尚、2人とも高卒5年目の設定で、他のキャラも登場時には年齢と現在の状況を簡単に記述する予定です。
5年前、オレはプロ野球選手になった。
最初はプロに入るつもりもなかったし、入れるとも思っていなかった。入るとしても、アイツだと思ったから。
キッカケは1つ上の先輩、御幸一也がプロになったからである。スカウトも来てたし、凄いのは知っていたけどその時はあんまイメージはつかなかった。そして御幸先輩が卒業し3年になったある日、ボスからこんな事を言われた。
「お前、これからどうするんだ」
最初は何のことだかわからなかった。全国制覇を目指す事しか考えていなかった自分にとって、「これから」を考える事はなかったのである。
「あの、これからって…?」
「この高校を卒業してからの事だ。大学に進むのか、それともプロを目指すのか…それとも野球は高校で辞めるつもりだったか?」
「いえ、そんな事は…というよりプロなんて考えた事もなかかったです」
実際にそうである。自分がプロに行くなんて想像もつかなかったし、言われても腑に落ちない。
「あら、そうなの?沢村くんに興味のある球団がいくつかあるのは事実よ」
そう言ったのは野球部副部長の高島礼である。
「最近になって複数の球団から挨拶が来たわ。なんなら2年生からの活躍を見てプロに来て欲しいなんていうスカウトもいたくらいだわ」
「そうなんすか?」
「本当に考えてなかったみたいね、まあ沢村くんらしいともいえるけど」
諦観したようにそっと微笑んだ。自分にスカウトが来ていたのはにわかに信じ難い。
「オレはてっきり降谷目当てで来ているもんだと…」
「まあ、降谷くんは2年のセンバツから注目を浴びていたし、どこの球団から来てもおかしくないわね」
「沢村に来ているのは福岡、仙台、大阪、東京だ」
「東京って…」
「そう、去年御幸くんが入団した所よ。特にここは沢村くんを気に入っているみたいね。さっき言ってた2年生の頃から見ていたスカウトはここ」
「そうっすか…」
「今後の人生の事だ、今急いで決める事でもない。考えがまとまったら返事をくれたらいい」
「わかりました」
翌日
「栄純くん、どうしたの?」
そう声をかけてきたのは小湊春市。どうやら考えている事が顔に出ていたようだ。
「昨日ボスがさ、これからどうするんだって」
「これから?」
「進路のこと。大学かプロかだと」
「栄純くん、いくつかスカウト来ていたもんね」
「え、春っちも知ってたの?」
「知ってるも何も、ドラフト上位候補だよ。知らなかったの?」
「知らなかった…」
「まあ、栄純くんらしいよね。同学年で2人もプロが出るんじゃないかって学校は大騒ぎだよ。」
苦笑いを浮かべる春市。そういえば春市はどうするのだろうか…
「春っちはどうすんの?」
「一応大学かな。1球団だけ挨拶にきたけど、指名してくれる保証はないしダメ元で志望届けは出そうかなって思ってるくらい」
「なるほどな…」
春市も考えているんだな…と考えていると後ろから呆れ交じりの声が聞こえた。
「つーかお前勉強できないんだから、プロに行っちまえよ」
そう言い放ったのは金丸信二。最後に「馬鹿なんだから」と付け加えた。
「ひどいぞカネマール!!」
「事実だろ」
「でもプロの選択肢があるなら挑戦する価値はあると思うけどなぁ」
そう言ったのは東条秀明。
「流石だ東条…優しいなぁ本当」
「選ばれるかはともかく志望校届けは出してみたら?駄目なら大学に行けばいいし、沢村なら推薦も得られると思うよ。」
「そうだな…考えてみる」
プロへの道。あのメタボリック先輩も御幸先輩もプロに入ったんだよな…
「最高のパートナーになれると思うぜ」
ふとこの言葉が頭をよぎった。あの人と会わなければ、この学校にも入らなかっただろう。もう一度、あの人とバッテリーを組んでみたい。それにアイツと大きな舞台で投げ合ってみたい。お金とかそういうのはわからないけど、プロの舞台で色んなバッターとも勝負してみたい、凄い投手もいっぱいいる。何日も考え抜いた結果、オレは監督室に向かう。
「ボス、オレもプロに行きます」
運命のドラフト会議。注目はやはり巨摩大藤巻の本郷正宗と青道の降谷暁。競合の結果、本郷は仙台、降谷は北海道に決まった。オレは単独1位指名で東京、御幸先輩と同じ球団に、そして驚く事に3位で春市も同じ球団に決まった――
卒業式、正門には数多くのメディアが集結していた。
「うわぁ、凄いカメラの数だね」
「ほら、降谷目当てだぞ」
「いいや、栄純だよ」
「2人ともだよ、ちゃんと対応してよね」
「それをいうなら春っちもだぜ?」
「うん、3人だね」
バタバタしながらも、インタビューを無事終えた。そして俺達3人は監督室に向かった。
「ボス…いえ監督、今までお世話になりました」
「「お世話になりました」」
「まずは、卒業おめでとう。お前達3人が無事に進路が決まって良かった」
「これからはライバルです…といっても春っちは同じ球団だけどな」
「降谷くんはリーグが違うし、レギュラーシーズンでは滅多に会わなくなりそうだよね」
「うん。でも戦う時が来たら、その時は負けない」
「ああ、オレも絶対に負けない!!」
「僕も負けないよ!」
「もうレギュラー入り確定か?随分余裕があるじゃないか」
淡々と言い放った落合コーチ。
「ギクッ!た、確かに言われて見ればそうだよな…」
「御幸くんは着実に正捕手の座を掴みつつあるわ、これからの沢村くん、降谷くん、小湊くんの努力次第ね」
「今までも1歩、また1歩と地に足をつけ着実に進んで来ただろう。ここで満足せず、これからも自分を見失うなよ」
「ボス…!」
「はい、ありがとうございました!」
最後は涙が出てきて声にならなかった。
そして現在、ここ神宮球場で。
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
「久しぶりだね」
アップをしているオレと春市に降谷が声を掛けてきた。
「今日、投げるんだろ?」
「うん。栄純も投げるんでしょ?」
「今日は絶対勝つからな」
「僕が勝つ」
「うん、僕も負けない」
再会を懐かしんでいると、後ろから不敵な笑みを浮かべた男が現れた。
「おお、試合前に情報交換か?」
御幸一也である。3人で話をしているところに嫌味を言いにきたのだろう。
「うるせぇ!ただの社交辞令だよ!」
「栄純くんそれ良い言葉じゃない…」
「まあ、何でもいいや。さっさとこいつ打ち崩してやろうぜ、サ・ワ・ム・ラ?」
「出たな悪顔!!」
「絶対崩れん…!」
「降谷くんオーラ仕舞って!!」
「ちょっとーうちの投手にちょっかい出さないでくれるかなー?」
「鳴…」
「成宮さん…」
成宮鳴、かつて稲城実業のエースであり、今は降谷と共に北海道の2枚看板となっている。
「さーわーむーらー、相手が俺じゃなくて良かったな、もし今日俺が先発ならボコボコにしてたところだぞ」
「気にするな沢村、対戦成績ではこっちが勝ってんだ、負け犬の遠吠えだと思え」
「なにぃ!?まぐれで勝ってるだけだろ!降谷、やっぱ今日の先発変われ!今日ボコボコにしてやる!」
「いや、でも成宮さん昨日投げたんじゃ…」
「うるさい、このまま黙ってられるか!」
怒りを沈めようとした時後ろから大きな身体が現れ、鳴は捕まった。
「いい歳してんだからちょっとは大人しくしてろ」
「雅さん!」
稲城実業のキャプテンであり北海道の正捕手の原田雅功。
「すまんな、こいつがまた迷惑かけちまって」
「いえ、大丈夫です…」
「御幸、今日はうちが勝つからな」
「ええ、負けません」
正捕手2人はお互いに静かな闘志を燃やしていた。
「2人とも行くぞ」
「では、また後で」
こうして、日本シリーズ第7戦目を迎えるのである。
了
基本的な情報を。
沢村栄純(23歳、東京、背番号18)
降谷 暁(23歳、北海道、背番号11)
小湊春市(22歳、東京、背番号1)
御幸一也(23歳、東京、背番号2)
成宮 鳴(23歳、北海道、背番号1)
原田雅功(25歳、北海道、背番号22)