ウマ娘と過ごす日常   作:アドミラルΔ

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ゴールドシップ

 ──────

 

 風。あるいは嵐。その後雷から晴れ

 

 

 秋の空と女心はなんて比じゃない変わりよう。それがこのゴールドシップである

 

「てかさ。この理論破綻してね? シューヴァザッツァのトレーニング理論はアイデンファールによって否定されただろ? ここはひとつカリオロの新型理論に賭けてみようぜ」

 

「はぁん? 俺が夜の11時まで考えたスズカに合うパーフェクトトレーニングだぞ? 文句のつけ所なんてあるわけねぇだろ」

 

「なんだよ健康優良児かよ」

 

「てか何でここにいるんだお前。俺は今スペのトレーニングも考えてんだよ。暇じゃねぇんだ」

 

 午後2時を指す時計がチクタクと鳴っていた部屋がこいつの登場によって一気に騒がしくなる。端的に言ってうざいし長く言ってもうざい。つまりうざいのだ

 

 

「ちなみにあたしは暇だ」

 

「あっそ」

 

 

「だから構え」

 

「うるせぇ」

 

「ウユニ塩湖だな」

 

「鏡面的な美しい光景だろ? スペの為に身を粉にしているのは」

 

「ソルト対応だっていってんだ」

 

「俺は忙しいんだ」

 

「あたしは暇だ」

 

「あれ? ループしてる?」

 

戦闘(バト)れ」

 

「いいぜ。それで“黙る”のなら」

 

「よっしゃじゃあ将棋な」

 

 

 トレセンにはレース運びの時の頭脳を鍛えるために将棋やオセロなどの知育ゲームが置いてある。ウマ娘あいてに身体能力では叶わないがこうして頭脳でなら人間は相手をすることが出来るのだ

 

 

「お前ほんと強いな。いつの間にか劣勢だ」

 

「まあ真剣師相手にしてた時代もあったし」

 

「ほんと見た目によらずアウトローだな。まるでこの天才美少女ゴルシちゃんのようだぜ」

 

「……読み入れてる時にボケ入れてくんじゃねぇ。反応できないわ」

 

「あぁ? ボケてねぇって全部ホントのことだろ」

 

「どこが?」

 

「よぅし本当にバトりたいみたいだな」

 

「おまえらの身体能力に勝てるわけねぇだろ。ほら王手だぞ」

 

「おっと危ねぇな。…………読みは?」

 

「15手」

 

「けっ参りました」

 

「よしこれでスペのトレーニングを」

 

「もう1回だ」

 

 ……

 ……

 

 

「はい詰み」

 

「……強ぇ」

 

「よしこれでスペのトレーニングを」

 

「もう1回だ」

 

 ……

 ……

 

「はい詰み」

 

「……強ぇ」

 

「よしこれでスペのトレーニングを」

 

「もう1回だ」

 

「ループしてんじゃねぇかバカ」

 

「なんで勝てねぇんだよ! 超天才美少女だぞ? ゴルシちゃんだぞ? なんでだよ! 小さい頃は神童とも呼ばれてたんだぞ!」

 

「今はクレイジーだけどな」

 

「なんて言った?」

 

「今はクレイジーだけどな」

 

「それでマジで言う奴初めて見たぜ。ふっ……おもしれー奴」

 

「……」

 

「おい無視すんな」

 

「はぁー忙しい」

 

「忙しいアピールすんな」

 

「いや忙しいんだよ合ってんだよ」

 

 

 

「何でだよ! ゴルシちゃんに遊ばれて嬉しいだろ!」

 

「はぁ〜マジでこいつに声かけた過去の俺ぶん殴りてぇ……」

 

 

 軽く首を締め上げられながら昔のことをふと思い出した。後悔先に立たずというが、まさしくこの場においてその言葉が刺さりすぎている

 

 ──────

 

 眉目秀麗なウマ娘が多いここトレセン学園で初めて衝撃を受けたのはその立ち姿を見た時だった。高身長でスタイルもよく美しい芦毛の少女を見た時に息を呑んだのをよく覚えている。街灯に吸い寄せられる夏の夜虫のように俺はその娘の前に立った

 

 

 

「こんにちは。君はどこの所属かな」

 

「ユナイテッドステイツ」

 

「は?」

 

「USAだよ。知らねーのか坊ちゃん」

 

「アメリカから留学しているということか?」

 

「真面目一徹かよつまんねぇ」

 

 体罰なんて非合理的だと思っていた俺が思わず手が出そうになるほど眉間には血管が浮き出ていた。というかこの意味わからん感じはそうか……噂になっていた芦毛で高身長のウマ娘にマジでヤバいやつがいるってのはこいつだったのか

 

「ゴールドシップだな」

 

 後方から追い込んでも垂れないスタミナと長く使える脚が持ち味のウマ娘と聞いている。才能だけならここのウマ娘の中でも群を抜いているだろう。加えてこの容姿なら引く手数多だろうが気性難というかコミュニケーションが取れないから担当がついていないのだろう

 

「違うぞ」

 

 こいつと話すの辞めよ。何だろう俺は今人生で最も無駄な時間を過ごしているんじゃないかと思い始めてきた

 

「急に声掛けて悪かった。じゃあな」

 

「待てよ」

 

「ん?」

 

「お前頭良いか?」

 

「天才だが」

 

 なんせ現理事長からトレーナーでいるよう懇願(脅迫)されている人間だ。一応結果も出てるし並のトレーナーより優れているといっても過言じゃない

 

 

「あたしは大天才だ」

 

「そうか。じゃあな」

 

「ちょ待てよ」

 

「何だ」

 

「あたしの前走の選抜レースを見てくれ」

 

「前走?」

 

「他のウマ娘はこのゴルシちゃんより上がりタイムが早いわけでもないのに前走は負けたんだ」

 

 確認したが後方追い込みから捲ってはいるが掲示板という結果に終わっていた。というかはちゃめちゃな思考回路してるわりにはこういうことも考えてるんだな。なんというか頭が良すぎて頭がおかしいのかもしれない

 

「前残りになると確かに追い込みで勝ち切るのは難しいかもしれないな……どうだ? スパートをもっと早くしてみるとか」

 

「は?」

 

「脚を長く使えるなら最終コーナーじゃなくて向こう正面からスパートすれば前残りに対抗できるぞ」

 

「こいつ頭おかしいわ」

 

「お前本当に殴るぞ」

 

「いや冗談ジョーダントーセンジョーダンじゃねぇかよ! まあそんなに怒るなってハンサムが台無しだゾ!」

 

「黙ってたら学園でも指折りの美少女だと思うのに喋るとこれとは三女神も二物を与えないな」

 

「あ? ゴルシちゃんが天才美少女ステイヤーだと?」

 

「言ってねぇよ」

 

 なんだこれめっちゃ調子狂うな。どれだけ狂うかを指標に表すとドトウのパンツを見てしまった時を一とすると最大がグラスの着替えを見た時に薙刀で切られそうになった時より少し下くらいには調子が狂ってる

 

「お前おもしれー女だな」

 

「男だが」

 

「俺の担当になれ」

 

「嫌だ。じゃあな」

 

「ちっしゃーねぇな」

 

「どうしても……ダメ……ですか?」

 

 こいつ大人しくすると別次元に可愛くなるな……顔赤くなるのを防ぐために背中を思いっきりつねったけどそれ無かったら少し赤面してたかもしれない

 

「いや取り返せるわけないだろ」

 

「この天才美少女ゴルシちゃんになびかないとはどういう事だよ!」

 

「今までの言動でもうマイナスは振り切ってんだよ。その程度で挽回できるか!」

 

「じゃあ契約書作ったから明日から担当な」

 

 もう一度髪を上げて懐から紙を取り出したゴールドシップの言葉は耳を1度通りすぎ気の抜いた返事が喉から出るだけだった

 

「は?」

 

「ゴルシちゃんに出来ないことはねぇよ。契約書の用意なんて屁の河童だぜ」

 

「てめぇそれ偽造だろ!」

 

「賭博罪」

 

 何処でそれを知ったんだこいつ……おそらく一番知られてはいけないであろう奴に俺の最大の秘密が知られてるんだが

 

「口は災いの元ってことだぜboy」

 

 ──────

 

「殴りてぇ過去の俺を」

 

「タイムマシーン開発してやろーか?」

 

「あぁ頼む。過去の俺とお前を出会わなかったことにしてくれ」

 

「そんな事してもゴルシちゃん可愛いからお前からまた声かけるだろ」

 

「はぁ……なんで俺ロリコンじゃなかったんだろ」

 

「何だお前ロリコンじゃなかったのか? テイオーやフラワーやマヤ達とよくじゃれあってるじゃゃねぇか」

 

「じゃれあいというかそりゃまあ遊んでって言われるから遊ぶが」

 

「つれぇなぁあいつらも」

 

「何が言いたいんだ」

 

「ゴルシちゃん可愛いすぎてゴメソ」

 

「おいもうそろそろトレーニングの時間だろ」

 

「おぶれ」

 

「はいはい。ったく練習場までおんぶしないとトレーニングしないってどこのお嬢様だよ」

 

「嬉しいだろ? 美少女をおんぶ出来て」

 

「重い」

 

「首に手をかけるな。締める気だろ」

 

「ちっ別の女の匂いがしやがる」

 

「相変わらずお前ら鼻がいいな」

 

「ま、テイオーだろ。あいつはよくお前に飛びかかるからな」

 

 そうテイオーのせいで他の子までおんぶする羽目になったんだ。ったく俺はおんぶマシーンじゃねえっての

 

こんだけ擦り込んどけば及第点だろ

 

「何か皮肉でも言ったか?」

 

「別に? 早く向かえよトレーナー号」

 

「はいはい」

 

 

 ─────

 

 

 




トレーナーのヒミツ
タイムマシンを開発したい
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