お互いの都合があう僅かな時間をみつけて、タツマキ師匠に見て貰いながら今日も僕は超能力の訓練をしていた。
午前10時の小腹がすいてくるあたりの時間帯、今日は絶好の快晴だ。
訓練といってもタツマキ師匠が、軽く地面から数センチ程度に小石を数個巻き上げ、浮かせるように超能力を使ってるからそれを真似するだけなんだけどね。
でもこれが難しくて、今はなかなかうまくできないんだ。
「これはフェイルですね」
「また不発?力みすぎ。小さな物質ぐらい手足を動かすように自然に動かせるようになりなさい」
特訓をしていて分かっていたことだけど、タツマキ師匠はいわゆる天才肌の超能力者だ。
僕の超能力の調子が良い時でさえできないことを、タツマキ師匠は軽々とやってみせる。
それに比べて僕は細かい超能力の制御がうまくいっていない。
そもそも発動が不安定という点も大問題だったりする。こればかりはひたすら特訓を積み重ねるしかない。
「僕はちゃんと成長できているでしょうか」
僕は失敗を重ねながら、恐る恐る不機嫌そうな師匠に問いかけてみることにした。
師匠の気は短い。僕のようなC級ヒーローのために時間を割いてくれていること自体が奇跡みたいなものだと僕は思ってる。
師匠は僕の問いかけを鼻で笑って厳しく一刀両断した。
「最初よりはアリ分ぐらいはマシになってるんじゃない?超超雑魚が超雑魚になったぐらいね。アタシにはあんまり違いが分からないから気のせいかもしれないけど」
「手厳しいお言葉ですね」
「いっておくけど、アタシが完全に時間の無駄だと思った瞬間この訓練は終わりになるってのは忘れないことね」
師匠は仏頂面のまま続けろと促してくる。
少なくとも師匠はこの超能力の特訓になんらかの意味を見出してくれているみたいだ。
それが僕の成長によるものなのか、その他の意味があるのかは分からないけれど。
僕は俄然やる気が湧いてきた。
「イメージを発現してみます!」
僕のヘッドギアがスパークすると同時に、土管に座って暇そうに欠伸をしていた師匠は真剣な表情になりすっと立ち上がった。どうしたんだろう?
「今日は無駄みたいだから帰るわ。細かい力の制御の特訓は続けなさい。後片付けは任せたわよ」
「え……!しまった、パワーが制御できない!」
師匠は空を飛んで去ってしまったけれど、僕の方は超能力の奔流が止まらない。
慌てて抑え込もうとしても無理だったので、やむなく力を手から放出することしかできなかった。
「あ、あ……!」
僕の顔色は誰から見ても分かるぐらいに真っ青だっただろう。
先程まで師匠が座っていた3段積みあげられた6個の土管は轟音と共に空中でぶつかり合い、砕けて細かくなっていき、細かくなった欠片は他の欠片との摩擦でさらに細かくなる。嵐のような超能力の奔流の中で土管は最終的にコンクリートの粒のようになってしまった。
幸い周りに誰も居ない場所で訓練をしているから怪我人は出なかったけれど、空地は大惨事だ。またヒーロー協会に叱られてしまいそうだ。
「うーむブロークンしてしまいました。弁償しないといけませんね」
僕は力なく肩を落としながら、師匠の言いつけ通り荒れ果てた空地を掃除することにした。
止めに僕の頭の上に鴉が糞をしていったことを付け加えておく。
丁度ご飯前だというのに……。
「とてもアンハッピーな訓練でした。そういえば師匠が慌てて飛び出していったことが気にかかりますね。僕の暴走の前にはもう浮遊していました」
その疑問点は、翌日のニュースで明らかになることとなる。
師匠はそのころ、僕の知らないところで地球の脅威と戦っていたんだ。
アタシ、タツマキは表情を険しくさせて空を鳥のように飛びながらA市に向かっていたわ。
凄まじい規模のエネルギーがA市で発生したり消えたりしているから、絶対になにかあるとは思っていたの。
案の定携帯電話がなったわ。ヒーロー協会からの応援要請で間違いないでしょう。
アタシは風をバリアーで防ぎながら携帯電話を取ったの。
当然よね、風がうるさいと向こう側が、何を言っているか聞き取りづらいじゃない?
まあこっちは向こうからの声が聞こえれば返事だけで十分でしょうけれど。
とにかくアタシは万全の体制で通話開始のボタンを押したわ。
「A級が壊滅状態だ!戦慄のタツマキに原因の怪人退治を要請する!災害レベル竜!」
「もう向かってるわ!切るわよ!」
ピ、という音が鳴る。アタシは必要最低限の通話で会話を打ち切って、空を飛ぶ速度を上げることにしたの。
感じるエネルギーの密度から、とても放っておく訳にはいかなかったからね。
「早く怪人を倒さないと被害が拡大するわ」
アタシがA市に着いた時には、もう地獄絵図になっていたわ。
市内の大半の建物は消滅。コンクリートの地面まで抉れていて怪人の脅威を物語っていたわね。
火災があちこちで巻き起こって、人々の苦しむ声が呪詛のように聞こえてきたわ。
悲惨極まりない光景に、アタシは怪人への警戒レベルをさらに引き上げたわ。
こんなことをした元凶はなんとしてでも倒さないと人類滅亡の危機だと感じたからよ。
「酷い有様ね、怪人はどこかしら」
その時、飛んでいるアタシに向かって巨大な光の球が飛んできたからアタシは力を込めて片手をかざしたわ。楽に壊せると思ってはいなかったけれど、想像以上の破壊力だった。
なんとか強引に超能力で消滅させたけれどアタシの超能力が少しでもおされるなんて思わなかったもの。
「アンタは何者かしら!?」
アタシは人型で頭に触手が2本生えている姿をした怪人に問いかけたわ。
怪人に名前を問いかけるなんて思ってなかったけれど、相手が強力だったから情報が欲しかったのよね。
案の定怪人は憤怒の表情を隠そうともせずにアタシに詰め寄ってきたわ。
怪人も空を飛ぶ速度が速くて、アタシは冷や汗をかかずにはいられなかったの。
「私は人間共が環境汚染を繰り返すことによって生まれたワクチンマンだ!」
「へえ、地球の掃除屋でも気取っているわけ?人間様に逆らってるんじゃないわよ」
「いいや人間共を駆逐することが我が指名。お前を含めた人間共は必ず滅ぼす!」
メキメキ、ボキボキという音と共にワクチンマンと名乗った怪人の体が2倍、3倍と肥大していくのが分かったわ。変化したワクチンマンの姿は正に怪人。神話で言うのならばベヒーモスに似ているかしら。少なくとも身体能力が上昇していく過程ははっきり分かったわ。
「生憎怪人の強化を待っているほどアタシの行儀はよくないのよ!」
怒っているのはアタシも一緒。アタシがA市の周囲に倒れていた、無人になったビルを持ち上げてワクチンマンにぶつけたけれど、ワクチンマンにはきいていないみたいでワクチンマンは不敵な笑みを浮かべるだけだったわ。白兵戦も強く、光る球の遠距離攻撃も強力。
「今まで見た怪人の中で一番強敵ね!」
アタシは息を飲んで激闘の覚悟を決めたのだけど……。
「ほい」
その瞬間にハゲ頭の、マントを着けた不審者が横から現れて一撃で怪人を粉砕していったわ。
「……は?」
アタシは口をぽかんとあけていたわ。
人間って本当に驚いたら何も考えられなくなるって本当みたいね。
アタシとワクチンマンが本格的に交戦する前にその男は現れたんだけど、ワクチンマンが強力な怪人なのはどう考えても明白だったわ。
それこそアタシ以外のS級ヒーローじゃ勝ち目がないってはっきり分かるぐらいの怪人よ。
それがワンパンチで一撃ってどう考えても普通じゃないじゃない!
「大丈夫みてーだな」
ハゲ頭の不審者は飛んでいる私を一瞥した後、すぐに消えて姿が見えなくなったわ。
怪人じゃなかったみたいだけれど、一体なにものなのかしら……。
恰好はヒーローだったから、独自に正義活動をしているのかもしれないけれど。
(これは調べる必要があるわ。ヒーロー協会に報告ね)
アタシはこの世の中で生きるためには強力な力を持たなければいけないと常日頃から感じているわ。あのハゲ頭は当然アタシよりは弱いだろうけれど、十分な力を持っている。
アタシが少しだけ興味を惹かれる理由は十分だったといえるでしょう。
(アタシが時間を使ってあげているギアスパーはどうなるでしょうね。どれだけ成長できるかしら)
本人の前では言わないけれどあのC級の潜在能力は高いわ。瞬間火力だけならアタシの妹を凌ぐかもしれない。うまくいけば災害レベル鬼上位とも互角以上に戦えるでしょう。その分細かな制御は苦手みたいだし、そもそも超能力が発動しないことはあるけれど。とにかく超能力者のヒーローはほぼ居ないから、アタシが面倒を見ることになったのはある程度仕方がないと思ってる。妹に押し付ける気にもならなかったし。
(なぜか放っておけないと感じるのは、どうしてなのか分からないけれど)
ギアスパーは可愛らしい顔立ちをしているという訳じゃないわ。そもそもヘッドギアで顔隠れてて見えてないし。
同じエスパーだからということでもないでしょうし、本当ならアタシがあんな雑魚に構っている時間はないはずなんだけど。
(少しだけ不思議ね)
アタシは壊滅したA市住民の救助活動を優先して行いながら、ほんの少しだけ頭の片隅でそんなことを考え続けていたわ。