タツマキの弟子は頂点に行きたい   作:さよならフレンズ

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僕と『最強』

 僕、ギアスパーの超能力発動にはムラがある。

タツマキ師匠との日々の訓練で少しづつマシにはなっているけれど、たまに全く発動しない時ができてしまうんだ。

不安定なのは過去の事件でできてしまった頭の傷も関係していると思うけれど、それでも僕は今もなおS級ヒーローを目指し続けている。

 

 無謀だって言われる時もあるけれど、僕はその夢を叶えなくちゃならない。

だって僕は……。

 

 1人自宅の中で僕がそんなことを考えていると、急に地面が揺れ始めた。

前震の予兆がない不思議な地震だ。ズシン、ズシンと大きな縦揺れが一定のリズムを刻んで僕を襲ってくる。

まるで巨人が1歩づつ歩いているみたいな地震だった。

 

「このアースクエイクは不自然だね……!」

 

 その時僕は猛烈な嫌な予感に襲われていた。ヒーローという職業上、どうしても異変には敏感になる。たまに発動する予知に頼ろうとしたけれど無駄だったので、僕は窓の外を身を乗り出して覗き込んだ。どうかこの予感が外れてくれと感じながら……。

 

でも、僕の懸念は現実のものになってしまったんだ。

 

「嘘だろ!?」

 

 僕は驚愕のあまり窓から外に転げ落ちるかと思った。だってそうだろう?

400メートルの高さもあろうかと思うほどの人型の巨人が外を歩いていたんだから。

巨人が歩くたびにコンクリートは砕けビルは踏みつけられ、多くの人々が死んでいく。

 

「……!」

 

 僕は窓からバリヤーで浮遊して飛び出していった。今日は調子がいいみたいだけれど、たとえ超能力が使えなかったとしても飛び出していただろう。

巨人が歩いているだけで被害は拡大し、怒号や悲鳴は大きくなっていく。警察や救急車のサイレンがあちらこちらから聞こえてくる。巨人は街を壊しながらにたりと笑っていた。

 

 

 大勢の人間を踏みつけながら、こいつはどうして笑えるんだ?

 

 

 かっと頭に血が上った。頭がズキズキ痛みだす。今ならタツマキ師匠にも飛行速度だけなら勝てる気がした。僕は超能力を酷使してバリヤーに包まれながら巨人の頭まで飛んでいく。

 

「うきょきょきょきょ!」

 

 巨人の肩の上には、眼鏡をかけた男が喜色満面の笑みを浮かべていた。

僕は語気を荒げて男に問いかけることにする。この男が巨人を操っているのならば諸悪の根源だ!

 

「お前が首謀者なら早く止めるんだ!この惨状を作り出してなにも思わないのか!?お前たちに人としての良心はないのか!?」

 

 最後の方の僕の叫びは悲鳴に似ていて。眼鏡の男に叩きつけるように放たれていた。

だが眼鏡の男は空を飛んでいる僕に狂気の笑みを浮かべた。眼鏡の男は汗は激しくにじみ出ており目は爛々と輝いている。明らかにまともじゃない!

 

「凄まじい力だろう!最強の弟と、科学の俺!このまま俺達兄弟が世界を支配するのだ!」

 

 最強?こんな奴らが?

 

 自分勝手な男の物言いに、プツンと理性の糸が切れるのを感じていた。

それだけの力を持ちながらどうしてそれを人のために使わないのか。

なぜここまで身勝手な世界征服とやらの子供じみた夢を語れるのか。

 

 僕の手はわなわなと震えていた。

 

「もういい」

「……!」

 

 僕は空中で右手を伸ばす。眼鏡の男が首を抑えて苦しみ始めた。

折れない程度に超能力で首に圧迫感の負荷を与えていく。気絶させるつもりだった。

この男が首謀者ならばこの男を捕らえれば巨人が小さくなるか行動を停止するかもしれないという願望も、勿論あったけれど。

僕自身がこいつを許すことができないという復讐心が大きかった。気絶させるのは最低限の良心だ。

 

「兄さん!」

 

 だけど、男を気絶させるという望みはかなわなかったんだ。

異変に気付いた巨人の手の大振りの一振りは、空気を斬り裂きバリヤーを張っていた僕を容易く吹き飛ばした。僕は高度400メートルの高さから地面に猛スピードで叩きつけられていく。

 

 吹き飛ばされ重力に引かれながら意識まで飛びそうになっても必死に精神力で堪えた。今バリヤーがなくなれば即死だ!

 

 

 ドゴン!

急降下した僕とそのバリヤーは、再び大地を揺るがして地面に3メートルほどの大きなクレーターを作った。

巨人は僕にまたがるように立ち、見下ろす。

僕はよろよろとクレーターから立ち上がって頭を上げようとしたが、100メートル近くの巨人の全長を確認しきることすらできなかった。

 

「兄さんをよくも苦しめたな!俺の最強の拳を食らえ!」

 

 巨人が30メートル程はある腕を僕を殺すためだけに振り下ろしてくる。

拳が僕のバリヤーに当たるたびに地面には亀裂が入り、コンクリートは掘り返されて土や石までもが地面から吹き出る。吹き出た土砂は雨のように落ちてきた。

 

 それでも僕のバリヤーは壊れない。最早怒りでネジが飛んでいる。

 

「お前なんかが最強であるものか……!」

 

 自分の身は自分で守るしかないと、僕は幼いころに悟っていた。

いざという時に助けてくれるヒーローなんて、この世にはいないんだって。

だから僕はあの時に決めたんだ。

 

 力をつけてみせるって。誰にも負けないような最強のヒーローになるって。

過去の僕のような理不尽な目にあっている人達を救えるような人になりたいって。

 

 その夢を、自分勝手な世界征服とかいう野望でこいつらは踏みにじった。

こいつらが最強を語っていいはずがない!

 

「最強はお前じゃない、僕だ!」

「僕はヒーローの頂点に立つ、そしてその力で人を守ってみせる。そう誓ったんだよ!」

 

 叫びは、怒りは、でも巨人の純粋な拳の暴力からは無力だった。

僕の物言いが気に食わなかったのだろう。振り下ろされる巨人の拳の連打は苛烈さを増す。

僕の頭痛はどんどん酷くなり、僕の周囲のクレーターは深さ200メートルにまで到達しようとしていた。

 

「いくら吠えようが、地上最強の男は俺だ!」

「違う、お前を倒して僕が最強のヒーローになる!」

 

 僕は全力で両手を振り下ろし……限界を超えてしまった。

元々無理をしていたのを無理やり気力で押さえつけていただけに、一度精神力が崩壊すれば耐えることはできない。超能力の酷使の影響で頭から鮮血がドクドクと流れ出していく。

でも手応えはあった。僕が倒れるのと同時に巨人も倒れていく。

薄れゆく意識の中で、巨人を弾き飛ばした僕は薄い笑みを浮かべていた。

頂点に至るのは自分だと、強い思いを最後まで持ちながら。

 

「やるじゃない、とどめはアタシに任せてもらうわ」

 

 かけつけたタツマキ師匠の倒れた巨人の頭を捻じ曲げながらの賞賛だけは、僕の耳に薄っすらと聞こえていた。

 

 病院で後から聞いた話だけど、科学者のフケガオは無事であり逮捕されたらしい。

事件のあらましを全て吐かせてから死刑が濃厚なのだそうだ。

タツマキ師匠と僕の関係が変わって師匠からの指導が本格的になったのも、この日が切っ掛けだった。

 

―――僕、ギアスパーはS級を、そして頂点を目指す。

 

 この強い夢が僕のこの過酷な世界との、そして自分自身との長い戦いの始まりだったんだ。

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