今日も今日とて執務室。
夏だけに暑い日が続く中、鎮守府内は冷房が効いているため、比較的過ごしやすい。
「ハラショー。阿武隈さんには力を感じる」
姉である暁と同じように、阿武隈の膝に座り込んでいる、暁型2番艦の響。
なにやらモゾモゾ動いているが、一番居心地の良いポジションを探しているのだろう。
「ふふっ、響ちゃんってば。あたしに力を感じるってよく分からないですよ」
阿武隈はそう言いながらも、響の好きなように座らせながら優しく笑う。
「阿武隈にあまり負担かけないようにな」
響だって駆逐艦で、更にその中でも小さい方とはいえ、さすがに結構重いだろうからな。
「……大丈夫だよ。私は一人でも」
あまり好きに阿武隈にじゃれつけないと思ったのか、落ち込みながらつぶやく響。
どう考えても一人で生きていける気がしない。
「おーい。負担かけるなって言っただけで、よく分からないすね方をするな」
「阿武隈さんの膝は居心地がいいな。ロシアでも重宝する膝だ」
あっさりと機嫌を直した響が、目を輝かせながら言う。
「どういう膝だそれは」
暁姉妹も白露姉妹も、初春姉妹、それから霞とかみんなホイホイ阿武隈にじゃれつくからな。
暁達がうらやま――阿武隈も大変そうだ。
「ふふっ、響さんは阿武隈が大好きなんですのね」
阿武隈の向かい側に座って、微笑ましく響を見ているのは、重巡洋艦の熊野だ。
暁に阿武隈と並ぶレディーの鑑として尊敬されてたりもあって、なにかと阿武隈と気が合うらしい。
「熊野さん、別に私は好きで阿武隈さんに座っているわけじゃないんだよ」
照れくささからか、響はまったく説得力のないことを言う。
「あら、それではどうして阿武隈の膝に座っているんですの?」
「私達、駆逐艦は阿武隈エネルギーが枯渇すると、稼働率が80%低下する。つまり、この鎮守府の機能は崩壊するんだよ」
「な、なんだってー」
「む、信じていないね司令官。これは本当のことなんだ」
「なんですか阿武隈エネルギーって。あたしを、変なエネルギー発生源にしないで欲しいんですけど」
妙なエネルギー発生源にされた阿武隈が、困ったようであまり困ってない優しい声で響の頬をつつく。
「いっちばーん! よく分からないこと言って阿武隈さん困らせちゃだめだよ、響!」
「阿武隈エネルギーに興味があるの? 良いよ、なんでも訊いてよ」
「時雨が、阿武隈エネルギーの何を知っているというの!?」
そんなところで、突然執務室の扉を開け、現れる白露と時雨。
またこのコンビかと思わざるを得ない。
「また来たね、白露シスターズ」
白露と時雨に対して、響はいつもの落ち着いた様子で言葉をかける。
「ふふっ、お二人とも今日も元気ですわね」
熊野も、突然現れてしかも元気よくはしゃぐ白露と時雨を見て、優しく微笑む。
こういう、ほんわかしているところが阿武隈と気が合うのかもしれないな。
「阿武隈エネルギーとは、つまり阿武隈の一水戦旗艦の経験と、駆逐艦の子達を惹き付ける人柄がいろいろ混ざって、駆逐艦の子達を成長させる強力なエネルギーを生み出している――」
そんな熊野を横目に、阿武隈エネルギーについて解説しだす時雨。
「時雨? 時雨ー? お姉ちゃん、いきなりそんな話されてもついていけないんだけど?」
「――様な気がする。たぶん、きっと、メイビー」
「適当かーい!?」
白露の渾身のツッコミが入る。このコンビは本当にいつも楽しそうだな。
「僕達は、この阿武隈から観測されるエネルギーを、阿武隈から発生するよく分からないエネルギー。省略して阿武隈エネルギーと名付けたんだ」
「僕達って、時雨ちゃん以外に誰が名付けたのそんな名称」
仕方ないなあといった感じで尋ねる阿武隈。
そんな中でも声に優しい印象が感じられる辺りが、駆逐艦達を惹き付けているのだろうか。
「うらー」
阿武隈の問いかけに、響が阿武隈の膝に座ったまま両手を挙げる。
「あら、響さんもですの?」
そんな響の様子に、熊野も微笑みながら問いかける。
「響だよ。阿武隈エネルギーのおかげで、改二になることができたよ」
「あたしが、本気で謎のエネルギー発生源にされているんですけど」
そう言いつつ、困った様子を見せない阿武隈。
「でも、あたしだって阿武隈さんのおかげで改二になることができたよ!」
「もう、白露ちゃんまで」
「違うって、阿武隈さん白露の訓練に付き合ってくれたり、色々と教えてくれたりしたじゃない!」
「それは白露ちゃんが頑張ったからで、あたしはたいして何もしていないですから」
「もー、阿武隈さんってば。とにかく、あたしが改二になれたのは、阿武隈さんのおかげなの!」
阿武隈と白露、お互い相手を立て続ける。
この二人もどことなく似てるところがあるよなあ。
いつも一生懸命なところとか、ちょっとぽわぽわしてるところがあるけど、根はしっかりしているところとか。
「電も改二になりたいのです! だから阿武隈エネルギーをたくさん補給するのです!」
「雷も雷も! 改二になって、いっぱい司令官と阿武隈さんの役に立つわ!」
「五月雨も改二になって、もーっと頑張っちゃいます!」
「春雨も改二になって、阿武隈姉さんの役に立ちたいですっ」
「君達、どっから出てきたの」
突然現れた電、雷、五月雨、春雨にしれっとツッコミを入れる時雨。
白露と時雨だけには、おまえが言うなと言いたい。
「阿武隈姉さんの周りには、いつも駆逐艦が最低五人はいると思ってくださいっ」
「どんな状況なのさそれ!? 普通に怖いよ!?」
いつも物静かな時雨に大声を出させる春雨、恐るべし。
「もちろん冗談です、はいっ」
春雨は冗談であると時雨に告げる。まあ本当だったらさすがに怖い。
「阿武隈さん攻略作戦開始なのです! 阿武隈さんを攻略して、阿武隈エネルギーを確保するのです!」
電が元気に阿武隈攻略作戦の発令を告げる。
「あたし、地上目標みたいに扱われてるんですけど」
「駆逐艦達のエネルギー補給基地みたいなもんだし、そこまで間違っていないんじゃないか?」
「もー、提督まで変な扱いしないでくださいよぉ」
「ちなみにこれが作戦内容よ!」
雷が手書きの作戦内容が書かれた紙を見せる。
難度:☆
作戦名:阿武隈攻略作戦
作戦内容:練度の高い水雷戦隊を編制し、軽巡阿武隈を攻略せよ!
「難度低くない!?」
「ツッコミ所そこなのか!?」
雷が見せた作戦内容に白露のツッコミが入る。
他にも色々ツッコミ所はあると思うが、まあ敢えて言うまい。
「まあ……阿武隈なら駆逐艦の子達を邪険にしないでしょうし、ある意味適切な難度と言えますわね」
熊野の意見に、それもそうかと思う。
「でも電。大発もなしで阿武隈さんを攻略できるのかい?」
「はうっ!? 痛いところを突かれたのですっ!?」
響の謎の問いかけに、電はこれまた謎のリアクションを返す。
「本当に地上目標扱いされてますっ!?」
「ふふっ、阿武隈は電さん達のエネルギー拠点ですから、仕方ありませんわね」
「もう、熊野さんまで面白がって乗らないでください」
「で、
「でん、じゃなくていなずまなのですっ!?」
「春雨、さらっと阿武隈さんをお姉ちゃんにしないの。ほら、春雨のいっちばーんのお姉ちゃんはここにいるでしょ?」
「白露姉さんも阿武隈姉さんも、春雨のお姉さんじゃダメなんですか?」
白露のお姉ちゃんアピールに対して、春雨は純粋に質問を投げる。
「いやまあ別に良いけど」
あっさりと許容する白露。別に良いのか……。
「じゃあ決まりですっ!」
わーいと両手を挙げて喜ぶ春雨。
「わーいっ、五月雨も阿武隈さんの妹です!」
五月雨も春雨と一緒に、元気に喜ぶ。
「良かったな阿武隈。一気に妹が10人もできたぞ」
ある日突然、阿武隈に10人もの妹ができたらどうなりますか?
「ものすごく大変なんですけどっ!?」
だよね。みんな阿武隈お姉ちゃんに甘えまくるし。
「と言うわけで、大発が装備できる朝潮ちゃんと霞ちゃんを呼んだのです!」
いつの間にか、電は朝潮型駆逐艦の長女の朝潮と、末っ子の霞を連れてきたらしい。
本当にいつの間に連れてきたんだ。
「朝潮ですっ! 勝負ならいつでも受けて立つ覚悟ですっ!」
「……なんで霞はこんなカオスなところにいるのかしら」
「ダメですよ霞! 私達に頼ってきた皆さんのため、一緒に頑張りましょう!」
「なにをどう頑張れば良いのよ、この状況」
「阿武隈さんを攻略して欲しいんですっ! でも五月雨達は大発が装備できなくて……」
「大発が阿武隈さんと、どう関係してるのよ!?」
五月雨のセリフに、もっともな回答を返す霞。
霞の言うとおり、なんで阿武隈の攻略に大発が必要だと言う流れになっているのか。
そもそも阿武隈の攻略ってなんだ。別の意味の攻略なら私もしたいぞ。
「大発ですね! 朝潮にお任せください!」
朝潮はそう言うと、大発のミニチュアをそっと床に降ろす。
「さあ、大発妖精さん! 阿武隈さんにゴーですっ!」
「らじゃー!」
妖精さん達もミニチュア大発に乗りながら、一生懸命に阿武隈へと近づく。
「ほら霞! 霞も大発を出してください!」
「……え? なんで?」
「霞ちゃん! 電達には霞ちゃんの力が必要なのですっ!」
「そうよ霞! 雷達に霞の力を貸して!」
「そうだよ霞! 阿武隈さんの攻略には霞が必要なんだから!」
「白露姉さんの言うとおりです! 春雨からもお願いしますっ」
「五月雨からもお願いしますっ! 阿武隈さん攻略のために、霞さんの力を貸してください!」
「あーもう、分かったわよ! やれば良いんでしょやれば!」
電達の声に、霞は仕方なく答える。
「なんだかんだ押しに弱い霞のそういう所、僕は嫌いじゃないよ」
「時雨、アンタ後で覚えておきなさい」
「覚えておくよ……五分だけ」
「マジでぶっ飛ばすわよ!?」
「霞! 早く増援を! 朝潮だけでは状況は不利ですっ!」
「はあ!? いったい何がどうしたら不利に――」
霞が阿武隈の方を振り返ると、そこには――
「ふえええっ!? 妖精さん達、あたしの髪をわしゃわしゃしないで、ふえっ、服の中に入り込もうとしないでくださーいっ!?」
大発妖精さんに、めちゃくちゃじゃれつかれまくっている阿武隈の姿があった。
「――本当にどこが状況不利なの朝潮姉!? もうほとんど制圧完了しているじゃない!?」
「制圧完了って、どういう意味なの霞ちゃん!?」
「妖精さんに、好き勝手にじゃれつかれまくっていると言う意味だと思いますわよ」
阿武隈の問いかけに、微笑ましいものを見ているように熊野が返す。
「何言っているんですか霞! 響さんの手を見てください!」
「響の手?」
朝潮の声に従い、響の手を見てみると――
「はらしょー」
そこには、響に高い高いされている、一人(?)の妖精さんの姿が!
「うう……ほりょになってしまったのです」
「ようせいさーん!?」
「いや電……それ、そんなに悲痛なリアクション取るところじゃないわよね?」
高い高いされている妖精さんの姿に、悲痛な叫びを上げる電と、冷静にツッコミを入れる霞。
「みんな……ボクにかまわず、あぶくまさんをこうりゃくするのです……」
「そんな!? それじゃあ妖精さんが!」
「雷まで!? いやこれそんなシーンじゃないでしょ!?」
妖精さんの自己犠牲(?)の言葉に対し、電と同じような反応をする雷と、これまた呆れたように返す霞。
「ううっ、なんとか響の気を逸らさないと……」
白露がこの状況を打開しようと、考え込む。
「よし、ここは僕の佐世保ジョークで――」
時雨は佐世保ジョークという謎ワードを発言する。
どんなジョークだ佐世保ジョークって。
「ダメですっ」
「時雨姉さんは下がっててくださいっ」
「五月雨に、春雨も酷くない?」
時雨の佐世保ジョーク発言に、速攻で五月雨と春雨からダメ出しが入る。
個人的には佐世保ジョークが気になる……まあ、時雨が適当に言ってる可能性が高いから良いけど。
「ここは、わたしがものまねをするのです」
阿武隈の肩に乗った妖精さんが、突然そんなことを言い出した。
「……ものまね?」
「ものまね。かすみちゃん」
「はあっ!? あたしっ!?」
「あぶくまさん、かすみね、ほんとうはあぶくまさんのことだーいすきっ!」
そう言いながら、阿武隈の頬にすりつく妖精さん。
――その瞬間、執務室の空気は確かに凍り付いた。
「アンタなにやってんのよおおおおおおおおぉ!? そんなことあたしがするわけないでしょおおおおおがああああぁ!?」
そして、次の瞬間に霞が爆発した。
「なるほど、確かに霞そっくりです!」
「朝潮姉なに言ってるのよ!? これっぽっちも似てないわよ!?」
「でも霞ちゃんは阿武隈さん大好きなのです」
「電、アンタおかしいんじゃないの!? そんなわけないわよ!」
「霞ね、本当は阿武隈さんのことだーいすきっ」
「時雨ぶっ飛ばすわよっ!」
「みなさーん、ケンカしないでくださーいっ!」
騒ぎを止めようとする阿武隈と、そんな阿武隈に引っ付く妖精さん達と響。
そんなこんなで今日も騒がしい執務室であった。
――後日。
「なあ
「うーん、そうなのよね。なんか妖精さん達が張り切っちゃって」
「妖精さん達が?」
「うん。妖精さん達の調子が良いみたい。なにかあったのかな?」
「……まさかな」
「どうしたの、提督?」
「そういや、ウチの鎮守府って、遠征の大成功率高いらしいんだよな」
「そうなの? なにか理由があるのかな?」
阿武隈エネルギーって、案外本当にあるのかもしれない。