タツマキの弟子は頂点に行きたい   作:さよならフレンズ

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僕と師匠

 僕はこの世に生まれ、生後僅かでハイハイをしていた時から、自分の肉体に世界とは違う違和感というものを感じ続けていた。

手足が欠損していたとか、生まれつき病気だったとか、そんな訳じゃなかったけれど。

言語化するのならば、きっと違和感と表現するのは正確じゃない。『異物感』という方が正しいだろうか。

とにかく宇宙人の群れの中で、僕一人だけが地球人のような妙な感覚がずっと続いていたんだ。

 

 だけど次第に分かってきたんだ。

人間の集団生活の中で僕が他の人の存在を全員おかしいって感じてしまったってことは。

 

 他の人は全く異常なんかじゃない。僕1人だけがおかしいってことなんだって。

 

 僕はそれなりに裕福な家の生まれだ。

お父さん、お母さんは2人とも優しかったし、幼稚園や小学生低学年のころは普通の人間のふりをすることはできていた。

だけど、僕の中の『異物感』はぜんぜんなくならない。

たまに僕を担当する先生から、首をかしげられながらこう口にされることがあった。

 

「きみはいつも涙を流さないんだね?」

 

 そう。僕は先生に叱られても泣かなかった。そのころには自分の中に巣食う異物感はずっと強まっていたんだ。

だから涙を出すほど激情をあらわにしてしまったら、それを抑えられる気がしなかった。

僕は強く喜ばなかった、僕は強く怒らなかった。僕は強く悲しまなかった。

 

 だけど僕の中の異物感は容器に流れ込む水のように、どんどんと溜まっていった。

水道の蛇口はなにをしても止まることはなかったし、とめようとすればするほど僕という容器にどんどんと流れ込んでいった。

 

 後から考えれば、精神の動きが思春期に近づいていったからなんだろうと分かるけれど。

 

 とにかく、その容器は僕が小学4年生のころに破裂したんだ。

きっかけは小さなことだった。給食に配給されていた牛乳瓶が割れたんだ。

その瞬間、僕は驚いて感情を制御することができなくて。

 

 パン。と破裂して。臨界点を簡単に超えてしまった。

あの時の恐怖に引きつる大人の顔、固まった学友の顔、阿鼻叫喚の地獄絵図はいまでも僕の脳裏に焼きついて離れない。

今でも悪夢を見たりするからね。

 

「怪人だ!怪人がいるぞ!」

 

 すぐさま僕から生徒を庇うように制止させ、僕を睨み付けてくる男の先生。

 

「怪人がいるよ!助けてママ!」

 

 ひっくひっくと頬をあげて、いもしない両親に助けを求めボロボロと大粒の涙を流して泣きだす女の子。

 

「子供たちを守らなきゃ!今すぐ警察に連絡するのよ!」

 

 真っ青に震えながらも、僕という異物に対抗するために動き出す女の先生。

 

 僕が割れた牛乳瓶のガラスを手を使わずに宙に浮かせてから、その場にいた人達は皆僕に恐怖を覚えていた。

誰も今まで異能を隠そうとしていた僕の努力を認めてくれなかった。

仲良くしていた友達も、僕を教えてくれた先生もそれは変わらない。

 

 僕を凝視する全ての人達から感じる空気は『拒絶』それのみだった。

 

「みんな、どうして……!」

 

 僕の胸中には、ドス黒い怒りが巻き起こっていた。

どうして僕が怪人と一緒にされないといけないんだ。

どうして『超能力を使える』というだけでそこまで恐れられないといけないんだ。

 

「どうして誰も、僕を分かってくれないんだよ!」

 

 いつの間にやら、僕も大粒の涙を流していた。感情をコントロールする気はとうに失せていた。僕の嗚咽は子供たちの悲鳴とコーラスのように重なる。それは歪な重奏のようにも思えた。僕は子供でしかなかったのに、先生たちは僕の一挙手一投足に警戒しビクリと体を震わせ警戒を強めるだけだった。

 

 その後は小学校中に鳴り響くサイレンの音と共にやってきた怖い警察の大人たちも、泣きじゃくる僕に容赦するつもりは全くなかった。

 

「あの子がガラスのカケラを妙な力で持ち上げた怪人です!」

 

 通報をした女の先生が僕を指差して化け物だと金切り声をあげる。

警察はがっしりとした体格の人ばかりで、小学生の僕が抵抗することができるはずもない。

それでも僕は必死に怖い大人たちから逃げようと叫びながら何もない空中に手を伸ばした。

 

「放せ、放せよ!」

 

 大人たちが怖かった。皆の恐怖の視線が怖かった。

そしてこれ以上この場にいることそのものが、とても怖かった。

 

「おとなしくしろ!」

 

 頭を強く大人に殴られ、僕の意識は遠のいていく。

警察に連れられて消えていくまで、僕に向けられた悪意は消えることはなかったんだ。

その時僕は、薄れゆく意識の中でこの世を恨みながらある簡単な摂理に気付けたんだ。

 

 ヒーローなんてこの世にいない。自分の身は自分で守るしかないんだって。

 

 

 

それから数年後、僕が解放された後のある日のこと。

 

「落とし物を届けてくれてありがとうね」

「これはダウジングの力です!これもヒーローのワークなので大丈夫ですよ!」

 

 愛嬌のあるおばあちゃんが感謝の言葉と共に笑みを浮かべ微笑んでくれたから、僕は安心させるように親指をグッと立てた。

僕たちC級ヒーローは、基本的に出現する怪人との戦いより足を使っての人助けのほうが多い。

 

 非力な僕たちは、怪人相手への戦力という意味ではあまり期待されていないんだ。

今の僕には強くならなければならない深い理由があるけれど、今は地道に人助けをするのが主な仕事かな。

おばあちゃんは口角をあげ、勢いよく僕の背中をバシって叩いてくる。

ち、力が強い。非力な僕はあやうくつんのめって地面に倒れそうになった。

 

「あんたたちヒーローにはいつも感謝してるんだよ。なんたって悪い怪人を倒してくれるんだからね」

 

 怪人だと恐れられ悪意を向けられていた昔を少しだけ思い出す。

ずきん、とヘッドギアをつけている頭の傷が痛んだ気がした。

けれど僕は、安心させるためにおばあちゃんを元気つけるんだ。

 

「毎回デンジャラスブリッジを渡っていますが、これからも市内の安全を守りますよ!」

 

 自己紹介が遅れたね。僕の今の名前はギアスパー。

 

 序列はC級で現在211位。意地が悪いヒーローからは『インチキ超能力者』『金魚の糞』『大口叩き』って陰口を言われたりもするけれど今の僕は、実はあんまり気にしてないんだ。

さっきもちょっとだけ言ったけど、今の僕には大きな目標があるからね。

 

「僕はギアスパーというネームです。いずれ力をつけてヒーローS級に上がる男なので、よろしくお願いします!」

「よく言った、男なら常にそれぐらいの意気込みを持っておきな!」

 

 今度は僕が目を丸くする番だった。僕は隠さずに皆にこの意気込みを伝えているけれども、反応は大抵2つしかない。笑い飛ばされて馬鹿にされるか、呆れるように溜息をつかれるかだ。このおばあさんのように大真面目に受け取ってもらえたのは久しぶりだ。

たとえ単なる社交辞令でしかなかったとしてもおばあちゃんの明るさが、温かさが僕はとても嬉しかったんだ。

 

「ギアスパー、名前は覚えておくよ。あんたの夢を応援してるから偉大な男になってみせな!」

「ありがとうございます!」

 

 大きく頭を下げて、優しいおばあちゃんと別れた僕は師匠の元に向かう。

最初はゆっくり歩きながら、途中から時計を確認して小走りに。

どうやらおばあちゃんと話が弾みすぎてしまったらしい。これはヒーローとしてどころではなく社会人として失格だ。急がなければまずいね!

 

「遅刻したら師匠がアングリーになりますからね。これはハイスピードで向かう必要がありそうです!」

 

 僕が待ち合わせ場所に到着したのは、待ち合わせ5分前。

砂利が地面に敷き詰められている、雑草が所々にはえた人気の少ない空き地で僕と師匠は顔を合わせていた。

僕はぜいぜいと息を吐きながら、師匠を『見下ろす』。

 

「タイムがギリギリですがセーフですか!?」

「遅かったじゃない。ギリギリ弟子のままであることを許してあげる」

 

「サンキューです、感謝しますよ―――」

 

 僕の師匠は『超能力で』ゆっくりと浮遊して、僕の目の高さまで浮遊し不敵な笑みを浮かべた。きっと僕に見下ろされたのが気に食わなかったんだろう。

師匠らしいなと内心で思いながらも、僕はそれを表情に出さない。

なんてったって、師匠に下手なことを言っちゃえば殺される危険性があるからね!

師匠の期限を損ねるのはクレイジーだ。

 

「―――タツマキ御大」

「ありがたく思う事ね」

 

名前を呼ばれた師匠は、偉そうに腰の前で腕を組んでみせた。

 

「じゃあ、今日も時間がないからちゃっちゃとアンタの超能力を鍛えるわよ」

「厳しくお願いします!」

 

これは世界でも数少ない超能力者であるC級の僕、ギアスパーと。

もう一人の超能力者の現在S級2位である、タツマキ師匠の物語。

 

ワンパンチで怪人を倒す英雄録からはほど遠いけれど、これも立派なヒーローのお話だ。

 

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