阿武隈さんは懐かれる   作:タンポポ雲

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山風ちゃんは構って欲しい

「構わないで」

 

 白露型駆逐艦の8番艦、山風は阿武隈に対してそうつぶやいた。

 

「山風ちゃん……」

 

 阿武隈はすぐ近くにいる(・・・・・・・)山風をじっと見つめている。

 

「放っておいて……」

 

「でも……」

 

 それでも、山風は阿武隈を拒絶する言葉を投げかける。

 

「いいから、そういうの別に。べたべたしないで」

 

「でも、あたしにぎゅーってして離れないの、山風ちゃんなんですけど」

 

 拒絶するような言葉とは裏腹に、ソファに座る山風は阿武隈にべったり引っ付いていた。

 

「……そんなことない」

 

 照れたようにぷいっと顔を背けるが、山風の両腕は阿武隈をつかんで離さない。

 

「もう、仕方ないですねえ」

 

 阿武隈は苦笑しながらも、山風をぎゅーっと抱きしめてあげた。

 

「別にいいのに……」

 

 山風はそう言いながらも、ふにゃっとした幸せそうな笑顔を浮かべる。

 

「山風、阿武隈に甘えたいなら、素直にそう言えば良いじゃないか」

 

 私の問いかけに、山風はおずおずと答える。

 

「こういう寂しそうなこと言うと、阿武隈は心配して構ってくれるって言ってた」

 

 意外と策士な山風さんであった。あっさり白状する辺りまだまだだが。

 

「山風ちゃん、そんなこと誰が言ってたの?」

 

「……もくひけん? をこーしする」

 

「山風ちゃんは難しい言葉を知ってますねぇ」

 

「えっへん。もっと褒めて良いよ?」

 

「山風ちゃんはお利口さんですねぇ」

 

 阿武隈が山風をなでてあげる。目を細めて気持ちよさそうにする山風。

 本当に、阿武隈の駆逐艦の子達の懐かせ振りが半端ない件。

 

「阿武隈、温かい……」

 

「そう?」

 

「うん、安心する……阿武隈、おかーさん?」

 

「あはは、お母さんはちょっと違うかなぁ」

 

「でも、おかーさんは温かいって言うよ?」

 

「うーん、せめてお姉ちゃんにして欲しいかなあ」

 

 お姉ちゃんなら良いのか。

 白露姉妹の一部や島風にお姉ちゃんと呼ばれ続けて、阿武隈の基準が低くなっている気がする。

 

「うーん、お姉ちゃん? お姉ちゃんも良いかも」

 

 山風は頭を阿武隈の胸に預けながら、眠たげに言う。

 

「でもおかーさんも良い」

 

「もう、山風ちゃんってば」

 

「山風もすっかり阿武隈に懐いているなあ。暁達もだけど、白露姉妹も阿武隈と波長が合うのかもな」

 

「なんですか波長って。まあ皆良い子達ですから」

 

 私の何気ない発言に対して、阿武隈も何気ないツッコミを入れてくれる。

 

「おかーさんに褒められた。えっへん」

 

 目をとろんとさせながらも、誇らしげにする山風。

 

「山風ちゃん、だからおかーさんはやめて欲しいんですけど」

 

「……そう? なんで?」

 

「あたし、まだ子供がいるような年齢じゃないですし」

 

「んー、良く分からないけど、分かった。おねーちゃん」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 そこに、執務室のドアをノックする音。

 律儀にノックするということは、白露シスターズではあるまい。

 

「てーとく、今なにか白露ちゃん達に失礼なこと思いませんでした?」

 

 なぜ分かる阿武隈さん。

 

「はっはっはっ、なにを根拠にそんなことを言うのかな阿武隈は」

 

「てーとくの事はだいたい分かりますから」

 

「えっ」

 

「……なんでそこで動揺するんですかぁ!?」

 

 そこにドアを勢い良く開ける音がする。

 

「もう、やっぱいるんじゃない提督! ちゃんと返事しなさいよね!」

 

 大きな声で入ってきたのは、阿武隈の姉である長良型軽巡洋艦の2番艦、五十鈴だ。

 勝ち気で真面目。我が鎮守府の古参で、頼りになる艦娘である。

 

「悪かった五十鈴。山風に免じて許してやってくれ」

 

「なんであたし……?」

 

 山風が不服そうな顔を……してないな。半分寝かけてる。

 

「なにバカな事言ってんのよ。そこで阿武隈に引っ付いて、眠そうにしている山風がなんだって言うのよ」

 

「最近改二になった……もっと活躍する」

 

 山風が寝ぼけながらも、律儀に返事してくれる。

 

「だ、そうだ」

 

「はあ……別に良いわよ。大方、阿武隈に見とれてぼーっとしてたんでしょ、まったく」

 

「ふえ!? ……五十鈴姉何言ってるの?」

 

 顔を赤らめてワタワタする阿武隈もかわいい。

 山風を起こさないよう、すぐ声も動作も控えめにするところがなおかわいい。

 

「冗談よ。そんなに慌てるんじゃないわよ」

 

「そうだよ、おかーさん……」

 

 山風が目を閉じながら、阿武隈をまたお母さんと呼ぶ。

 先ほど阿武隈からダメと言われているが、半分寝ている山風はそれが記憶の彼方に飛んでいるのだろう。

 

「ふふっ、お母さんだって。阿武隈懐かれているわねえ」

 

「もう、五十鈴姉からかわないで」

 

 阿武隈と山風を微笑ましく見る五十鈴と、言葉とは裏腹に優しい笑顔で山風を見守る阿武隈。

 優しい空気がそこにあった。

 

「……おとーさんがおかーさんに見とれるのは、普通だから」

 

 ピシッ。

 優しかった空気が固まる音が、確かにした。

 

「おとーさん……?」

 

 五十鈴がギギギと音がしそうな雰囲気を出しながら、私の方に振り向く。

 

「ちょっと待て。なんでおかーさんは笑って流して、おとーさんには妙な反応をするんだ」

 

 ちっとも悪くないはずなのに、妙に追い詰められている感がある。

 

「……あ、阿武隈をおかーさんって言ったらいけないんだっけ。おねーちゃんって呼ばないと。おと……提督」

 

「山風さんんんんっ!? 風聞の悪いこと言わないでくださる!? それでは阿武隈が山風のお母さんであることを私が隠しているみたいに聞こえますわよ!?」

 

「……なんで熊野口調?」

 

 山風が私の口調にツッコムが、そんなことはささいなことである。

 

 ドンッ!

 五十鈴が思いっきり私の目の前の机を叩く。

 

「……阿武隈に手を出したこと、地獄で反省することね」

 

「いきなり地獄行き通告!? せめて人の話聞いて欲しいんだが!?」

 

「うっさいわ! 結婚してるならともかく、ケッコンカッコカリの関係で子供作っているんじゃないわよ! しかもそれが山風って何年前に手を出したの!?」

 

「逆にそこに疑問を感じてくれ!? 本当に何年前だって話になるだろ!? まだこの鎮守府できてないからな!?」

 

「つまり鎮守府に着任する前に手を出したって事ね!? 当時は提督じゃないから問題ないって言いたいの!? 常識的に大問題よ!」

 

「ダメだ話が通じねえ!? 阿武隈、この姉なんとかしてくれ――」

 

「てーとくがお父さんで、あたしがお母さん……」

 

 阿武隈に五十鈴をなんとか説得してもらおうと思い、阿武隈の方を見るが、なにやら上の空状態だった。

 

「おねーちゃん、嬉しそう……」

 

 山風さん、そこほんわかするところじゃないから。

 

「ほら、阿武隈だって否定しないじゃない! やっぱり山風は提督と阿武隈の娘なのね!」

 

「ふえ!? お姉ちゃんそれ違うから!」

 

 元に戻った阿武隈が援護してくれる。

 

「え、そうなの?」

 

「おねーちゃんは、山風のおかーさんじゃないの?」

 

 じわりと涙目になりながら阿武隈を見る山風。

 

「え!? えっと、山風ちゃん泣きそうな顔しないで、ねっ?」

 

 阿武隈は山風に目線を合わせながら慰める。

 

「提督、山風がかわいそうじゃない! ちゃんと認知してあげなさいよね!」

 

「もうどうしろと」

 

「それはもちろん、えっとその……子供ができるような、……(こと)したなら……せ、責任とるべきじゃない! もう、こんなこと言わせないでよ!」

 

「五十鈴が勝手に言ってるだけだぞ。あとまだしてないからな」

 

まだ(・・)!? やっぱり阿武隈をそういう目で見てるんじゃない!」

 

「別にそういう意味で言っているわけじゃないからな?」

 

 五十鈴があたふたしているところを見ていて、却って冷静になってきたかもしれない。

 しかし、普段は冷静な五十鈴がここまでなるっていうのは、阿武隈大事にされてるんだなあ。

 

「えっと……その」

 

 そしてなんで顔を真っ赤にしているんですか阿武隈さん。

 いや、そういうことしたいなあって思ったことがないと言ったら嘘になるけど!

 

「と、とにかく落ち着いて、五十鈴姉! 山風ちゃんとはちょっとおままごとしていただけですから!」

 

「……おままごと?」

 

 いつも凛としている五十鈴が珍しく、キョトンとした顔をする。

 

「はい、そうですっ! ねっ、山風ちゃん?」

 

「うん、阿武隈はおかーさん……役、提督はおとーさん役」

 

 ちゃんと阿武隈の意図を察した山風が、補足してくれる。

 良かった、さっきみたいに「阿武隈はおかーさんじゃないの?」とか言われたらまたハチャメチャになるところだった。

 

「そ、そうなの。だったら始めからそう言ってよね。まったく」

 

「提督の話を聞かずに、勘違いしてたの五十鈴姉なんですけど」

 

 五十鈴をたしなめる阿武隈。

 メッ! みたいな動作しているが、全然怖くないしむしろかわいい。

 

「う、悪かったわよ。ごめんなさい、提督、阿武隈。山風もね」

 

「別にいいよ。五十鈴が妹大好きだってことは分かっているからね」

 

「あ、あのねえ……」

 

 五十鈴が不服そうな顔でこちらを見るが、暴走した手前強くは言えないようだ。

 まあ、これくらいの意趣返しは許されるだろう。

 

「もう、提督ってば」

 

 阿武隈は仕方ないですねえと、優しげな顔で私と五十鈴を見ていた。

 

「五十鈴はシスターコンプレックス」

 

「山風ちゃん、その言葉だれから教わったの」

 

「……もくひけんをこーしする」

 

「今度は黙秘権使っちゃダメ」

 

 阿武隈が、山風に変な言葉を教えた人物を問い詰めている。

 

「阿武隈姉さんっ!」

 

 そこに、突然勢い良く扉を開ける音がした。

 執務室のドアを開けた張本人、白露型5番艦の春雨が、勢い良く阿武隈に突っ込んでくる。

 

「わぷっ!? もう、どうしたの春雨ちゃん」

 

「時雨姉さんってばヒドいんですよ! 春雨のこと、阿武隈姉さんに甘えすぎだって言うんです!」

 

「あ、うん」

 

 なんて言って良いのか、微妙な顔をする阿武隈。

 

「時雨の言うとおりじゃない」

 

「ヒドいです!?」

 

 五十鈴の直球ストレートのツッコミに、春雨はショックを受ける。

 

「時雨姉さんだっていつも白露姉さんや阿武隈姉さんにべったりじゃないですか! 時雨姉さんこそ、シスターコンプレックスですっ」

 

「犯人」

 

 山風がピシッと春雨を指差す。

 

「……はい?」

 

 それに対し、春雨はかわいらしく首をかしげる。

 

「山風ちゃん、人を指差しちゃダメですからね」

 

「分かった」

 

 阿武隈の注意に、山風は素直に頷く。

 

「そもそも、阿武隈は白露達のお姉さんじゃないでしょ。なんで春雨(アンタ)は、ナチュナルに時雨こそシスターコンプレックスとか言ってるのよ」

 

「……はい?」

 

 またまた疑問符を顔に浮かべる春雨。

 

「そこで何言ってるの? みたいな顔してんじゃないわよ!? 阿武隈は白露型でも駆逐艦でもないでしょ!?」

 

「で、でも姉妹の絆に型も艦種も関係ないはずです!? 暁さん達も初春さん達も、霞さんも阿武隈姉さんの妹じゃないですかっ」

 

「どうしてそうなるのよ!?」

 

「おお、五十鈴のドトウのツッコミだな」

 

追撃戦(ツッコミ)は五十鈴の十八番だから……ぜひ手本にしたい」

 

 山風がキラキラとした目で五十鈴を見ている。いったい何が山風の琴線に触れたのか。

 

「変なルビ入れてんじゃないわよ!? なによ追撃戦(ツッコミ)って!? そんなの十八番にした覚えないわよ!?」

 

「やっぱり五十鈴は追撃戦(ツッコミ)のスペシャリスト……かっこいい」

 

「なんで尊敬の眼差しで五十鈴を見るの!? 意味分からないんですけど!?」

 

「あたし、疲れた。おねーちゃん、一緒にお風呂いこ?」

 

 山風が阿武隈の服をくいくいと引っ張る。

 

「そこで突然お風呂行こうとしてんじゃないわよ!?」

 

「もう、仕方ないですねえ」

 

「阿武隈も何事もなく了承してんじゃないわよ! そんなんだから春雨達に勝手にお姉ちゃん扱いされるんでしょうが!?」

 

「春雨も阿武隈姉さんとご一緒します!」

 

「電も一緒にお風呂に行くのです!」

 

「暁も暁も!」

 

「もー! 春雨ばっかりずっるーい! 白露がいっちばーん先にお風呂に直行だーっ!」

 

「すぱしーば」

 

「初霜も、ご一緒します!」

 

「五月雨も一緒です!」

 

「あーもうアンタ達、執務室ではしゃぎすぎ! 霞がちゃんと見てあげないと心配なんだから!」

 

「あんたらどっから出てきたーっ!?」

 

 五十鈴の渾身のツッコミが、鎮守府に響き渡った。

 

 

 

「お風呂か、私も入りたいなあ」

 

「それ、五十鈴に撃ってくれってことで良いかしら?」

 

「阿武隈と一緒にって意味じゃないからな?」

 

 秘書艦の姉が物騒な件。




5000字弱書くにも半日かかる……毎日投稿している方は本当に尊敬します。
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