悪魔達の棲む裏側の世界。
反転宮殿レメゲドンの中で、金髪の少年ことザガンは、魔僕呪を回収していた。
「はい、たしかに。ではこちらをどうぞ」
「ケヘヘ、ありがとうよ」
ウァレフォルの作った裂け目を通じて、裏側に来た盗賊達。
彼らは組織が所持していた魔僕呪の原液を対価に、ザガンから金を受け取っていた。
革袋いっぱいに詰まった金を前に、歓喜する盗賊達。
傍から見ればザガンの気前が良いようにも見える。
だが実際はザガンにとって、金というものに価値は無かった。
「(欲深く、愚かですね)」
口には出さないが、ザガンは目の前の盗賊達を冷めた目で見る。
だが兵隊は多いに越したことはない。
せいぜい盗賊達には踊ってもらおうと、ザガンは考えていた。
そんな中、ザガンの近くに空間の裂け目が現れた。
裂け目の向こうから、白髪の大男が姿を現す。
ウァレフォルだ。
「よいせっと。テメェら! ちゃんと仕事はしただろうなァ?」
「お頭! 当然ですぜ!」
「見てくれよお頭! この金全部オレらのですぜ!」
「そうかそうか。高く買い取ってもらえたか」
盗賊達が見せてきた金の詰まった袋の数々。
ウァレフォルはそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。
「ウァレフォル。何かトラブルでもあったのですか?」
「あん? なんでそう思う」
「腕に傷が増えています。虫にでも噛まれましたか?」
「そうだなぁ。ちと面倒な虫が湧いてたな」
過去形。そして余裕風を吹かせるウァレフォル。
ザガンはその様子を確認して、それ以上追及することはしなかった。
「そう言えばよォ。お前から貰った爆弾、あれは中々良い玩具だったぜ」
「はぁ……貴方でしたか、勝手に持ち出したのは」
「固ぇこと言うなって。同じ悪魔のよしみだろ」
「アレはまだ試作段階なのですが……せめてデータは欲しいところですね」
「俺様が楽しめる威力だった。データなんざこれで十分だろ」
ガハハと笑い声を上げるウァレフォル。
ザガンは額に手を当てて、呆れるばかりであった。
「まったく、貴方という人は」
「そうだなァ。詫びと言っちゃあなんだが、新しいデータを取ってくるってのはどうだ?」
ウァレフォルの提案を聞いて、ザガンの目つきが変わる。
「あの爆弾魔武具、まだ数はあるだろ?」
「えぇ、まだありますよ。どこで使う気ですか?」
「そりゃあ当然、サン=テグジュペリよ」
嬉々として語るウァレフォル。
サン=テグジュペリを爆撃し、略奪と虐殺を楽しむという算段だ。
ザガンは少し考え込む。
提案としては魅力的。データも取れる。使命も全うできる。
ただ一つ懸念事項があるとすれば、サン=テグジュペリという名前。
「ウァレフォル。一つ聞いてもいいですか」
「なんだ?」
「貴方が始末した虫。どのような操縦者でしたか?」
「あぁその事か。赤いのと銀色のと、どっちも今頃洞窟の下敷きだろうよ」
赤色と銀色の操縦者。
それを聞いたザガンは、眉をひそめた。
懸念事項も当たっていそうだ。
「やはり、あの操縦者達のようですね」
「なんだザガン。知り合いだったか?」
「少し面倒な相手ですよウァレフォル。特に銀色の操縦者は、死んでいないと考えた方が良いでしょう」
何せあの戦騎王と契約をしている操縦者だ。
ザガンは忠告をするが、ウァレフォルは不機嫌になるばかりであった。
「ザガン、テメェ俺様が下手な仕事するとでも言いたいのか?」
「ちょっとした忠告ですよ。王獣と契約した操獣者がいます。油断はしないでください」
「王獣ねェ。ガキじゃあ力の持ち腐れで終わるだろうよ」
「その油断が命取りにならない事を祈りますよ」
「舐めるな。俺様は盗賊王ウァレフォルだぞ。奪えねぇもんは無い」
「では、その実力を陛下に捧げていただきましょうか」
そう言うとザガンは指をパチンと鳴らした。
その音に反応して、宮殿の奥から一頭のグリフォンが姿を見せる。
ザガンの契約魔獣だ。
グリフォンは大量の魔武具を入れた荷台を引っ張って来る。
「お望みの爆弾です。使い方はご存じですよね」
「あぁ。ありがたく使わせてもらうぜ」
爆弾魔武具を一つ手に取り、笑みを浮かべるウァレフォル。
彼はそのまま盗賊達の方へと振り向き、声を上げた。
「野郎どもォ! 呑気してる貴族様に一泡吹かせたくねェか!?」
「「「ウォォォォォォォォォォォォ!!!」」」
「金も女も土地もォ! 全部奪いたいと思わねェか!?」
「欲しい!」
「俺もだお頭!」
「女、女をくれェ!」
興奮が最高潮に達する盗賊達。
ならばとウァレフォルは、最後の一押しをする。
「欲しけりゃ奪う。それが俺達のルールだ! 野郎どもォ! サン=テグジュペリで、派手にやろうじゃないかァ!」
「「「ウォォォォォォォォォォォォ!!!」」」
略奪に夢を見て、盗賊達は興奮の雄叫びを上げる。
ウァレフォルはそれを満足そうに見届けて、空間に裂け目を作った。
興奮冷めぬまま、裂け目の中に飛び込む盗賊達。
ザガンはそんな彼らを冷めた目で見届けていた。
「まったく。俗物は理解しかねますが、使いやすいという点では便利ですね」
小さな呟きは誰にも聞こえない。
惨劇の足音は、確実にサン=テグジュペリに近づいていた。