白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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オーバーラップ文庫大賞、銀賞でした。
書籍版は年明け1月25日発売予定です。


Page108:合同演習?

 今日も今日とて、喧騒に包まれているギルドGODの大食堂。

 ゲーティアの宣戦布告からというもの、操獣者(そうじゅうしゃ)達は彼方こちらに引っ張りだことなっている。

 依頼の張り紙も壁を埋め尽くしているが、まだ貼り足りない。

 そんな食堂の中で、レイは一人新聞を広げていた。

 

「一夜にして街の住民が消失……まーたゲーティアの奴らだろうな」

 

 今日の一面記事はとある街で起きた住民消失事件。

 ある日突然、住民が一人残らず姿を消した街を商人が発見したらしい。

 レイは口にフォークを咥えながら、怪事件の裏にゲーティアが居るだろうと考えていた。

 

「マリーの件が終わって、ウァレフォルを倒しても、全然前に進んだ感じがしないなぁ」

 

 ひとまずマリーの実家の件には決着がついた。

 残る目先の問題はライラとジャックだ。

 ライラはまだ落ち込んでいるかもしれない。ジャックに至っては武者修行と言ってどこかに行ったきりだ。

 レイは咥えていたフォークを指先で弄りながら、二人の事を考えていた。

 どうしたものか。レイが内心ぼやいていると、聞き慣れた声が。

 

「あっ、レイも来てたんだ」

「フレイアか。模擬戦場帰りか?」

「うん。ライラ一緒に」

「ふーん……ん?」

 

 予想外な名前が出てきて、口が開いてしまうレイ。フォークも落ちた。

 よく見ればフレイア後ろには黒髪褐色肌少女。ライラの姿があった。

 ライラはどこか申し訳なさそうな感じで、フレイアの後ろから出てくる。

 

「え、えっと……お久しぶりっス」

「ライラ。もう大丈夫なのか?」

「大丈夫っス。休んでいた分も前線で頑張っていくっスよー!」

 

 元気いっぱいに復帰宣言するライラ。

 だがレイには、どこか無理をしているようにも見えた。

 

「それでレイ君。ちょ〜っとお願いがあるんスけど」

「ライラが頼み事って珍しいな。なんだ?」

 

 ライラは鞄から一振りの魔武具(まぶんぐ)を取り出して、レイの前に差し出した。

 それは三角定規を彷彿とさせるデザインの短剣。

 だがセイラムでは滅多に見ないデザインの短剣だ。

 

「珍しい魔武具だな。東国のやつか?」

「スクエアクナイ。東国ヒノワで作られた魔武具っス」

「ヒノワっつーと、確か」

「うん。ボクのお母さんが生まれた国っス」

 

 ライラが東国ヒノワの血を引いている事は知っていたレイ。

 だが東国の魔武具まで所持しているのは、少し予想外であった。

 珍しい魔武具を前に、レイは整備士としての好奇心が疼いていく。

 

「クナイ。確かヒノワのニンジャが使うっていう武器か」

「これはその魔武具版っス。お願いってのは、レイ君にこれの整備をして欲しいんス」

「整備依頼か……」

 

 レイは少し迷う。

 魔武具整備自体は苦でも何でもないのだが、目の前にある魔武具は完全に未知の代物だ。

 上手く整備できるか、些かレイ中で自信が出てこない。

 

「短剣系の魔武具ならいくらでも整備してきたけど……クナイは初めてだな」

「これ、お母さんから貰った魔武具なんス。長いこと使ってなかったから、整備した方がよさそうで」

「なおさら責任重大なってきたな」

「中の術式を、今のボクに合ったものして欲しいんス。レイ君ならできるかなーって思って」

 

 いつもの元気は感じられず。ライラは恐る恐るレイに聞く。

 一通り話を聞いたレイはため息一つついてから、首の裏をかいた。

 

「俺も初めてだからな。壊れても文句言うなよ」

「お願いするっス! レイ君ならできるって信じてるっス!」

「その信頼が重いんだよ」

「あー! レイ君、女の子に重いはNGワードっスよ!」

「事実を言ったまでだ」

 

 頬を膨らませて抗議するライラを、レイは軽くあしらう。

 だがレイの中で、なにか引っ掛かる事もあった。

 

「(そういえば、前に親方がライラの母親の事を何か言っていたような……)」

 

 だが随分前のことなので、上手く思い出せない。

 あまり良い話では無かったことだけは覚えている。

 確証は持てない。故にレイは、それを口にすることは出来なかった。

 

「そういえばレイ。ジャックはどうなの?」

「あれ、ジャッ君どうかしたっスか?」

「あぁ。ジャックならまだ武者修行だよ」

 

 レイとフレイアは諸々事情をライラに話す。

 ジャックの武者修行の件、マリーの実家の件等々。

 一通りの話を聞いて、ライラも事情を理解できた。

 

「やっぱりジャッ君も色々思うとこあったんスね」

「だろうな。にしてもアイツ今どこに行ってんだ?」

 

 実はジャックの行き先に関しては誰も知らない。

 いっその事グリモリーダーの通信で居場所を聞き出そうか。

 レイがそう考えた矢先だ。食堂の中に見慣れた金髪の少年の姿が見えた。

 

「あれ……ジャックか?」

「えっ! ジャック帰ってきてるの? どこどこ!?」

 

 フレイアが騒ぎながら探し始めるので、向こうもすぐに気がついた。

 

「レイ、フレイア、ライラ。久しぶりだね」

「ジャッ君おかえりっス」

「おう久しぶりだな。武者修行はもういいのか?」

「うん。自分を見つめ直す良い機会だったよ。そっちはどうだい?」

「色々あったよー! マリーの実家に行ったり、レイとアリスが合体したり」

「最後にすごい事起きてないかな?」

 

 流石にジャックもレイとアリスの合体は予想外だったらしい。

 ちなみにレイが合体時の様子を語ると、ジャックは筆舌に尽くし難い表情になった。フレイアは爆笑した。

 

「とりあえずこれで全員回復だな」

「そうね〜。ローレライの傷も治ったし、これで元通り!」

「じゃあまた何処か依頼でも受けにいくか? 今のギルドは世界中からの依頼で溢れ返ってる」

「良いね。困ってる人も多いだろうし、色々依頼こなそー!」

 

 フレイアが気合を入れて腕を突き上げる。

 次の方向性リーダーが決めた瞬間……と、思いきや。

 

「あっそれなんだけどフレイア」

「んにゅ?」

「親方さんから伝言があるんだ」

「お父さんから伝言?」

 

 ライラも聞いていないらしく、頭の上に疑問符を浮かべる。

 

「ここ最近ゲーティアの攻撃酷くなってるだろ。だから色んな操獣者ギルドが手を組んで、合同演習しようって話になってるらしいんだ」

「合同演習? なんだそりゃ」

 

 レイも思わず疑問符。

 

「要するに他のギルドの操獣者と模擬戦をするって事だね。お互い技術を高めてゲーティアに立ち向かおうってわけさ」

「えっとつまり……色んなギルドの強いやつが集まるの?」

「今はそういう認識で良いと思うよ」

 

 未知なる強者との研鑽。それを想像したフレイアは目を輝かせ始めた。

 

「やろう! 合同演習!」

「待て待てフレイア。俺らが参加できるか分からねーだろ」

「いや、そうでもないよ。合体ができる僕達レッドフレアは強制参加だってさ」

「あんのクソジジイ、そういう事はもっと早く言えよ」

 

 恐らく発案者であるギルド長に、思わずレイは悪態をつく。

 だが他のギルドとの演習は悪い話ではない……こともないのだ。

 

「なぁジャック。俺らは誰の相手すれば良いんだ? その辺のギルドじゃ、俺らについてこれないぞ」

 

 レイの発言も無理はない。

 GODは世界最大にして、世界最強の操獣者ギルド。

 最弱であった契約前のレイでさえ、他国の操獣者からすれば化物に近い強さなのだ。

 そんな実力者揃いギルド所属しているレイ達。

 演習相手によっては、こちらがレベル落とす必要もあるのだ。

 

「その点は大丈夫だよ。ちゃんと僕達の演習相手も聞いてきた」

「へぇ……どこのどいつだ?」

「ギルド【神牙(シンガ)】。東国ヒノワの操獣者ギルドだよ」

 

 ヒノワの操獣者ギルド。

 その名前が出た瞬間、レイ達は三者三様の反応を見せた。

 

「わー! ヒノワの操獣者と戦えるんだ! サムライ! ニンジャ!」

「やるなギルド長。シンガって言ったら、東の最強ギルドじゃねーか」

「神牙……ヒノワの……」

 

 純粋に期待感を高めるフレイアに、少し驚くレイ。

 だが一方で、ライラはどこか暗い表情を浮かべていた。

 

「ん、どうしたライラ?」

「あっ、なんでもないっス……なんでも、ないっス」

 

 明らかに様子がおかしいライラを心配するレイ。

 フレイアはそんなライラ黙って見守るだけであった。

 

「詳しい話は、またギルド長からするってさ」

「なるほどな。じゃあ次の行き先はヒノワか」

「いや。向こうからセイラムに来るらしいよ」

「なんだよ。ヒノワ観光楽しんでやろうと思ったのに」

 

 出鼻を挫かれて、思わずレイは文句を垂れてしまう。

 

「それで。アタシ達はいつギルド長のとこに行けばいいの?」

「だよな。シンガの奴らがいつ来るか聞きたいし」

「シンガの人達が来るのは明日だって。ギルド長のとこには今から」

「やっぱりあのジジイ一発殴るか」

 

 色々急過ぎる。レイはギルド長の顔を殴る決意した。

 フレイアとジャックも止める気はない。

 一方でライラは、未だ暗い表情を浮かべていた。

 

 東の島国ヒノワ。

 それはライラのもう一つの故郷であり、彼女の最も深い心の傷でもある国。

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