どういう切っ掛けか協力してしまった進化の家と忍者たちをどうにかしなければならなくなった僕とクロビカリだったけれど、僕は2つの大きな問題に頭を悩ませていた。
1つは僕の反射神経や身体能力そのものはC級ヒーロー並みだから、高速で動き回る忍者たちをまともに相手するのが厳しいということ。これから進化の家の本拠地に向かう訳だけれど、気が付いた時には首が飛んでいた、ということになりかねないんだ。
かといってここから進化の家までずっとバリア―を張った状態で移動する訳にもいかない。超能力の使用は精神力を消耗するし、使いすぎると副作用で頭から血が出るリスクもある。
そしてもう1つは……。
「今回は怪人相手とは違って、人相手に超能力を使わなければならないのですか」
「なんだ、人間相手に力を使ったことがないというのか?」
「お恥ずかしながらヒーローになってからこのような事態を想定していなかったもので」
怪訝そうに問いかけてきたクロビカリに、僕は軽く頬をかいた。
相手の忍者たちはこちらを殺すつもりでかかってくるだろうけど、僕には僅かに人に力を使う躊躇いがある。
不殺主義という訳じゃないけれど、怪人を相手にするのと人を明確に害するのとでは心境が大きく異なってしまうだろう。超能力を使う時はイメージが大切になるから痛いけれど、どうにかしようと思ったところですぐに解決できる問題じゃない。
考えれば考えるほどきっつい任務な気がしてきたけれど、だからこそアマイマスクから僕に大きな課題があると言われた意味はよく分かった。
この2つが重荷になった僕とクロビカリの作戦はうまくまとまらなかったけれど、僕がもたもたしているうちに金髪の青年が声をかけてきた。体が普通の人間じゃないみたいだ、サイボーグ……?見慣れない人物だからヒーローじゃないみたいだけれど、誰なんだろう?
「お前たちはヒーロー協会の人間だな」
「ああ、間違いないぞ。そういうお前は誰だ?」
敵かと僅かに身構えた僕とクロビカリにかまわず、金髪のサイボーグは名乗ってきた。
「俺は個人で正義活動をしているジェノスという者だ。閃光のフラッシュの所在を知りたい」
どうやら敵ではなさそうだし、進家の家に突入する前の情報交換をしておくのは悪くないかもしれない。なんたって僕たちは今回相手の戦力すら全く分かっていないんだから。
S級が狂っているとはいっても、ある程度の戦術を立てるというのは悪くないと思う。この状況で僕とクロビカリが突っ込んでもクロビカリはともかくとして僕が死ぬ未来しか見えないことだし。進化の家と忍者が手を組んでいる現状にも違和感があったから状況整理もしたい。
「クロビカリさん、敵地に突入する前にこの方のお話を聞いてもいいでしょうか」
「……仕方あるまい。筋肉を持たない者は大変だな」
クロビカリの僕を憐れむような視線に苛立ちを覚えながら、僕はジェノスと情報を交換し始めた。少なくとも無駄な時間にはならないはずだし前回の戦いでぶりぷりプリズナーに似たようなことを一瞬考えてしまった僕に人のことは言えない。
ジェノスと僕が詳しく立ち話をした結果、色々なことが分かった。時系列的に起きたことをまとめてみる。
ことのあらましはこうみたいだ。
どうやらジェノスはあのZ市の事件で蚊を操る怪人と戦っていて、死にかけていたところをフラッシュに助けられたみたいだ。僕がムカデ長老と戦っている間にそんなことがあっただなんて思いもしていなかった。フラッシュも怪人の報告しかしてなかったし……。
Z市に現れた蚊を操っていた怪人は進化の家が作り上げた怪人だったみたいで、進化の家が忍者の身体能力に興味を持ってしまった。その結果新都団と戦っていたS級賞金首の音速のソニックが進化の家に連れ去られ、それを知った同期だったフラッシュがソニックを救出しに進化の家のアジトに単独で突入しようとした。共闘しようとしたジェノスは置いていかれて、進化の家が分からずにどうにもならなかったみたいだ。
「俺が知っているのはここまでだ」
「ソニックも忍者だとするのなら、忍者勢力が進化の家に目をつけた理由も分かりますね」
フラッシュはS級ヒーローの中でも上位の実力者だから、簡単に負けるとはあまり僕には思えない。でもフラッシュが襲撃したタイミングの時には忍者が既に進化の家の味方になっていたというのなら色々納得できる気がした。なんせ進化の家が一方的にフラッシュの手の内を分かっているのだから色々対策もとれるはず。
「純粋な共闘関係なのかそうなのかは分からないですが、限りなく厄介ですね」
「フラッシュは命を救って貰った恩人だ。俺と模擬戦をした仲でもあるから見捨てる訳にはいかない。進化の家の場所を教えてくれ」
「どうしますか、クロビカリさん?」
「部外者を巻き込みたくはないな、災害レベル鬼に敗北する程度では足手まといになりかねん」
「俺は足手まといになるつもりはない。今の会話でお前たちが進化の家の拠点を知っていることが判明した、お前たちが協力を拒否するのならば、後を追跡するだけだ」
どうやらジェノスは全くフラッシュの救出を諦めるつもりはないみたいだ。
眼光は鋭く意思の強さを感じられる。こういう表情をしたヒーローは沢山見てきたし、諦めを期待するのは無駄かもしれないな。
クロビカリも同じことを判断したみたいで、大きな溜息をつくとジェノスを救出作戦に組み込むことにしたみたいだ。
その結果、僕の大きな悩みが1つ解決した。
「忍者が高速で動き回る生体反応は、俺のセンサーで確認できる。フラッシュのデータも取った。お前が瞬殺される心配はいらないだろう」
「ジェノスさん頼りになりますね、お願いします」
僕は安堵したけれど、これは決してアマイマスクの課題が解決した訳じゃない。
この任務が終わったらタツマキ師匠と反射神経を鍛える訓練をするか、敵の殺気に反応して自動でバリア―を貼る特訓をするかなどの対策を練る必要がある。
ジェノスに頼ったから今回すぐにS級ヒーローには上がれないかもしれないけれど、そこは仕方ない。
「こんな作戦会議など無駄だと思うがな、俺の筋肉の鎧は誰にも貫くことはできない」
どこか慢心気味にポージングを決めるクロビカリだったけれど、僕は少し不安だった。
なんといっても閃光のフラッシュが負けた相手なんだ、警戒しすぎるにこしたことはないと強く感じる。
「アマイマスクさんから渡された情報によりますと、確かブラストを苦しめたのも忍者だった気がしますね」
「ブラストとは誰だ?」
「ヒーロー協会S級1位のトップヒーローですね。僕の目標です」
「お前も俺と同じく強さを求めているのか」
どこか親近感を感じたらしいジェノスに僕は思わず黙りこんだ。話を聞く限りジェノスはフラッシュにストーカーみたいにつきまとっていたらしいから、一緒にしないで欲しいと思わず言いそうになったけれど、特訓するか見て学ぶかのやり方の違いでしかないだろうし……。
「……とにかく、忍者の首領も強敵です。警戒は怠らずに進化の家に向かいましょう」
頷くジェノスとクロビカリを横目に、僕は考えこんでいた。
今気づいたけれど、僕はブラストが仕留めきれなかった相手と連続で戦うことになるかもしれない。
これが偶然なのか天命なのか、はたまたアマイマスクが仕掛けた必然なのかは分からないけれど、頂点を目指す僕にとっては悪い気分じゃなかった。
状況を整理して懸念点が消え、ジェノスという戦力が増えた僕たちは改めて進化の家へと歩き始めたんだ。