白銀のヒーローソウル【WEB版】   作:鴨山兄助

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Page113:ニンジャの実力②

 戦闘開始と同時に、ラショウは掌から大量の炎を出す。

 炎は意思を持つかのように動き、三兄妹の姿を隠してしまった。

 

「おっと、いきなり距離を取るのか」

 

 炎が消えると、三兄妹の姿も消えた。

 一見するといきなり逃げられたように捉えられるが、レイは油断しない。

 ヒノワの戦士ニンジャ。

 その最大の特徴は驚異的なスピード。そして気配の消去である。

 

「レイ君、ニンジャは」

「死角からの奇襲を得意とする、だろ?」

 

 頷くライラ。レイのニンジャに関する知識は彼女から得たものが殆どだ。

 きっと普通の操獣者なら困惑するか、油断をするかの二択だろう。

 だが相手の傾向が分かっているなら話は別だ。

 

武闘王波(ぶとうおうは)、聴覚強化」

 

 レイは剣撃形態のコンパスブラスターを構えながら、固有魔法で聴覚を強化する。

 強化された聴覚がレイの脳に細かな音を伝える。

 模擬戦場の砂が動く音、空気が揺れる音、魔装の衣擦れが起きた音。

 僅かな音を捉えて、レイは相手の出方を伺う。

 

「……そこだ!」

 

 そして振り返り、背後に向かってコンパスブラスターの刃を振るった。

 火花と共に、金属のぶつかる音が模擬戦場に響く。

 ラショウの振り下ろした刀型魔武具、雲丸と衝突した音だ。

 

「むッ!?」

 

 後方に飛び、レイから距離を取るラショウ。

 その表情は鉛白色の仮面に隠れて見えないが、レイには僅かに驚いているように感じた。

 

「今の一太刀を防ぐか」

「本人の気配が消えても、砂や空気の音までは消せないだろ?」

「なるほど……どうやら俺は無意識に甘く見ていたようだ」

 

 そう言うとラショウは、雲丸を構え直す。

 

「今己の中にある評価を訂正した。お前達は正真正銘の強者であると」

「ラショウだって、十分過ぎる強者だ」

「俺だけではない。俺達兄妹がだ」

 

 ラショウがそう言った瞬間、レイは周辺の空気に異変を感じ取った。

 僅かな風の音がする。それも模擬戦場の中で幾つもだ。

 レイは集中力を極限まで高めて警戒する。

 

『レイ。装甲の強化だ』

「ッ! 武闘王波!」

 

 スレイプニルの助言に従い、レイは即座に魔装を強化する。

 次の瞬間、目には見えない無数の刃がレイに襲いかかった。

 

「うおッ!?」

 

 声が漏れるレイ。

 凄まじい勢いで飛んでくる透明な刃。それは強化されたレイの魔装を僅かだが削っていた。

 

「あら、今の攻撃を耐えるの。流石といったところね」

「固有魔法で強化した魔装だぞ。削られるだけでも恐ろしいっての」

 

 背後から聞こえるのは長女モモの声。

 鴇色の魔装に身を包んだ彼女は、気配を消しながら固有魔法を発動してきたのだ。

 

『ほう、真空の刃か……我らの魔装に傷を負わせるとは、見事だな』

「お褒めの言葉ありがとう。だけど手は抜かないわ」

「二対一かよ……各個撃破の作戦か?」

 

 ラショウとモモに挟まれたレイが悪態をつく。

 

「事前情報を得ていてな。当然レイの契約している王獣の事もな」

「将を射んと欲すればまず馬を射よ。厄介な相手から撃破するのは戦いの基本よ」

「反論のできない正論だな。だけど二人とも何か忘れてないか?」

 

 レイは仮面の下で不敵な笑みを浮かべる。

 

「これ、チーム戦なんだぜ」

 

 次の瞬間、モモに一つの気配が接近する。

 それは雷の如き速さで、モモは反応が遅れてしまった。

 

「きゃッ!」

 

 雷を帯びた刃で素早く攻撃されるモモ。

 少し吹き飛ばされ、彼女は攻撃してきた者を確認する。

 

「速さなら、ボクの方が上みたいっスね」

「ライラ……キャロル!」

「ニンジャの総本山から来た操獣者が相手でも、ボクの方が速くて強いっス!」

 

 スクエアクナイを構えながら、ライラはモモと対峙する。

 

「悪いけど、セイラムのニンジャに劣るつもりは無いわ」

 

 そう言うとモモは再び固有魔法を起動。

 目には見えない真空の刃を幾つも生成した。

 しかしライラは落ち着いている。

 

「……鷹之超眼(たかのちょうがん)、起動」

 

 短く固有魔法の宣言をすると、ライラの眼には空気の歪みが見えた。

 種が分かったトリックの攻略など容易い。

 そして真空の刃が一斉に襲いかかってきた。

 

雷刃生成(らいじんせいせい)……遅いっス」

 

 目に見えない筈の刃をことごとく回避していくライラ。

 途中数回、何かを投げるような動きも織り交ぜている。

 その姿には流石のモモも驚愕した。

 

「そんな、まさか!?」

 

 今まで全てを回避された事のない自慢の技。

 それを回避されてしまった事実をモモはすぐに受け入れられなかった。

 気づけばスクエアクナイを構えたライラは眼前に迫っている。

 

「くっ!」

 

 モモは咄嗟にクナイ型魔武具を取り出して、ライラの攻撃を受け止めた。

 雷と金属がぶつかる音が響く。

 

「速さはあっても、攻撃の重さは足りないみたいね」

「本当にそう思うっスか?」

 

 いつもからは想像できない程に淡々とした口調で、ライラはスクエアクナイを押す力を強める。

 このまま押し切られるつもりは毛頭ないモモ。

 腕に力を込めて、ライラ諸共自分を弾き飛ばす。

 一瞬距離を取って、間髪入れずに追撃を加えよう。

 モモはそう考えていたが……それはライラの想定内であった。

 

「……外れた攻撃が、どこに飛んだか見てなかったんスね」

「!?」

 

 モモが飛んだ後方。それは先程ライラがわざと外して飛ばした、雷が残っていた。

 

「雷にはこういう使い方もあるっス!」

 

 電気は磁力となって地面に潜む砂鉄を集める。

 その砂鉄はライラによって操られ、一つの大きな刃と化していた。

 砂鉄の刃とモモの距離は近過ぎる。

 

「(回避、できない!?)」

 

 ライラは遠慮なく砂鉄の刃を引き寄せ、モモの魔装を背中から攻撃した。

 

「ぐぅぅぅ!?」

 

 魔装によって身を守られたとはいえ、モモは背中に大きなダメージを負った。

 

「ボクは人のこと言えないっスけど。ニンジャの魔装は素早さに特化している分、装甲が薄くなってるっス。だったら確実に一撃を叩き込んでいけば、その内絶対に勝てる」

「くっ! 負けてたまるものですか!」

 

 一触即発状態のライラとモモ。

 そんな二人を少し視界に映してから、レイとラショウも向かい合う。

 

「レッドフレアのニンジャも大した腕前だな」

「そっちの妹さんこそ、厄介な技使うじゃないか」

「死角から襲いかかるのは、モモだけではないぞ」

 

 そのラショウの言葉にレイはハッとなる。

 よく考えてみれば先程から妙だ。

 あれ程ニンジャと戦う事を楽しみにしていたフレイアが、不気味なくらい静かなのだ。

 

「おいフレイア! ちゃんとやってるんだろうな!」

「あたり前でしょ! でも倒しても倒しても復活するの!」

「はぁ!?」

 

 意味が分からず、レイは思わずフレイアの方を向いてしまう。

 そこでは右手の籠手から炎を撃ちまくるフレイアの姿があった。

 

「なん、で! 何回燃やしても復活するの!?」

「ひゃぁぁぁ!」

 

 フレイアが炎を撃つ先、そこには桜色の魔装に身を包んだサクラがいた。

 情けない悲鳴をあげながら燃やされている。

 しかし何かおかしい。

 サクラは炎の中で霧のように消え、炎が収まると再び無傷で姿を現している。

 

「余所見をしていて良いのか?」

「ッ!」

 

 攻撃がくる。

 レイはラショウの一太刀を、コンパスブラスターで受け止めた。

 

「これで、一対一ずつってわけか!」

「そうなるな」

 

 握った雲丸に力を込めるラショウ。

 その重さに、レイは僅かに押されてしまう。

 

「(重い攻撃……だけど対処できなくはない!)」

 

 コンパスブラスターに力を込めて、レイはラショウの攻撃を押し返す。

 そして間を置かず、攻勢に出た。

 

「どらァ!」

 

 レイの一太刀がラショウに襲いかかる。

 しかしラショウも簡単に通すつもりはない。

 

「ふん!」

 

 雲丸で攻撃を受け止め、弾き返す。

 そしてレイとラショウの魔武具は、火花を散らしながら激しいぶつかり合いを繰り返した。

 速く、重く、強き一撃がぶつかり合う。

 並大抵の者では、そこに立ち入る事すらできない攻防。

 それが今、レイとラショウの間で繰り広げられていた。

 

「こんのッ!」

「ふふ、単純な攻撃では互角といったところか」

 

 ラショウの言葉に少しムッと来るレイ。

 確かに模擬戦レベルならそうなるが、どうにもレイは負けず嫌いの根性が出そうになっていた。

 その時であった。

 

「サクラ!」

 

 ラショウがサクラの名を大声で呼ぶ。

 するとサクラは「はい!」と返事を響かせた。

 

「固有魔法【桜花乱舞(おうからんぶ)】起動!」

 

 サクラが魔法を起動させる。

 何か来ると感じたレイは一度ラショウから距離を取った。

 

「距離を取ってよかったのか?」

「どういう事だ?」

 

 余裕を見せるラショウが気になるレイ。

 気づけば周辺に桜色の花弁が数枚落ちてきた。

 何故模擬戦場に花弁が……レイが疑問を抱く間もなく、ラショウの攻撃が再開した。

 

「はァ!」

 

 雲丸の刃が来る。レイは先程ど同じように防ぎ、弾き返す。

 しかし今度は違った。

 突然背後から気配が近づく。

 

「後ろ!?」

 

 振り返り、攻撃を防ぐレイ。

 そして攻撃をしてきた者を見て、レイは驚いた。

 雲丸を手にしたラショウだったのだ。

 今さっき弾いて距離を取った、ラショウが背後にいたのだ。

 

「ラショウ!? なんで」

 

 とにかく一度コンパスブラスターを振るって、弾き飛ばす。

 距離ができた瞬間、レイはコンパスブラスターを操作した。

 

銃撃形態(ガンモード)!」

 

 間髪入れず、ラショウに魔力弾を撃つレイ。

 しかしラショウはそれを避ける事なく、身体で食らった。

 またも驚くレイ。だが異変はそれで終わらない。

 魔力弾を受けたラショウは、霞のように消えてしまったのだ。

 

「偽物!?」

 

 そして迫る気配。

 再びレイは応戦する。

 

「くっ!」

 

 当然攻撃してきたのはラショウ。

 しかし今度は目の前で二人に分かれていた。

 

「……なるほどな。あの末っ子の魔法、分身とか幻覚を作る類って事か」

 

 だとすれば厄介だ。

 レイは武闘王波で聴力などを強化して本物を見破ろうとしたが、分身は実体を持っているらしい。

 全てに実体があるのでは、本物を見抜くのも難しい。

 魔力探知でも使えば見抜けるのだろうが、そうすれば大きな隙に繋がる。

 

「……ラショウがこうって事は」

 

 レイは一瞬だけライラの方を見る。

 案の定モモも分身しており、ライラを翻弄していた。

 

「さっきフレイアが苦戦してたのは、こういう事だったんだな」

 

 レイは考える。

 恐らくこのまま正面から戦っても勝ち目はない。

 ではどうするのか。先程モモが言っていた言葉を思い出す。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。

 今一番面倒な相手から倒す。まずはそこからだ。

 

「となれば……こうだ!」

 

 レイは銃撃形態のコンパスブラスターを手に、ラショウから逃げ始めた。

 

「逃がさん!」

 

 当然ラショウと分身は追ってくるが、全てレイの想定内。

 とにかく逃げて、逃げて……フレイアに近づく。

 

「フレイア、交代だ!」

「えっ?」

 

 レイは困惑するフレイアの背を押し、ラショウの前に差し出した。

 

「ほう。リーダー同士の戦いに切り替えるのか」

「なんか釈然としないけど、強い奴と戦えるならよし!」

 

 ファルコンセイバーを手に、嬉々としてラショウと戦い始めるフレイア。

 レイはそんな二人を見て「バトルジャンキーにはバトルジャンキーだな」と考えていた。

 

「さて、こっからが問題だ」

 

 現在フレイアはラショウと、ライラはモモと戦っている。

 となれば残るレイはサクラと戦う事になるのだが。

 

「……三人も分身がいるな」

「うぅ……か、かかってこーい」

 

 へっぴり腰のサクラは情けない声を出している。

 見たところ武器らしいものは持っていない。

 身体能力だけで戦うタイプなのだろうか。

 

「まぁ……なんでもいいか」

 

 レイは躊躇う事なく、コンパスブラスターで三人のサクラを撃った。

 

「ぎゃあ!」

「ぴゃあ!」

「ひぃん!」

 

 三人揃って呆気なく霧散する。

 

「全部偽物か」

 

 そして再び出現するサクラ。

 今度は五人だ。

 

「あのな……偽物って分かってたら簡単なんだよ!」

 

 再びコンパスブラスターの引き金を引くレイ。

 新たな分身も呆気なく消え去った。

 攻撃に転じてこない辺り、どうやらサクラはサポート専門の操獣者らしい。

 

「(攻撃は専門外で補助専門のタイプか。ある意味一番厄介なタイプだな)」

 

 この手の操獣者は強力な補助魔法を使うと同時に、身を守る手段に長けているのがセオリー。

 恐らくサクラ本体は何処かに潜んでいるに違いない。

 

「どうせ攻撃に来ないなら」

 

 レイは分身サクラを完全に無視して、本体を探す事にした。

 とはいえ簡単に見つかるとは思っていない。

 

「(この模擬戦場には身を隠すような障害物はない。そして偽物を作る魔法。恐らく何らかの幻覚を使っていると考えるのが正解)」

 

 であれば目で探すのは下策。

 再び聴覚を強化して呼吸音で探し出す。

 

「武闘王波、聴覚……」

 

 サクラを見つけ出すために固有魔法で聴覚を強化しようとするレイ。

 しかしその宣言は全て口にされなかった。

 

「……」

 

 レイの視界に入ってきたのは、一メートル程の石像。

 セイラムでは見た事のないデザインをしているが、恐らく狸の石像だ。

 瓢箪のような物を持っているデザインをしている。

 

「……」

 

 レイは無言でその不審物を見つめる。

 気のせいか、狸の石像は汗をかいてるように思えた。

 

「……バン」

 

 コンパスブラスターの引き金を引いて、魔力弾を狸の石像に撃ち込むレイ。

 その心はどこか虚無に満ちていた。

 

「きゃん!」

 

 狸の石像から女の子の声がする。

 そして石像はボンッと煙を立てて、桜色の操獣者に変わった。

 

「あうぅ……なんでバレたの〜」

「アホか。どう見ても不自然だろ」

「そんな! ヒノワだったら滅多にバレないのに!」

「ここセイラムだぞ」

 

 レイにそう言われたサクラは「ガーン」と口に出していた。

 なんだか気が抜けたレイだが、やるべき事はやる。

 

「形態変化、棒術形態(ロッドモード)

 

 コンパスブラスターをロッドモードにするや、レイはサクラをマジックワイヤーで縛りあげた。

 

「やー! 離してください!」

「ダメだ」

「緊縛プレイなんてこの人変態ですー!」

「変態って言うな!」

 

 頑張って抵抗しようとするサクラだが、既に拘束されているので無駄に終わる。

 レイはさっさとサクラに近づいて、グリモリーダーを取り上げた。

 

「あー!」

「はい、おしまい」

 

 取り上げたグリモリーダーから獣魂栞(ソウルマーク)を抜き取るレイ。

 するとサクラの変身は強制解除されてしまった。

 同時に、ラショウとモモの分身も姿を消す。

 

「これで一人戦闘不能。あとは上二人だ!」

 

 サクラは拘束したまま、レイはフレイアとライラに加勢しに行った。

 

 マジックワイヤーで拘束されているサクラ。

 彼女は戦闘を続ける兄と姉を見つめ、暗い表情になる。

 

「兄者、姉者……やっぱり私は、弱いです」

 

 自身の無力さを再認識したのか、模擬戦場の隅でサクラは落ち込むのであった。

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