ウマ娘RTA 称号『史上最速』獲得 フクキタルの姉チャート   作:バ〜ナナ?

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「文字数は5000弱でしょうねぇ。最近測ってないから分かんないですけど」
「ん……?16000字くらい」
「あ〜、落ちたねぇ……。落ちましたね、えぇ(更新速度」
「えっ!一時は、やっぱ毎週投稿くらい?」
「毎日投稿くらい(大嘘」
「ヒョエ〜(アグネスデジタル」



天衣無縫

 

「う〜ん、やっぱり簡単には見つからないね。次は射的屋さんを捜してみよっか。ついでにちょっと遊んじゃう?」

「いいですね!私にかかればどの景品も百発百中!君たちに必ずやカッコいい姿をお見せしますよ!約束です!」

「……2人とも捜索にかこつけて色々な店を回ろうとしている様ですが、会長さんを見つけるのが最優先だという事を忘れていませんよね?」

「ハハッ、そんなまさか……ねぇ、プロミスさん?」

「いえ、普通に思いっきり射的を楽しもうと考えてました……」

「「プロミスさん!?」」

 

 私たちはマルゼンさんと別れた後、自己紹介を済ませ、3人で会長捜索を行っていた。しかし、私を巻き込んだ当の少女(名をチギラというらしい)が楽しいそうなものには何でも飛びつくわ、プロミスさんもそれに乗るわで、今のところ順調に進んでいるとは言いがたい状況だ。

 

「ハァ〜、マルゼンさんになんて言い訳すれば……」

「まぁまぁユノちゃん、マルゼン先輩も2人に本気で頼んだ訳じゃなさそうでしたし。それに私としては、せっかく感謝祭に来てくれたんですから楽しんで欲しいんです。先輩だって、きっと同じ気持ちだと思いますよ!」

「そうですかね……?」

「そうだよ!」

「チギラさん……捜索を提案した本人である貴女が言うのはおかしいと思いますけどね……!」

「いや、アタシだってマルゼンさんとの約束を投げ出して遊ぼうとしてるわけじゃないよ。射的をやろうとしてるのも……そう、景品の中にカブラヤオー会長が紛れ込んでいるかもしれないと思ってね!」

「帰っていいですか?」

「わーっ!待って待って!冗談だって〜!」

「まったくもう……そもそも、いくら会長さんが小柄といっても景品と比べたら大きいんですから、混ざってたら分かりますよ」

「ふふっ♪果たしてそうかな?ほら見てっ!景品棚にすっごいデカいぬいぐるみが置いてあるよ!んーっと……ハイセイコーさんの等身大ぱかプチだって!」

「それはもうプチとは呼べないのでは……うわ、デッッカ!誰が獲れるんですかアレ!?」

「いや、よく見てください2人とも!挑戦する人達がいる様ですよ!」

 

 確かに中央トレセン学園の制服と、それとは別の制服を着た2人のウマ娘が真剣な顔で巨大なぬいぐるみを見つめている。彼女たちは興奮した様子でぬいぐるみについて話し合っていた。

 

「1人は知り合いですね。ちょっと声掛けてきます!こんにちは〜!カツラノハイセイコさ〜ん!」

「あっ、やっほー!プロミスちゃん!……あれ、そのお子さん達は?」

「2人とも見学に来てくれた子で……私が引率する事になったんですよ。カツラさんこそ、お隣の方はどなたですか?」

「こちらは大井から来たヒカリデユールちゃん!同じ景品をを狙ってるみたいだったから、話しかけたんだけど……ハイセイコーさんのファン同士、意気投合しちゃって〜!」

「そうなんですよ!こんなにも話が合う……しかも、ハイセイコーさんと同じ名前を持つ方と知り合えるなんて、ビックリです!」

「驚いたのは私もだよ!うちの学園の同志は全員把握してたんだけど、まさかオオイトレセン学園にも、ここまでガチなファンがいたとは……!」

「へぇ〜!じゃあ、試しに2人でハイセイコーさんのチャームポイントを、どっちが多く挙げられるか勝負しt」

「ちょっ!?チギラさん!」

 

 私は慌てて彼女の口を塞ぐ。

 

「絶対に長くなる様な話を振らないでくださいよ!まずは会長さんの事を訊かないと……!」

「あはは、ゴメンゴメン」

もう!私が話しますから!——すみません!お二人にちょっと伺いたい事があるのですが!実は今、居なくなったカブラヤオー会長を捜しているところでして。何かご存知ですか?」

「会長居なくなったの!?ごめん、私は見てないなぁ」

「私もお見かけしてません……」

「あれ、そもそもデュールちゃんはカブラヤオー会長の見た目分かる?」

「もちろんですよ!ダービーでの逃げ切り勝ちは話題になりましたもん!テレビで何度も見ました!」

「かなり久しぶりだって盛り上がったよね!会長の前は確か……」

「はいはい!アタシ知ってる!タニノハローモアさんだよ!当時三強と言われていたメンバーを相手に5バ身差で逃げ切ったウマ娘なんだ!担当トレーナーは確か黒沼さんって名前だったかな?」

(この人、ウマ娘に関して妙に詳しいな……)

 

 生徒会メンバーを私にスラスラ説明してくれた時にも思った事だ。レース好きなのか、それともウマ娘自体が好きなのか、どっちだろう?

 

(……ちょっと待てよ。もし彼女がウマ娘好きだとしたら、私は結構危ない状況に置かれているのでは?思い返せば、出会った時にもナンパの口上みたいな事を言っていたし。それに……よく考えたら、お菓子をくれたのも警戒心を解くための罠だったんじゃ!?)

 

 そんな風に私が身の危険を感じている間にも話は進んでいく。

 

「中央のトレーナーさんって私見たことないんですけど、どんな方なんですか?やっぱりエリートって感じの……」

「いや、デュールちゃんの想像とは大分違うというか……サングラスをかけてて〜、髭が生えてて〜。あっ!それと、いつも腹筋が見える格好してるね。めっちゃバキバキに割れてるんだよ」

「えっ、ヤバい人……?」

「いやいや!トレーナーとしては凄い真面目な人だよ!ただ、ちょっとスパルタすぎるというか……。デビュー前に辞めちゃう娘も多いんだよね。『あんな練習メニュー、サイボーグにでもならなきゃこなせないよ〜!』って」

「うわぁ、中央の皆さんでも音をあげるトレーニング……私じゃ1日でギブアップしちゃいそうです」

「いやいや!何事もやる前から諦めてはいけませんよ、デュールさん!それにサイボーグウマ娘——カッコいいじゃないですか!よぉ〜し、私も……」

「プロミスちゃんは怪我しやすいんだから、あの人に就くのはやめといた方が良いと思う」

「まだ何も言ってないのに!」

「でも私たちウマ娘にとって、どんなトレーナーさんと組むかは最重要問題ですからね。カツラさんやプロミスさんには理想のトレーナー像みたいなものってあります?」

「「う〜ん、そうだな(ですね)……」」

 

 年長者たちが悩んでいるのを見て、チギラさんが此方へと振り向いた。

 

「……まだアタシたちには早いかもしれないけど、キミは考えた事ある?『将来、自分がどんなトレーナーと歩んでいくんだろう』とか」

「言っておきますが、私は携帯を持っています。いざとなれば、すぐにお母さんに連絡出来ますから。私に何かしようとしても無駄ですよ」

「え、何で急に話が通じなくなったの……?怖……」

「チギラさん。ズバリ貴女は無類のウマ娘好きですね?子供の私に声をかけたのは、お菓子でもあげればホイホイついて来ると高を括っていたんでしょう。何より色々なウマ娘に関する詳しい知識を持っていた事が証拠です。——違いますか?」

「うん、全然違うけど。しかし、ふふっ♪まさか、そんな勘違いをされるとは……」

 

 ……なに笑とんねん。

 

「親戚にダービーを逃げきって勝った人がいてさ。もっと小さかった時に、応援しに行ったんだよ。ダービーを見るのは初めてで、最初は観客の多さに驚いてたんだけど……レースが始まったら自然と目が釘付けになった。ずっと先頭で誰にも左右される事なく、自分の走りを貫いて勝つ。何というか、まるで1人の……自分だけの世界を走ってるようで。あんな風に走れたら——最高に自由だろうなって思った。あのレースがアタシの原点。それ以来、逃げきり勝ちしたダービーウマ娘が現れるたびに、その人が出走したレースにはひと通り目を通すようにしてるんだ。詳しく見えたのにはそういうカラクリがあったって訳」

(……成る程。まったく一体何処のどいつだ?私を狙って声をかけたんだとか思ってた奴は)

 

 ……はい、私ですね。という訳で、いちゃもんをつけた事を謝ろうしたのだが……

 

「キミにも、そういう思い出のレースとか有ったりする?」

「……」

 

 この一言で、私は頭が真っ白になってしまった。動揺が顔に出そうになるのを必死に堪える。ヒカルイマイさんのダービーが彼女が謂う所の、私の原点になるのだろう。でも、あの記憶を思い出しても辛くなるだけだから……出来れば忘れてしまいたかった。

 

「……ありません。私はレースに関わろうと思った事がないので。将来も普通の職に就くつもりですし」

「ふーん、そっかぁ……。えいっ!」

「は?」

 

 何を血迷ったか、チギラさんは突然しゃがみ込むと、私のトモを揉んだり、撫で回し始めた。

 

「え?いや……何してるんですか、ホントに」

「キミにはアタシが、ウマ娘の事を凄い好きなヤツに見えたんでしょ。ならいっその事、そういうキャラでいくのも面白いかなって。だから取り敢えずスキンシップを……」

「うわぁぁぁぁああああ助けてぇぇぇぇええええええ!!」

「「「何事(です)!?」」」

「おい、どうした!?」

 

 私の叫び声を聞き、3人が振り返るのと同時に、『五冠ウマ娘と行くヒマラヤ山脈』という本を読んでいた店番のウマ娘が飛び出して来る。するとチギラさんは目を見開いた後、触るのをやめて呟いた。

 

「あっ、犯罪皇帝だ」

「今……誰か俺を犯罪皇帝と呼んだか?」

 

 チギラさんの一言で彼女の身に纏う雰囲気が一変した。目をギラつかせながら、私たちひとりひとりを見つめてくる。怖い。目が合った人は全力で首を横に振った。ちなみにチギラさんもである。この人、本当にいい性格してるな……!

 

「……ったく。俺のクライムカイザーって名前はそんな意味じゃねェっての。おい!そこのおチビちゃんは大丈夫なのか?『助けてー』って叫んでたけどよ」

「アッハイ。モウダイジョウブデス」

 

 とてもじゃないが、この人に助けを求める気にはなれなかった。怖すぎる。

 

「つーかお前ら、店の前で駄弁りすぎだ。射的やんならさっさとしろよな」

「そ、そうだった!待ってて、ハイセイコーさん(ぱかプチ)!絶対に手に入れるから!なんたって1/1スケールは中々お目にかかれないからね!」

「……ふっふっふ。私が先に獲っても恨まないで下さいよ、カツラさん!」

「おぉ、言うじゃない!でも残念だったね、デュールちゃん。勝利の三女神は推しへの愛が強い方に微笑むのさ!勝負はもう決まったも同然でしょ」

「一体いつから——私の愛が劣っていると錯覚していたんです?」

 

 そう言うと、彼女は懐からハイセイコーさんのオオイトレセン時代に撮ったプロマイドを大量に取り出した。

 

「なん……だって……」

 

「……すげェな。先輩のファンクラブ会員ってのは、全員こんなカンジなのか?」

「ファンクラブ……?」

「ハイセイコー先輩のファンってメチャクチャ多いからな。自然とファンクラブが出来たらしいぜ。聞いたことねェか?“ハイ(ユウ)”っつーんだけど」

「タップ(ねぇ)が一番高いコースに入ろうとしてクイン姉さんにシめられてたやつだ……」

「クイン姉さん……?嬢ちゃん、お前もしかしてシービークインの妹か?」

「あっ……ち、違います!知らないです!クインってのはホラ……えーっと、プロミスさんの事だから!ねっ!?」

「えぇ!?私は守られるクイーンより、何かを守る騎士の方が性分に合っていると思うのですが……」

「ねっ!?」

「——コ、コホン。そうわよ!この私、ジョウオウプロミスに従いなさい!」

「その歳で女王様プレイに嵌ってるのも相当ヤベェけどな……」

「そんな事より!あの等身大ぱかプチ、デカすぎて弾が当たったぐらいじゃ絶対倒れないでしょ!」

「ん?いやいや、倒す必要は無ェよ。ぬいぐるみの胸に貼ってある的の中心に当てれば……」

「そうだ!アタシたちも一緒に狙ってみない?2人じゃ無理でも5人同時に当てれば倒せるかも!」

「成る程、全員で協力プレイという訳ですね!」

「だ・か・ら!倒さなくても……」

「カツラさん、一斉に当てれば何とかなりそうじゃないですか!?」

「手伝ってくれるの!?ありが……いや、待って。そうすると倒した後、誰に所有権があるのかで揉める事になるんじゃ?」

「そっか、そうですよね……」

 

 ぱかプチを狙うカツラさんとデュールさんは悩ましげに俯いた。射的をクリアしても、協力するだけの私達3人はともかく、ファンである2人の内どちらか一方が譲らなくてはならない。ハイセイコーさんを想う気持ちが強い彼女らにとって、それを決めるのは相当難しいだろう。

 

「うぅ……ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」

「ヒエッ、どうしたんですか?いきなり動物の唸り声みたいな音を出して……」

「テ゛ュ゛ール゛ち゛ゃ゛ん゛!今回は君に譲るよっ!!」

「えぇ!?それは、嬉しいです。でも……あの、カツラさんはいいんですか?今も凄い量の涙が溢れてますけど……」

「いいのっ!せっかく感謝祭に来てくれたんだし、いい思い出を作って欲しいから!」

「——っ!初対面の私にこんな親切に接してくれるなんて!中央の方はなんて優しいんでしょう!……ちょっとだけ、大井に帰るのをもったいないと思ってしまいました」

「デュールさんもハイセイコーさんの様に中央に来てはいかがですか?この私、キョウエイプロミスがお相手しますよ!」

「えぇ!?そんな、恐れ多い……」

「いいや!私が保証するよ!デュールちゃんは中央でも必ず通用するって!だから、今度はお客さんではなく生徒として!いつか……いつか、その名でここへ帰っておいで!」

「カツラさん……!」

 

 感激に浸り、身を震わせるデュールさんを見て、満足気に頷いたカツラさんの肩をクライムカイザーさんがガシッと掴んだ。

 

「——話は終わったか?」

「あっ、はい!射的を5人でやりたいんですけど」

「そうか。じゃあ、やり方を教えるからよォ……」

「は、はい。あの……怒ってます?」

「い〜や、怒ってねェよ?ただひとつ言いてェ事があるんだが……お前ら、人の話はちゃんと聞けや!!!

 

 ◆ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「「当たれええええええええええ!!」」

 

 ちゃんと説明を受けたデュールさんが、ぱかプチを手に入れるべく悪戦苦闘し、それをカツラさんが応援している間に、射的を終えた私たちは当初の目的である聞き込み調査を行うことにした。ちなみに3人の結果だが、プロミスさんとチギラさんはどちらも参加賞である執事喫茶のクーポンを、私は招き猫の形をしたバッグを当てることができた。正直『これいる?』という思いが強い。神社の娘だからといって、日用品まで縁起物にしたいとは思わないのだ。4等の的を倒した時の喜びを返してほしい。

 

「ところでカイザー先輩、カブラヤオー会長をお見かけしませんでしたか?」

「ん?見てねぇけど。つーか、会長は相談所に居るはずだろ?」

「いえ、それがちょっとしたトラブルで現在行方不明なのです」

「おいおい、マジかよ!なんだってそんな事に……」

「なんでも扉を開けた時にトウショウボーイ先輩とぶつかり、それで逃げられてしまったらしいです。会長はシャイな方なので」

「曲がり角で衝突する少女漫画じゃねぇんだから……。いや待てよ、そういやあいつシービークインとは正に漫画みたいな関係だったな。テンポイントもやたらとモテるし、俺の同期にゃ女たらししかいねぇのか!?」

 

「心外だな、クライムカイザー。私までその様に言われるとは」

 

 ——突如、屋台の裏から新たな黒鹿毛のウマ娘が現れた。かなり大柄な人だったので急に出てこられると心臓に悪い。反射的にチギラさんの後ろに隠れようとした私は隣を見たのだが、そこには誰もいなかった。

 

(あれ?チギラさんはどこだ……?)

 

 そう思い振り向くと、そこには私の招き猫型バッグを逆さにして頭から被った不審者、もといチギラさんが!……ついに狂ったか。

 

「うぉっ!?なんだグリーングラスか。悪りぃ悪りぃ、お前は女にモテるタイプじゃなかったよな。忘れてたわ」

「……まぁ、TTの2人と比べると私はあまり目立たないからな。別に気にしていないが。思いきって尾花栗毛に染めてみようかな?いや、本当に気にしていないがね」

「……悪かった。今度、なんか奢るからよ。水に流してくれ」

「そうか。なら2人で温泉旅行にでも行こう。予算は約3億円でプランを組んでおくよ」

「オイッ!急に足元を見るなァ!!つーかお前、今日は感謝祭を見廻る係だったよな?コイツら会長を捜してるらしいんだが、見かけなかったか?」

「すまない、会長は見ていないな。——しかし、奇遇だね。私も迷子の捜索をボランティアクラブの2人に頼まれているんだ。連れて来た千明(チギラ)家の御令嬢が逃げ出したそうでね。トウショウボーイ曰く、背丈は中等部より少し小さいくらいで、黒鹿毛の髪、空色の瞳を持つウマ娘との事だが……心当たりは無いかな?」

 

 私とプロミスさんは揃ってチギラさんを見た。表情は顔が隠れているため分からないが、心なしか焦っているように見える。

 

「あの、チギラさ……」

「アタシは招き猫の化身、『ミスター・にゃー』!チギラなんて名前じゃないにゃ〜!」

「……自分でチギラと名乗ってましたよね?」

「それは、アレだにゃ。んーっと、血でギラギラしてるって意味のニックネームにゃ!」

「招き猫の化身のくせに、すっごい縁起悪そうですね」

「というか、そんな物騒なあだ名、付けちゃいけませんよ。カイザー先輩の“犯罪皇帝”もそうですけど」

「よく言ったプロミス、その通りだ!俺の名前に入ってる『クライム』の意味は“crime(犯罪)”じゃ無くて“climb(上り詰める)”だからな!」

「えっ、そうだったんですか!初耳でした……!」

「プロミス!?嘘だろ、案外知られてねェのかな……?どう思う、グリーングラス?」

「実はなクライムカイザー……私も初めて知った」

「いや嘘つけェ!お前には1年生の時に自己紹介で教えただろうがァ!」

 

 グリーングラスさんはツッコミをスルーしながら、チギラさんのもとへ近づいていき、頭に被さったバッグを取り上げた。

 

「あっ……」

「やはり、君で間違いない様だ。駄目じゃないか、勝手に居なくなったら。トウショウボーイもシービークインも心配していたよ」

「ごめんなさい……。あの、今すぐ姉さんたちの所に連れてかれるんですか?」

「——まだ、戻りたくないのかい?」

 

 チギラさんは私の方を少し見遣ると、覚悟を決めた顔でグリーングラスさんに向き直り頷いた。

 

「そうか……。よし、午前中いっぱいは君の自由行動を許すよう2人を説得しておこう。武士の情けだ」

「ホ、ホントに!?ありがとうございます!」

「それと、私の携帯を渡しておくよ。GPSで追跡できるように設定してあるから、お昼になったら2人が迎えに来るだろう。……また逃げ出そうなんて思わないように」

「は、はい」

 

 グリーングラスさんは返事を聞くと、バッグを返し、走り去っていく。それとほぼ同時に、向こうから『獲ったどー!』と歓喜の声が聞こえてきた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「私、覚悟して『譲る』って言ったんだよ。けど、喜んでるデュールちゃんの顔を見て、段々とぱかプチをゲット出来なかった実感がわいてきたらさ……ごめん、やっぱ辛ぇわ」

「そりゃ辛いでしょ」

「言えたじゃないですか」

「聞けてよかった」

 

 私たちはカイザーさんに別れを告げ、カツラさんを励ましながらライブ会場へと移動していた。というのも『感謝祭に来たのに特別ライブを観ないなんてとんでもない!』と力説されたからであり、そして今日出演するゲストが……

 

「私が言うのもなんですけど……元気出してくださいカツラさん!この後すぐに本物のハイセイコーさんが見れるじゃないですか!」

「うぅ……そうだよね!いつまでもブルーな気持ちでいたら、せっかくのライブが台無しになっちゃう!」

 

なんとハイセイコーさんなのだ。学園祭のミニライブとはいえスーパースターが来るとなれば、大混雑が予想される。そういう訳で開演よりもかなり早い時間から向かい始めたのだった。

 ところで先程からチギラさんが大人しい。ゆっくりとした歩調で私の2、3歩後ろを歩き、伏し目がちな表情をしている。やはり昼には戻らねばならなくなり、意気消沈しているのだろうか。もしかしたら会長捜索を言い出した手前、途中で抜ける事に責任を感じているのかも。仕方ない、彼女の事も励ましておこう。

 

「チギラさんも、あまり落ち込まないでください。……まぁ、乗りかかった船ですし、もし午前中に会長さんが見つからなかったとしても、私が午後も捜しておきます。貴女が自由に遊べる時間はあんまり無いんですから、思いっきりテンション上げて、この後のライブを楽しまなきゃ損ですよ」

「……えっ?あぁ、うん。別に落ち込んでる訳じゃなくて、考え事をしてたんだけど……というか、ゴメン!巻き込んだキミに捜索を任せる事になっちゃいそうで」

「いえ、その……なんというか。貴女やプロミスさんと一緒に廻れたのは、1人でいるよりも楽しかったと思いますし……。感謝してるといいますか……だから、これくらい気にしてない……」

「今、楽しかったって言ったよね!?」

「あぁもう、うるさいですね……!大体、落ち込んでる訳じゃないって何ですか!?じゃあ、何考えてたんです!?」

「んーっと、その招き猫型バッグ、目力強いなぁ……とか」

「貴女を心配した気持ちを返してくださいよ!」

 

 私は怒ってそっぽを向く。するとプロミスさんの不安そうな顔が目に入った。

 

「プロミスさん、どうしたんです?何か心配事でも?」

「あぁ、いえ……私も歌って踊れるウマ娘を目指し、日々精進しています。ですが、恥ずかしながらファンとしてライブに参加した経験が無く……どう振る舞えば良いか分からないのです」

「あっ、アタシ知ってるよ!叫びながら光る棒を振り回すんだ!動きがキレッキレでカッコいいよね!あれなんて名前だっけ?」

「ヲタ芸でしたっけ……?」

「チギラちゃんが言ってるのはサイリウムダンスの事だろうけど、ライブでやるもんじゃないからね、叫ばないし……!」

 

 私たちがヲタ芸とサイリウムダンスは別物だと説明を受ける一方、『カッコいい』という言葉を聞いたプロミスさんは、見る見るうちに顔色が良くなっていった。

 

「——君たちにカッコいい姿を見せる、それが約束でした。私に二言はありません!カツラさん、ご指導のほどよろしくお願いします!ちゃんと叫びながら光る棒を振り回してみせますので!」

「やる気があるのは良いんだけど、言い方に語弊があるから!」

 

 そうして、プロミスさんがファンの2人から説明を受け、途中で私たちも加わってコールを合わせる練習をしながら、歩を進めたのであった。

 

 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◇

 

 会場に着くと、早い時間だというのにかなりの人影を見ることができた。流石はトップアイドル。会場からは既に、何というか……熱量を感じる。

 

「よし、次は……『うまぴょい伝説』のコール確認をしておこう!私とデュールちゃんで、まずやってみるから」

「はい!じゃ、さっそく……う〜」

「うまだっち!」

「すみませんカツラさん!お聞きしたい事が!……“うまだっち”って何ですか?」

「……それは分からない」

「えっ?」

「さ、続き行くよ!う〜」

「うまぴょい!うまぴょい!」

「あ、あの、デュールさん。“うまぴょい”とは……?」

「分かりません。きっと歌い続けた者にしか……分からない」

「?????」

「ほら、今度は3人の番だよ!せーのっ!」

「「う〜〜」」

「「「う、うまだっち!」」」

「「う〜〜」」

「「「うまぴょい!うまぴょい!」」」

 

「なんや、えらいけったいな歌詞やなぁ。最近、流行ってる曲なんどすか?」

 

 声を上げていた私たちに、お面を被っている着物姿の女性が話しかけてきた。チギラさんくらいの歳に見えるウマ娘が、その女性の後ろに隠れている。なのでコールが煩くて子供が怖がってしまい、注意されたのかと思ったが……そういう訳でも無いらしい。単に質問してきただけのようだ。

 

「あっ、えっと……」

「しもた。知らん人に話かけられたら驚いてまうな。ほな、改めまして。ウチは“松風のぼり”といいます。あんじょうよろしゅう」

「私はキョウエイプロミスと申します!よろしくお願いしますね、松風さん!そして、曲については……えっとぉ〜」

「はいはい、説明はファンに任せて〜。この曲は『うまぴょい伝説』。ウイニングライブに今度、正式に採用される予定の曲ですよ!一説によると、かなりの電波ソングだから人気アイドルのハイセイコーさんに歌ってもらう事で、生徒たちの抵抗感を減らそうとURAが画策しているとか、していないとか……」

「へぇ、今の娘たちはレースの後に歌うたり、踊ったりするのんは聞いとったんやけど、こないな曲なんやねぇ。……そや、ミホ!おねぇちゃん達にライブのこと聞きよし。アンタも将来、歌うかもしらんさかい」

 

 そう言って、後ろで服を掴んでいたミホというウマ娘に前へ出るよう促した。しかしその娘は首を横に振り、より一層私たちから隠れるように松風さんに抱き着いてしまう。

 

「ミ〜ホ、恥ずかしがっとったらあかんえ。びびる事あらへん。おねえちゃん達、み〜んな優しそうな顔してはるさけ、ほんのちょびっとでええ。話してみよ?」

 

 困ったように言われて、その娘はようやく顔を出すと……

「ミホシンザンです。よろしく」

それだけ言って、すぐに引っ込んでしまった。

 

「……いやぁ、かなんわぁ」

「大丈夫です、松風さん!私ほど人畜無害なウマ娘はいませんから!アピールすればすぐ出てきてくれるはず!」

 

 そう言って突撃したプロミスさんだが、松風さんを盾にして、お互いが必ず対角線上になるよう避けられている。

 

(……これ私も加わって、はさみうちにした方がいいのかな?)

「ねぇ、ユノ。ちょっと話したい事があるんだけどいいかな?」

「えっ……?」

 

 ミホさんの捕まえ方を考えていた所、突然チギラさんは私の袖を引き、聞かれないようにするためか、他の皆に背を向ける格好で内緒話を始めた。

 

「何ですか?一体……」

「本当はもっと時間をかけて聞いた方が良いんじゃないかって考えてたんだけど、アタシのタイムリミットが昼になっちゃったから……今この場で、単刀直入に言うよ。キミは何か悩んでいる事があるね?それをアタシに話して欲しいんだ」

「な……にを……悩みとか私には……」

「誤魔化さないで。ちゃんと気づいてるんだから」

 

 逸らそうとした顔を両手で包まれ、むりやり視線を合わせられる。心の内を見透かされていたという羞恥と、彼女の言い分を認めたくない気持ちが同時に押し寄せ、私の心はひどく波立った。

 

「最初にキミの顔を見た時から『この娘には何か悩みがある』……そんな気がしてたんだけど、話すうちに疑惑は確信へと変わったんだ。生徒会に行かないかという提案に対する『私が相談所に行っても意味がありません』という言葉。レースに関心が無いウマ娘なのか、とも思ったよ。……でも、そうじゃないね?カブラヤオー会長たちを見て、キミは興味を惹かれた様だった。あんなスピードで走れるウマ娘、中々お目にかかれない。だからこそ、マルゼンさんの話を止めずに聞いていたんだろう?どうしてトップクラスのウマ娘2人が追いかっけっこをしていたのか知りたくて。それは、キミが足の速さに価値を見出してるって事だ」

 

 彼女は自由人なんだと、そう考えていた。私を巻き込んだり、振り回したりするのは、他人の気持ちに鈍感だからだと。なのに……なんだ、この洞察力の鋭さは?今までの気ままな振る舞いは、彼女の一側面に過ぎなかったとでもいうのだろうか?

 

「更にアタシが『思い出のレース』について質問すると、答えに詰まった後、キミは『レースに関わろうと思った事がない』と言った。明らかにオカシイと感じたよ。だからトモを触ってみたんだ。……断言してもいい。何のトレーニングもなしに、そういう筋肉のついた足にはならない。じゃあ、なぜアドバイスを貰える機会を棒に振ったり、嘘をついたりしたのか?アタシが思うに……」

 

 この先は聞いてはいけない。そう気づいた時には、もう遅かった。

 

「本当はキミもレースに出走することを目指していたのに、何らかの原因でそれを諦めた。そして未練が残っているから、悩んでいるんじゃないかい?」

 

 ——瞬間、忘れようとしていた様々な記憶がフラッシュバックする。

 

『スゴかったんだよ!最後に電撃みたいな差し脚で、み〜んな追い抜いちゃったんだ!お父さんたちにも見せてあげたかったなぁ〜!私もいっぱい練習すれば、いつかきっとあんな風に……!』

 

『なぁ母さん。この歳になっても、まだウマ娘としての名前を授からないって事はあの娘は……』

 

『あの、夢の中で“マチカネフクキタル”って……』

 

『ランニングスクールに入りたい?……いいかい、お嬢ちゃん。レースに出れるウマ娘は皆、特別な名前を持っているんだよ。ほとんどは物心がつく頃に天啓としてそれを授かるんだ。悪い事は言わないから、レース以外の違う道を……』

 

『姉妹なのに……どうしてあの娘にだけ名前がないのかしら……』

 

              

 

「貴女に何が分かるんです!?私だって夢を諦めたくなかった!それでも、現実を見なきゃって……受け入れようと……してたのに……」

 

 涙が自然と溢れてくる。私の大声でプロミスさんたちに、泣いているのを気づかれたようだ。

 

「どどど、どうしたんですか!?チギラちゃん、どういう経緯でこうなちゃったんです!?」

「い、いや……アタシ、泣かせるつもりなんてなくて……ただ、悩みを聞いて力になれたらって……」

 

 チギラさんもあたふたして上手く説明できていない。それはそうだ、彼女も何が何だか分からないだろう。私が唐突に泣きだしたのだから。

 

「あの、ユノちゃん大丈夫……?どうして……」

「待ちよし。泣いてはったらお話しできひんどっしゃろ?そやし、聞くのんは落ち着いてからにしまひょ」

 

 そう言って、松風さんが私の背中をさすってくれる。私たちの間にしばらくは嗚咽の声だけが響いていた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇

 

 私が泣き止むと、チギラさんが申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「あの、ゴメンね。アタシ……」

「いえ、貴女のせいじゃないです。泣いちゃった理由は……ちゃんと話しますから」

 

 悩みを言い当てられ、皆さんに心配をかけてしまった以上、もう全てを説明した方がいいだろう。

 

「今より幼かった頃に、お母さんに連れられて日本ダービーを観に行ったんです。そのレースを見て、私もいつかターフに立ちたいと思う様になりました。でも……いつまで経っても、私にはウマ娘としての名前が無かったんです」

「そういうことか……」

「だから、もうキッパリと諦めたんです。さっきは当時の悔しさとかやるせなさが甦って思わず泣いちゃいましたけど、もう大丈夫ですから……」

「本当にそれで良いの?」

 

 この話題を切り上げようとした瞬間、チギラさんが私をじっと見つめながら、念押ししてきた。……彼女の透き通った瞳は、私の顔を捉え続ける。まるで、私が捨てようとしている『夢に懸ける想い』を映し出そうとするかの様に。

 

「小等部で名前を授かる娘だっていない訳じゃない。まだ諦めるのは早いんじゃないかな?」

「……勝手なこと言わないでください。そんな人、全体でほんの数パーセントじゃないですか。それに期待して、あと何年も走る練習をしたとしても結局、駄目な可能性の方が高いんですよ。そんなの、誰もが『やめた方が良い』って言いますよ!」

「……タブーは他人(ひと)が作るものにすぎない。何と言われようとも、キミ自身が夢を信じて進み続ければ、なんだって叶うはずさ」

「他人事だと思っているから、そんな事が言えるんです!貴女も私の立場なら諦めるはずだ!」

「いいや!どんな状況になろうとも、アタシは自分の夢を絶対に諦めたりしない!!」

 

 彼女の気迫に押されているのが自分でも分かった。

 

「じゃあ、そこまで言う貴女の夢は何なんですか……?」

「——クラシック三冠を獲る。それがアタシの夢」

「「「なっ!?」」」」

 

 『身体が完成する早さと純粋なスピードの速さ』・『20人以上もの出走者がいる中で勝てる運の良さ』・『フロックが起こりにくい長距離で他をねじ伏せる強さ』……これら全てを兼ね備えた者のみが三冠ウマ娘という最強を表す称号を手に入れる。それを目指すなんて正気を疑う話だ。何せ数パーセントどころではなく、歴史上2人しかいないのだから。

 

「本気ですか!?だってカブラヤオー会長も無理だったんですよ!?」

「そうです!ヒカルイマイさんにも不可能で……そもそも一冠を獲るのも信じられないくらい難しいのに……」

 

「ウチはええ夢やと思います」

 

 私やデュールさんが無理だと言うのを遮り、松風さんは彼女を鼓舞するように力強く頷いた。

 

「チギラちゃんいうたかいな?アンタはんの夢、応援してるさけ、お気張りやっしゃ」

「——は、はいっ!」

 

 チギラさんも肯定されるとは思っていなかったのか、動揺しながら相槌をうった。一方、途方もない目標を語った彼女に感化されたのか、後に続いてプロミスさんが話し出す。

 

「私も……私にも夢があって!日本最強のウマ娘になりたいんです!」

「えぇ!?チギラちゃんに張り合って高い目標にしなくてもいいんだよ!?」

「いいえ!元より私の夢はこれでした!今まで流石に人に言うのは憚られたのですが……チギラちゃんに勇気を貰いましたから。これからは隠さず、誰よりもひたむきに走っていきますよ〜!さぁ、お次はカツラさん!」

「あっ、順々に言ってく感じ?えーっと、私は……ハイセイコーさんが夢見た日本一、日本ダービーに勝ちたい!憧れた人の夢を継ぎたいんだ。次、デュールちゃん!」

「わ、私なんて……」

 

 そう言いかけたデュールさんだったが、カツラさんに言われた事を思い出したのか、一度深呼吸をすると違う言葉を続けた。

 

「私は地方で重賞に勝って中央に挑戦したいです!それと、おこがましいかもしれませんけど……ハイセイコーさんがラストランで2着に敗れた有馬記念。あのレースを制覇してグランプリウマ娘となる栄光を、私が掴みたい!」

「おぉ!なら、一緒に中山を走ることになるやもしれませんね!よ〜し次、ミホさん!」

「!?」

 

 彼女は遠慮のない会話の振られ方に数瞬、戸惑っていたが、松風さんを見遣ると表情を引き締めた。

 

「私も……三冠ウマ娘になりたい。アコガレだった夢だから。そして、ミホ“シンザン”の名に恥じぬような走りがしたい!……です」

「ミホ……」

 

 そして、感動して固まっている松風さん以外の視線が私の方へ向く。私も夢を言わなければならないのだろうか?もう諦めたつもりだったのに。そんなこと、私には……

 

「大丈夫。ここにいるみんな、普通は『出来るわけがない』って言われるような事を目標にしてる。だからキミも、もう少し夢を追いかけてみない?」

「…………」

 

 今までは悩みを誰かに相談した事がなかった。家族にも一方的に『レースを目指すのはもうやめる』と伝えただけ。だからレース場に連れて行ってくれたり、色々と私の夢を応援してくれたお母さんは納得できずに、今日の感謝祭へ一緒に来るよう言ったのだろう。それが巡り巡って、私の夢を肯定してくれる人たちとの出会いに繋がったのだ。そして彼女たちと話をして……私が諦めたものより遥かに高い壁に、挑戦しようとする人がいる事を知った。

 

 そうだ、レースの世界では夢叶わぬ人の方が圧倒的に多い。重賞を勝てるウマ娘は全体の1パーセントにも満たない数だ。ましてや、一生に一度しか出走できない日本ダービーを勝てる人なんて……ほぼゼロ。そんな世界を目指していたのではなかったか。『大勢の人の記憶に残るようなレースをして、観客の人たちと笑い合う』……それが私の夢だったはずだ。なら、名前がないくらいで立ち止まってる場合じゃない。そう、頭では分かっているのに……

 

(言え!夢を諦めきれずに悩み続けてた自分にサヨナラして、再び頑張ってみるって!今、言うんだ!言え!言えっ!!)

 

 何度も、心の中で自分を奮い立たせようと叫んだ。……でも、一度折れた心は元通りにはなってくれない。喉元まで出かかった言葉は、結局音にならずに飲み込まれた。かつては鮮明に思い描けた『レースに勝ち、歓声を浴びる光景』が、ジグソーパズルの様に崩れ、今ではその断片さえ浮かんではこなかった。

 

「……すみません、まだ自分の本当の気持ちが分からないんです。もう少し考えさせてください……」

「そっか……」

「まぁ簡単には決められへんやろ。一旦、気持ち切り替えよか。ライブもぼちぼち始まるみたいやし。……そらそぉと、こないにぎょうさん集まんにゃなぁ」

「わわっ!準備しないと……!」

 

 どうやら泣いている間にかなりの時間が経っていたようで、いつの間にか会場にはたくさんの人が入り、混雑していた。ファンの2人はいそいそとサイリウムや“怪物ちゃん”と書かれた団扇を取り出し、ミホさんは人の熱気で暑くなったのを気にしたのか、松風さんに氷を押し当てている。(何で持ってるんだろう?)

 私も心の中で渦巻く様々な感情を押し留め、ひとまずステージの方へと意識を向けるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◆ ◇

 

『帰ってきたぞぉぉおお!トレセェェエエエエン!!』

 

「「きゃあああ!ハイセイコーさぁぁぁああん!!!」」

 

『よぉ、みんな〜!盛り上がってる〜!?』

 

「「いえぇぇええええええい!!!」」

 

『今日は思いっきり楽しむために此処に来た……それに間違いないか〜!?』

 

「「いえぇぇええええええい!!!」」

 

『だったらもっとテンション上げてかないと!もう一回!盛り上がってますか〜!?』

 

「「い゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛い゛!!」」

 

『いいね〜!そんな皆にサプライズだ!今日はスペシャルゲストォ……もう一人のウマ娘が助っ人として来てくれたぞ〜!みんな誰か分かるかな?カモ〜ン!!』

 

 ファンの人たちも知らなかったようで、どよめきが起きる中、鹿毛のウマ娘がステージ奥の垂れ幕からバク転で登場し、最後に後方2回宙返り2回ひねりをきめて着地した。

 

「「あ、あれはっ!?」」

 

『タケでした』

 

『そう!ワタシの終生のライバル、タケホープだぁあああ!』

 

「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

『ボルテージも上がった所で、行くぞ一曲目ぇ!アーユーレディー?』

『できてるよ。……位置についてー♪』

『よーい♪』

『『どんっ!』』

 

『『う〜〜♪』』

 

「「「うまだっち!!!」」」

 

『『う〜〜♪』』

 

「「「うまぴょい!うまぴょい!」」」

 

 サイリウムの光に照らされ、歌う2人の笑顔がキラキラと輝く。以前からのファンも、そうじゃない人たちも、一体となってライブを楽しんで、皆が笑っていた。ライブの煌びやかな演出と相まって、会場の外とは違う世界に迷い込んでしまったかのように感じる。視界に映る光景は……現実感がなくて、まるで夢のように思えた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◆

 

 うまぴょい伝説が終わり、次の曲が始まるまでの合間に私はチギラさんへと話しかけていた。

 

「……ライブって凄いですね」

「そうだね。彼女たちのパフォーマンスには自然と人を笑顔にさせる、そんな力が宿ってるように思う。まさにアイドルウマ娘だ」

「人を笑顔にさせる力……。チギラさん、もう少し話を聞いてもらっても良いですか?」

「うん、大丈夫。話してごらん」

「私の夢は『大勢の人の記憶に残るようなレースをして、観客の人たちと笑い合う』事だったんです」

「っ!」

「でも、ハイセイコーさん達みたいな“人の心を動かす力”が自分にあるとは思えなくて……。夢を叶えるイメージが……どうしてもわかなくて」

「……そっか。なら、まずはアタシがキミを信じるよ」

「どういう……?」

「キミが自分を信用できなくても、アタシが『キミは絶対、夢を叶えられるはずだ』って信じてる。そしたら、頑張る勇気が出てこない?」

「……」

「それでもダメなら、キミが夢を目指すきっかけになったレースのような……心を動かす走りをアタシがしてみせる」

「チギラさん……」

「あっ、レースを見に来てくれた時のためにウマ娘としての名を教えとかなくちゃね。グリーングラスさんにバレちゃったから、もう隠す必要もないし」

 

 そう言うと、彼女は体ごと此方へ向き直った。

 

 

 

「アタシはミスターシービー。この名前を覚えておいて。いつか必ず、誰もが驚くような演出(レース)をキミに見せてあげるから!」

 

 

 




 一話の修正箇所です。

・育成開始時の年齢を8歳から小等部中学年に変更
 何度も変更して申し訳ナイス!ウマ娘の時系列、真面目に考えたら訳わかんなスギィ!激マブとか、アレ制服のコスプレしてるだけで、実はOGだったりしないですかね……。年代を圧縮したり、良い感じにいじれば、辻褄が合う気がしていたが、別にそんなことはなかったぜ!結局、何歳にしても矛盾が生じるので、年齢に関しては出来るだけボカして書こうと思います。よろしくお願いさしすせそ。
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