同盟上院議事録異伝 とある構成邦顛末記   作:如月一月

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「なんだってあんな骨董品みたいな装備を……」
「地球時代からの伝統らしい。海上しか船がなかった時代からのな」
「船同士の戦いにサーベルを? 古代人の考えは分からんね」
――ランソメドーズ共和国軍高級将校の軍服について


【戦記】ヴァンフリート遭遇戦(2)臨時集成戦隊

 

宇宙暦794年11月。

ランソメドーズ軍『銀炎』作戦部隊は、ヴァンフリート星系までの輸送行程を完遂。

 

まずは純粋な民間船舶である、船舶運営委員会の各艦船が順次、ヴァンフリート民主共和国首都プラント『ネルソン=マンデラ』をはじめとした各プラントへ直接、食料品や民生品をたっぷりと搬入している。

彼らはそれらを済ませると、離脱を開始する。一部は【交戦星域】各地の通常貿易に復帰するものもいるが、その大部分は空荷のまま帰路についていった。

 

当初計画よりも戦線がイゼルローン要塞方面に既に前進したことを受け、『銀炎』作戦司令部は、同盟軍と調整の上で作戦を修正。ヴァンフリート4=2基地へは運輸整備事業団船舶隊のみを派遣。

第二護衛隊は所属隊に分割し、独立駆逐隊とともに警戒網を構築。『主力』たる後備総隊は第五護衛隊を直衛としながら更に前進、イゼルローン回廊前面の宙域を制圧した同盟軍本隊への移送を実施。

その中間地帯に、第四護衛隊は地上軍低軌道支援総隊と待機し、情勢の変化に備える。

 

 

同年12月10日。

同盟軍艦隊がイゼルローン要塞前面からの撤退を決定。それに先立ち、ランソメドーズ宇宙軍後備総隊は回廊出口へと交代。損傷の大きく、後方への移送となった同盟軍艦艇とともに、第五護衛隊が警戒にあたりながらヴァンフリート本国へ後退していった。

中間地帯を維持していた第四護衛隊は一個駆逐隊を護衛に、地上軍低軌道支援総隊をヴァンフリート4=2基地へ派遣。

警戒網を構築していた第二護衛隊は各戦隊を合流させながらランソメドーズ全軍の殿に。

 

そうして彼らは、六度目の求婚に失敗した同盟軍本隊の見届け人となった。

 

 

 

彼らがそういった情勢に陥ったのは、いくつか理由がある。

例えば、バーラト星域に帰還する同盟軍本隊との混乱を避けるため、別航路を選択したこと。

例えば、戦闘力の著しく低い輸送艦船のスピードを同調せねばならなかったこと。

例えば、同盟軍本隊と比べた際、著しく『弱い』戦闘力に見られたこと。

例えば。

同盟軍後退を機に、『狩猟』を目論む貴族が紛れ込んでいたこと。

 

 

 

12月23日22時02分

――ランソメドーズ宇宙軍前衛総隊・第二護衛隊旗艦 

巡行艦『セントローレンス』

 

「『コロンビア』との連絡がつかない?」

 

その一報が入った時、第二護衛隊司令部は怪訝な表情を隠さなかった。

この時、ランソメドーズ軍『銀炎』作戦部隊は、既に本国への帰路についている。ただしその航路は往路とは異なり、パランティア方面を目指していた。これは比較的航路の大きいアスターテ方面について、同盟軍本隊が航路とすることを選択していたからである。

ランソメドーズ艦隊は、『大所帯』の撤退作業がある程度の目途を見せた中で、撤収を開始したのであった。

 

作戦部隊の前衛は第五護衛隊が固め、これとほぼ同一の集団として後備総隊・地上軍低軌道支援総隊・事業団船舶隊が続き、距離を置いて第二護衛隊が後衛に。第四護衛隊が更に後方に戦隊ごとに展開して警戒網を敷いていた。

 

その第四護衛隊旗艦『コロンビア』からの定時連絡がなくなったのである。

それは同時に、『銀炎』作戦部隊の副司令官、メルキス少将の所在が掴めないことを意味していた。

 

 

「第四護衛隊、といってもこの場合は『コロンビア』を含む本部戦隊の推定位置はおそらくこの地点で――」

「ないわね」

通信参謀がホログラムに表示したランソメドーズ艦隊のポイントに、ウィンターホールド准将の否定の言が挟まる。

「第四護衛隊の各隊に通信を送りなさい。どの隊でもいいから状況の確認を。それと、『ロッキーズ』のキャンベル中将、『ラブラドル』のシマダ少将にも現状を報告――」

するように、と続けられる筈だった言葉はそこで切られた。

何故なら、オペレーターのひとりが叫び声とともに報告を告げたからである。

 

「第十四駆逐隊より通信! 『我、敵艦隊ト遭遇セリ』!!!」

 

 

 

 

12月24日10時20分

『セントローレンス』の艦橋は、喧騒の中にある。

 

第四護衛隊旗艦との通信途絶から約半日のなかで、『銀炎』作戦司令部はいくつかの状況把握に成功していた。

敵艦隊は戦闘艦艇で百隻程度の『大集団』であること。

警戒網を敷いていた第四護衛隊の部隊のうち、半数の三個部隊が敵艦隊に襲われたこと。

そしてそのうちの一つが、第四護衛隊の本部戦隊であること。

第四護衛隊司令部はその旗艦ごと、初期の遭遇で喪われたこと。

 

 

これらの状況を踏まえ、ランソメドーズ軍『銀炎』作戦司令部は、第二護衛隊司令ウィンターホールド准将に対し、第二護衛隊に第四護衛隊残余、そして独立駆逐隊を預け、「ウィンターホールド臨時集成戦隊」を編成。艦隊本隊がパランティア星系に逃れるまでの敵艦隊阻止を命じた。

 

 

 

「巡航艦『アサバスカ』、護衛隊に合流」

「『プラム』以下第二十五独立駆逐隊、我が隊に合流します」

 

パシン、パシン、という軽い音が響く『セントローレンス』艦橋。ランソメドーズ宇宙軍はパレルメント「連合王国」宇宙軍の影響を受けてか、かなり珍しいことに高級将校に指揮刀を小型にしたような指揮杖を授与している。大多数の将官は儀礼時でもなければ『大事に』しまっておくのだが、ウィンターホールド准将は常に身につけ、思考をまとめる際、このように手慰みに扱うのである。

 

「これで巡航艦九隻、他三十三隻になりました」

「結構。集合信号はこのまま継続発信。……他に合流の可能性のある部隊は?」

「本隊方面から合流する予定の独立駆逐隊はすべて合流済ですので……あとは巡航艦『スレイブ』、あるいは第八駆逐隊……」

「つまりは通信の繋がらない、けれども接敵確認のされていない第四護衛隊残余ね」

期待は出来ない、という感情を声音にのせて、青髪の女性司令は参謀長に返す。

 

「敵戦力に変動は?」

「ありません。旗艦と思われる戦艦ほか、何隻かの大型艦の他は雑多な編成です。……貴族の略奪艦隊なのは間違いないでしょう。それでも我が方に倍する兵力ですが」

「砲戦距離までは?」

「このまま敵の進軍に委ねるのであれば……一時間は残っていません」

「先程合流した部隊は?」

「今であれば、まだ戦列の変更をしても間に合うかと」

 

参謀長を含め、第二護衛隊幕僚団は、悲愴な思いで作戦案を提示している。即ち、第二護衛隊を中央に、合流した各隊をその左右に付属させ、正面戦闘を行う、というものである。

これは兵力差からも見ても絶望的ではあったが、開けた航路で少数の、それも五月雨式に戦力を増強している部隊で、作戦目標達成のためにシンプルにせざるを得ないという心理からである。

 

「……連合船団の離脱完了まではあと何時間?」

「キャンベル中将の先の通達の通り、あと五時間といったところかと」

「増援の可能性は?」

「もっとも近いのはパランティアの軽空母戦隊ですが、それでも最短で約四時間はかかります」

 

 

パシン、と手慰みに叩いていた指揮杖が止まった。

「決めたわ」

 

「参謀長、艦列の再編成を。合流した巡航艦、『アサバスカ』と『ブラック・ナイフ』は本部巡航戦隊に。その上で第二護衛隊各駆逐隊は、本部巡航戦隊に追随するように。第二護衛隊所属外の駆逐隊は臨時集団を編成。臨時集団の指揮は第二十五独立駆逐隊のバルドー中佐に預けるわ。以降、バルドー中佐の隊を、特編駆逐隊と呼称する」

作戦案を机上に放り出し、ウィンターホールド准将は次々に決定を下していく。

 

「本部巡航戦隊、臨時集成戦隊前衛に移動。特編駆逐隊、最後衛へ。……参謀長、敵旗艦の可能性がある戦艦は判明済みかしら」

 

「ええ、先程から降伏勧告を出している戦艦が一隻」

「大変結構」

艦列の変更に合わせて、戦闘意思を感じたのか。帝国軍から再度の通信が来ている、という報告に女司令は妖艶な笑みを浮かべ、こう告げた。

 

 

「参謀長」

 

「敵指揮官と、通信回線を繋げてくれる?」

 

 

 

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