夜、気合を入れた師匠との訓練の疲労もあって僕はぐったりしながら布団に横になった。
ここ最近は強力な怪人が出現することもなく平和に暮らせている。
僕のC級の順位も50位付近まで上がって順調だ。これ以上、上がるためには超能力をコントロールする必要があるだろうけれど。
コントロールは段々ましにはなってきたけど完全じゃないからね。
「怪人出現の速報はあるかな」
僕はリモコンのボタンを押してテレビをつける。ピ、ピとチャンネルを切り替えてニュースが放送されているか探してみる。大体怪人が現れると番組が中断されて緊急ニュースがながれるんだけど。
「Z市を襲う地震は、日頃に大きくなっています。専門家も分析不能な地震は怪人の仕業という説が浮上してきています」
「怪人が地震をとはデンジャラスですね」
少し遠い場所だけれど、怪人の仕業なら放っておく訳にはいかないだろう。
僕は翌日調査に向かうことを心に決めた。
「頭がまた痛みます。とてもバッドな予感がしますね」
杞憂であって欲しかったけれど残念ながら、エスパーということもあって僕のこういう悪い予感は大体当たってしまうんだ……。
僕は翌日それを思い知ることになる。
翌日の早朝、様子を見るためにテレビをつけた僕はまたしても驚愕することとなった。
ニュースが僕にZ市の危機を伝え続けている。しかも事件は1つではない。別の脅威がZ市を襲おうとしているようだった。
「揺れはどんどん強くなっています!今ビルが大きな地震で崩れました!災害レベル『鬼』です!」
「Z市に蚊の大軍が向かっています!災害レベル『鬼』です!」
「Z市の住民が大きな怪人に襲われたという情報が入ってきました。詳しい情報は届いていませんがA級ヒーローが負けたという情報が入っています!こちらも脅威度から見て災害レベル『鬼』です!」
「いったいZ市で何が起こっているんですか……!」
どうやら複数の脅威がZ市に存在しているらしいけど、情報が錯綜しすぎて最早訳が分からない。
少なくとも災害レベル鬼が2つ以上Z市に迫っているということだけが辛うじて分かるぐらいだった。
「これは急いで向かわなければなりませんね……!」
僕は慌てて窓からZ市に飛び出した。最早一刻の猶予もないであろうことは明らかだ。
このまま放っておいたらZ市が滅びかねないし、ヒーローとして見過ごす訳にはいかない。
とにかく状況を確認しなければならないだろう。
Z市は遠いけれど、僕はバリヤーで空を飛べるため他のヒーローより早く現場に到着することができる。蚊の大軍が来る前に地震の原因を突き止めなけらばならない。
僕は少量の蚊をバリヤ―で防ぎながら現場に急行した。
「酷いことになっていますね……」
僕がZ市に到着した時には、建物の大半が崩れていた。
人々は蚊の大軍が押し寄せてくると知っているからなんとか逃げようとしているけれど、定期的に訪れる地震が酷すぎて車などではまともに動けていない。
僕が上空から周囲を見渡すと、A級ヒーローが倒れている所を発見した。
あれは、A級ヒーロー11位で上位の実力を持つと言われている人物だ。
「スティンガーさん!?」
特徴的なタケノコの槍を持っているから間違いないだろう。小目標として上位ヒーローを目指している僕はしっかりA級ヒーローの特徴を覚えていた。
僕が慌てて駆け寄ると、スティンガーは槍を杖のようにして立ち上がろうとしながらも血の塊を吐く。顔色も悪い。完全に重症のようで、一刻の猶予もないだろう!
「お前はタツマキの弟子ギアスパーだったな。俺ともあろうものが怪人にやられちまった」
「そんな……!どんな怪人にやられたんですか!?」
「今プリプリプリズナーが戦ってるが苦戦している、お前じゃ厳しいぞ」
「僕はタツマキ師匠の弟子です!どうにでもします!このままじゃあなたの命も危ない!」
「……分かった、信じるぜ。俺を庇ったぷりぷりプリズナーは怪人と戦いながら東に向かった」
「すぐに向かいます!」
「頼んだ……!」
僕はスティンガーさんを横たえた。Z市に徐々に蚊が増えつつある。どうにかしなければならない。
とにかく大きく分けて現在の脅威は3つだと分かった。
蚊の大軍。これは操っている怪人がいるのかもしれない。
大きな地震。これも原因となる怪人がいる可能性がある。
スティンガーを倒した怪人の脅威そのもの。ぷりぷりプリズナーが苦戦しているところから災害レベルは鬼以上だ。
「人手が圧倒的に足りません、どうすればいいんですか……!」
僕はとにかく1つ1つ片付けていこうと、まずぷりぷりプリズナーが苦戦しているという怪人の方に向かうことにした。そこで僕が目にしたのは……。
大きなムカデ2匹と、それを素手で倒そうとするぷりぷりプリズナーの姿だった。
一匹は家ぐらいなら巨体で押しつぶせるぐらいの大きさだ。プリズナーは拳で怪人を倒そうとしているけれど、装甲が硬すぎて弾かれてしまっている!
「プリズナーさん!」
僕が怪人とプリズナーに呼び掛けると、複数の視線がこちらを向いた。
「なんだ、雑魚か」
「俺たちムカデ先輩と後輩にはかなわない!」
怪人の名前はムカデ先輩と後輩というらしい。わざわざ自己紹介してくれた。
大きいのが先輩で小さいのが後輩みたいだ。覚えやすくて助かるけれどプリズナーが苦戦しているのだから相当強いはず。
プリズナーもちらっと後方を見て僕に気付いたようで、ムカデ2匹と渡り合いながらも僕に言葉をかけてきた。流石に声色が必死なのは緊急事態だからだろう。
「ギアスパーちゃんか。最近注目の男子だからバッチリ覚えていたぞ」
「今どんな状況なんですか!?」
「地震は恐らくこの怪人と関係がない!原因は全く別の所だ!」
「やっぱり……!援護します!」
プリズナーの横に並びながらもこの時点で僕は猛烈に嫌な予感がしていた。同性愛者のプリズナーに僕が名前を覚えられているのは勿論そうだけれど、今はそれどころじゃない。このムカデ型の怪人には見覚えがある。確か僕の記憶が正しければこいつらより更に上が居る!
「地面を揺らすのはどいつだ……!」
案の定地面の底から大声が聞こえてきて、轟音と共に地面が割れる。僕の予感は当たってしまった。
体長1000メートル以上ある『大怪蟲』が姿を現す。Z市のビルは粉々になっていき、その波打つ巨体がのたうち回るだけで甚大な被害が起こっている。
僕はその巨体を見つめて、その名前を静かに口にした。
「ムカデ長老……!」
かつてブラストと戦った怪人。災害レベルはもちろん『竜』。
地震が揺れ続き蚊の大軍が押し寄せてくる最悪の状況の中で、マルゴリに負けない威圧感を持った巨体が絶望となって僕たちに襲い掛かろうとしていた。