走っていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして5分後、浜面仕上と滝壺理后はエレベーターの中にいた。

 

 絹旗と別れた後、急いでエレベーターホールへ向かい、地下の駐車場まで高速で降りている最中だ。軽い電子音と共に、金属製の自動ドアが左右に開いていく。

 

(迷ってる暇はねぇ。手前の車から――)

 

 ポケットの中から開錠用のツールを取り出す浜面は、そこで絶望的な声を聞いた。

 

 

「あ、いたいた」

 

 

 通路の向こうから、1人の女性が歩いてくる。それは麦野と戦っているはずの、木原ミサキだった。

 

(ウソだろ……っ!?)

 

 麦野がやられたのか、あるいは単に足止めされているのか、もしくは麦野の方から一時的に戦線離脱したのか。いずれにせよ、状況は非常にマズい。

 

 

「ねぇねぇ、ちょっとお姉さんと遊んでいかない?」

「っ―――!?」

 

 浜面は、袖の中にある拳銃の存在を意識した。だが、それを滝壺が制止する。

 

「大丈夫。私はレベル4だから、レベル0の浜面を、きっと守ってみせる」

 

 浜面が何か言う前に、滝壺はポケットの中から小さな結晶を取り出す。そして一切の躊躇なく、それを飲み込んだ。

 

「っ……!?」

 

 不意に、木原ミサキの動きが止まった。逡巡したのでも、見逃そうとしているのでもない。頭を押さえ、端正だった顔が少しばかり苦痛に歪んだ。

 

 何かが、木原ミサキに干渉している。詳細は分からないが、木原ミサキの苦痛の原因を作っているのが滝壺の能力だということは、レベル0の浜面でも理解できた。

 

(滝壺、何をしてるんだ……!?)

 

 恐らくは能力の応用だろう。AIM拡散力場に干渉する能力の性質を活かして、木原ミサキの『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』を乱している、と考えるのが妥当な線か。

 

 いずれにせよ木原ミサキは頭を押さえ、そのまま地面にへたりこんだ。直接的な戦闘能力を持たないはずの滝壺が、『多才能力(マルチスキル)』を持つ木原ミサキを圧倒していた。

 

(これなら、いける……!)

 

 浜面の心に希望が生まれ始めた、その時だった。

 

 

「油断し過ぎ。バッカじゃない」

 

 いつの間にか、後ろにもう一人のエルダーズが立っていた。豪奢な金髪をなびかせ、派手なメイクにタトゥー、けばけばしいネイルにギラギラとした光沢のあるネックレスを纏った長身の女。

 

 

「後で奢りね。ミサキは八角亭の味噌ラーメンで」

 

 

 さらに別のエルダース。こちらは長点上機学園の制服にボストンフレームの眼鏡、けだるげな表情が特徴的な個体だ。

 

 浜面が見ている内にも、どんどんエルダーズは増えてくる。慌てて拳銃を取り出そうとするも、遅かった。

 

 

「―――遅い」

 

 

 いつの間にか背後に立っていた『警備員(アンチスキル)』風のエルダーズに腕を掴まれ、そのまま柔道の要領で組み伏せられた。

 

 見れば、滝壺もナース姿のエルダーズに押さえつけられ、首元に鎮静剤を撃ち込まれている。絹旗から渡されたスタンガンで威嚇するも、数人がかかりで動きを封じられ、ギャル風のエルダーズに昏倒させられる。

 

 

「数の優位ってのは、手数の多さだ。よく言うだろ? 1機の専用機より10機の量産機って」

 

 浜面を確保した『警備員』風のエルダーズは淡々と告げると、テーザーガンを取り出した。それを至近距離から浜面に打ち込む。

 

 浜面の全身に高圧電流が流れ、耐え難い苦痛の後、浜面は意識を失った。

 




 
 個々の能力者同士の戦闘では「量より質」だけど、複数の戦線がある組織同士の抗争だと手数の多さで「質より量」という状況もありそう。
 
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