ガンダムビルドファイターズ AMBITIOUS/スピンオフ・ワンダフルジャーニー 作:マフ30
ある春の休日。
岐阜県にあるとあるアミューズメント施設はこの日も大勢の入場客で盛り上がっていた。
その名は恵那峡ガンダムランド。
歴代ガンダムシリーズをモチーフにした巨大観覧車やジェットコースターなど多数の遊戯施設を揃え、専門店にも負けず劣らずなラインナップを誇るショップコーナー、さらにはガンプラバトルの大会やイベントなどに対応可能な多目的ホールも完備した地方のガンダムファンのための理想郷のような施設だ。
遡ること半世紀ほど前に遊園地としてオープンした本施設はすぐ傍にある美しい渓谷の眺めもあり、一時期は隣県からも多くの入場客がやってくるほどの人気遊園地だったが時代の流れと共に寂れ一度は閉園に追い込まれた。
しかし、ガンプラバトルの世界的ブームに便乗する形で大規模なリニューアルを行い見事にご当地遊園地としては破格の人気テーマパークとして返り咲いたのである。
そして本日、いまもまさにイベントホールではガンプラバトルの真っ最中であった。
今日もまた科学の粋たる箱庭の理想郷に、数え切れない誰かの夢が咲く。
※
作り上げられたバトルフィールドは砂塵の舞う殺風景な荒野。
そんな荒涼たる戦場で命を吹き込まれた二機のガンプラが戦意を漲らせて激突する。
一機はムゲンが操るグレイズ・アッシュ。そしてぶつかり合う対戦者はガンダムバルバトス。鉄血のオルフェンズの主役機にして、TV本編ではベース機であるグレイズ・アインが敗れた因縁の機体だ。
「落ちろォ!」
「お断りだな……せりゃあ!」
バルバトスが降り降ろす恐竜の頭部のような特徴的な形状のレンチメイスをグレイズ・アッシュは左腕に装備した専用のサークルシールドで受け止めると右腕に持った大型アックスの横薙ぎの一撃で反撃に出る。
『グレイズ・アッシュ! 相手のヘビー級の一撃を耐え切りました! 対するガンダムバルバトスも野性的な反応速度で必殺の一撃をかわして見せた。一進一退の攻防! 恵那峡スプリングファイターズカップ決勝戦に相応しい見事な試合が展開させております!!』
ランドスタッフの熱の入った実況が会場のボルテージを高めていくのに合わせて、バトルフィールドの二機の戦いも激しさを増していく。
苛烈な攻撃を繰り返すバルバトスに対してグレイズ・アッシュは盾による防御と斧による多彩な斬撃を意識した剣闘士のような普段のバトルスタイルとは一味違う動きで渡り合う。
「猛獣のような荒々しい戦い方が売りと聞いていたが随分と王道的な白兵戦をするんだな」
「深い事情があってな。退屈はさせねえから安心してくれよ」
「正直、残念だよ。これは思っていたよりも価値の低い勝利になりそうだ」
「……へえ?」
「その驕りを後悔するんだな!!」
レンチメイスの重量を感じさせない洗礼された動きで強烈な一撃を次々に叩き込んでいくバルバトス。若い体育会系の青年ファイターは物足りないと言った様子でムゲンを挑発する。
『おおっとバルバトス!ここでレンチメイスを投げつけて、間髪入れずにその石突を蹴り込んだ! まるで鉄塊の矢! これは強烈ゥッ!!!! グレイズ・アッシュは大丈夫か!?』
バルバトスが見せた突然のトリッキーな戦法に会場がざわめいた。
これまで相手の攻撃をシールドの丸みを利用して捌いていたグレイズ・アッシュであったがバルバトスの奇策の前に盾を砕かれて失う事態となったのだ。
「あ……これはスイッチ入ったかな?」
「だねえ。相手の人、いい感じにムゲンのやる気焚きつけちゃったから」
「ではでは約束通り、カウントの用意しておきますね」
グレイズ・アッシュに漂う劣勢の空気。
会場のオーディエンスたちから微かにバルバトスコールが叫ばれる中で同じく戦いの様子を見守っていたカナタ達三人はこの時すでに対戦相手にどこか同情の眼差しを送っていた。
「悪いが完膚なきまでに粉砕させてもらうぞ!!」
「おうさ……やれるもんなら」
姿勢を崩して二歩、三歩とよろめいて後退するグレイズ・アッシュにレンチメイスに代わって太刀を装備したバルバトスが勝負を決しようと突貫する。
だがムゲンは落ち着き払った様子で光球の操縦桿を握り直すと敵の動きに目を凝らす。
「――ここだ」
「そんな!?」
『妙技ここにあり!妙技ここにあり!! なんとグレイズ・アッシュ、バルバトスの太刀による刺突をドリルキックの開閉ギミックで真剣白羽取りだぁあああ!!』
こんな動きがMSで否、ガンプラで可能なのかと驚きと興奮で観客たちは騒然となった。
呆気にとられるバルバトスのファイターを尻目にムゲンとグレイズ・アッシュからは狂戦士の闘志が溢れ出していた。
「お兄さん、あんたに恨みは無いがその機体はなあ……その
ドリルキックの回転が太刀を捻り折る。
グレイズ・アッシュの青いモノアイが爛々と炎のように輝き、双斧を振り上げて襲い掛かる。
「ちぇえぁあああああああッ!!」
『反撃開始かグレイズ・アッシュ! 吼えたぞアリスガワ・ムゲン!』
灰色の旋風のような大型アックスの袈裟切りの乱撃を浴びせられたバルバトスの装甲が一気に削られていく。並の機体ならば本来たったの一撃で撃破されていたであろう。
だがグレイズ・アッシュとガンダムバルバトス――共にナノラミネートアーマーの高い防御力を有する機体だけに不幸にもその猛攻は一瞬では終わることは無い。繰り広げられるのは苛烈でハイペースな一方的な消耗戦だ。
「ぐぉおおあああ! は、反撃を……反撃をしないとッ!」
「あんた俺たちのことを猛獣って言ったがそいつは違う。獣は……技なんて使わねえ!!」
「ヌウウッ! ガードが!?」
「だっしゃああああッ!!」
折れた太刀で果敢に対抗しようとするバルバトスに掌底アッパーカット、続けて飛び膝蹴りで防御を突き崩す。更に相手が怯んだ隙を狙って片腕を取るとグレイズ・アッシュは自身ごと錐揉みに倒れ込んで投げ飛ばした。
『前代未聞の腕部へのドラゴンスクリュー! 生身では到底できない荒技だ! これがガンプラは自由ということか!?』
「右腕がやられた!? でも、まだだ!」
「まだはねえ! もう、お終いの時間だぜ!!」
右腕は動かせない。武装も失いながらもグレイズ・アッシュを真似て格闘戦で懸命に対抗しようとするバルバトスにムゲンが獰猛な叫びを上げて畳みかけていく。
比較的強度の弱い肩と腕の継ぎ目を狙って一閃する斧刃で残る左腕を切り落とすとスラスターを吹かせて飛び上がり背後へと回る。
「なんだ!? まさかっ!」
「強いガンプラだったよ、お兄さん! ありがとう、また闘ろう! オオオリャア!!」
炸裂したグレイズ・アッシュのジャーマン・スープレックスホールドによってバルバトスは乾いた大地に脳天から深々と突き刺さり、ついに機能を停止した。
『試合終了ぉおおお! 圧倒的だ! 接戦など許さない! 互角の勝負など許さない! 求めるのは圧倒的な完全勝利か!? インファイトは俺の物だ! 勝者、グレイズ・アッシュゥウゥウウウ!!』
血湧き肉躍る激闘に語彙力が暴走気味の実況スタッフの音声がホールに響くと一拍の間を置いて、観客たちの熱狂的などよめきが木霊した。
型破りな戦法やヒールめいたパフォーマンスでアンチも少なくないチーム・メリッサではあるが今日のムゲンとグレイズ・アッシュの戦いは観る者たちのアドレナリンを大いに刺激させるものだった。
「オオー! スッゲェ、スッゲェ! ガンプラであんな動きさせるとかクレイジーだぜ!」
「ハハッ♪ やっぱいいよね、チーム・メリッサ!」
試合が終わり、優勝者として賞金と景品のガンプラを授与されるムゲンの姿を他の観衆たちと混じって見つめる二人のシルエット。彼らもまた我が道を往くチーム・メリッサの在り方に魅せられた若きファイターたちだ。
※
優勝者としての賞金の譲渡などの細々した手続きから解放されたムゲンをカナタたちはにこやかな笑顔で出迎えた。
「お疲れムゲン!」
「ういーっす。いやぁ楽しい
「スタッフさんに聞いたら夜には今日の試合動画、恵那峡ガンダムランドの公式チャンネルにアップされるってさ」
「マジか! これはメリッサにますます挑戦者がやってくる可能性大だな」
ペットボトルのお茶を投げ渡しながら控え目に笑って言うハルカにムゲンは目を丸くして喜んだ。交通の便が決して優れているとは言えない地方在住では気軽に遠征は行えない。
しかもチーム・メリッサは学校の部活動とは無関係な完全に個人で結成されたチームなので知名度を上げて、バイト先のカフェに腕に覚えのあるファイターを招き寄せるのは強い相手と戦って練度を上げるためにも重要な事柄だった。
「いやーホントに上手いことカモが……じゃなかった、お客さんザックザクで商売繁盛を願っちゃいますとも」
「おうよ! 目指せバイトで月収20万だぜ!」
「いや、もう少し夢のスケール広げてもいいだろ」
大会が終わり、人の波が穏やかになったエントランスをチーム・メリッサの面々が和やかに話しながら歩いている時だ。軽やかな足音がムゲンに近付いて――。
「ムゲンさーん! 優勝おめでとうございまーす♪」
「おおっと? なんだぁケイカじゃん!」
薄紫のパーカーにハーフパンツと黒タイツという恰好の小柄で可愛らしい子供が野兎か山猫のような勢いでムゲンに抱きついてきた。
自分の勝利を祝ってくれる青みのある黒髪を長い三つ編みにした少年が顔馴染みだと気付くとムゲンは自慢の怪力で大きく一回転振り回してから静かに着地させる。
「試合、最高でしたよ♪」
「ありがとな。ケイカも出りゃよかったのに」
「そのつもりだったんですが自転車移動だと思っていたよりもここに行くまで時間がかかっちゃって、お休みで道も混んでいましたし」
たははと八重歯を見せて華のある笑顔を見せる彼の名前はハンダ・ケイカ。
一見すると女性と見間違える中性的で可憐な容姿の持ち主だがれっきとした少年である。
カフェ・メリッサの近所に暮らす中学一年生でアリスガワ家とは家族ぐるみの付き合いもある将来有望な若きガンプラファイターだ。
「市内からだと結構距離あるのにがんばったね」
「中学生にこの辺の市営バスはお高いので。それにこれぐらいは良いトレーニングです」
「クス、その意気や良しだね。でも確かに私もこっちに引っ越してきたばかりの頃は驚いたよ。まあいいや、おいでケイカくーん」
「わはは。カナタさんくすぐったいですよ~」
「よいではないか♪よいではないか♪ 最近は出会えてなかったし、カナタさんを癒しておくれよぉ」
カナタは人懐っこい笑顔を見せるケイカを自分の傍に手招くと飼い猫でも可愛がるように頭を撫でつつ、三つ編みをいじって遊ぶ。
自分と似たものを秘めているケイカはカナタのお気に入りで師弟というほどではないがガンプラバトルについてもあれこれと世話を焼きたがる関係だった。
「カナねえ……ケイカも一応多感な中学生なんだから、加減はしてやりなよ」
「なんだいハルくん、実の弟として妬いているのかな? 今日の私は寛大だからケイカくんと一緒に愛でてあげるよ?」
「ご冗談を姉上」
ケイカを愛でてご満悦なカナタと不敵な言葉と黒い笑みにハルカは肩をすくめて苦笑した。すると交代にムゲンが口を開く。
「ケイカ、今日は一人で来たのか? 俺たちこれから昼飯にするけど、一緒にどうよ」
「そうでした! 実は先パイたちにボクの友達を紹介したくて! あ、クーさんは知っていると思いますけど」
「へ? あ、ああ! もしかしてマーくんのことです?」
ハッとして周囲をキョロキョロと見渡すケイの言葉にクーはパンと両手を合わせて状況を把握して、自分も噂の少年の姿が近くにないか視線を動かした。
「誰だ? というか何故クーさんだけ知ってんだ?」
「ほら、クーさん学校の模型部の臨時コーチもやってるから」
「それは私たち知らないわけだ。三人揃って帰宅部だもん」
「フッフーン! 昨今の流行り的にトレーナーと呼んで下さいなお三方」
クーが鼻高々にしているとその否が応でも目につく異国情緒あふれる褐色の美貌を目印に一人の少年がムゲン達のところに駆け寄って来た。
「見っけたー! くぅらぁケーイ! 急に走り出すんじゃねえよ!」
「ごめんマーシャル。さっきの試合見て興奮しちゃって」
「おかげでお前アレだぞ、もうちょっとで百円でコイントスして迷子センターいくかどうか決めるとこだったぞ!」
無造作に切りそろえた色の濃い金髪と澄んだ空のような碧眼。
底抜けに明るく騒がしい青いツナギを着たやんちゃな雰囲気の少年だ。
「ホントごめんね。でもそれならスマホに連絡くれればよかったんじゃない?」
「ウオッ!? そうだわ……天才かお前。アメイジングジャパニーズだな!」
見たところアメリカ人のようだが日本語はとても流暢で陽気な声色は聞いているだけで元気が出てくるようだ。しかしながら、どうやら頭は少し残念そうだとムゲンたちは密かに思ってしまった。
「えっと、気を取り直して紹介しますね。この子がボクの友達の――」
「こんちゃーッス! ケイの友達やってるマーシャル・マードッグっていいます! よろしくお願いしますッス!!」
「おー元気のいいな。あと日本語上手いな、すげえじゃん」
「ジイちゃんの代から日本暮らしなんっスよ。学校のベンキョーも英語より国語の方が好きっスもん!」
「それは……いいのか?」
元気が有り余った大型犬のような勢いでマーシャルは満面の笑顔でムゲンたちに挨拶をした。両親ともにアメリカ人ながら日本生まれ、日本育ちのマーシャルは突風のように頭もフットワークも軽い憎めない少年と言った印象だった。
「よっしゃ。気を取り直して飯食いながらトークタイムといこう」
「そうだね。ケイカくんや、君たちラッキーだよ。今日はムゲンがご馳走してくれるってさ」
「……え?」
「いや、え?じゃなくて。お前が言い出した約束通りだからなムゲン」
立ち話もなんだということでフードコートにでも移動して昼食を楽しみながら話の続きをすることになった一行だったが突然のカナタの言葉にムゲンは間の抜けた声を出して固まった。
「さっきの試合……四回もだぞ、ペナルティ」
「ムゲンさんゴチになりまーす!」
「「???」」
四人が何の話をしているのかはサッパリだったがとにかく、どうやら食事を奢ってもらえるということで食べ盛りのケイカとマーシャルも意気揚々と彼らの後についていくことにした。
※
六人が座るテーブルにはご当地グルメの五平餅やとりトマ丼にカレーや焼きそば、ホットドッグと定番のメニューが並んでいた。
少し遅めの昼食をパクつきながらケイカたちは先程の四人の意味深なやり取りの真相を知ることになった。
「プロレス技禁止の縛りプレイ?」
「なんでそんなメンドイことやってたんっスか?」
「本命のための調練ってやつだな。そうだろ、ムゲン」
ハルカから今回の大会でムゲンが普段のプレイスタイルを一部制限して、斧を主体とした戦い方を心掛けていたことを聞かされた二人は揃って首を傾げた。
「GUNPLA SWORD MASTER……最強のガンプラ剣豪を決める大会ってのが開かれるみたいでな。それに出ようと思ってよ」
「それで自分から私たちにプロレス技使ったらペナルティで一回につき1000円分ご飯奢るって宣言してご覧のありさまだったというわけさ」
「だってよぉ……あれだけ観客いたら塩試合とかしたくないじゃん」
「まだまだ精進したまえってことだね」
「ハァ……ごもっともだな。とりあえず、仙台までの旅費は今回のでかなり稼げたから上々さ」
後輩たちに得意げに語ったムゲンではあるがすぐさまカナタに痛い所を付かれてうだつの上がらない顔を浮かべた。
「でも思い切った挑戦を決めましたねムゲンさん。グレイズ・アッシュは剣士というより」
「山賊っスよね! 前にネットで見たキャッチした敵の大型ミサイルで逆に相手のガンプラ殴り倒した試合とか最高でしたよ。俺は大好きっス!」
「あっははは! マーシャルくん素直でよろしい!」
五平餅の串を咥えながら素直な感想を口にするマーシャルにカナタは大笑いして喜んだ。高校生の自分たち相手でも物怖じせず、裏表もなく能天気がつきぬけた感じの彼の態度はお気に入りのケイかとは別のベクトルで彼女には好印象だった。
そんなカナタを横目にムゲンは獲物を前にした野獣のように口角を吊り上げて尋ねる。
「けどよお前ら考えてみな? 最強の剣豪を決めるって刀や剣を装備した連中がひしめく大舞台で大斧担いだ荒くれ者が正攻法でそいつら薙ぎ倒して優勝してみろよ? 傑作だろう!」
「……ボク、そういうの大好きです♪」
まるで冗談でも言うような気軽さで、それでも至極本気の眼差しで語るムゲンにマーシャルは呆気にとられ、ケイカはというと火遊びの楽しさを知ってしまったような危なげで可憐な微笑を浮かべて強く頷いた。
「オレたちはこんな風によく言えば独自路線……悪く言えば異端の変人みたいなことをやっているわけだけど、二人はガンプラで叶えたい目標とか夢はあるの?」
「自分はとりあえすバトルで武器ぶっ放せれば最高ッス! 操縦桿から弾丸吐き出してる振動や火薬の匂いが漂ってくるみたいで堪んないんッスよ!!」
「ボクは――」
彼らのことも知ろうとハルカが提供した話題にマーシャルはエサを見つけて大はしゃぎする憎めない駄犬のような勢いで答えた。清々するようなトリガーハッピー脳である。
「ボクは“カワこわ”を極めて上手くいけば一つのジャンルにしたいです」
そして、ケイカは曇りのない眼差しと弾ける笑顔で堂々と自分が胸に抱く野望を声にした。
「ほう……カワこわ。カワこわ?」
「日本にあるガンプラバトルの流派か何かですか?」
聞き慣れない単語にムゲンとクーが首を傾げているとケイカが少し照れ臭そうに詳しいことを話し始めた。
「あのですね、ボクって可愛いじゃないですか」
「お、おう……すごい自信だけど、まあ否定はできないか」
「それで可愛いボクが強面な愛機ですっごく強くて怖い実力者になったら、とっても映えると思ったんです。可愛いと怖いという本来なら相容れないこの二つの属性を御する抜きん出たガンプラファイターになる。そんな感じがカワこわを極めるというボクの夢になります」
「なるほどね。ちょっとまだ理解は追いついていないけど、その熱意はバッチリ伝わったよ」
「よかったです。だって、チーム・メリッサの戦いを見ていてこんな風変わりな夢を持ってもいいんだって思えるようになったんですもん。責任とってくださいよ? なんちゃって♪」
瞳を星のように輝かせて、熱く早口で語り終えるとケイカは興奮からか頬を僅かに上気させて、やりきった表情をしていた。同時に最後のとびきり情熱がこもったケイカの言葉はカナタたち三人の胸の奥に響くものがあった。
「前も聞いたけどホントにクレイジーなこと考えるなケイは! お前と友達だと退屈しねえや」
「それマーシャルが言うの? ボクの方がマーシャルと会えて毎日面白いことだらけだよ」
勢い良く自分に肩を組んで笑うマーシャルの手を撫でながら、ケイカは少年と呼ぶには愛らしく、どこか蠱惑的な所作で返す。
そんな自分たちに負けず劣らずな後輩たちをチーム・メリッサの三人は楽しげに見ていた。
「ああいうの良いよね」
「だな。それに……!」
「期待の追走者が出てくれるっていうのはこっちも気合が乗るよ」
また三人で地道に駆け抜けてきた王道や定石を敵に回して挑んできた夢の旅路の跡を追う者が現れたことに言い様のない嬉しさを感じていた。
「ケイカくん」
「はい?」
「君の夢はたぶん普通に大きなバトルの大会で勝ち抜くよりも大変な道になると思うよ? それでもその夢を手放さない自信はあるかな?」
「当然ですよ。だって、せっかくの長い夢の旅です。困難が多い方が大変でも楽しいじゃないですか」
不意に優しい声で問いかけるカナタにケイカは迷うことなく想いのままを言葉にして、同時に可憐さの奥に隠した激情が漏れ出したような強気な笑みを浮かべて見せた。
「そっか。なら、君はもう大切な友人で……油断できない私たちのライバルだね」
「光栄です。まずはカナタさんたちからボクのカワこわに染めて見せます」
「クス、やってごらん。私たちは手強いよ?」
カナタとケイカは自然と強く握手を交わしていた。
一見すると爽やかな青春の一コマだが最高の理解者にして同類を得てしまった二人から滲み出る黒いオーラは隠しきれるものではなかった。
「カナタさんって美人さんですけどなんかコワいッスね。アレがカワこわのこわの部分ッスか?」
「双子の弟としては違う物だと願いたい」
「わ、話題を変えますがケイカくん、例のアレの完成度はどんなものですか?」
夢を語り合う賑やかな食事の席が最終的にコンビを組ませてはいけない最凶のマッチングの席になってしまったことに慌てた別の話のネタを用意した。それは平日の段階では作成中だったケイカのカスタム途中の愛機のことについてのものだった。
「クーさんにも沢山教えてもらったおかげで昨夜完成したんですよ!」
「おお! それは良かった! 折角ですし、この場で見せてもらっても?」
「はい!!」
クーに振られたケイカはむしろみんなに見せたかったとばかりに専用のボックスから納得のいくカスタムを尽くした自慢のガンプラをテーブルの上に取り出した。
「お待たせしました。こちらになります」
柔らかない白い手から離れてテーブルに立った青い機体にムゲン達はおお!と声を漏らした。しかし、ここで思わぬ闖入者が現れた。
「嗚呼……絶景だねえ! いいぞぉ美しい!!」
「うわっ!? だ、誰ですあなた?」
どこか芝居掛った美声を上げていきなりムゲン達の座るテーブルに現れたのはロン毛の楽器演奏家のような恰好をした青年だった。
「とても美しいガンプラだ。そして、これを作り上げた君もまた美しい。喝采物だ、ああ……まさしく喝采物だとも麗しい君よ」
クーの驚いた問いかけをスルーして長髪の青年は仰々しく傅いてケイカと彼のガンプラを舐めるように眺めると甘い口調で口説きと思われても無理のない言葉を放ち始めた。
「ムゲン、ゴー」
「応ッ! おい、お兄さんせめて名乗れよ。もしもケイカや俺たちの誰かに触ろうもんならあんたを恵那峡がよく見える橋の上から吊るすぞ?」
「おっと、これは失礼。そこなガンプラと持ち主の魅惑の前に少々理性が蒸発していたようだ」
カナタの号令でムゲンが逞しい上腕二頭筋をチラつかせて立ち塞がると青年は意外にも素直に非礼を詫びた。
「私はガンプラ梁山泊の一人、風流双槍将の渾名を持つテンリツセイと言う者だよ。因みに本名はもう少し親密になったら教えてあげよう」
「「「「ガンプラ梁山泊?」」」」
青年は相変わらず不審者オーラが拭いきれぬまま、自らをそう名乗った。
一方でイロモノの匂いがプンプンする単語の数々にムゲン、カナタ、クー、マーシャルの四人は揃って怪訝な声を上げる。
「まさか……ガンプラ梁山泊の人間だって!?」
「知ってんのかハルカ!!」
「嘘でしょハルくん」
反面、珍しいものを見たと驚きの表情を見せるハルカにムゲン達は食いつかざるを得なかった。騒ぎ立てる仲間たちを宥めながらハルカは自分が知っている限りの情報を話し始めた。
「ガンプラ梁山泊……本拠地や組織としての詳しい詳細は不明ながらファイターとしてもビルダーとしても腕に覚えのある人たちが集まって厳しい研鑽をし合う集団って話だけど」
「全く以ってその通りだねえ。そこなメカクレの少年、なかなかの見識があるようだ」
「ただ……」
「ただ?」
「SNSでの遭遇談とかを調べてみるとガンプラヤンキーのような悪質さや直接的な被害は無いがコミュニケーションのアプローチが変質者スレスレで不気味だったという声が多く、ざっくりと言うと強くて不審なヤバい集団らしいんだが……その、どうです?」
「嗚呼、悲しみは宇宙の果てのように深く冷たい。世界は誤解と偏見で満ちている」
気不味そうなハルカの視線にテンリツセイは遠い目をして空を仰いだ。
正直なところ、彼の面倒臭さをムゲン達は現在進行形で体感しておりカナタに至っては今すぐにでも近くのスタッフを呼べるようにスタンばっていた。
「それでテンリツセイさんはボクをどうしたいんですか? 可愛くて攫いたくなっちゃいました?」
静かな水面に石を投げいれるように、ずっと澄ました顔で黙ったままだったケイカが口を開いて大胆な言葉を飛ばした。
「それも一興かもしれないがやめておくとしよう。我々は無頼漢であるかもしれないが下郎ではないからね」
「じゃあ、テンリツセイさんはボクとなにがしたいんです? 恥ずかしかったらホラ、ボクの耳元でどうぞ♪」
「私と一戦交えてくれないだろうか? 本当は噂のチーム・メリッサのメンバーと戦おうとこの地へと赴いたのだけれど、君と君のガンプラに酔わされてしまったようだ」
「よろこんで♪ ボクも完成した愛機の初めての
ただでさえ不審者っぽく胡散臭さを醸し出しているのに対戦を望んだ途端にファイターとしての圧まで放ち出したテンリツセイにケイカは人懐っこい態度を崩すことなく、勝負の誘いにOKを出した。
※
恵那峡ガンプラランドにはあちこちの建物内にガンプラバトルの筐体が配置されている。
フードコート近くのショップコーナーにある一台を使ってケイカとテンリツセイは手早く戦闘準備を済ませてチーム・メリッサやマーシャルに見守られながらバトルを始めることにした。
「戦いを始める前に一つ誓ってもらえないだろうか? 私が勝ったら一緒にここの観覧車に乗って、ガンダムシリーズにおける華奢で可憐なキャラたちについて語らおうではないか?」
「いいですよ。けど、ボクが勝てたらテンリツセイさんはボクになにをしてくれるんです?」
「このショップで販売しているガンプラを何でも一つプレゼントしよう。無論、値段の制限はない!!」
「太っ腹ですね。ホントはいけないかもですけど、テンリツセイさんみたいな人、嫌いじゃないですよ♪」
二人は互いに
青い粒子がガンプラバトルのフィールドを形成していく。
フィールドは海岸地帯。
雲の切れ間から幾つもの光が差し込む曇天の空と虚しく波揺れる海原、そして険しい岩場が広がっている。
「寂れた景色だが二人っきりの戦争を楽しむには最適か」
「良いバトルにしましょうね、テンリツセイさん」
「……そうだねえ」
トレードマークの三つ編みを猫の尾のようにしなやかに踊らせて微笑むケイカにテンリツセイは襟を正すと静かに頷いた。
もうすでに対面するこの二人に年齢な身分は意味を持たない。二人は等しくただの決闘者だ。
これ以上の言葉は不要と両者はGPベースの上に最高の相棒である愛機をセットする。
テンリツセイの使用するガンプラは戦闘機の翼のような外観が特徴的なジェットストライカーを装備したウィンダムの改造機だ。
一見するとライムグリーンに塗装した胸部と中華武将風の追加装甲や装飾、主武装と思われる二本のフェイロンフラッグを装備しているのが目立つ。
「風流双槍将! テンリツセイは董平ウィンダムが参る!!」
先程の奇人っぷりが嘘のような気迫に満ちた声と共に翠の武人がカタパルトから発進する。水のほとりの物語に記された好漢の名を冠するMSがいま優麗に鉛色の空に舞う。
「キミの力を見てやろう、ボクのスクナ!」
ケイカもまた熱く燃える想いを宿した瞳で愛機を見つめると形成された光球状の操縦桿を握り、命を吹き込む。
その機体はハイドラガンダムをベースとした青いMSだった。
肩部や全体の細部には黄色の塗装を施し、あたかも青い肉体に黄金の鎧を纏った威容のように仕立てたフォルム。またEMFシールドを取り外し、代わりに強力なバスターカノンをもう一丁装備している。
「ハンダ・ケイカ! ガンダムスクナ……いってきまーす!!」
高らかな叫びと共にカタパルトを駆け抜けて青き異形のガンダムが産声を上げた。
二面四腕の鬼神・両面宿儺。
日本書紀において時の朝廷に討伐された凶賊と記される一方で飛騨地方に伝わる伝説では悪龍退治を始めとした数々の逸話を持ち、大いなる力を振るったとされる民草たちの守護者としても歴史に名を残す古の英雄だ。
「いくよスクナ! ボクらの夢を叶える最高の旅を始めよう!!」
古の鬼神の名を与えられたガンダムは可憐なる挑戦者の夢を乗せて、いま箱庭の理想郷を往く。手始めに踏破すべき相手は百八魔星の化身の名を持つ鋼の双槍将。
「「さあ、戦いだ!」」
鬼神VS豪傑――!!
いまここに開戦――!!
キャラクター紹介
ハンダ・ケイカ(半田景火)
青みのある黒髪を長い三つ編みにしている。
美少女と見間違う小柄で中性的な少年。
明朗快活で人懐っこい愛され上手。
自分の理想や夢のためならストイックかつクレバーで努力や研究を怠らない。
喫茶メリッサの近所に住んでおり、両親が共働きで帰りが遅いこともあってアリスガワ家でよく一緒に夕食を共にする仲。
ガンプラバトルでかわコワ(可愛くて怖い)というスタイルを極めて、その道の第一人者になるという計画を企てている。
マーシャル・マードッグ
ちょっとお馬鹿で騒々しいがサッパリしていて裏表のない少年。
家族の影響もあって男女関わらずスキンシップが深いこともあるが本人に下心は皆無。
日本生まれ日本育ちのアメリカ人。実家は木工所を経営している。
祖父が仕事の傍らに猟師だったこともあって、銃器の類に愛着が強い。
生粋のトリガーハッピーなので勝ち負け度返しでとにかく弾丸をぶっ放したいお年頃。