ダーレク討伐作戦の死傷者は七万人を超え。無敵の皇国軍の失墜を全属州にさらし、虐げられた属領からの不穏な気配が漂い始めていた。パーパルディア政府は武力で抑え込みを図るも神聖ミリシアルからの第三文明諸国の保護宣言。すなわち列強の地位をパーパルディアからはく奪すること、かの国が担っていた第三文明圏の保護の役割を神聖がミリシアル担うという衝撃的な宣言であった。
その宣言はくすぶっていた属領の復讐心に火をつけ大規模な反乱が発生
一か月弱反乱に参加した属領は73にもなりフィルアデス連合軍を名乗りパーパルディアに反旗を翻していた。
中央歴1640年 2月4日 パーパルディア皇国 エストシラント
「現在、ワイバーンによる偵察によれば反徒どもはアルーニ向け進軍をしている模様です」軍最高司令官アルデは皇帝ルディアスに報告する
その顔はこの国を襲う危機的状況によってやつれてはいたがいくらかは持ちなおしていた。彼にとってフィルアデス連合軍は想定ができる相手であり。ミリシアルの魔道軍やいまだに戦力を考えることすらできないダーレクを相手に戦略を今は考えなくても済むからだ。
「不幸中の幸いですがフェン王国進攻が取りやめになった結果。わが海軍によって敗残部隊を速やかに回収することが出来ました」
「敗残部隊で敵軍を消耗させわが軍の主力で一気に叩き潰す、それがわが軍の戦略です。しかし問題が指揮官のアロイス様ですがいかがいたしましょう?」
「アロイスは皇族の血を引きレミールにとって叔父の関係だが魔獣に無様に敗北した。奴は皇族の恥さらしになりさがったここで戦死させた方が奴のためよ」
「反徒どもついてはよい、ミリシアルだ。かの帝国と戦うにはどのようにすればよい」
「まず、反徒どもを叩きのめし大陸では覇権を再確立、その後第三文明圏の国々と大同盟を結びミリシアルの介入の意思を喪失させます」
アルデの発言は異様にプライドの高いパーパルディア人にしては弱腰の発言だったいつものパーパルディアならば文明圏外の国々と同盟という考えすら浮かばない。それが同盟という提案を強硬派の軍部の長が言うのだから神聖ミリシリア帝国の存在がこの世界でどれほど恐れられている証明している。
落ち目の皇国にどの国もつかないだろうとカイオスは推測する。現在の状況がなくとも皇国の外交と内政は諸外国で悪名が高く同盟国を持っていない。むしろ第三文明圏の国々は嬉々としてパーパルディアを解体しに行くだろう。その流れに乗らない国あるというのならばこの世界に来て日が浅い日本だけだ。
「陛下、我が国の同盟国として最適な国がります」
「なに、申してみよ」
皇帝からの問いにカイオスは答える。その国は日本と
2月7日 エストシラント パラディス城
えらい歓迎の仕方だな 朝田と篠原両名が最近のパーパルディアの歓迎に対して思っていることだそれはより高級なホテルから始まり食事にサービスの水準。彼らを護衛する兵士の登場などや行き過ぎといえるまでの行為。もちろん両名とも断ったが朝田と篠原に対して奴隷の譲渡の提案まで行われていた。
今もその歓迎が行われている外交交渉に呼ばれた二人には皇族専用の馬車用意されていて、その乗り心地は外交官生活で乗った乗用車の中でも上位のものだった。なぜ、ここまでの乗り心地が良いのかと御者に聞くと風の魔法を使い車体を浮かせている、専用の車体と高い工作技術が必要で皇族しか乗れないほどのコストだと、馬車のことを聞いているうちに目的地に到着した。
「朝田さん篠田さんよくいらしゃいました」
カイオスは二人にそう言って握手をした。
最初の会見の日本を見下した態度とは違い対等の国いや歓待ぶりから考えると格上の国を相手にしているほどの変わりようだった。
「カイオスさん、あのご婦人は誰ですか?服装からして高貴なお方と存じますが?」
「ええ、あのお方は我が国の皇族の一員であらせられますレミール殿下です」
「よく参った。私は外務局監査室のレミールだ。今回の我らの提案の重要性からこの交渉に出席している」
レミールの紹介を聞いた朝田はパーパルディアから提案は最重要案件だということは外務局監査室が外務局の上位機関であること所属している人員が皇族であることからすぐに推測できた。
「わが、パーパルディア皇国は貴国との同盟を提案する」
レミールはそう言うと朝田に上質な紙を手渡した。
・パーパルディア皇国と日本国は国交を樹立する
・パーパルディア皇国と日本国は相互防衛条約を締結する
・パーパルディア皇国と日本国はお互いの知りえている技術を開示する
・パーパルディア皇国と日本国はお互いの軍事基地の使用を許可する
・パーパルディア皇国と日本国はお互いの領空領海の解放を許可する
読み終えた朝田はここまでのものが来たか腰を抜かしそうになった。
自分達が政府から期待されていた役割の国交の成立どころかさらに同盟まで提案されたのだから。
政府から提案に対する是非の質問は来るだろうが今は一外交官として回答するのが賢明だという判断を下した
「私の権限では同盟に関する事項は決定できません。一度本国に提案を送付し政府の決定を伝えます」
「朝田さん、回答にはどれほどの時間が必要ですか?その時間だけ猶予を与えたいと思っています
ただ、わが皇国は近いうちに属領の反乱を鎮圧するでしょう。その時にはこの提案自体がなかったことに
なっているかもしれません、お早目な回答を」
カイオスとしてもこの提案を受け入れるために多大なる労力を費やしていた。成功すれば第1外務局局長にも就任できるが失敗すればいたずらに皇国の国威を貶めた罪で辞職が待っている。だからこそ時間稼ぎは認めない思いも持つ
そんなカイオスの思いを受け取ったのか朝田は
「では一週間後に」
と答えホテルに戻り政府に連絡をすることにした。内心一か月以上かかるじゃないかと思いながら
「カイオスよ、わかっていると思うがあの者たちがこの提案を拒んだ時には外務局いられなくなるぞ」
レミールはそうカイオスに告げた。彼女にとって日本は監察軍を破った忌々しい蛮族国家に過ぎない本音では日本に対して従属化宣言をしたいところだ。その彼女が外交の場で下手に出ざる負えなかったのはトーパ王国での失敗が影響している。その結果彼女の皇族としての立場は著しく傷ついた。
そのうえ彼女の叔父は戦場で近代パーパルディア史上最悪の敗北を喫し皇族から追放された。ここで何かの功績を得なければルディアスとの結婚は白紙のものとなる。幼馴染のルディアスとの結婚をずっと生きる糧にしていたレミールにとってはそれだけは避けなくてはならなかったのだ。
「殿下、ご心配なさらずとも日本国は我らの提案を飲みます。なぜならば現在かの国からは多くの国が大使を引き上げています、現在残っている大使は我が国を除いてはクワ・トイネ公国とクイラ王国そしてロウリアのみです。日本としても列強との我が国との同盟によって得られる外交的威信は喉から手が出るほど欲しいはずです」
この男そこまで考えていたのか、レミールはただ下手に出るだけの男と考えていたカイオスの評価を少しだけ上げた。その結果彼女はあるものを見せることした
「実はだな、私は魔獣について調べていたのだがこれは本物だと思うか?」
レミールが机に広げたのはボロボロの布切れだった。布自体ではなくそこに書かれていたものは
カイオスを驚愕させた。
そこには魔獣の姿と古代ラヴァーナル語で書かれた説明文には
『殺戮の神ダーレク』と記されていた。