「我々は忘れない!この国是を!この国是を!
そうして決めたのです!思い出したのです!
ですからこの選択をするのは当然であります!
我々はここに!ランソメドーズの民なら持たずにはいられない協調精神の発露によって、本委員会を設立するものであります!!!」
――「ランソメドーズ民間船舶運営委員会」設立総会
準備委員長トシユキ・カワサキ(カワサキ・スターシップ・ライン社長)
【戦記】ヴァンフリート遭遇戦(1)連合船団
ランソメドーズ共和国を語る際、他の構成邦では見られることのない、不思議な団体が存在する。
それが、「ランソメドーズ運輸整備事業団」と「民間船舶運営委員会」だ。
前者は官営、後者は民間企業による協力団体という形ではあるが、いずれも自由惑星同盟構成邦――それも『中間星域』の――では珍しい構成邦政府の指示・要請で動く輸送組織だ。
更に言うのであれば、ランソメドーズ共和国はその所在地と国力を比較した時、不必要なまでに大きな宇宙軍を独自に編成しているのが特徴的である。
後備総隊なる同盟宇宙軍の中型輸送艦で整備している輸送船団もそうだし、一般的には主力部隊として捉えられる前衛総隊の護衛隊に至っては、旧式とはいえ、同盟宇宙軍の巡航艦・駆逐隊を複数配備しているのだ。
些かの縮小拡大や組織改正はあれど、ランソメドーズ共和国という構成邦は、ある種の不要な努力を払いつつ、こうした能力を維持している。
そうして多大なる犠牲を払いつつも維持され続けているランソメドーズの輸送船団(官軍民共同)だが、当たり前のことではあるが、建国当初から抱えていた訳ではない。ランソメドーズ共和国の位置は、複数の航路が通っていたが、どうしても必須、というようなポイントでもなかった。ましてや、同盟内の航路の中継点であるかといって、別に彼ら自身が抱える必要性も優位性もなかったのだから。
では、何故にこのような立場に至ったかと言えば、結局のところ全ては宇宙歴699年に遡る。元帥量産帝の侵攻で『交戦星域』を始めとして全土が混乱する中、ランソメドーズは前線の後背地として軍需品の疎開工場を始め、一挙に(といっても限度はあったが)工業化が促進され軍需品・民生品の生産が急増するようになる。
さて、ここからが本題となる。
成程、物資は生産出来るようになった。原材料に関しては比較的安定した同盟各地の『姉妹たち』から得ることが出来るだろう。
では。作った「それ」は? どうやって運ぶ?
――そう、「戦地」へ、「誰」が、運ぶのか?
後世の視点から答え合わせをするのであれば、生産された各種物資を、直接全て戦地まで運ぶような真似は「あまり」なかった訳だが、この視点はランソメドーズという小さな世界では大問題と化した。
より正確に述べるなら、大問題に引き上げた者たちがいた訳である。
それは元々、惑星内開拓を計画・運営していた建設事業団だ。
内部開拓があらかた落ち着いた以上、彼らは用済みになるはずだった。けれど組織防衛本能をフル活用された彼らは例え姿形を変えようとも生き延びようとした。
同時に、この問題に正面から回答を求められた者たちがいた。
ランソメドーズ共和国軍である。
当たり前だが、同盟宇宙軍は一度大破しており、比較的後背地の護衛に対して大兵力なんぞ貼り付けられるはずがない。
では、ランソメドーズ軍は、なにが出来るのか。
民間の輸送会社に、屍になりそうなところへ行けと、頭を下げて、それで、軍は?
ちっぽけな警備艇ばかりの宇宙軍に。重武装警察程度の地上軍に。
どうしたらいいのか。なにをするべきなのか。
必死に探した。滑稽なほど探した。なにか、なにか存在価値を。
自分たちが出来ることはないか。
「国民保護」の手段はないか。
そうして彼らは出会った。語り合う時間は短かった。そんな時間すら惜しんで、彼らは徒党を組んで、存在証明を見せつけようとした。
開拓事業団は建造ドックを、そして船そのものを。
宇宙軍は僅かばかりの警備艇をよりも、新規建造の輸送船へ優先して人員配置を。
幸いというべきか、彼らの一歩目はそれまでの本業から遠く離れていないが故に迅速に事は進み、かくして、彼らは生み出した。
――ランソメドーズ運輸整備事業団。
巨大な官営輸送集団はここに誕生した。
そうして編成された運輸整備事業団は、所属職員はみな軍人・軍属という形をとり、官営という部分を活かして、各地への輸送に従事する。当然、犠牲を払いながら。
『大親征』という嵐が終わったあと、事業団に人員を多く割いたランソメドーズ共和国軍が、「あの時手が届かなかった『同僚たち』を守れる戦力」の整備に躍起になったのも理解できるだろう。
後日談がある。
元帥一個小隊がヴァルハラへ、皇帝と残り一個小隊が去った頃。運輸整備事業団は意外なライバル(?)が生まれていた。
当たり前の話なのだが、事業団誕生まで星間輸送は民間輸送会社に頼っていた訳で、彼らは彼らで「事業団発足」というイベントを大きく受け止めていた。
問題はその受け止め方だった訳である。
「民間の犠牲を減らすべく対応する官軍共同体」に彼らはいたく感動してしまったのである。ここに彼らは「ランソメドーズの民なら持たずにはいられない協調精神の発露(※原文ママ)」により、自主的に政府からの徴用に対応する体制を整備したのだ。
現在まで続く「ランソメドーズ民間船舶運営委員会」の起こりである。
当時のランソメドーズ軍は、護衛戦力はもちろん、事業団以外に自前の輸送船団の整備に入っていた。なにせ地上軍までが「低軌道支援総隊」という名称で、戦地派遣された各種物資を管理・展開できるどころか自前の星間輸送船まで整備し始めたその頃である。
しかしながら、民間からの声に押される形で、時の首相により、「同盟軍への助力を軍・事業団・運営委員会全体で輸送できる体制」が固定化されていくのである。
そうして整備された各組織は現在に至るまで、ランソメドーズ共和国の影響力を支える力となりつつあった。
そう、他国からは「(国力からみて)強力な輸送・軍事力を持つ国」と見られながら。
自国内では以前からの「どこにでもあるような農産国家」というミスギャップの始まりであった。
長々と説明が必要となったが。
そうして生まれ彼らの、何度目かの戦いが、始まろうとしていた。
ーー宇宙歴794年10月。
同年のヴァンフリート星域会戦を受けながらも、自由惑星同盟は第六次イゼルローン攻略作戦を決定。
その同日。
ハイネセンポリスにあるランソメドーズ共和国弁務官事務所。
同事務所において、ランソメドーズ共和国首席弁務官ネヴィル・グレイ、ランソメドーズ共和国軍宇宙軍参謀総長オメイス中将が署名し、自由惑星同盟国防委員会委託事業第2373号を受託。
ランソメドーズ共和国ハーディング内閣は同事業受託に関し、ランソメドーズ共和国軍の『交戦星域』ヴァンフリート星域の派兵を閣議決定。
翌日、ウィリアム・ローリエ大統領により承認される。
以上を受け、ランソメドーズ共和国軍は事前計画「第7276号」に基づき、派兵計画を始動。
主目的:第六次イゼルローン攻略作戦に先行し、ヴァンフリート4=2補給基地に向け、事前輸送を完遂すること。
総司令官:宇宙艦隊司令長官キャンベル中将(兼後備総隊司令長官)
副司令官:地上軍低軌道支援総隊司令官シマダ少将(地上軍部隊統括)
副司令官:宇宙軍第四護衛隊司令メルキス少将(護衛隊司令先任)
本作戦に対し、ランソメドーズ共和国軍は軍令103号により、第八次『連合船団』編成を決定。
キャンベル中将直卒の後備総隊からなる宇宙軍輸送艦32隻以下、地上軍低軌道支援総隊所属船舶8隻、ランソメドーズ運輸整備事業団所属船舶22隻、ランソメドーズ民間船舶運営委員会よりの『協力船舶』11隻。合計63隻。
これを護衛するのは、第二・第四・第五の各護衛隊と、三個独立駆逐隊。
ランソメドーズ全軍における過半の投入であった。
10月8日。
――ランソメドーズ宇宙軍前衛総隊・第二護衛隊旗艦
巡行艦『セントローレンス』
『第二護衛隊司令より通達。
全艦、進度百二十、『セントローレンス』に続け』
ランソメドーズ共和国、第八次連合船団。
その最前衛たる第二護衛隊、その旗艦艦橋では、隊司令にであるグェンドリン・ウィンターホールド准将の大きな欠伸が聞こえていた。
「ねえ参謀長? どうしてこんな退屈な任務なのかしら」
「……それは、命令だからでは?」
はあ、と呆れたような声。
「あなた。本当につまらない人ね」
はあ、というこれみよがしに続けられた溜息に、つい一ヶ月前に新任の参謀長として赴任したばかりの大佐は引きつりかけた頬をなんとか維持した。
――畜生、前任の育児休業がなければこの変人の下にはいなかっただろうに!
『急遽』交代となったこの参謀長を除けば、准将昇進とともに隊司令となったばかりとはいえ、既に数ヶ月ウィンターホールドと過ごした者たちである。ましてや司令部要員となれば、良くも悪くも「薫陶よろしき」連中だ。とうに付き合い方は承知しているような連中ばかりである。
もっともウィンターホールド准将の気分も分からないでもない。
全軍の最前衛とはいえ、ランソメドーズの宙域を離脱したばかり。それでいて久しぶりの『連合船団』編成に、本隊が移動に手間取っているような連絡で何度も進行スピードを調整させられているのだから。
つい二分前に進行を再開させたばかりで、また通信が入れば。
「それで? キャンベル中将なんて?」
今度もまた停止命令か?というような声音で問いかける女司令の声。
「大した内容ではありません。宇宙軍総司令部から『本作戦名を銀炎とする』、というようなものだけです」
「銀炎」
おや、と参謀長は思わず呟きかけた。
あの司令が、はじめて呆けたような顔をしている。
ほんの一瞬の奇跡の瞬間の後、彼は後悔した。
――畜生、見るからに上機嫌だ。
「……なにかありましたか」
「あるもなにも」
女は嬉々とした声で言葉は続ける。
「いい表現だわ。炎といえば我がウィンターホールド開闢以来の紋章だもの。これ以上ない贈り物じゃない」
絶対あんたのためにつけたわけではないだろ、という心底から漏れだしかけた言葉を飲み込み、手元の端末に視線を向ける。
何故か?
第二護衛隊参謀長の責務とは司令の発言に(どのようなものであれ)相槌をうつことではなく、戦闘序列の回復を確認することである、ということを思い出したが故である。