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Page00:獣を操る者たちへ
ヒーローが死んで三年。
良くも悪くも、世界は何も変わっていなかった。
それはこの街も例外ではない。
「変わらないな、他人に任せて享受した平和なのに、呑気に謳歌する
人と獣が共存する街セイラムシティ、その中央に位置するギルド本部。
その屋上で赤髮の少年、レイ・クロウリーが呟く。
望遠鏡片手に街を見下ろしているが、見えるのは反吐が出る程変わらぬ日常風景ばかり。
そんなレイの横に鎮座している巨大な獣が、彼の呟きに答えた。
「変わらぬさ、いつの時代も人の
銀色の美しい毛並みをした馬型魔獣、スレイプニルだ。
レイはスレイプニルの返答に納得してしまう。だからこそ、彼は人間という存在の愚かさに嫌気が差した。
「……なのに助けようと思う辺り、ヒーローって分かんねぇな」
この街には『ヒーロー』と呼ばれる男がいた。
彼は誰よりも強く、誰よりも心優しく、目の前で傷つく生命を放ってはおけない……そんな男だった。
レイとスレイプニルは、そんなヒーローの姿をすぐ近くで見続けて来た。
人を守り、獣を守り、街を守ったという英雄譚を見続けて来た。
その結果、ヒーローの最期も見てしまった。
「何だかんだ言って、最後に街に裏切られたら世話ないのにな」
どれだけ必死になって人や獣を守ったところで、最後に裏切られ殺されてしまえば何の価値も無くなってしまう。
望遠鏡越しに人々を眺めるレイは、そう思わざるを得なかった。
セイラムシティは今日も平穏である。
ヒーローによって守られた安寧の元に暮らす人々……しかしそのヒーローを死なせたのもまた、彼らである。
非業の死を遂げた英雄と言えば聞こえは良い。
だが、その英雄に全ての平穏を任せた事実を時と共に風化させてしまうのも人間である。
沈黙するならまだ良い方、中にはヒーローの後釜を狙う者たちもいる。
純然たる憧れからなら始末に負えない。
そういう者ほど真実から目を背ける。レイはそれを嫌という程理解していた。
「何で皆憧れるんだろうなァ?」
「それも、
「だとすれば人間は、相当なアホ種族だな」
「ならばそう言ってヒーローに憧れるお前は、その上を行く愚者だぞ」
望遠鏡から目を逸らし、視線をスレイプニルに向けるレイ。
図星を突かれたのか、どこか不機嫌な表情を浮かべ……どこか濁った眼を見せている。
「矛盾、だよなぁ……解ってはいるさ、馬鹿馬鹿しい夢だって」
少し唇を噛みながら、レイは言葉を続ける。
「けどな解りたいんだよ、ヒーローって何だったのか、何で最期までヒーローをやろうとしてたのかとか……解った上で、守りたいんだよ」
「何をだ?」
「……意志を」
スレイプニルは「そうか」と小さく呟いて返す。
「その為にお前は力を欲するのか? 無能と解りきった身体に、分不相応にも王の力を願い叫ぶのか?」
「解りきってるじゃねぇか」
「お前が何度も叫んだからな」
「だったら」と言って、レイはスレイプニルに手を差し出す。
「一秒でも早く寄越せよ、お前の
レイは濁った視線でスレイプニルを睨む。
強欲だとか、渇望だとか、そう言った感情が含まれ過ぎた眼だった。
そんな視線を受けても、スレイプニルの表情は涼やかなものだ。
獅子が蟻に脅えることが無いように、動じること無く凜と在る。
それは強者……否、王者の風格であった。
「我の問いに満足いく答えを出すならば、我もやぶさかでは無いのだがな」
「それが出てたら苦労しないッつーの」
項垂れてため息をつくレイ。
両者にとって、もう何度目か分らなくなったこのやり取り。
スレイプニルの出したものはシンプルな問いだ。
――先代を超えるヒーローとは何か?――
他の者、ヒーローに憧れを抱いた有象無象なら即座に安っぽい答えを出すであろう問い。
だが、ヒーローを見て来たレイだからこそ、矛盾を内包したレイだからこそ、この問いは難しすぎた。
「やっぱり、出来る事からやっていかないとだな」
そう言ってレイは再び望遠鏡越しに街を見渡し始めた。
なにも変わらない。
街も、組織も、心も。
闇と諦めと絶望で濁ったレイの眼も。
それでもレイはその眼で探し続ける。
彼がこの街を守った意味を、自分がヒーローと成る為に必要な何かを……そして、ヒーローの意志を踏みにじろうとする悪意を。
そんなレイの後ろから、スレイプニルが問いかけてくる。
「何が見える?」
望遠鏡を覗きながら、レイは吐き捨てるように問いに答えた。
「獣を操る奴ら」